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日野自動車、2019年夏に発売する大型ハイブリッドトラック「プロフィア ハイブリッド」環境技術説明会

世界初のAIを活用した勾配先読みハイブリッド制御

2018年7月17日 実施

大型ハイブリッドトラック「日野プロフィア ハイブリッド」とともに記念撮影を行なう日野自動車株式会社 取締役 副社長 遠藤真氏(左)と、同社 参与 山口公一氏(右)

 日野自動車は7月17日、羽村工場内のお客様テクニカルセンターで環境技術説明会を実施。2019年夏に高速道路での燃費効果を向上させた大型ハイブリッドトラック「日野プロフィア ハイブリッド」を発売するとして、車両の解説を行なった。

 日野プロフィア ハイブリッドのシステム構成は、1モーターパラレルで、エンジンは279kW(380PS)/1765N・mを発生する9.0リッターの「A09C」型をベースとした「A09C-VM」を採用し、モーター出力は90kW/784N・m。トランスミッションには12AMTを組み合わせる。2017年に発売された「日野プロフィア」と共通のプラットフォームに、量産初となる密閉型のリチウムイオンバッテリーを搭載する。

日野プロフィア ハイブリッド
日野プロフィア ハイブリッド
エンジンは279kW(380PS)/1765N・mを発生する9.0リッターの「A09C」型
バッテリーは車両後方のリアオーバーハングに搭載
日野プロフィア ハイブリッドの諸元

 これまで難しいとされていた高速走行が多い車両で燃費効果の発揮できるハイブリッドシステムとして、AIが3D地図情報などを元にルート上の勾配を100km先まで先読みしてバッテリー使用の概略シナリオを作成すると同時に、10kmごとの勾配情報によりエンジンとモーターのトルク配分シナリオを作成し、走行負荷を予測して最適なハイブリッド制御を行なう世界初の「バッテリーマネジメント&トルク配分制御」を採用。高速道路での下り勾配で発生する減速エネルギーを回生エネルギーとして効率的に利用することに成功した。

 このAIとロケ―ターを活用したハイブリッド制御について、日野プロフィア ハイブリッドの解説を行なった日野自動車 参与の山口公一氏は、「(AIは)クルマのナビゲーションなどのように道路から判断するのではなく、クルマのまっすぐ前の100km先の標高や勾配などを読んで、バッテリー使用のシナリオを作っています。ですので、例えばクルマが信号で左に曲がって目の前に富士山があったら、富士山を上るイメージをします」と説明した。

日野自動車株式会社 参与 山口公一氏

 また、実際に25tの車両重量の試験車を使って羽村工場から一般道で厚木に向かい、厚木から東名高速道路を使って焼津まで約360kmの走行評価を行なった結果、14Lの燃料を削減し、ディーゼル車に比べて燃費が15%向上したという。これを年間走行距離となる12万kmに換算すると4700L分、軽油120円/Lで換算すると56万円相当の燃料費が削減できるとともに、CO2も約15%削減でき、すべての大型トラックをHVに置き換えると、商用車全体の約10%のCO2削減につながるとした。

 山口氏は、「車種別にみると、2013年度の国内商用車の燃料消費量は大型トラックが約60%を締めており、大型トラックの燃料消費率を改善することがCO2の削減につながると考えました。高速道路の走行が主となり加減速が少ない大型トラックは、これまでのハイブリッドシステムでは効果が得られません。そこで、大型トラックが減速時に発生する小型トラックの10倍、大型路線バスの4倍にもあたる減速エネルギーに着目し、高速道路の下り勾配でのエネルギー回生ができないかと考え、高速道路の走行で効果が発揮できるハイブリッドシステムを新たに開発しました」。

「さらに、ドライバーの運転の仕方やエンジン、バッテリーの状態などから、AIを使ってモーターアシスト量や領域を自動で最適化する『走行状態適応型アシスト制御』、ミリ波レーダーを用いて先行車との車間情報を取得して最適な制御を行なう『ハイブリッド省燃費運転支援制御』、新たに開発したバッテリーマネジメント&トルク配分制御、ブレーキを踏んだ時にも回生エネルギーを得ることができる『ブレーキ強調回生制御』といった燃費向上技術を採用しました」と、採用技術について説明した。

