NVIDIA「GPU Technology Conference 2019」

【GTC 2019】人間の眼を超える眼を目指す、ソニーの車載用イメージセンサー

2019年3月19日(現地時間) 実施

ソニーエレクトロニクス オートモーティブ・ソリューション・アーキテクト ツヨシ・ハラ氏

 半導体メーカーのNVIDIAは、3月18日~21日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・マーキュリー・コンベンションセンターにおいてプライベートイベント「GTC 2019」を開催した。

 GTCでは例年自動車関連のメーカーによる各種の講演が行なわれているが、2019年はADAS/自動運転に必須のデバイスとなりつつあるカメラのイメージセンサーを製造するソニーが講演を行ない、ADAS/自動運転に必要となるイメージセンサーの条件などについて説明した。

HDR対応、暗所対応、温度対応などが鍵となる車載用イメージセンサー

グローバルで年間160万人の交通事故死者が出ている現状

 ソニーエレクトロニクス オートモーティブ・ソリューション・アーキテクト ツヨシ・ハラ氏は「年間でグローバルに160万人が、米国だけに限っても4万人が交通事故で亡くなっている。これを減らそうというのが自動運転やADASのコンセプトになる。それを実現するには人間の眼に相当するものをコンピュータに追加する。アルゴリズムが脳として、そしてカメラが眼として動作して自動運転を実現していくが、そこにはいくつかの課題がある。それは、イメージセンサーを利用した物体認識には、広いダイナミックレンジ、暗所への対応、高温、広角と遠距離への対応だ」と述べ、イメージセンサーで物体を認識して、識別していくという自動運転の肝となるカメラについて、解決すべき課題があると述べた。

自動運転/ADASにおけるイメージセンサーの4つの課題

 ダイナミックレンジとは識別可能な信号の最小と最大のことを示している。ダイナミックレンジが広ければより多くの情報を認識できるし、逆に狭ければ情報量は少なくなる。イメージセンサーでのダイナミックレンジとは、露光の寛容度を意味している。

ハイダイナミックレンジが必要になる
120dBのダイナミックレンジが必要になる

 例えば、トンネルから出るときに急に明るさが切り替わるために眼がついて行かず、慣れるまではまぶしいと感じることがあるだろう。イメージセンサーはまぶしいとは思わないが、ダイナミックレンジが狭いと明るい方か暗い方のどちらかに合わせてしまうので、例えば明るい方が認識範囲外となってしまい、白くしか見えなくなってしまう。そこで、イメージセンサーのダイナミックレンジをより広く取ることでそうしたことを防ぎ、明るいところも暗いところも同時に認識が可能になる。具体的にはHDR(High Dynamic Range)に対応させ、広い範囲をカバーできるようにイメージセンサーを設計する必要がある。ハラ氏によれば120dBというレンジでHDRにする必要があるという。

暗所への対応
温度への対応

 2つめの課題は暗所への対応だ。例えば高速道路を走っているときに、街灯もないような暗いところを通行する。この時に感度を上げていけば、光が少ないところでも物体などの認識ができるが、そうするとノイズが増えてしまう。3つめの課題はそれとも連動しているが、イメージセンサーは半導体なので温度が上がるとノイズが増えてしまう。ところがクルマは言うまでもなくエンジンなどの熱などにより高温になってしまうことが避けられない。

S/N比分布をより広くする

 ハラ氏によれば、そうした課題を持っているイメージセンサーなので、S/N比(SNR、信号対雑音比)分布という数字をより広く取ることが重要になるという。S/N比分布は明るさ、物体の大きさや距離、そしてカメラのレンズやイメージセンサーの性能などにより決まってくる。明るさや物体の大きさなどに関しては自動車側ではいかんともしがたいため、より広く取るにはカメラのレンズとイメージセンサーの性能を上げていく必要があるとし、それらを実現したイメージセンサーを製造するには製造技術とセンサーそのものの性能が鍵になると述べた。

制動距離に対応するには高解像度など、より高性能なイメージセンサーが必要になる

ある程度の制動距離を確保する必要がある

 自動運転車がイメージセンサーを利用して、物体を認識して止まるまでにある程度の制動距離が必要になるのは人間が運転するのと変わらない。高速道路なら100mかそれ以上、都市部なら40mかそれ以上の制動距離が必要になる。ハラ氏によれば、その制動距離はイメージセンサーの性能で大きく変わってくるという。

イメージセンサーの解像度による見え方の違い

 イメージセンサーにとって見える角度や距離は、解像度などのイメージセンサーの性能で決まってくるという。ハラ氏の公開した資料では1.3MピクセルのソニーのIMX224と7.3MピクセルのIMX424の比較画像が示されたが、160m先の物体を7.3MピクセルのIMX424は鮮明に記録できているが、IMX224はぼやけた画像になってしまっている。自動運転車にとってはこの状態で運転するのは、人間が視力が足りない状態で運転するのと同じで、非常に危険ということになる。ハラ氏は「安全運転ができる自動運転車を作るには、人間の眼を超えるような視力を持つレンズとイメージセンサーを備えることが重要だ」と述べ、よりよいイメージセンサーの採用が需要だと強調した。

DRIVE AGXに対応
開発キットのJetson Xavierにも対応

 ハラ氏によれば、そうしたソニーのイメージセンサーはDRIVE AGX(デュアルXavierのNVIDIA DRIVE)向けのドライバをNVIDIAと協力してOEMメーカーやティア1の部品メーカーに提供したり、自動車上のソフトウェアを開発する上でJetson Xavierと組み合わせてソフトウェアの開発ができる環境で整えられていると説明した。

ハラ氏の他のスライド

笠原一輝