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日野、大型観光バス「セレガ」に搭載予定の商用車世界初「EDSS(ドライバー異常時対応システム)」をデモ公開
正着制御、隊列走行などのデモも実施。動画で掲載
2018年5月22日 10:25
- 2018年5月21日 実施
日野自動車は5月21日、羽村工場内のお客様テクニカルセンターにおいて安全・自動運転技術説明会を実施した。
説明会では現在日野が取り組む安全に関する技術説明のほか、「PCS(衝突被害軽減ブレーキ)」や新技術「EDSS(Emagency Driving Stop System/ドライバー異常時対応システム)」などの安全技術の体感、トラックの隊列走行といった自動運転技術のデモンストレーションが行なわれた。
説明会の冒頭に行なわれたプレゼンテーションでは、日野自動車 取締役 副社長 遠藤真氏が安全に対する取り組みを説明。多くの人の命を預かるバスや事故の被害が大きくなりやすいトラックを取り扱う中で「安全は商用車メーカーの社会的責務」と述べ、人とクルマ、交通環境の三位一体の取り組みを行なっていると話した。
特にクルマへの取り組みについて、安全技術を普及促進しているとして、2006年にはPCSを商用車として世界で初めて商品化し、2010年には日本で初めて大型トラック・観光バスに同システムを標準装備したことに触れた。
また、物流・人流を取り巻く環境が変化してきたことに加え、さらなる安全性向上のため自動運転技術の開発にも積極的に取り組んでいることを紹介。自動運転技術は「安全と喫緊の社会課題を解決する技術として捉えている」と述べた上で、「完全自動運転を目指して技術開発を行ない、ニーズや社会インフラの状況などを踏まえて段階的に技術を実用化していく」とした。
さらに、「認知」「判断」「操作」という人の運転行動をシステムに置き換えるにあたり、大型車は乗用車に比べて特有の課題があるとして、車体の大きさにより広く周辺状況の認知が必要になることや、車線維持制御で車線幅に余裕がなく、より高精度の制御が必要になることによる制御の難しさ、急停止・急操舵が困難である運動特性、積み荷や乗客の有無、仕様が多様であることなどを説明した。
続けて、自動運転につながる運転支援技術として「車線維持走行支援(LKA)」「GPSルート誘導」「周辺監視システム」などに触れたのち、その技術を活用して2018年夏に大型観光バス「セレガ」に商用車として世界で初めてEDSSを搭載すると述べた。今後は複数の大型トラックによる隊列走行や、バス、PTPS(公共車両優先システム)、バスレーンなどを組み合わせた大量高速輸送システム「BRT(バス高速輸送システム)」に段階的に発展させていきたいと展望を示した。
最後に遠藤氏は、「自動運転の実用化に向けた課題はいくつかあります。技術開発だけでなくて、インフラや制度の整備、それから社会の受容性なども考えなければなりません。さらに第一にわれわれの商用車を扱っていただく事業者の方との連携となる事業化というところが必要となってきます。これらが上手く変わってこないと自動運転の実用化に向けた社会は難しいかと思いますので、積極的に関わって、安全で効率的で便利な物流と輸送のために、技術開発を進めていきたいと思います」と述べてプレゼンテーションを締めくくった。
プレゼンテーションに続けて、PCS、EDSS、正着制御の試乗、隊列走行の並走デモンストレーションが行なわれた。それぞれを動画とともに紹介していく。
PCS(衝突被害軽減ブレーキ)
日野が採用しているPCSは、ミリ波レーダーと画像センサーによる制御で、停止車両のほかに静止歩行者にも対応。今回の試乗は2017年モデルのセレガを使って、50km/hでバルーンターゲットに向かうというもの。
実際に乗車してみると、想像していたよりもバルーンターゲットの近くで車内に警報音が鳴り、その後ブレーキ制御が介入した。50km/hで走る大型車が急停止する衝撃はかなりのもので、乗用車に搭載されている衝突被害軽減ブレーキよりも“緊急回避”という印象が強いと感じられた。
EDSS(ドライバー異常時対応システム)
EDSSは、急病などによりドライバーが運転操作を継続することが困難となった場合に、ドライバー自身や添乗員が運転席の非常ブレーキスイッチを押すか、乗客が左右の客席最前列上部に設置されたスイッチを押すことで、2.45m/s2で速度を落として停止する機能。
システムが作動した場合、乗客に緊急停止することを知らせるため、車内では非常ブザーが鳴るとともに、スイッチ内部のランプが点灯、装備されているフラッシャーが赤色に点滅する。また、周囲に対してはホーンを鳴らし、ストップランプとハザードランプを点滅させて異常を知らせる仕組み。
なお、客席のスイッチが操作された場合は、誤って押してしまった場合のことも鑑みて、ドライバーがEDSSのキャンセルができるようになっている。
デモンストレーションは、80km/hで走行中にスイッチが押された想定で行なわれた。警報が鳴ってから停止するまでの時間はそんなに長く感じられず、EDSSの場合は急制動を行なう必要がないため、スムーズなブレーキ操作で停止した印象だった。
プラットホーム正着制御
プラットホーム正着制御では、経路と減速ポイントを示す専用誘導線を道路に敷設し、車両に搭載したカメラで誘導線を認識して操舵・減速制御を行なった。誘導線まではドライバーが操作を行なうが、カメラが誘導線を認識すると自動でステアリングとブレーキ操作を行ない、決められた場所に自動で停止。バリアフリー化の観点から、誤差はプラットホームとバスの中扉の隙間が45mm±15mm、前後停止位置が0±350mmの範囲内に収められていた。
実際に乗車すると、自動運転に切り替わるタイミングはモニターや運転席横のランプを見ないと分からないほどスムーズな制御で、ブレーキの衝撃もドライバーが運転しているのとほとんど変わらないように感じた。また、プラットホームすれすれのところに車両が止まるので、足下を気にすることなく楽に乗り降りすることができた。
隊列走行(発展型/後続車有人)
隊列走行のデモンストレーションは、有人操作するトラックに続いて自動運転トラックが走行するというもの。後続のトラックに人が乗ってはいるが、車車間通信によって加速情報を共有し、ミリ波レーダーやカメラ、GPSなどにより走行に関わる操作をシステム制御していた。
加減速制御は車車間通信やミリ波レーダーによる情報で制御を行なうクルーズコントロール機能「CACC(Cooperative Adaptibe Cruise Control)」を用い、操舵制御はカメラで撮影した前走車や白線・車線の映像を解析し、ステアリング下部に取り付けられたステアリングアクチュエーターによって操作が行なわれた。また、走行車線への進入/流出は高精度GPSによって表現されたルートマップに沿って、ドライバーが操作せずとも走行するように制御されていた。
隊列走行に関してはトラックへの同乗ではなく、並走するバスからの見学となったが、バス内に設置されたモニターに映し出されるトラックの運転席の映像からは、ステアリングやアクセル/ブレーキペダルに触れることなく、走行車線への進入/流出や車線変更、停止/発進の動作をスムーズに行なっている様子が窺えた。