インタビュー

2021年にアルファタウリ・ホンダからF1に参戦する角田裕毅選手が凱旋会見 「野望はハミルトン選手が実現した7回目のワールドチャンピオンを抜くこと」

戦ってみたいのはハミルトン選手、フェルスタッペン選手、アロンソ選手

2020年12月21日 開催

オンライン会見に出席した角田裕毅選手

 本田技研工業の若手ドライバー育成プログラムHFDP(Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)、レッドブルの若手ドライバー育成プログラムであるRed Bull Junior Team(レッドブル・ジュニア・チーム)の両方に所属し、FIA F2選手権(F2)を戦い見事にシリーズランキング3位となった角田裕毅選手は、Scuderia AlphaTauri(スクーデリア・アルファタウリ)の正ドライバーとして2021年のFIA F1世界選手権に参戦することが発表された。

 日本人のレギュラーF1ドライバーは、2014年の小林可夢偉選手以来で、ホンダのワークスチーム(ホンダのワークスチームはレッドブル・レーシングではなくアルファタウリ)で走る日本人ドライバーは2005年の佐藤琢磨選手以来となる。

 その興奮が冷めやらない中、12月21日にホンダ主催のオンライン会見が行なわれ、角田選手自身の口からF1に昇格した今の心境、今年のF2参戦を振り返っての感想などが語られた。

アブダビGP後のヤングドライバーテストではターゲット通りに走ることができた

アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで開催されたF1ヤングドライバーテストに参加した角田裕毅選手

――それでは角田選手から冒頭にコメントを。

角田選手:来年からスクーデリア・アルファタウリからF1に参戦する角田裕毅です。今年のF2ではF1に参戦するために必要なスーパーライセンスのポイントを得られるように1年戦ってきました。序盤は苦しみましたが、最終的には3位で終えることができて、F1参戦に必要な40ポイントを獲得することができました。応援してくれたファンの皆さんやサポートしていただいた方に感謝したいです。

――最終戦のアブダビGPの後、ヤングドライバーテストで今年のF1カーに乗ったが、その時のメニューや印象などについて教えてほしい。

角田選手:初めて最新のF1カーに乗りました。その前にイモラでテストを行なったときは18年型の車両で、パワーやダウンフォースなどは少し低いものでした。アブダビGP後のテストでは、レースで使われた直後の実車で新鮮な経験ができました。午前中はミディアムタイヤでできるだけ走行距離を伸ばしてF1に慣れることを第一目標としてやり、夕方に温度が下がってきたところで、ソフトタイヤでアタックをかけてベストタイムを出すという形でやりました。

 午前中はレースシミュレーションはせずにピットを出てタイムを出し、すぐ戻ってきてはエンジニアと話してセッティングを変えて、どういう変化が出てくるのかという経験を集めて引き出しを多くすることに集中していました。午後はレースシミュレーションで、タイヤマネージメントの経験を増やすことを目標にしました。ロングランを4回やって、ロングランの感触としては序盤はセーブして後半に残すことをやり、自分の中でしっくりいくロングランで終えることができました。

 その後もソフトタイヤでいきなりタイムアタックに行くのではなくて、ミディアムタイヤの中古でならして、頭を切り替えてからソフトタイヤに履き替えました。メルセデスとルノーは違うタイミングでしたが、レッドブル・レーシングを含む大多数のチームとは同じタイミングでした。その意味ではタイム的にはわるくないと感じています。

 F1になると、1周でタイムを出すときにコーナーごとにステアリングに用意されているボタンでモードを変えたりできます。そうした作業はF2まではやってこなかったので、最初は苦戦しました。まだ慣れていないのでステアリングを見ながら押したりしますが、F1だと速度域が速くて押し間違いなどもありました。実はベストラップを出した時も、ラップの途中でリチャージモードという電気をチャージするモードに入ってしまい、パワーがあがりませんでした。そうしたコーナーで大きくミスしたりしているので、来年はそれに対処できるように、ボタンはここに移したいなどのフィードバックを行なうなど、テストとしては充実した1日でした。

 現役のF1マシンに乗った感想としてはブレーキングがすごいと感じました。F2では首が前に行くというのはなかったけれど、F1では踏力をあげたときに首が前にいきます、それが今まではなかったことです。来年に向けて首の筋肉面での強化をしたいです。

――F1へ昇格はどのあたりが評価されて決まったと考えているか?

