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Intelの記者会見にトヨタの村田賢一氏が登壇。コネクティッドカーや自動運転向けの標準化を目指す

2018年2月25日(現地時間) 開催

トヨタ自動車株式会社 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 コネクティッド戦略室長 村田賢一氏

 半導体メーカーのIntelは、スペイン王国カタロニア州バルセロナ市で2月26日~3月1日の4日間に渡り開催されるMWC 18(Mobile World Congress 2018)に先だって、同市内で2月25日に記者会見を行なった。この中でIntelは、2020年に東京で行なわれる東京オリンピックに、日本の通信キャリアであるNTTドコモと協力して5Gソリューションを提供することを明らかにした。

 その記者会見の後半にはトヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 コネクティッド戦略室長 村田賢一氏が登壇し、AECC(Automotive Edge Computing Consortium:オートモーティブ・エッジ・コンピューティング・コンソーシアム)の取り組みについての説明を行なった。AECCはトヨタ自動車、Intel、NTTドコモ、エリクソン、デンソー、NTTなどが中心になって2017年に創立を目指していることを発表した業界団体で、MWCに先立つ2月22日にKDDI、AT&Tといった追加のメンバー企業が加盟したことを明らかにして、正式に発足したことを発表している。

 トヨタおよびIntelは、AECCの活動を通じ、エッジコンピューティングと呼ばれる今後のコネクティッドカーや自動運転車のためのサーバー機能を基地局などのインフラに追加する機能の標準化を目指す取り組みを行なっており、今回の記者会見を通じてそれをアピールした形だ。

トヨタ自動車もオリンピックのワールドワイドパートナーとなっている

自動運転が普及期に入ってきたときに重要になってくる「エッジコンピューティング」

 今回のIntelの記者会見は、2月9日~25日に平昌で行なわれていた冬期オリンピック、Intelと韓国の通信キャリアKT(Korea Telecom)が共同して行なった5G(第5世代移動通信システム、現在のLTEの次の高速規格として標準化が進められている携帯電話通信)のデモなどに関する説明、そして次のオリンピックとなる2020年の夏期オリンピックとなる東京オリンピックでの取り組みが中心となった。2020年の東京オリンピックでは、IntelはNTTドコモと協業して、オリンピックに5Gのソリューションを提供することになる(詳しくは僚誌PC Watchの記事をご覧いただきたい)。

Intelはオリンピックの公式パートナー
平昌での5Gのデモの様子
ソウルでは5Gを利用したコネクティッドカーのデモが行なわれた
2020年の東京オリンピックではNTTドコモと協業

 その記者会見の最後のゲストとして紹介されたのがトヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部 コネクティッド戦略室長 村田賢一氏。村田氏はトヨタでインターネットに常時接続された自動車となる「コネクティッドカー」の戦略を担当しており、トヨタが、Intel、NTTドコモ、エリクソン、デンソー、NTTなどと設立を目指してきたAECCのキーパーソンの1人だ。

 村田氏は「トヨタは日米市場でコネクティッドカーを100%にするべく取り組みを行なっている。すべてのクルマがコネクティッドカーになったときには、データも膨大になり下手をすればネットワークがパンクしてしまう。そこで、エッジである程度処理をする仕組みが必要で、そのためにAECCを設立した」と述べ、コネクティッドカーや自動運転車が増えた時を想定してAECCを設立したのだと説明した。

 よく知られている通り、自動運転車については、それ自体が単体で動くのではなく、クラウドサーバーなどにデータを送りながら運行が行なわれる。しかし、すべての車両が1日に数TBは生成されるデータをクラウドサーバーに送っていたら、インターネットの回線が破綻してしまうことは火を見るより明らかだ。このため、最初の世代の自動運転車では、自動車そのものにかなり強力な処理能力を持つCPUやGPUを搭載して、データをクルマの中で処理してクラウドに送るという形になると考えられている。しかし、高級車ではそれでもいいが、普及価格帯のクルマでもそうした仕様にするのは非常に難しい。CPUやGPUのコストもそうだが、消費電力も増えるため、燃費も悪化してしまうからだ。

 このため、そうした普及価格帯のクルマなどでは、エッジコンピューティングというソリューションの採用が検討されている。自動運転車からのデータを最初に受信することになる5Gの基地局などで、データを処理するサーバーを用意してそこである程度の処理を行ない必要なデータだけを、クラウドにあるサーバーに送る、そうした形が検討されている。実際、5G世代の基地局では、そうした機能をソフトウェア的に追加することが可能になっており、自動車メーカーが通信キャリアと組んでそうしたソリューションを実現することができる。

 だが、現時点ではそうしたソリューションは影も形もないため、標準の規格というものがない。このため、今後実装するにあたり自動車メーカーがそれぞれバラバラの仕様で実装してしまう可能性があり、通信キャリアのインフラに負担がかかったり、コスト高になってしまう可能性がある。そこで、AECCではこの自動運転向けエッジコンピューティングの標準仕様を策定し、最終的には携帯電話回線の標準化を行なっている3GPPを標準仕様として採用してもらおう、そうした取り組みを行なっているのだ。

2月22日に正式に発足したAECC。KDDI、AT&T、住友電工もメンバーに

 村田氏は「今後自動車が生成するデータはどんどん増えていき、それはネットワークの限界を超えるかもしれない。そこで、各々の基地局にスモールデータセンターを持たせるようなエッジコンピューティングのソリューションが必要になる。そこで、どのような手段でそれを実現するのか、標準化が必要になると思う」と述べ、5Gの本格的な普及に向けて、AECCのような取り組みが必要だと、グローバルのメディアにアピールした。

 AECCの取り組みは拡大しており、トヨタ、Intel、NTTドコモ、NTT、エリクソンなどで設立を目指してきたが、2月22日(現地時間)に正式にコンソーシアムとして発足したことが明らかにされている。創設メンバーには、日本通信キャリアKDDI、米国の通信キャリアAT&T、日本の住友電工が加わっており、設立意向の発表時よりもメンバーが増えた形になる。今後、加盟企業を増やしていきたい意向で、今回Intelのグローバルを対象にした記者会見に村田氏が登壇した、ということだ。

Intelが展示した5Gのアンテナ、平昌で使われたものと同じ
5Gの開発システム

 村田氏の言うとおり、今後コネクティッドカーや自動運転車が増えるに従って、クラウドサーバーに送るデータ量は増大する。高級車のみに自動運転機能が搭載されているうちは大きな問題ではないと思うが、普及価格帯の自動車にも自動運転機能が実装されるようになると、インターネットが破綻しかねないほどのデータが飛び交うことになる可能性がある。その時の備えとしてエッジコンピューティングの仕組みが必要になる可能性があり、それを標準化するAECCのような取り組みが重要になってくる可能性は高いだろう。