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F1昇格を目指す18歳、角田裕毅選手がアブダビのGP3テストで鮮烈デビュー

FIA-F4チャンピオンは、2019年はFIA F3に挑戦

FIA Formula 3選手権に来シーズン参加する角田裕毅選手(写真提供:ホンダ)

 SUPER GTのサポートイベントとして行なわれているFIA-F4選手権で、今シーズンのチャンピオンに輝いたのが角田裕毅選手だ。角田選手は現在18歳の高校3年生で、2016年に鈴鹿サーキットが選出しているSRS-Formulaアドバンスのスカラシップ選考会の最終選考まで残り、2017年にはFIA-F4を、そして2018年にはホンダの若手育成プログラムであるHFDPの育成ドライバーとしてFIA-F4を戦い、見事に2年目にしてチャンピオンを獲得するなど着実に実績を残してきた。

 角田選手は来シーズン、F1直系のカテゴリーとしてこれまで行なわれていたGP3をリニューアルして開催されるFIA Formula 3選手権(FIA F3)に挑戦することが決まっており、スイスのレーシングチームである「Jenzer Motorsport」から参戦する。角田選手のレーシングスーツなどにはレッドブルの育成プログラムである「Redbull Junior Team」のロゴが入っており、レッドブルからは発表されていないものの、近い将来にRedbull Junior Teamにも迎えられる可能性が高くなっている。それが実現すれば、ホンダとレッドブル両方からサポートされるという体制で来シーズンに臨むことになる。

GP3と欧州F3が合流してFIA F3が始まり、新型車両が導入される

 角田選手が2019年参戦する予定のFIA Formula 3選手権(FIA F3)は、従来の欧州F3とF1直系のカテゴリーのGP3が合体して行なわれる新しいシリーズとなる。これまでは、GP2から名称が変更されたFIA Formula 2選手権(FIA F2がF1の直下にある最上位の育成カテゴリーとして存在しており、その下にGP3となっていた。だが、欧州では同時に世界中で同じ規定で行なわれているF3があり、実質的にはGP3と欧州F3が並び立っているような状況になっていた。そこでFIAは、GP3と欧州F3を統合させることを決定して、来シーズンから行なわれる予定なのがFIA F3だ。これにより、F3>F2>F1というシンプルで明快なステップアップの道が整備されることになる。

 重要なことは、FIA F2、FIA F3はいずれもF1に参戦するのに必要なスーパーライセンスを得るためのポイント獲得で優遇されていることだ。スーパーライセンスとはF1ドライバーになる免許のようなもので、ジュニアフォーミュラやF1以外のカテゴリー(例えば、インディカー・シリーズやスーパーフォーミュラ、SUPER GTなど)で上位に入ってそれぞれに与えられるポイントの合計が40点以上にならないと、スーパーライセンスを申請することができない仕組みになっている。これは過去に、F1ドライバーにふさわしくないと言われるドライバーがF1参戦していたということがあり、FIAによるスーパーライセンスの発給が恣意的だと批判が高まったため導入された制度で、過去の実績という誰にも文句が言えない透明性のある仕組みが導入されたという歴史的経緯がある。例えば、スーパーフォーミュラでは20点、SUPER GTでは15点と決まっており、過去3年間の合計が40点を超える必要がある。ちなみに2018年にスーパーフォーミュラとSUPER GTのダブルチャンピオンになった山本尚貴選手は、2018年だけで35点をマークし、過去2年間で5点以上を獲得しているので40点を超えたため、スーパーライセンスの取得資格を得ている。

 そうしたスーパーライセンスの制度で、F2とGP3(そして2019年から始まるFIA F3)は非常に優遇されている。F2はランキング3位まで1発でスーパーライセンスが申請できる40点が与えられるし、GP3もランキングで1位25点、2位20点、3位15点と、格上のカテゴリーであるはずのスーパーフォーミュラの1位25点と同等の扱いがされている。これは、FIAが育成カテゴリーとしてF2やGP3などを重視しており、F1に行きたいならF2やGP3に参戦して結果を出すべきだと若いドライバーに言っていることと同義になる。このため、近年ではほとんどのドライバーがF2、GP3経由でF1に昇格している。FIA F2の2018年上位3名(ジョージ・ラッセル選手、ランド・ノリス選手、アレクサンダー・アルボン選手)が全員F1に昇格することが決定していることからもそれは分かるだろう。

2019年のFIA F3用新型車両。ダラーラ製で、メカクロームの3.4リッター6気筒エンジンを搭載する
フロントウイング
Haloを搭載する
FIA F3のロゴ
リアビュー
リアウイングにはDRSも搭載される

