イベントレポート
人工筋肉で横Gに対抗するシート「VODY2.0」を世界初公開するトヨタ紡織ブース 「好きだなトヨタ紡織と言っていただける企業を目指す」と白柳正義社長
2023年10月28日 15:07
- 一般公開日:10月28日~11月5日
- 入場料:1500円~4000円
「ジャパンモビリティショー2023」(一般公開日:2023年10月28日~11月5日、場所:東京ビッグサイト)に出展しているトヨタ紡織は、プレスデー2日目となる10月26日に西展示棟4階 3~4ホール・W4201の同社ブースでプレスブリーフィングを実施した。
トヨタ紡織ブースでは、シートの座面がユーザーに合わせて自在に変形するコンセプトシート「VODY2.0」、小型低圧水素タンクを利用する「FCアシストモビリティ」、シート温度を自在にコントロールする「サーマルコンフォートシート」を初公開。また、シートモジュールやシート構成部品を脱着・交換することでさまざまな車室空間を実現するMaaSシェアライド空間コンセプト「MX221」などを展示している。
コンセプトシート「VODY2.0」(世界初公開)
事前に公表された出展概要では四角いパネルを組み合わせた座面のイメージイラストが示されていたが、ブース内に置かれていたVODY2.0は写真のとおり、多数の細い金属パイプを組み上げたようなスタイルで座面を構成。パイプのように見えるものは実際には空気圧で駆動する人工筋肉で、弾力のある3本の人工筋肉を二等辺三角形に組み合わせてハンモックのように乗員の体重を受け止める構造となっている。
人工筋肉の空気圧を増減させることによってクッション性を調節できるだけでなく、アクティブに乗員の姿勢を変化させることも可能。これにより、直進時には体の上下動を抑制してソフトで快適な乗り心地を実現しつつ、コーナーでアウト側に向かって発生する横Gに対応するためサポート性を高めるなど、走行シーンごとに最適なクッション性を発揮できる。
もともとはシートに座る人の体圧分散を計測し、どのように乗員を支えるようにすると疲労感などを低減できるのかといった調査をするために生み出された新製品開発向けの機材だったが、人工筋肉を用いたことでシート側を積極的に動かすことができる面白さが社内でも注目されるようになり、せっかくの機会だから外部の人にも見てもらおうと出展されることになったという。
ブースでの展示ではステアリングとペダル類も用意して、走行状況に合わせてアクティブに可動するVODY2.0の面白さを体験してもらう内容となっている。
MaaSシェアライド空間コンセプト「MX221」(日本初公開)
MX221は、自動運転車両を使ったライドシェアサービスが一般化した時代に車室内がどのように利用されるかを想定し、新しい移動中の過ごし方を提案するコンセプト展示。フロアに設置されたレールを使ってシートを脱着交換できる仕組みとなっており、シート状態によって4つのモードに切り替わる。
取材時にはプレスブリーフィング中に実施するデモとの兼ね合いから車いす仕様の「MX Access」モードで車いすが入る前の状態になっていたが、ここから利用者用の4個のシートを前方向けに設置した状態が標準仕様の「MX Pass」モード、前方側のシートを回転させた対座状態が「MX Plus」モード、シートを最上級グレードシートに入れ替えると「MX Prime」モードとなる。なお、助手席位置に設置されているのはオペレーター用の席となっている。
極上の移動時間を提供する「MX Prime」(日本初公開)
MX221の最上級グレードシートであるMX Primeは専用スペースで展示と試用体験が行なわれた。このシートではクルマでの長時間移動が苦手な人向けに、シートバンクから首元に向けて冷風を噴き出してクルマ酔いを軽減する機能を備えるほか、オットマンを起こしてシートバックを倒して水平に近づけ、移動時間に仮眠できるようにしている。