角田選手:ヘルムート・マルコさん(筆者注:レッドブルのモータースポーツアドバイザーで、レッドブル配下のドライバーの決定権を持っているとされている)には一発の速さを気に入ってもらったと思っています。レースに勝つのも重要なのですが、レベルの高いF2では、一瞬でしかないアタックをかける時のタイムの出し方が評価されたのではないかと思っています。レースでもバーレーンの最初のラウンドでは予選でミスをして最後尾グリッドになってしまいましたが、そこから6位に上げてくることができる、そういうオーバーテイクのスキルやタイヤマネージメントも評価されていると思います。

 また、そのオーバーテイクも一度で決めないとタイヤ的に厳しくなるので、「決めるとしたら次の周に決める」というのが重要になってきます。それまでに前の周回や追い抜く前のコーナーでの動きといった計画性が重要になると思っています。

――来年のF1での目標は?

角田選手:シーズン中盤まではルーキーらしいドライビングを貫いて、ミスをしてもいいから大きな限界値を探りながら走りたいです。チームメイトは経験豊富ですし負かせるのは簡単ではありませんので、いいところを吸収して、自分のポテンシャルでどこまでいけるかを探っていきたいです。中盤までは一戦一戦引き出しを増やしていき、とにかくチームのためにポイントを獲っていきたいです。

7・8歳のころ富士スピードウェイで見たハミルトン選手やアロンソ選手と一緒に走れるのが楽しみ

「戦ってみたいのはルイス・ハミルトン選手やマックス・フェルスタッペン選手、そしてフェルナンド・アロンソ選手」と語る角田選手

――7年ぶりの日本人F1ドライバーとなりますが、契約の状況などについて教えて欲しい。

角田選手:契約時の状況などは公開できない約束になっているので、詳しい話は避けさせていただきます。シーズン前からマルコさんにはスーパーライセンスのポイントを獲ることを目標にレースを行なえ、それを得られればチャンスが巡って来ると言われていました。バーレーンの後に、マルコさんやクリスチャン・ホーナーさんと話をして契約を交わしました。

――サインしたときの気持ちは?

角田選手:今でも鮮明に覚えていますが、いざ目の前に契約書があって契約という時にはものすごい手汗をかいていました(笑)。すごく大きく書いていたので、すべらないかなと思いながら(サインをしました)。その後、マルコとホーナーと握手を交わしたのですが、手汗凄いよといいながら握手しました(笑)。

――いつごろからF1を意識したか? 目標や憧れのドライバーはいるか?

角田選手:16歳までレーシングカートをやっていて、そのときにF1は考えたこともなかったです。その後、ホンダがやっているスカラシップ選考会に出て、日本のFIA-F4に参戦して2年目でチャンピオンを獲り、その後欧州へ渡ってF3に参戦してから意識しました。F4時代には、次のステップを踏むためにとにかく目の前のレースに集中していました。

 目標のドライバーや憧れのドライバーはいないです。戦ってみたいのはルイス・ハミルトン選手やマックス・フェルスタッペン選手、そしてフェルナンド・アロンソ選手です。僕が7・8歳のころに富士スピードウェイでF1が行なわれている時に、マクラーレンにのって走るハミルトン選手などを見ていました。その人たちと来年は一緒に走ることができるのは楽しみです。

ルイス・ハミルトン選手
マックス・フェルスタッペン選手
フェルナンド・アロンソ選手

――F2を1年やって大きく成長した部分はどこか?

角田選手:この1年間、大きく成長したなと感じているのはメンタルの部分です。ドライビングももちろん改善していますが、メンタル面の改善が大きいです。F2に上がったときからメンタルトレーナーについてもらって、毎戦レース後に話してどういう感触だったか、どういうメンタルだったかというのを会話しながら分析してきました。メンタルトレーナーとのテストで指摘されたことは、「未来のことを考えすぎ」ということでした。例えば、最終戦のバーレーンであれば、スーパーライセンスを取れなかったらどうしようとか、そういうことを考えてしまって緊張も増してしまい、それが焦りにつながってしまいました。

 それを改善するために、目の前にあることに集中していくことにしました。例えば、練習走行の1コーナーでどういう風にブレーキを踏もうとか、そういうことを考えるようにしたのです。そうしていったお陰でセッション中には集中することができるようになって、「もしこうなったら」ということは考えなくなりました。