 そうしたGP3は2019年から、これまで欧州F3として行なわれていたシリーズを統合し、新しくFIA F3として再スタートを切る。GP3と同じようにF1直系のカテゴリーとして位置付けられるので、欧州で行なわれるF1のサポートレースとして行なわれる。また、スーパーライセンスに与えられるポイントは欧州F3に与えられていた1位30点、2位25点、3位20点というポイントが維持される見通しで、その点でもよりF1に近いカテゴリーになる。

 また、車両は新しく導入され、先日行なわれたアブダビでのF1のパドックに新型車両が展示されていた。2019年のFIA F3に導入される車両は伊ダラーラ製のシャシーで、F1ライクな空力、HaloとDRSが用意されているなど、F1直系のカテゴリーらしい設計になっている。エンジンはメカクローム製の3.4リッター6気筒の自然吸気エンジンになっており、8000rpm時に800馬力を発生する。タイヤはF1やF2と同じようにピレリから供給される計画だ。

SRS-F出身で2018年のFIA-F4日本選手権のチャンピオンである角田裕毅は18歳の高校3年生

 2019年からFIA F3に参戦する角田裕毅選手は2000年5月生まれの18歳で、現在高校3年生だ。角田選手は来春に高校を卒業する予定で、その後はヨーロッパに拠点を移してF1昇格を目指して戦うことになる。

角田裕毅選手(写真提供:ホンダ)

 角田選手はすでに本誌に登場したこともある。それが2016年のSRS-Fアドバンスと呼ばれる鈴鹿サーキットが開催しているレーシングスクールの修了式(別記事参照)だ。この時に角田選手は、ホンダの若手育成プログラムであるHFDP(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)のスカラシップ最終選考の候補生として選ばれた。結局この時はHFDPのスカラシップには選ばれなかったのだが、ホンダの育成ドライバーとしてSUPER GTと併催されているFIA-F4選手権(日本選手権)に参加し、2017年はランキング3位、そして2018年はツインリンクもてぎで行なわれた最終戦で見事チャンピオンを獲得した。日本でのF1-F4は2015年から行なわれているが、これまでチャンピオンを獲得したのはいずれもトヨタ系のドライバーで、ホンダ系のドライバーでチャンピオンを獲得したのは角田選手が初めてとなる。

2016年にSRS-Fアドバンスを終了し、スカラシップ候補生に選ばれた時の角田選手、当時16歳
GP3のアブダビテストにおける角田選手、車に乗り込めばレーサーの眼だ。(写真提供:ホンダ)

 そうした結果を出したことで、2019年のHFDPの育成ドライバーに選ばれ、2019年をFIA F3で戦うことになる。しかも、その体制はただのホンダの育成ドライバーというだけではない。F1 アブダビGP後に行なわれたGP3のアブダビテストに参加した角田選手のレーシングスーツなどにはレッドブルの若手育成プログラム「Redbull Junior Team」のロゴが付けられており、レッドブルからの正式な発表はないが、レッドブルのジュニアドライバーとして来シーズンを迎える可能性が高い。

角田選手のアンダーシャツに「Redbull Junior Team」

 このため、今回角田選手のマシンはすでにレッドブルカラーに塗られており、他のドライバーの車両はスポンサーロゴもほとんどないことに比べて非常に目立っていた。すでに述べたとおり、GP3は2019年に欧州F3と合流してFIA F3となり新型車両が導入されるため、もう2019年以降は使わない2018年の車両に新しいカラーリングを行なう必要性はないのだが、それだけレッドブルやホンダとして力が入っているということだろう。

このテストのためだけにレッドブルカラーに塗られたGP3の車両でテストに参加する角田選手(写真提供:ホンダ)

 このため、GP3のパドックでも角田選手はすでに注目の存在となっており、筆者のような日本のメディアだけでなく、海外のメディアも注目して追いかけているほどだった。

2018年のGP3では上位チームではなかったJenzer Motorsportからテストに参加。上位タイムを出して注目を浴びる

ホンダロゴとRedbullロゴを背負って戦う

 そのように注目されている角田選手は、2019年からの所属チームになるJenzer Motorsportから今回のGP3テストに参加した。Jenzer Motorsportは2018年もGP3を走っていて、チームランキングとしては6チーム中5位となっており、中堅チームというのが正しい評価というところだろうか。2019年からは2018年欧州F3に参戦していたチームが参戦してくるため、2019年のポジションは明確ではないが、ヨーロッパのレース事情に詳しい関係者によれば、2019年から実力のあるエンジニアが加入する見通しで、戦闘力アップは間違いなしと思われているチームだ(レーシングチームの成績がエンジニアのよしあしに依存するのは日欧を問わない共通の事情だ)。

