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日野と独フォルクスワーゲン トラック&バス、「アライアンス委員会」も立ち上げた戦略的協力関係の共同記者会見

「両社で協力して社会的な課題を解決していきたい」と日野 下社長

2018年4月12日 開催

共同記者会見のフォトセッションで握手する日野自動車株式会社 代表取締役社長/CEOの下義生氏(左)と、フォルクスワーゲン トラック&バス CEOのアンドレアス・レンシュラー氏

 日野自動車と独フォルクスワーゲン トラック&バスは4月12日、同日発表した戦略的協力関係の構築に向けた合意に関する共同記者会見を都内で開催した。

 今回の合意では、長期視点、対等かつ互恵的な戦略的協力関係の構築を目指し、運営体制としてはアライアンス委員会を立ち上げて協力の方向性を議論する。このほか合意内容の詳細は、すでに記事掲載している「日野と独フォルクスワーゲン トラック&バス、『電動パワートレーン』『自動運転システム』の分野などで戦略的協力関係」を参照していただきたい。

「両社で協力して社会的な課題を解決していきたい」と下社長

日野自動車株式会社 代表取締役社長/CEO 下義生氏

 記者会見では、日野自動車 代表取締役社長/CEOの下義生氏とフォルクスワーゲン トラック&バス CEOのアンドレアス・レンシュラー氏が並んで登壇。壇上で握手するフォトセッションを行なった後、まず日野の下氏からスピーチを開始した。

 下氏は日野とフォルクスワーゲン トラック&バスの両社が、「お客さまに最高の価値を提供する」という共通の目標を持ち、それぞれが事業展開する「技術」「商品」「地域」の観点から、幅広い協業の可能性を有していることから、相互にシナジー効果を発揮する「継続性のある戦略的協力関係」の構築に向けて合意書に調印したと、今回の合意について解説。

 また、自動車業界は100年に1度という大きな変革の時期を迎えており、「eコマース等の急速な普及による深刻なドライバー不足」と同時に「ドライバーの高齢化」も進んでいるほか、地方では高齢化に加えて電車やバスの路線が廃止され、移動に苦労する人が増えているといった社会問題を紹介。これまでと同じ価値を提供するだけでは、今後のユーザーニーズに対応できないと下氏は述べ、こうした危機感はフォルクスワーゲン トラック&バスも共有していることから、両社で協力して社会的な課題を解決していきたいとの意気込みを語った。

 下氏は自身が2017年6月に社長に就任してから、日野のスローガンを「もっと、はたらくトラック・バス」と定め、この実現に向けて「安全・環境技術を追求した適格商品」「最高にカスタマイズされたトータルサポート」「新たな領域へのチャレンジ」という3つの方向性を提示。これをより早く、より確実に実現していくほか、日野とフォルクスワーゲン トラック&バスが両社のリソーセスと技術を最大限に活かし合て協力していきたいと考えを示した。

「日野は今後もトヨタグループの一員」と語る下氏

 下氏は「日野は今後もトヨタグループの一員」としつつ、今回の合意を受け、両社のメンバーで構成される「アライアンス委員会」を立ち上げたと説明。このアライアンス委員会には下氏とレンシュラー氏も参加してタイムリーに意思決定していき、将来の物流・交通・ビジネスシステム等の変化予測を実施して、足下と将来の具体的な協業に向けたフィージビリティスタディを行なっていくという。

 また、フォルクスワーゲン トラック&バスとの協業を実現することで、先進技術で世界をリードする商用車メーカーになり、ユーザーに新たな価値を持続的に提供していくとした。

「主たる協力の領域はパワートレーン」とレンシュラーCEO

フォルクスワーゲン トラック&バス CEO アンドレアス・レンシュラー氏

 フォルクスワーゲン トラック&バスのレンシュラー氏は、今回の合意で両社が「物流・交通ソリューションの研究」「既存、および将来技術」「調達、販売/サービス」の領域で具体的な協業の検討を開始すると説明。「戦略的協力関係の構築に向けた合意は、事業を展開する地域や商品ラインアップの観点から両社が強いシナジー効果を発揮できる合意であることに加え、将来の輸送のあり方を共に考える枠組みにもなると考えています」とコメントした。

 さらにレンシュラー氏は輸送におけるさまざまな変化に対応するためには投資と技術が必要だが、両社が力を合わせてチャレンジすることで、チャレンジをチャンスに変え、ユーザーなどにより高い価値を提供できると信じているとコメント。また、顧客は自分たちの商品を使って利益を出し、生計を立てる必要があり、トラックやバスといった自分たちの商品は、顧客が価値を創造する過程で決定的に重要な要素であると説明。ユーザー目線に立って改善を積み重ねていきたいとの考えを示した。

