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三菱電機、光のアニメーションでクルマの動きを注意喚起する「自動車向け安心・安全ライティング」の新技術公開

2020年以降の実用化に向けて研究開発を継続

2018年2月8日 発表

三菱電機が公開した光でクルマの動きを周囲に注意を喚起する自動車向け「安心・安全ライティング」技術

 三菱電機は2月8日、同社が提案している「自動車向け安心・安全ライティング」技術において、アニメーション利用や車外センサーとの連動で、より分かりやすい表示を実現する新技術を公開。同技術の2020年以降の実用化に向けて、自動車メーカーへの提案を加速する考えだ。

 今回、新たに開発したのは「アニメーションを利用して悪天候時でも判別しやすい表示」「ドア開け・後退時に車外センサーと連動して、より注意を喚起する表示」「表示図形の見え方を検証できる設計ツール」という3つの技術。

 同社の「自動車向け安心・安全ライティング」技術は、光を使ってクルマの動きを事前に周囲に伝え、事故を未然に防ぐ狙いから開発されたものであり、ほかのクルマや歩行者などにドアの開閉や乗り降りなどを通知し、人とクルマのコミュニケーションを実現しながら事故防止に貢献できるという。

 すでに数社の自動車メーカーとの話し合いを開始しており、今回の新技術についても、自動車メーカーからのフィードバックを反映して開発したものだという。

アニメーションを利用して悪天候時でも判別しやすい表示

「アニメーションを利用して悪天候時でも判別しやすい表示」は、光を活用した大きな図形のアニメーションを利用し、悪天候時でも歩行者などがクルマの動きを判別しやすく表示したのが特徴だ。従来は図形が点滅するだけだったが、アニメーションとしたことで、後ろ方向に下がることや前方向に進むことを視覚的に訴求でき、さらに、図形が動くことで悪天候時にも視認性を高めている。雪が積もったような環境でも、見やすく表示ができるようにした。

「アニメーションを利用して悪天候時でも判別しやすい表示」
表示した図形を雪道でも見やすくした
前方に動くことをアニメーションで表示
後方に動くことをアニメーションで表示
雪の路面でも見やすい表示を実現した様子

 デモンストレーションに使用したクルマでは、後方のリアハッチ部の開閉部と前方のフォグランプ横に、それぞれ汎用的なLEDを使用してアニメーションを路面に表示。例えば、バックギアに入れた場合には、後方に下がることを示す図形をアニメーションで映し出す。

ドア開け・後退時に車外センサーと連動して、より注意を喚起する表示

「ドア開け・後退時に車外センサーと連動して、より注意を喚起する表示」では、車外センサーの検知領域に入った歩行者に対して、路面の表示図形を点滅させて注意を喚起することになる。表示図形を避けて歩くと、ドアが突然開いても歩行者はぶつかることがなく、避けられる距離が確保されるようになっている。また、運転者がシートベルトを外したときには、これから降車する可能性があるとして、路面に図形を表示する。さらに、歩行者が近づくと運転席および助手席のドアノブ近くのライトが点滅して、運転者や同乗者に注意を喚起するという。

「ドア開け・後退時に車外センサーと連動して、より注意を喚起する表示」
クルマのドアが開く可能性があることを知らせる
歩行者が近づくと、ドアノブ横のライトを点滅させて運転者に知らせる
運転者がドアを開けるときに図形を点滅して注意を喚起する
歩行者が図形を避けると、ドアが開いてもぶつからない位置になる

表示図形の見え方を検証できる設計ツール

「表示図形の見え方を検証できる設計ツール」では自由に設定ができる

「表示図形の見え方を検証できる設計ツール」は、自動車メーカーなどが利用するツールで、「自動車向け安心・安全ライティング」を実用化する上での各種デザインが行なえる。図形を変更したり、表示タイミングや点滅スピードなどを自由に設定できるという。「実車への搭載前に、路面に表示する図形をさまざまな角度から、どんな見え方をするのかが検証できるほか、クルマの状態や表示するアニメーションのパラメータなどを変更でき、状況に応じたデザインを実現できる」(三菱電機 産業システムデザイン部長の籠橋巧氏)という。

 「自動車向け安心・安全ライティング」は、2017年10月に発表した技術で、同月に開催された東京モーターショーや、2018年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2018の三菱電機ブースで展示した次世代運転支援技術搭載のコンセプトカー「EMIRAI4」でも採用している。

 三菱電機の開発本部に属しているデザイン研究所では、2013年に若手社員を中心にし、デザインで社会課題を解決するための「Design X」を立ち上げ、「自動車向け安心・安全ライティング」の基本コンセプトを立案。2015年10月に自動車向け路面ライティングのコンセプトを提案し、同年に開催された東京モーターショーで初公開した経緯がある。

 その後、効果的な表示方法や表示位置、表示タイミングなどを研究し、数値化しながら安全性を高める努力を繰り返してきた。今回の新たな技術は、それらの取り組みの成果だといえる。

プレゼンテーションのスライド
三菱電機株式会社 産業システムデザイン部長 籠橋巧氏

 三菱電機 産業システムデザイン部長の籠橋巧氏は「歩行者の交通死亡事故の約6割が、夕方18時から朝6時までの夜間の時間帯に発生しており、その対策が求められている。現在の車両は、クルマの挙動が歩行者や他車に分かりにくく、周囲とのコミュニケーション技術の向上が求められている。自動車向け安心・安全ライティングによって、交通ルールに詳しくない子供やお年寄りに対しても注意を喚起できるだろう。また、自動運転になると運転者と歩行者の目が合いにくくなるという問題が生まれ、コミュニケーションの問題はさらに深刻化する可能性がある。自動運転時代にはより重要になる技術だ」としている。

 日本の道路交通法では、路面への図形の照射に関しては促進も禁止もされておらず、解釈次第の部分があるという。「車体からの表示という点では制限があるが、安全性を高める効果の観点から、関係省庁などと話し合いを行なっていきたい」とした。また、現時点では三菱電機だけがこうした取り組みを行なっているが、「表示方法のノウハウの蓄積という点では先行している。だが、将来、複数の企業が参入した際に各社の表示図形がバラバラでは混乱を招くことになる。図形の標準化といったところにも取り組んでいきたい」とした。

「自動車向け安心・安全ライティング」は、同社の開発本部デサイン研究所が進めている取り組みであるが、実用化した時点で事業部門に移管することになるという。

三菱電機株式会社 デザイン研究所長 阿部敬人氏

 デザイン本部では、「デザインの行き先は人であり、人の感性にアピールする性能がデザインである。デザイン本部では、その性能アップに取り組んでいる。人中心の発想によるユーザーエクスペリエンス(UX)デザインにより、使いやすさの追求だけでなく、楽しく、心地よい体験を提供することを目指しており、誰かに薦めたくなったり、社会に貢献したり、安心したりといった経験価値を提供することを追求している」(三菱電機 デザイン研究所長の阿部敬人氏)とする。

 デザイン研究所には、プロダクトデザイナーやメカエンジニアのほか、一級建築士、心理学者など、多様な人材が在籍しており、こうした幅広い知見の蓄積が同社のデザインや、「自動車向け安心・安全ライティング」に生かされているという。

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