試乗インプレッション

2019年導入予定の日野「プロフィア ハイブリッド」プロトタイプ試乗!

ハイブリッド化により燃費向上だけでなく滑らかな加速も実現

 国内における大型トラックは約57%が高速道路を走行している。いわゆる都市間輸送の用途として大型トラックは日夜働き続けているわけだ。一方で、国内商用車における燃料の年間消費量を見てみると、大型トラックが突出して多く、全体の59%にあたる260億Lにも及ぶ。これは台数が多いことに加えて、1台あたりの年間走行距離が多いことに起因する。よって、CO2の排出量も走行距離に応じて多くなり、たとえば日野自動車が世に送り出した車両が排出したCO2のうち、67%は大型トラックによって排出(データはいずれも2013年日野自動車調べ)されているという。

 温室効果ガスの1つとされるCO2の削減は、自動車メーカーのみならず喫緊の課題であることはご承知の通り。日野では「日野環境チャレンジ2050」として、2050年までに2013年度比で車両が走行する際のCO2を約90%削減するとことを目指している。また、この約90%のうち、80%が「既存技術の向上」で、残り10%が「物流全体の効率化」により削減していくなど、より具体的な案も示されている。詳しくはCar Watchにおいて別の紹介記事がアップされているのでそちらも併せてご確認いただきたい。

具体的なCO2削減案が示される「日野環境チャレンジ2050」

 日野は80%の削減項目の1つとして、大型トラックのハイブリッドモデルを市場に導入することを表明した。実のところ、大型トラック「プロフィア ハイブリッド」は2015年東京モーターショーで先代のプロフィアをベースにしたモデルが参考出品された経緯がある。今回は2017年にフルモデルチェンジを行なった大型トラックのプロフィアがベースとなった。取材の場でお披露目されたのは、最新のプロフィアに日野独自のハイブリッドシステムを組み合わせたモデルで、2019年に発売することを目指し開発が進められているプロトタイプだ。

 筆者はそのプロトタイプにテストコースで試乗することができた。わずか10分程度であったが数多くの新たな発見があるなど非常に有意義であった。

日野自動車「プロフィア ハイブリッド」プロトタイプ。最高出力380PS/1700rpm、最大トルク1765Nm/1100rpmを発生する直列6気筒9.0リッターの「A09C」型エンジンに、最高出力90kW/1100-2900rpm、最大トルク784Nm/1100rpmを発生するモーター/ジェネエレータ―を組み合わせる

 試乗の前に、プロトタイプが搭載するハイブリッドシステムから紹介したい。搭載エンジンは直列6気筒2段過給ターボチャージャーを搭載した8866ccで最高出力380PS/1700rpm、最大トルク180kgfm/1100rpmを発揮する。トランスミッションはシングルクラッチ方式のAMTで12段式の「ProShift」を組み合わせた。NOx除去にはSCR触媒を用いた「尿素SCRシステム」を、PM除去にはDPRフィルターを用いた「DPRシステム」をそれぞれ使う。

 モーター兼ジェネレーターは最高出力90kW/1100-2900rpm、最大トルク80kgfm/1100rpm、バッテリーは大型トラック向けに開発されたチタン酸リチウムイオンバッテリー(スタックは10個/40Ah×27V)の総容量は11kWh。セルには東芝製のSCiB(20Ah×2.3V)を用いた。

 ちなみに、SCiBは酸化物系新材料の採用などにより、外力などで内部短絡が生じても熱暴走を起こしにくい構造が特徴。また、普及している同クラスのバッテリーの約10倍近い充放電回数を誇るうえ、5分間での急速充電、物理電池であるキャパシタ並みの入出力密度、-30℃の低温での動作など、優れた諸特性がある。プロフィア ハイブリッドではこのSCiBを大型トラック向けに最適化した。

 システムの配置は、前からエンジン→クラッチ→モーター兼ジェネレーター→トランスミッション→デフ→駆動輪となる。モーター兼ジェネレーターには197kVAのインバーターと11kWhのリチウムイオンバッテリーが接続される。

プロフィア ハイブリッドのシステム構成

高速道路での走行に重きを置いた完成度の高いハイブリッドシステム

 気になる走行フィールだがプロトタイプとはいえ完成度が高かった。AMTは構造上、シフトアップする際に加速度が途切れてしまう特性がある。筆者はハイブリッドではない通常のプロフィアを公道でも長距離試乗しているが、発進時の増速シーンにおけるシフトアップ時と、5%以上の上り勾配路に差し掛かった高速道路におけるシフトダウン→シフトアップ時などには、この途切れてしまう加速度による微妙な失速を体感していた。

