NVIDIA「GPU Technology Conference 2019」

トヨタが採用した、NVIDIAの自動運転開発シミュレータ「DRIVE Constellation」

2019年3月19日(現地時間)開催

NVIDIA DRIVE Constellation 事業部長 ジヴィ・グリーンスタイン氏

 半導体メーカーのNVIDIAは、3月18日~21日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・マーキュリー・コンベンションセンターにおいてプライベートイベント「GTC」を開催した。

 この中でNVIDIAは、同社が開発してきた自動運転の仮想テスト環境「NVIDIA DRIVE Constellation(エヌビディア・ドライブ・コンステレーション)」を自動車メーカーやティア1のパーツメーカーなどに正式に提供開始したことを明らかにした。その中には日本のトヨタ自動車も含まれており、トヨタの自動運転車がNVIDIA DRIVE Constellationを利用して開発されることになる。

 イベント2日目の3月19日(現地時間)には、NVIDIA DRIVE Constellation 事業部長 ジヴィ・グリーンスタイン氏による、NVIDIA DRIVE Constellationの概要を説明するセッションが行なわれた。

オンプレミスだけでなく、Amazon Web ServiceなどのSaaS型でも活用できる

 グリーンスタイン氏は「自動運転車は自動運転車なりの実証実験が必要になる。その試験は最初から終わりまで大規模で、かつさまざまなコンディションに対応しなければならないが、実際に実車を走らせてすべてをカバーするのは難しい。そこでシミュレータの存在が重要になる」と述べ、自動運転車の開発を進めていく上で、実車を利用した実証実験は重要だが、すべてをそれでカバーするのは難しいので、シミュレーションでの試験と組み合わせて開発を進めていくことが重要だと強調した。

自動運転の実証事件にはそれに適したやり方が必要になる

 NVIDIAがそうした自動運転車のシミュレーション環境として提供を開始したのがNVIDIA DRIVE Constellationだ。グリーンスタイン氏によれば、NVIDIA DRIVE Constellationは2つのサーバーアプライアンスから構成されており、1つが自動車(のデータ)を動かすサーバーで、もう1つが道路や天気などの設定を行なうシミュレータ用のサーバー、この2つを組み合わせて活用していく。

NVIDIA DRIVE Constellationの概要

 NVIDIA DRIVE Constellationの特徴は、そのスケーラブルさにある。サーバーを何台も並べてテストを実行することが可能で、それだけ多くの車両を走らせることが可能になり、複数の道路や複数の天気などさまざまな環境をより短い時間でテストすることが可能になる。かつ、サーバーはオンプレミスと呼ばれる自社のデータセンターに格納しておく必要もない。Amazon Web Serviceなどの事業者がホストするデータセンターに格納しておき、自動車メーカーはパブリッククラウドのSaaS(Software as a Service)としてNVIDIA DRIVE Constellationを利用していくことが可能だ。なお、SaaSの形では米国、欧州、日本で提供される予定とのことだった。

NVIDIA DRIVE ConstellationはAmazon Web Services経由でも提供される

 自動車の環境を実現するサーバー側には、NVIDIAが自動車向けのコンピューティングボードとして提供しているNVIDIAの「DRIVE PEGASUS」が入っており、カメラ、ライダー、レーダーなどのセンサーを再現することができる。演算用のGPUとして「NVIDIA T4」が搭載されており、1つのGPUにつき8つのセンサーを実現することが可能とグリーンスタイン氏は説明した。

NVIDIA DRIVE Constellationの仕組み
シミュレーションと実車試験を行ったり来たりできる

 NVIDIA DRIVE Constellationのテストでは、実車のテストとシミュレーションが連動する。シミュレーション上で走っている車両は、実車の元になったデータであり、シミュレーション上で走らせた後、それを元に実車に反映して実車でテストを行なう、そしてそのデータを再びシミュレーション上のデータに戻してシミュレーション上を走らせる。そうした作業を繰り返しながらどんどん開発を加速させていく。そういった仕組みになっているとグリーンスタイン氏は説明した。

サードパーティのデータも活用できるNVIDIA DRIVE Constellation

サードパーティのデータも活用できる
IPGのデータを活用して試験ができる

 グリーンスタイン氏によれば、NVIDIA DRIVE Constellationのもう1つの大きな特徴は、サードパーティの開発環境と接続して活用できるという点にあるという。

「DRIVE Constellationはオープンプラットフォームになっている。センサー、マップ、自動車の動的データ、シナリオモデルなどはサードパーティからも提供される。自動車メーカーはそれらを自由に選択して組み合わせることで、柔軟なシミュレーションが可能になる」とグリーンスタイン氏は述べ、サードパーティから提供される地図データ、シナリオモデル、自動車の動きを規定したデータなどを組み合わせて活用することで、短期間で使える環境を構築できることもNVIDIA DRIVE Constellationの特徴だと解説。

 例えば、欧州の自動車メーカーの多くが利用しているIPGのビークルダイナミクスに対応しており、自動車メーカーが日常的に使っているデータをそのままNVIDIA DRIVE Constellationに取り込んでシミュレーションを行なうことが可能になると述べた。グリーンスタイン氏のセッションでは、KITT、cognata、IPGなどのデータを利用してテストする様子が公開された。

環境を変えてテストすることができる

 なお、実際のシミュレーションのエンジンには、ゲームエンジンとして有名な「Unreal Engine 4(UE4)」を利用しており、対応したシナリオモデルを読み込むことで、時間を変えたり、天候を変えて実験したりとさまざまな環境に合わせて実験することが可能だという。自動車の動きに関しても、NVIDIAがゲーミングで得意としているフィジックス(物理演算)を利用した計算で処理するので、実際の環境に近い動きを再現可能ということだ。

 また、レーダーやLiDARのデータなどは、同じく最近NVIDIAがゲーミング環境で導入したリアルタイム・レイトレーシングの機能を活用しているとグリーンスタイン氏は述べ、それらのグラフィックス技術を応用することで、NVIDIA DRIVE Constellationはほかのシミュレータよりも高い精度でシミュレーションが行なえると説明した。

NVIDIAがGTCで展示したドライブシミュレータの例
DRIVE PEGASUS
NVIDIA DRIVE Constellation

笠原一輝