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運転手が倒れたら自動停車。日野がバス・トラック向けの新安全技術を披露

【動画あり】新たに6種類の機能を2019年モデルに搭載

2019年6月14日 実施

ドライバーが運転中に倒れると自動停止する「EDSS(自動検知型式)」などをデモ

 日野自動車は6月14日、報道陣向けに「最新安全技術試乗会」を開き、同社が製造する2019年モデルの大型バス、および大中小型トラックの先進運転支援システムをデモンストレーションした。「サイトアラウンドモニターシステム」や「ドライバーモニターII」ほか、全車種で計6種類の新しい安全装置を搭載し、商用車でも相次ぐドライバーの健康起因の事故やアクセル踏み間違いなどによる事故を防止する。これらは、同社のビジョン「Challenge2025」で掲げる2020年代の高速道路死亡事故ゼロ、2030年代の一般道路死亡事故ゼロに向けた取り組みの一環となる。

 同社の新しい2019年モデルでは、大型バス「セレガ」が改良した「ドライバーモニターII」「EDSS(自動検知型式)」を標準装備。大型トラック「プロフィア」は「ドライバーモニターII」「サイトアラウンドモニターシステム」を、中型トラック「レンジャー」は「ドライバーモニターII」を、小型トラック「デュトロ」は「前進誤発進抑制機能」「低速衝突被害軽減機能」「クリアランスソナー」をそれぞれ標準装備する。いずれの車両も「PCS」(衝突被害軽減ブレーキ)などの基本的な先進運転支援システムはすでに搭載済みとなっている。

大型バス「セレガ」
大型トラック「プロフィア」
小型トラック「デュトロ」

マスクをしていてもドライバーの状態を検知する「ドライバーモニターII」

 ドライバーモニターIIは、2009年に商品化した「ドライバーモニター」の改良版。従来は車内カメラを用いてドライバーの顔の目や鼻といった特徴点を検出し、その動きなどから異常と認識した際に警報を鳴らし、メーターパネル内に警告表示する仕組みだった。改良されたドライバーモニターIIでは、顔の特徴点だけでなく顔としての認識も行ない、新たに顔の向き、まぶたの開閉、上半身の姿勢を検知する。従来型と同様に帽子、メガネ、サングラスを装着した状態でも認識するほか、今回からマスクを身に付けていても認識するようになった。

「ドライバーモニターII」の概要

ドライバーの状態と車線逸脱を検知し自動で停止する「EDSS(自動検知型式)」

 EDSS(自動検知型式)は、こちらも2018年に商品化した「EDSS」の改良版となる。運転席付近にあるボタンを押すことで緊急停止するもともとの仕組みに加え、ドライバーモニターIIによって認識したドライバーの状態を考慮して自動停止する機能が加わった。60km/h以上で走行中にドライバーに異常事態が発生し、そのうえで車線から外れるなどをフロントカメラで認識して「車線逸脱警報」が一定時間以上継続すると、自動でブレーキをかけて停止する。国土交通省の調べでは、2016年に160件以上報告されているというドライバーの健康起因による事故の発生や、その二次被害の抑制に向けた機能となる。

セレガのダッシュボードに設置された車内カメラ
セレガの運転席。左に見える赤いボタンがEDSSのボタン
車両前方のシート頭上にもEDSSのボタンを用意
トラックの車外を映すフロント単眼カメラとミリ波レーダー。これで車線の逸脱や前方の人などを検知する
こちらは大型トラックの車内。車内カメラは右側のピラーに埋め込まれている
事業用自動車の事故における死亡者数の推移。下降傾向ではあるものの、2017年は年間300人近くが亡くなっている
健康起因の2016年の事故件数はバスが160人余り。トラックは少なく見えるが、厳格な報告体制が整っていないこと、高齢者が運転する率が低いことが要因と同社では考えており、実際には数字以上に多いと見ている
「EDSS(自動検知型式)」の仕組み
「EDSS(自動検知型式)」のデモ。高速道路走行中にドライバーが体調不良で姿勢を崩した状況を想定
車内ではこのように大きく左に身体を傾けてしまっている
車線逸脱も検知し、自動で緊急停止。前後のライトが赤く点滅する。完全に停止する直前の反動は少しあるが、さほど急激なブレーキではない
車内ではEDSSが作動したことを知らせる赤いランプが灯り、警報音が鳴り響く

左右方向の死角からの車両接近を警告する「サイトアラウンドモニターシステム」

 サイトアラウンドモニターシステムは、トラックの前方左右に装着された2つのミリ波レーダーを使い、見通しのよくない交差点などで死角になっている左右方向からの車両の接近をいち早く検知し、音とメーター内の表示で警告するもの。統計では道路横断中の歩行者に対する死亡事故に次いで多いとされる、出会い頭の事故を未然に防ぐことを目的としている。

「サイトアラウンドモニターシステム」の仕組み
トラックの前方左右に装着されたミリ波レーダー
乗用車が前方を横切ろうとすると……
メーターパネル内に「接近注意」と警告表示。30m程度に近づくと検知する

低速で障害物を検知すると自動ブレーキも作動する「前進誤発進抑制機能」「低速衝突被害軽減機能」

 前進誤発進抑制機能と低速衝突被害軽減機能は、トラック前方に装着された4つのソナーにより、停車時もしくは10km/h以下での走行時に、進行方向にある壁、ガラスなどの障害物を認識して、衝突が予測される場合にエンジントルクをカットしたうえで、自動ブレーキを作動させるもの。

 障害物への接近時はあらかじめ音とメーター内表示で警告するようにもなっており、アクセルとブレーキの踏み間違い事故の防止を目的としている。さらにクリアランスソナーでは、同じくソナーによって前方と斜め前方を監視し、障害物に近づいた際に警告する。狭い場所を通過したり駐車したりする際の注意喚起に用いられる。

「前進誤発進抑制機能」「低速衝突被害軽減機能」「クリアランスソナー」のデモ。前方の障害物は透明素材で、コンビニのガラス窓などを想定している
徐々に近づいていくとクリアランスソナーにより障害物までの距離が扇状のバーで表される
赤い状態はおよそ35cmまで近づいていることを示す
このまま進んだ場合に衝突の危険性が高まると判断されれば、自動ブレーキが作動する
座席からはほとんど見えない距離まで障害物に近づいている
ミラーで見るとこの近さ
日野自動車のバス・トラック向け最新安全技術

 同社では、将来的な自動運転の実現をにらみ、今後も高速域での遠方車両への追突事故、交差点における巻き込み事故、車線変更時の衝突事故などの防止に向け、先進安全機能の開発を進めていくとしている。後退時の衝突防止のような機能も期待されるが、特にトラックの場合は架装(荷室)の種類・メーカーが膨大なため、架装の形状やサイズの認識、センサー類の装着方法といった点で難しい部分が多く、対応には時間がかかる見通しだ。

2019年モデルの新しい先進運転支援システムについて解説した日野自動車株式会社 先進技術本部 副領域長 奥山宏和氏