ミニバンなどのシートでもシートバックを倒したリラックスモードなどが用意されているが、一般的には停車中の利用に限られている。しかし、MX Primeのシートは乗員の体が水平に近い状態でも内部構造を工夫することで衝突安全性能評価の試験をクリアできるよう開発に取り組んで、仮眠しながらの移動を視野に入れたものとなっている。
このほかにもシートがゆりかごのように動き、体温を高めるシートヒーター、リラックス効果を持つアロマの噴射などによって睡眠に導く機能を備え、目的地に着くまでの時間にリフレッシュできるようにしている。
「サーマルコンフォートシート」(日本初公開)
BEV(バッテリ電気自動車)の航続距離向上をシートの機能からサポートすることを目指して開発されたサーマルコンフォートシート。エアコンを使ってキャビン全体の空気を温度調整するより乗員の体に直接アプローチする方が効率が高いことに着目して、暖房、冷房のそれぞれに工夫を凝らしている。
ヘッドレスト下側にある送風口は温度を感じやすい首元に向けて温風、冷風を当てることができ、シートバックの3か所に内蔵された「ニューマチック」と呼ばれる空気袋は、暖房時には加圧することで背中との密着度を高めて温感を高め、冷房時には減圧して気流のスペースを確保する。シート表皮にはサイドサポートまで含めてシートヒーターが内蔵されており、冷房時にはシート表皮のパンチングから空気を吸い込んで排熱する「高性能シートベンチレーションシステム」が働く。また、シート表皮には蒸れ感を低減するTBカワシマ製の「吸水速乾ファブリック」を使っている。
このほか、シート間に設置されたパーティションにはドアトリムなどの内装材に向けた「バイオミメティクス遮熱表皮」を使用。砂漠に住む生物をヒントにした暑くなりにくい構造を備え、炎天下で日差しを受けた場合でも内装材の表面温度が20℃下がるという特徴を持つ。
「スマートグライダー」(日本初公開)
世界的な課題となっている運動不足の解消手段として開発されたスマートグライダー。シートの座面下にも格納可能な足下のスライダーを両足で交互に前後させることで、着座時に滞りがちな足の血流を促進。1分間利用するだけでもかなりの心拍数増加を期待できるという。
単純作業で飽きてしまわないよう、スマートフォンアプリと連動させてゲームを楽しめたり、風景と連動させて散歩感覚を味わえるようにしているほか、歩数や心拍数、消費カロリーなどをアプリ画面に表示することも可能。使う人の運動能力別に、スライドの負荷をハイとローの2段階で選択できるようにしている。
「ブースでは3つのゾーンで“上質な時空間”を体験いただける」と白柳社長
プレスブリーフィングで登壇したトヨタ紡織 代表取締役社長/CEO 白柳正義氏は「当社のビジョンは『明日の社会を見据え、世界中のお客さまへ感動を織りなす移動空間の未来を創造する』でございます。クオリティ オブ タイム アンド スペース、すべてのモビリティに“上質な時空間”を提供したいという思いのもと、移動空間の新しい価値を創造する『インテリアスペースクリエイター』になることを掲げており、技術開発を進めております。今回はその取り組みのいくつかを展示しており、3つのゾーンで“上質な時空間”を体験いただけるものとなっております」と説明。
展示内容については「当社はモビリティの新市場として期待される自動運転やMaaSに向けた価値創造にも注力しており、その1つが今回展示の自動運転レベル4を想定したライドシェア空間『MX221』です。また、座面や背もたれの形状が、ユーザーの体形や姿勢、動作に合わせて自在に変化することで、乗り心地を追求し、ユーザーとシートが一体となるような感覚を体感いただけるコンセプトモデル『VODY2.0』を展示しております。そして電動化においては、バッテリEVの電費向上に対し、車室空間における熱マネジメントに取り組んでおり、ユーザーの体に直接触れる部分で温度をコントロールできる『サーマルコンフォートシート』を展示しております。シートに内蔵されたヒーターや首元送風、シートベンチレーションなどにより、効率的に温度調整をいたします。そのほか、誰もが簡単に持ち運べる小型の低圧水素タンクを用いた『FCアシストモビリティー』、植物材料のケナフを活用した技術も紹介しています。今回のモビリティショーのテーマである『乗りたい未来を、探しにいこう!』を、当社のブースでぜひご体感いただければと思っております」と概要を説明した。
