ニュース
ソフトバンク、営業利益62.4%増の1兆4207億円となった2019年3月期 第2四半期決算説明会
トヨタ自動車との共同出資会社「MONET Technologies」にも言及
2018年11月6日 00:00
- 2018年11月5日 開催
ソフトバンクグループは11月5日、都内で2019年3月期 第2四半期(2018年4月1日~9月30日)決算説明会を開催した。ソフトバンクグループは、通信キャリアのソフトバンクやインターネットサービスを提供するヤフーなどの事業会社、さらにはサウジアラビアなどの出資により構成されている投資ファンドの「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」などから構成されている持ち株会社で、ソフトバンクグループの中核企業となっている。
ソフトバンクグループ 代表取締役会長 兼 社長 孫正義氏は説明会の冒頭で「カショギ氏暗殺事件はあってはならないこと、遺憾の意を表明したい。サウジアラビア政府には真相を明らかにしてほしいと申し上げた」と述べ、トルコのサウジアラビア公館で発生したジャーナリスト暗殺事件について初めて公式の場で発言した。
ソフトバンクの2019年度3月期上期の決算は営業利益が1兆4207億円で、前年同期比で62.4%も増えた。特にビジョン・ファンドの貢献が大きく、その分が大きく増えたとの説明が行なわれた。
また、携帯電話の料金が4割削減できるのではないかという菅官房長官の発言を受けて、通信キャリアでは料金の引き下げが議論になっているが、孫氏は「事業会社で通信事業に関わっている従業員を4割削減して対応したい」と説明。AIやロボット技術の導入により、通信事業に関わっている従業員を他の成長事業へと配置転換することで、4割削減を行なっても利益が出る体制を構築していくと説明した。
ジャマル・カショギ氏の事件は「あってはならないこと」と孫氏
孫氏は「冒頭でカショギ氏の事件の件について触れたい。あってはならない大変悲惨な事件と認識している。カショギ氏という一個人の人生を終わらせてしまったことに加えて、ジャーナリズム、言論の自由に対する大変な問題を提起するもので、この事件に対して強い遺憾の意を示したい。事件が発覚後、サウジでイベントがあった。私は参加を取りやめたが、サウジアラビアには行ってきた。サウジの高官の皆さまに直接お会いして、懸念を伝える目的があったからだ。事件の詳細が解明され、責任ある説明を求めていきたい」と述べ、トルコのサウジアラビア公館で発生したジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害された事件にサウジアラビアが関わっていたことに強い遺憾の意を表明した。
これはソフトバンクグループが運営している投資ファンド ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資者がサウジアラビアであり、国際的にサウジアラビアに対して風当たりが強くなりつつある中で、ソフトバンクがどのような姿勢を取るのか注目されていたことを受けたもの。ソフトバンクグループとしては遺憾の意を表明するという形で、事件に対しての姿勢を明らかにした。
ただ、その一方で孫氏は「サウジの国民の皆さまから資金をお預かりしている。サウジアラビアの経済の多様化、そういう責務を持っている資金だ。そのサウジ国民の皆さまの将来に対する責務を、背を向けないで果たすべきである。事件の真相が究明され、きちんとした説明が為されることを願っている」と続け、とりあえず、現在サウジアラビアから出資を受けているビジョン・ファンドは変わりなく運営していく方針も明らかにした。また、質疑応答の中で「現在のビジョン・ファンドにも出資金は残っており、投資した企業の上場が進んで資金回収も行なわれている。ビジョン・ファンド2や3に関して行なうのは時期尚早であるので、慎重に検討していきたい」と述べ、サウジアラビア政府の事件への関与度合いなど、将来別の事実が明らかになったりした場合に向けて若干の含みを持った発言をした。
“Softbank 2.0”は戦略持ち株会社として進化し、言い訳なく伸ばしていきたい
その後、通常の決算に関して説明を行ない、「従来のソフトバンクは通信の会社と理解されていた。SoftBank 2.0では戦略的持ち株会社として進化し、多くの同志と一緒に情報革命を実現していく。群れでそれを実現していく、それが群戦略だ」と述べ、ここ最近孫氏がよく使う「群戦略」という言葉を利用して、その成長が加速していると説明した。
そして2019年度3月期上期のソフトバンクグループの営業利益が、ビジョン・ファンドを含めると62%も増えて1兆4207億円に達したことを紹介した。孫氏は「8年前に比較してベンチャー企業は価値が高くなりすぎていて、ビジョン・ファンドは投資する金額が大きすぎると言われており、これ以上は難しいとよく言われていた。それに対しては、そう言われた時に反論するのではなく、結果で見せていきたいと思っていたが、そのどおりにできた」と述べ、大方の予想に反して実績を出せたことを誇って見せた。
孫氏は「ビジョン・ファンドは十分いける、通期でもこの勢いでやっていきたい。ソフトバンクが体験したことない規模の利益、来年には今年の規模を遙かに超えて、日本経済が体験したことのない営業利益が出せるのではないか。これまで10年後、20年後のことを何度も口にして、そのたびに“ペテンハゲ”とか言われてきたが、1度も予想は外したこと、下まわったことがない。それが自分のプライドであり、言い訳なしで伸ばしていきたい」と述べ、今後もソフトバンクグループを成長させていくことに自信を示した。