 今回の合意で両社は、「輸送問題の解決策の提示」「より効率的でクリーンな荷物の移動の実現」の実現を目指しており、主たる協力の領域は「パワートレーン」であるとレンシュラー氏は紹介。既存の内燃パワートレーンに加え、ハイブリッドや電動パワートレーンの開発で協力するほか、「コネクティビティ技術」「自動運転」といった成長領域でも協力すると技術面での協力を紹介。物流・輸送ソリューションの研究、調達領域などでも協力の可能性があるとした。

レンシュラー氏はフォルクスワーゲン トラック&バスは2015年にスタートした会社だが、自動運転やコネクティッド技術の先進技術を有していると説明

 このほかにレンシュラー氏は、2015年にフォルクスワーゲングループが「MAN」「スカニア」などを新統括会社の下に再編したことでフォルクスワーゲン トラック&バスの歴史がスタート。以降同社が各ブランド会社と協力して期待された以上のスピードで成長したことをアピールしたほか、スタート当初からフォルクスワーゲングループの会社として自動運転やコネクティッド技術、環境技術などの先進技術を有しており、2016年秋からは車載コネクティビティの「RIOクラウドプラットフォーム」を立ち上げてデジタル輸送ビジネスの優位性を強化。北米で「Navistar」と戦略的アライアンスを組み、中国では「Sinotruk(中国重汽)」のシェアホルダーとなっていることを取り上げ、日野とも同様に幅広い協業に発展する可能性があるとした。

 スピーチの最後にレンシュラー氏は、「皆さま、フォルクスワーゲン トラック&バスと日野は歴史も文化も異なりますが、今回の合意に至る過程で分かったことがあります。それは両社がお互いを対等なパートナーとして、信頼に基づく関係を構築することができるということです。これから両社は強いチームワークで、お客さまにとっての価値を追求し、輸送に関するさまざまな挑戦に立ち向かう覚悟ができています」と締めくくった。

「危機感の先にある『ゴールのイメージ』が合っていると感じた」と下社長

 両CEOによるスピーチ後に行なわれた質疑応答では、日野の下氏に親会社であるトヨタ自動車との今後の関係性などについて質問され、「ご存じのように、日野自動車はトヨタ自動車の子会社ですが、この関係は今後も全く変わりません。スピーチでも申し上げたように、トヨタグループの強みというものは大きくあります。それは技術の面はもちろん、さまざまな人材育成などもそうです。一方で、商用車が直面しているさまざまな課題は、トヨタグループの中にいるだけでは解決が難しい部分もあるだろうと思います。そこで今回、同じ危機感を持って、さらにその危機感の先にある『ゴールのイメージ』、将来にわたってお客さまに提供したい価値、変わりつつある価値観にいかにスピード感を持って対応していくかといったイメージがフォルクスワーゲン トラック&バスとは合っていると感じたことから総合的、戦略的な協業の検討に入ることを決めました。協業についてトヨタからは『ぜひ進めてください」とのコメントをいただいております」と下氏は回答。

 また、協業によって進むことが期待される技術について下氏は「先進技術の分野では、お互いに同じような検討をしているところですが、両社が持っているリソーセスを合わせることで、より早く、より確実に新たな技術が開発できるのではないかと期待しています。また、今回は先進技術だけの提携ではありませんので、既存技術の流用、幅広い地域における商品の相互補完といったこともこれから検討していきたいと思います。大変広い分野で期待を持って、この協業に入りたいと思っています」とコメントした。

質疑応答中の両CEO

 トヨタグループにいても実現できないことの具体的な説明については、下氏が「先日、経産省さん、国交省さんと『後続有人隊列走行』の実証試験をやりました。大型のみならず、商用車系の先進技術は必ずしも乗用車の延長線上だけでは対応できないことがあります。当然ですがGVW(車両総重量)が非常に重いクルマの制御を、どうやってより安全にしていくか。また、バスについては多くの人命を預かっているだけに、安全性の高い商品を安全で高度な技術にしていくのかといったことは、商用車ならではの技術開発の観点があると思います」。

「また、われわれのお客さまである運送会社さん、バス会社さんが求めている価値は、普通の乗用車のお客さまとは少し違って、われわれがトータルサポートに非常に力を入れているように、使用期間が大変長く、お客さまにとってトラックやバスはやはり道具です。いかに効率よく働くかが重視されて、そのためにわれわれの技術開発が求められる。その意味では、同じ商用車メーカー同士の思いが一致して初めてできることが数多くあると思います」と回答し、さらに「われわれはトヨタグループの基礎技術などのさまざまな恩恵を受けながら、商用車ならではの部分では、今回のフォルクスワーゲン トラック&バスとの幅広い提携検討に入れるという、大変いいポジションに置かれているなと思います」と語った。