 プロフィア ハイブリッドでは、そうした変速時の加速途切れをモーターのアシストを積極的に使って可能な限りゼロに近付けている。よって、トランスミッションは通常のプロフィアと同じシングルクラッチのAMTながら、非常に滑らかな発進加速と、キックダウン(シフトダウン)を伴う50km/h~70km/hあたりまでの強めの加速を欲しているシーンであっても加速度が途切れることが少なかった。

 また、モーター駆動時の走行フィールも快適だった。パワフルなモーターではないので、アクセル開度が一定、かつ速度変化の少ないシーンでそのモードへと自動的に入る。モーターでの最高速は速度リミッターが働く90km/hが上限。バッテリーのSOCが十分にあれば、最大で14km程度、モーター駆動だけで走行することができる。ただし、このモーター駆動状態であってもエンジンは停止させずアイドリング状態を保つ。乗用車と違って補機類が多く、またフェールセーフの意味もありエンジンは停止させない。これは商用車では一般的な手法だ。とはいえ、この14kmを走行する際に消費する軽油は350cc程度とごく少量。燃費数値に換算すれば、この14kmは40km/Lで走行しているに等しい。CO2の排出量はゼロではないものの、それは非常に微々たるものだ。

 一般的にハイブリッドモデルがなぜ燃費数値が伸びるかといえば、搭載しているバッテリーの電力によりモーターを動かして駆動輪を回すことにある。走るために燃料を消費しないから燃費数値が伸びるわけだ。この理屈は大型トラックになっても変わらない。とはいえ、どんな場面でも大きく重く前面投影面積の大きな車両(GVWで25t)を90kWのモーターだけで動かすには無理がある。

 そこで、プロフィア ハイブリッドは高速道路における燃費数値の向上を第一に設計されている。日本の高速道路は勾配が多い。山陽自動車道や東北自動車道は最大勾配にして6%、平坦に思える新東名高速道路でも2.1%だ。よって、上下する勾配を利用して積極的にエネルギー回生を利用し、車両負荷の少ない平坦路での巡航時にモーター駆動を行ない、燃費数値を伸ばしていく。これがプロフィア ハイブリッドのからくりだ。

 筆者は大型トラックの開発ドライバーの1人として、全国の高速道路を走行した経験があるが、とりわけ路面勾配の激しい高速道路に山陽道がある。ここは連続する勾配路が有名で、カーブの曲率もきつい。GVW25tの大型トラックでこの山陽道を燃費数値よく、そして安全に走りきるには、降坂時にはリターダ(補助ブレーキ)を積極的に使って速度の増速を抑え、登坂路では勾配がきつくなる前にシフトダウンを行ない適切な駆動力を保つ必要がある。

 プロフィア ハイブリッドでは、降坂時や減速時に回生システム(≑アクセルペダルから足を放した状態での回生ブレーキ)を使いバッテリーに充電を行なう。この回生ブレーキ(減速度はプロトタイプで0.05Gほど)では減速が足りない場合、ドライバーはリターダやブレーキ操作を行なうわけだが、このときも最大限、回生ブレーキを活かしながら不足分をドライバーが操作するブレーキによって行なう「ブレーキ協調回生制御」を用い充電効率を高める。

 また、ハイブリッドシステムを補完する技術「走行状態適応型アシスト制御」として、走行負荷、エンジン状態、アクセル開度、バッテリー状態をハイブリッドECU(人工知能と最適制御パラメーターが融合したECU)を使い、モーターアシストの量とアシストする速度域などを最適化。さらに、「ハイブリッド省燃費運転支援制御」によりドライバーの運転操作に合わせて加速度をコントロールすることも行なう。

 世界初の「バッテリーマネジメント&トルク配分制御」技術では、自車位置から前方100km分の標高、勾配、位置を専用のロケーターECUを使って先読みし、100km先までのバッテリーを使用するプランを作成するほか、10kmごとの勾配情報と照らし合わせてトルク配分のプランを作成する。

 今回はプロトタイプでありテストコースでの限定試乗であったが、2019年に市場導入された際には、実際に山陽道や東北道でハイブリッドシステムの真価を体感してみたいと思う。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。