プレスブリーフィングの最後に白柳氏は、「これからもトヨタ紡織は、新しい価値の創造を目指し、ステークホルダーの皆さまに共感され、『好きだなトヨタ紡織』と言っていただけるような企業、選ばれ続ける企業になっていけますよう、着実に歩みを続けてまいります」とコメントして締めくくった。
チャンCBOのMX221解説では車いす乗車デモも実施
展示内容紹介では、一例としてMX221についてトヨタ紡織 Chief Branding Officer リチャード・チャン氏がデモを交えて解説を行なった。
「自動運転は、おそらく10年以内に私たちの暮らしのなかで実現されるでしょう。無人で走行可能な『ロボットタクシー』とも呼ばれるこの自動運転車は、目的地まで自動で走行するだけではなく、皆さんが移動時間にさまざまなことができるようになるでしょう。本日は2030年に向けて、東京、ニューヨーク、そしてロンドンのような大都市での使用を想定して開発されたMX221によって、新しい移動空間の未来をお見せします」
「MX221のコンセプトは『ダイバーサティリティ』です。多様なユーザーのニーズに合わせて空間レイアウト、機能が変化し、さまざまなグレードが提供できるように設計されています。例えば、目的地までリーズナブルで快適に移動したいユーザーには『MX Pass』を、家族や友人と移動中に映画を観たり、ゲームをしたり、あるいはドローンで配達される昼食も楽しめるサービスを望むユーザーには『MX Plus』を、そしてラグジュアリーな空間で仕事をしたり、仮眠したいと望むビジネスユーザーには『MX Prime』を提供します。MX221はインテリアを変化させてさまざまなグレードをご提供できると申しましたが、複数の車両を所有するのではなく、1台の車両でシートを脱着・交換できるように開発されている点が大きな特徴です。この『テーラードスペースシステム』を活用し、お客さまが希望する空間へと迅速に変更してから配車できる革新的な機能になっています」。
「ところで、世界の人口で8人に1人が何らかの障害を抱えていると言われており、車いすを利用する人も多く存在します。現在、車いすユーザーがタクシーに乗って移動するためには、タクシー運転手や介助者の助けが必要で、複数のベルトやフックで車いすに固定する時間がかかっています。そこで、車いすユーザーにも介助者などのサポートなく、簡単かつ安全にクルマに乗って移動してもらえるよう、『MX Access』という特別な機能を持つ車いすを提案しています」。
「特長は、まず安全性です。MX Accessでは自動車用シート並みの安全性を満足させるよう設計しています。そして、トヨタ紡織が独自開発した小型の低圧水素タンクを用いたFCバッテリーを搭載しており、坂道を簡単に上がることができます。MX221は電動スロープを搭載していますので、ユーザーは車いすでも簡単に乗車できます。さらにMX221には車いすを簡単に固定できる『ドッキングシステム』を備えており、サポートなしでも自分で簡単に固定することができます。車いすを固定したらリアシートに搭載されたシートベルトを締めるだけで作業は完了。一連のプロセスには30秒もかかりません。これにより、同行者の隣で移動を楽しむことができます。降車するときもシートベルトを外したら、車いすの左側にあるレバーを引っぱるだけでドッキングシステムを解除でき、スロープを使って下りていくことができます」。
最後にチャン氏は「このように、MX221は多様なニーズに応えられる移動空間を効率的に提供し、より楽しく、快適な移動体験を提供いたします。これが“上質な時空間”を提供する私たちのミッションです」と語り、MX221の解説を終えた。