ニュース
F1昇格を有望視される角田裕毅選手、F1マシン「トロロッソ・ホンダ」でイモラを走行 「日本のファンのために鈴鹿の日本GPを走りたい」
2020年11月5日 05:22
本田技研工業の若手ドライバー育成プログラム「HFDP」(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)およびレッドブルの若手ドライバー育成プログラム「Red Bull Junior」(レッドブル・ジュニア)の両方に所属して、2020年シーズンはF1直下のカテゴリーとなるF2を戦っている角田裕毅選手は11月4日(現地時間)、F1のエミリア・ロマーニャGPが行なわれたばかりの「アウトドローモ・インテルナツィオナーレ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ」(通称:イモラ・サーキット)で、2018年型のトロロッソSTR13・ホンダを352km走らせるテスト走行を行なった。
角田選手は現在F2でランキング3位につけており、残り2ラウンド4レースで現在の順位を維持すると、F1昇格に必要なスーパーライセンスを申請する資格を得ることができ、現在空席となっている2021年のアルファタウリ・ホンダのレースシートを獲得する可能性が高くなってきている。
今回のテスト走行は、今シーズンのどこかのF1でFP1(練習走行1)に出走する資格を得るためのもので、F1カーで300kmを超える距離をテスト走行するという条件を満たしたことになる。
テスト走行後、角田選手によるオンライン会見が行なわれ、「F1を走っていた小林可夢偉選手が鈴鹿で多くのオーバーテイクを見せたこと、表彰台を獲得したことをテレビで見ていてよく覚えている。もし来年自分もF1で多くの日本のファンを前に鈴鹿を走ることができれば、人生の中で最も楽しめるレースになることは間違いないだろう」と述べ、日本のファンのためにもF1に昇格し、鈴鹿の日本GPを走りたいと述べた。
F1GPでFP1を走行するために必要な300kmの経験
現在20歳となる角田裕毅選手は、2016年に鈴鹿サーキットが開催しているレーシングスクール「SRS-Fアドバンス」のスカラシップに選ばれ、2018年にSUPER GTに併催されているFIA F4日本シリーズでチャンピオンを獲得。2019年にはホンダの若手ドライバー育成プログラム「HFDP」、レッドブルの若手ドライバー育成プログラム「Red Bull Junior」の両方に所属してFIA F3を戦った。
2020年はF1直下のシリーズとなるFIA F2に昇格して優勝2回を実現してランキングは現在3位。今シーズンデビューしたルーキードライバーではトップになっている。
鈴鹿サーキット、SRS-Fアドバンス修了式を開催
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1010000.html
F1に昇格するには、その免許証となるスーパーライセンスが必要になるが、スーパーライセンスを申請するには下位カテゴリーで結果を残して申請に必要なポイントを獲得する必要がある。
FIA F2ではシリーズランキング3位までに入れば無条件でスーパーライセンスを申請するのに必要なポイントが与えられる仕組みになっており、角田選手は2018年の日本でのFIA F4チャンピオン、FIA F3時代のポイントを合わせると、ランキング4位でもスーパーライセンスが申請できるようになっている。さらに、今シーズンはCOVID-19の感染拡大もあって、スーパーライセンス要件が緩和されており、F2で5位でも特例で認められる可能性がある。
現在のままの順位でシーズンを終えると無条件で、2つ順位を下げて5位でもスーパーライセンスを申請する資格を得る可能性がでてきている。現在レッドブルの育成ドライバーでこの資格を得ることができそうなのは角田選手のみで、ホンダだけでなく、レッドブルとしても期待の若手ドライバーなのが角田選手なのだ。