山口氏の解説で用いられた資料。日野プロフィア ハイブリッド開発の背景・目的
2013年度国内商用車の燃料消費量比較(車型別)
小型トラックと大型トラックの走行路割合
ハイブリッドの基本システム
2014年から開発に着手していた大型ハイブリッドトラックのコンセプト
大型ハイブリッドトラック開発についてヒントとなった、車種別走行エネルギー比較
大型ハイブリッドトラック開発についてヒントとなった、国内主要高速道路の最大勾配
日野プロフィア ハイブリッドに採用されたハイブリッド機能・システムについて
大型ハイブリッドトラックの新制御
システム構成とスペック
燃費向上を支える技術「走行状態適応型アシスト制御」
燃費向上を支える技術「ハイブリッド省燃費運転支援制御」
燃費向上を支える技術「バッテリーマネジメント&トルク配分制御」は世界初採用
燃費向上を支える技術「ブレーキ強調回生制御」
燃費向上を支える技術「チタン酸リチウムイオンバッテリー」は密閉型で、内部循環式空冷方式を採用
実燃費評価

 また、日野の環境への取り組みとして、日野自動車 取締役 副社長の遠藤真氏がプレゼンテーションを実施。これまでの取り組みとして、ハイブリッド技術を軸に、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)といった電動車の実用化を図り、クルマを作るための技術を開発してきたと話し、1991年に世界初のハイブリッド路線バスを発売してから2018年3月末時点で累計販売台数が約1万6000台となったことを説明。

日野自動車株式会社 取締役 副社長 遠藤真氏
日野自動車のスローガンと3つの方向性
これまでの方針
これまでのエンジンに関する取り組み
ハイブリッド車の販売実績
これまでのハイブリッドに関する取り組み
これまでのEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)についての取り組み
これまでの取り組みのまとめ

 続けて遠藤氏は「日野環境チャレンジ2050」と、その達成に向けた取り組みを説明。日野環境チャレンジ2050は、政府が定めるCO2削減量を2030年度までに26%、2050年度までに80%削減するという目標に沿って、2017年10月に策定されたもの。その中の「新車の走行中のCO2を90%削減する」という目標に対して、「次世代のクルマづくり」「既存技術の向上」「物流全体の効率化」の3つの方向性で取り組みを進めていくとした。

 取り組みでは、ディーゼルエンジンの燃焼効率などの既存技術を向上させるほか、現在「日野ブルーリボンハイブリッド」などに採用している“第5世代”と呼ばれるハイブリッドシステムを、2019年にはリチウムイオンバッテリーを搭載する第6世代に進化させ、小型車だけでなく大型トラックにも拡大して車種の充実を図ると述べた。

 その上で、さまざまなシステムを活用するにあたって、すべてのパワートレーンに対応する「電動化プラットフォーム」を開発しているとして、バッテリーとモーター、トランスミッションを共通の構成として、EV、PHV、FCVそれぞれに必要なモジュールを組み合わせ、「従来の小型トラックやバスといった都市型だけでなく、すべての車種に可能性を追求していきたい」と話した。

日野環境チャレンジ2050について
商用車に求められるものについて
既存技術の向上:エンジン
既存技術の向上:ハイブリッド
大型トラックを含め、車種の拡大を図る
ハイブリッド技術を積極的に海外展開
次世代のクルマ作り
「電動化プラットフォーム」について
電動化プラットフォームの組み合わせ
都市内用途だけでなく、移動距離の長い車種にも次世代のクルマを拡大
都市内用途の次世代のクルマ
技術のロードマップ
CO2削減目標達成に向けたロードマップ

 最後に遠藤氏は、次世代のクルマを普及させるため「技術開発だけでなく、インフラ整備などの社会基盤の強化や国との連携なども強めていきたい」と話すとともに、「われわれだけではなく、トヨタグループや独フォルクスワーゲン トラック&バス、いすゞなどと力を合わせて開発を進めていきたい」と述べてプレゼンテーションを締めくくった。

次世代のクルマの普及のために、技術開発と社会基盤の強化に加え、国との連携も必要となる
効率的な開発のための仲間づくり
説明会の後には同乗試乗も行なわれた
お客様テクニカルセンター内に展示されていたA09C型エンジンの模型
人とくるまのテクノロジー展でも展示された小型EV商用車専用プラットフォーム