このほか、売り上げ高は6%増で、有利子負債(利子を支払う必要がある負債)も他の企業と同じように売り上げ高の数倍の範囲内にとどまっており「もうすぐ“ソフトパンク”とか言われていたが、問題のない範囲にとどまっている」と述べ、同社の財務が健全だとアピールした。
ビジョン・ファンドで投資している企業の技術を国内に導入し、「第2のヤフージャパン」実現を目指す
続いて、孫氏は国内事業について話を移し、国内事業会社となるソフトバンクに関して説明した。すでに明らかになっているとおり、ソフトバンクグループはソフトバンクを株式上場する計画で申請しており、「ソフトバンク、ワイモバイル、LINEモバイルの3つのブランドを利用して、国内の通信事業は売り上げ、営業利益とも伸びている。ソフトバンクブランドでは大容量のデータを必要とするお客さま向けとして考えると、1GBあたりの単価は競合他社より圧倒的に安く、ワイモバイルブランドは業界で最も安い水準」と述べ、複数のブランドを利用して、異なる顧客向けに展開していることが成功していると説明した。
また、政府が通信費の4割削減を打ち出したことに対しては「政府から端末と料金を分離すべきだというご指導があったため、それに真っ先に従い端末分離プランを導入した。そして今後、ソフトバンクのルーティンワークは積極的にロボット化していく。すでに2000件ほど実行しており、最終的に人員を4割削減していく。だがそれは無理に人を減らして泣かすのではなく、配置転換を行ない成長事業へとシフトしていく」と述べ、AIやロボット技術などを応用して、社内のルーティンワークを減らしその分の人材を成長事業へと配置転換していくことで、構造的にも通信費削減が実現できるように対処していくと述べた。孫氏は質疑応答の中で4割削減という数字は、政府が4割削減というからなのかと問われると「そうだ」と述べ、そうした状況に恒常的に対応するためにそうした戦略をとっていくのだと明らかにした。
孫氏は「そうした削減により、ソフトバンクから安定したフリーキャッシュフローを生む構造を作り、ソフトバンクグループに潤沢な資金が入るようにしていく。それをビジョン・ファンドや有利子負債の支払いにまわしていく」と述べ、通信事業からの収入が4割減っても安定して事業をまわし、かつ利益が出る体制を作っていくと述べた。
そうした中で、次の成長事業としてビジョン・ファンドで投資しているベンチャー企業の技術を国内に導入して、20年以上前にYahoo!を日本に導入してヤフージャパンを成功させたような例をどんどん作っていきたいと説明した。その具体例として「WeWork」「PayPay」などのほか、ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社となる「MONET Technologies」が具体例として紹介された。
AI群戦略でビジョン・ファンド傘下のAIテックベンチャー同志の価値を高めていく
続いて孫氏は、同社の子会社で米国の通信キャリアであるSprintについて触れ、5年連続黒字を実現しており、T-Mobileとの経営統合に向けて予定どおり進んでおり、米国の規制当局に認可させることに自信を示した。また、ヤフージャパンに関しても広告収入が7%増など成長していると説明した。
さらに同社の子会社で英国のチップ設計ベンダ「Arm」に関しては、チップ出荷数が14%増加し、ほぼシェア100%となっているスマートフォン以外への展開を重視していると説明した。今後は通信インフラやクラウドのサーバーといった新しいチャレンジが課題で、高性能プロセッサー群を発表したことなどを説明。「Armは従業員を増やしており、研究投資を強化している」と述べ、Armに関しても引き続き投資していくと述べた。
その後、孫氏は「AIは、20年前にインターネットが始まった時に匹敵する情報革命。これからAIが研究開発からサービスへと広がろうとしている。ビジョン・ファンドのAIに関する“ユニコーン”は67社あり、この2年でグループを構築した。こうしたグループが構築できているのは世界でもわれわれだけだ。AIでも群戦略を実行していく」と述べ、AIで有望なベンチャー企業に対してすでにビジョン・ファンドで投資を行なっており、そうした企業を世の中に紹介したり、さらに投資をしていくことで、それらの企業個々の価値を上げていくと説明した。
孫氏はそうした企業の例として、WeWork、韓国の「Coupang」、インドネシアの「Tokopedia」、インドの「Paytm」、血液検査によるDNA解析でがん診断ができる「Guardant」、不動産テックの「Opendoor」と「Compass」、IoTガラスの「view」、スマート建設設計の「KATERRA」などについて触れたほか、ライドシェアで合計すると世界のシェアで9割に達するUber、DiDi、Grab、Olaの4社など、いずれもソフトバンクグループが筆頭株主であることを紹介した。
また、今後はUber Eatsのようなフードデリバリーサービスの市場潜在性が高いことを紹介し、中国のele.me(エレマー)に対してビジョン・ファンドが出資していることを説明した。孫氏によれば、ele.meは中国でアクティブユーザーが1億7000万人、ドライバー67万人、登録店舗350万店という規模になっていると述べ、大きな可能性があると述べた。
最後に孫氏は「ビジョン・ファンドが加わって営業利益が62%増、純利益は700%増となっている。来年、再来年は大きく上まわると考えている。われわれは株主価値を最大化しながら新しい時代を作っていきたいのだ」と述べ、説明会を終了した。