そしてこのスーパーライセンスは、F1のレースを走るだけでなく、FP1でレギュラードライバーの代わりに走行する場合にも必要になる。角田選手のようにスーパーライセンスを得ていないドライバーは、「練習走行限定スーパーライセンス」を得る必要があり、その条件の1つとしてF1マシンをレーシングスピードで300km以上走行させた経験があるという規定がある。
今回角田選手が行なったテスト走行はそれを満たすものだと考えることができる。つまり、レッドブル陣営としては今後F1レースのどこかで角田選手にFP1を走らせる「計画」があるものと推測できる。
実際、エミリア・ロマーニャGPの公式会見でアルファタウリのチーム代表フランツ・トスト氏は「このプログラムは彼に300km以上を走行させるためのものだ。まだ決まってはいないが、それによりFP1を一度走らせることができ、バーレーンGPでは別途2回チャンスがある。もちろん重要なことは彼がF2でスーパーライセンスを獲得することが最優先だが。来年のアルファタウリのもう一人のドライバーをどうするかはまだ決まっておらず、それはレッドブルが決めることだ」と述べており、角田選手をFP1に走らせたいので、今回のテスト走行を行なったと説明した。
鈴鹿の日本GPで多くのファンを前に走りたいと角田選手
その角田選手の300km走行を行なう場所として選ばれたのが、先週末にF1エミリア・ロマーニャGPが行なわれたばかりのイモラ・サーキットだ。これは、アルファタウリのファクトリーがあるイタリアのファエンツァの隣町がイモラということもあり、ファクトリーから最も近いサーキットとして選ばれたのだ。
F1マシンとして用意されたのは、2018年型のトロロッソSTR13・ホンダだ。というのも、F1では現行型、そして前年型マシンでのテストは禁止されており、レギュレーション上許されているのが2年以上前のマシンということで、2018年にホンダとトロロッソ(当時)が初めてパートナーシップを組んだ時のマシンであるトロロッソSTR13・ホンダが利用された。ただし、カラーリングはアルファタウリカラーに変更されている。
角田選手はこのマシンに乗って、午前、午後合計で352kmを走行した。午前中はウェット環境でブルーのフルウェット用のタイヤで走り、午後はドライになりドライ用のタイヤを履いて走行した。
テスト走行後には角田選手によるオンライン会見が行なわれた。会見は英語で行なわれ、最後のコメントのみが日本語で行なわれた。
角田選手 オンライン会見
──昨日はよく眠れたか?
角田選手:そうだね、自分にとっては普通の夜だったよ、普通に寝て翌日に向けて準備する感じの夜だった。だけど実は3時に目が覚めてしまった。というのもホテルの部屋のエアコンがあまりに熱くて……それを除けば普通の夜だった(笑)。
──何か夕食はおいしいモノでも食べたか?
角田選手:レストランで凄くおいしいシーフードを食べたよ。あんまりおいし過ぎて食べ過ぎてしまったほど(笑)。すごくおいしいシーフードだったのに、自分のトレーナーは貝アレルギーでそうでもなかったみたいだけど(笑)。でも彼もシーフードはおいしいことは知っているので、彼が食べられない分も食べてあげたよ(笑)。
──それはそれは(笑)、午前中エンジンに火が入ったときの感想は?
角田選手:特に特別なことはなかった、正直に言って。これから夢だったF1カーをドライブする、その意味では特別だったけど、ピットから出てクルマをドライブするという観点ではF2と何も変わらなかった。
──ナーバスになったか?
角田選手:そんなことはなかった、F2でやってることとそんなに変わらないし。ただ大きな違いは、メカニックがすべてのタイヤの場所にいて、ブランケットを外してくれる、これはF2との大きな違いだった。
それってF1ゲームで見てた光景そのもので、「おーいつの日かと夢見ていたことが現実になったんだ」と、これはクールだなって思った(笑)。
──F1ゲームでプレイしていたのだが、アルファタウリでプレイできるようになったんだね?
角田選手:そう、そんな感じ(笑)。なので、ゲームの中での風景と、リアルの風景を見比べていた、どこが違うんだろうって(笑)。
──F1カーをドライブしたけど、事前の予想に比べて簡単だったか?それとも難しかったか?