 2018年までのGP3は、ART GrandPrixが非常に強いチームとして存在しており、ARTの4台が上位を占めて、それ以外のチームは5位以下を争うというレースが多かった。その意味では、実績から見ればJenzer Motorsportで勝つのは簡単ではないというのが正直なところだが、とはいえ2019年は新しいシャシーが導入されるため、そのあたりもシャッフルされる可能性は高い。

ヤス・マリーナ・サーキットを疾走する角田選手(写真提供:ホンダ)

 そうした中でGP3の初めてのテストの初日(11月29日、現地時間)に臨んだ角田選手だが、いきなりパドックの関係者が驚く結果を出してみせた。特に注目された最初のセッションとなる午前中のセッションでは、初めて乗るGP3マシンで4位につけてみせた。しかもこのタイムはイギリスF3に参戦していたチームメイト、そして2017年のGP3の後半戦に参戦していてGP3を走らせた経験があるチームメイトを上まわっており、ドライバーにとって最初のレースである「チームメイトに勝つ」というレース業界では重要な関門をクリアしてみせたのだ。その勢いは午後も続き、午後のセッションでも6位のタイムをマークして、やはり2人のチームメイトを上まわった。初めてのピレリタイヤの経験、初めてのGP3マシンという高いハードルの中でのこの結果は上出来と言える。

GP3 アブダビテスト 11月29日午前のタイム(上位10台)表

順位ドライバーチームタイム周回数
1Jehan DaruvalaMP Motorsport1分54秒73720
2Devlin DeFrancescoTrident1分55秒08725
3Niko KariTrident1分55秒17418
4角田裕毅Jenzer Motorsport1分55秒35734
5Christian LundgaardART Grand Prix1分55秒47926
6David BeckmannART Grand Prix1分55秒50125
7Felipe DrugovichART Grand Prix1分55秒57425
8Maximilian FewtrellART Grand Prix1分55秒63026
9Jannes FittjeJenzer Motorsport1分55秒67931
10Logan SargeantMP Motorsport1分55秒68422

GP3 アブダビテスト 11月29日午後のタイム(上位10台)表

順位ドライバーチームタイム周回数
1Niko KariTrident1分53秒89018
2Jehan DaruvalaMP Motorsport1分54秒46134
3Sebastian FernandezCampos Racing1分54秒70828
4Devlin DeFrancescoTrident1分54秒89721
5David BeckmannART Grand Prix1分54秒95730
6角田裕毅Jenzer Motorsport1分55秒04329
7Linus LundqvistCampos Racing1分55秒07029
8Jannes FittjeJenzer Motorsport1分55秒30531
9Logan SargeantMP Motorsport1分55秒34234
10Oscar PiastriTrident1分55秒35529
テストの間はベテランのエンジニアとデータを解析したり、足りない部分をコーチされたり。「英語のコミュニケーションはまったく問題ない」とJenzer Motorsportのチームオーナー。(写真提供:ホンダ)

 角田選手は2019年の目標に関して「シリーズで上位に入り、ポイントを取得してスーパーライセンスを取得すること」という。すでに角田選手はFIA-F4で2018年チャンピオン、2017年がシリーズ3位という成績を残しているため、合計で19点をすでに持ち点として持っている。さらにセーフティポイント規定(重大な規約違反を犯していないドライバーにボーナスポイントを付与する規定)で2点が付与されるので、2019年のFIA F3が2018年の欧州F3と同等のポイントが与えられると仮定すると、1位で30点、2位で25点、3位で20点が与えられるため、シリーズ3位以上で40点を超える計算になる。

 F1直系のカテゴリーに参戦し、結果を出してスーパーライセンスを獲得すれば、F1への道は非常に近くなることは間違いない。特に2019年からホンダはレッドブル配下の2チーム(レッドブル・レーシング、スクーデリア・トロロッソ)に対してエンジンを供給して関係がより深まることになるだけに、そのチャンスは大きく広がる。その意味で、来季の角田選手のFIA F3参戦は大いに注目したいところだ。

ホンダ、そしてレッドブルの双方から将来のF1スターとして期待される角田選手。2018年に引き続いて結果を出せば、その先にはF1が待っている?(写真提供:ホンダ)