角田選手:ドライビングそのものは割と簡単だった。だけど、肉体的にはやや厳しかった。例えば首とか肉体的にはそんなに厳しいとは思っていなかったので。自分でも肉体面では自信をもっていて、F2でも首が厳しくなったりとかそういうことはなかった。
でも実際にF1で走ってみたら意外ときついなというのが感想だ。特にブレーキングゾーンではとてもきつい。ブレーキング時のパワーは自分の予想を上回っていて、首をちょっと傾けたりしながら対処した。次にF1に乗る機会までにはさらに鍛えなくてはと感じた。
──ブレーキング以外にF1とF2の違いはあったか?
角田選手:やはりパワーだ。スロットルを開けると、パワーユニットからのパワーはとても大きくて、それは自分の予想以上だった。最初のセッションはレインで、その状況でもF2のドライコンディションよりもパワーが出ていた。それが今日の一番の驚きで、2つめがドライコンディションでのブレーキ性能で、とんでもなく効くブレーキだった。
──ほかにF1のテクノロジで驚いたことはあったか? 例えばステアリングホイールのボタンとか……。
角田選手:すでにミルトンキーンズのレッドブルのファクトリーでシミュレータの経験をしていたし、アルファタウリのファクトリーでシート合わせしたときにもステアリングのことは勉強していた。
ボタンの位置とかを覚えることは簡単だったけど、ドライブ中にエンジニアに「なんとかのスイッチを変えて」とかいう指示が来たときに、それに迅速に反応するのが難しかった。その意味では最初のセッションはそこで苦労した。
ただ、シミュレータの経験はとても有益で、それがあったので割と早く慣れることができた。セッションの終わりにはそれも慣れて安定してできるようになっていた。ステアリングの操作も、毎ラップ毎コーナーごとに良くなっていった。自分にとってそれは良いステップだった。
──ヘルムート・マルコ博士からは何かアドバイスあったか?
角田選手:特にはなかった。というのも、ここに来る前にはカーリン(筆者注:今年の角田選手のF2での所属チーム)からお願いされて、Formula Openの車両のテストにスパに行っていたので、話していない。ヘルムートはただとにかく300kmをちゃんとこなしてこい、それが大事だと言っていた。
──スーパーライセンスを得るためにF2で少なくとも5位以上にならないといけないが、残りのF2での2ラウンドにストレスを感じているか?
角田選手:すでにシーズン前に決めたターゲットから何も変わっていない。今になってもそれは変わっていないし、何もストレスも感じていない。
2回のフルスケジュール、フリー走行があって最初のコーナーがあって、最初のブレーキがある。今までと同じようにやるだけだ。
──F1からF2に戻ってブレーキングポイントの違いに戸惑ったりしないのか?
角田選手:もしバーレーンGPでF1のFP1を走ることになったら、タイトなスケジュールの中でってことになるので、それに迅速に対応しないといけないだろう。それはとても大変なチャレンジになる。
──日本人としてF1に乗るドライバーはそんなに多くはないが、母国からのサポートをどのように感じているか?
角田選手:もっとも最近F1を走っていた小林可夢偉選手が鈴鹿で多くのオーバーテイクを見せたこと、表彰台を獲得したことをテレビで見ていてよく覚えている。もし来年自分もF1で多くの日本のファンを前に鈴鹿を走ることができれば人生の中で最も楽しめるレースになることは間違いないだろう。
──最後に母国語で今日のセッションを振り返ってほしい。
角田選手:今日はすごく、前進できたセッションだった。352kmを走破できてほっとした。午前中はレインとドライを使い分けて、それがクルマに慣れるいい練習する機会になり、コントロールのいい練習になった。
クルマをきちんとコントロールできたお陰で、午後のドライセッションに幅が広がった。午後はドライでペースを上げることができた。
バーレーンのFP1で走ることは決まっていないが、切り替えが大変なのでもしそうなるとすれば自分にとっても大きなチャレンジになるので、それに向けて準備をしていきたい。今回のテストを設定してくれた関係者、チーム、メカニック、エンジニアに感謝したいし、ホンダにもパワーユニットを用意していただき感謝している。