 また、自分の分析では自分は熱くなりやすくて、邪魔されるとワーワー叫んでしまう傾向がありました。ワーワー叫んでいるレースウィークとそうではないレースウィークは結果で雲泥の差が出ていました。例えば、バーレーンの1戦目では練習走行でワーワー言ってしまったので、予選でミスして赤旗を出してしまうということにつながってしまいました。そういうことがないように、邪魔をされても次の周に集中する、最初は難しかったのですが、それが功を奏してバーレーンの最終戦では選手権3位を得ることができました。まだまだ改善の余地があると思っています。

ホンダ市販車でお気に入りはS2000とシビック TYPE R

角田選手「野望としては、今年ルイス・ハミルトン選手が実現した7回目のワールドチャンピオンを抜きたい」

――ホンダの市販車の中で好きなクルマを教えてほしい。

角田選手:2台あります。1台目は「S2000」です、やはり乗ってて楽しいというのがあります。VTECが効き始めてからの感触とか、あの加速感はなかなか他のクルマでは感じられないです。また、1回で曲がり切れなそうなUターンのコーナーがあったのですが、そこもちょっとリアを軽く滑らせるとスムーズにUターンできたりとか、運転していてすごく楽しいクルマという印象があります。

 もう1台はシビック TYPE Rですね。実は今、シビック TYPE Rをホンダさんからお貸しいただいて乗っているのですが、シフトダウンした時のフィーリングとか気持ちいいですし、何よりもデザインが好きです。

S2000
シビック TYPE R

――F2でここは危ないなーと思った時はあったか?

角田選手:コースとして挑戦しがいがあるという意味では、やはりスパ・フランコルシャンのオールージュですね。そこは全開でいけるか、いけないかです。予選で僕がポールポジションを獲った時はその周だけ全開で行きましたが、オールージュでオーバーステアが軽く出るぐらいギリギリな状況で、一歩間違えれば300km/h近いスピードでスポンジバリアに突っ込んでしまうことになるので、あのコーナーは本当にスリリングですね。

 バトル面で言うと、バーレーンの2ラウンド目でのフィーチャーレース(レース1)でのマゼピン選手とのトップ争いですね。1コーナーで彼をオーバーテイクしようとした時なのですが、もちろん彼もトップを走っている訳だし、ドライバーとしてはブロックしてくるのは分かるので寄せてくるだろうとは思っていましたが、まさかあそこまで寄せてくるとは思っていませんでした。ピットロードの壁やガードレールのギリギリまで寄せられて、あともうちょっとで内側にぶつかってポイントを取れなかったら、今ここでお話しができていないような状況になっていたと思うので、本当に危なかったなと思っています。

――10年後、15年後のF1はどうなっていくと考えているか?

角田選手:F1も現在は環境を重視していて、今後はバイオ燃料の導入も行なわれるなど環境に優しくなっていくと思います。いちドライバーとしてはエンジン音が静かになっていくのは寂しいですが、よりエネルギーの効率を重視する方向に向かっていくと考えています。フォーミュラEでは完全に電気になっていますが、F1でそこまでするとF1をこれまで見てくれていたファンが離れていくということも危惧されているのだと思います。今後は速さは変わらないけど、より環境に優しくなっていくと思います。

 自分としては2030年にもF1の世界に残っていくためには、実力を見せつけて優勝もチャンピオンも何度も取らないといけないと思います。自分の野望としては、今年ルイス・ハミルトン選手が実現した7回目のワールドチャンピオンを抜きたいと思っています。2035年までにそれが実現できれば嬉しいです。

――今回、角田選手はレッドブル・ジュニアに選ばれ、そこからF1へ昇格となった。レッドブル・ジュニアに選ばれた経緯やその意義とは?

角田選手:ジュニアになったのは、FIA-F4の2年目夏ごろにホンダさんから欧州でテストしないかというチャンスをいただいてテストに参加したことがきっかけでした。ハンガロリンク(ハンガリーGPの会場)で、F3で3日間走りました。その時にはレッドブルジュニアドライバーがほとんど来ていたのですが、その時に全てのレッドブルジュニアドライバーを上まわって終えることができたのです。

 その当時、欧州F3のランキングトップだったダン・ティクタム選手も参加していて、新しいタイヤで1回目はちょっと負けて、2回目は上まわることができました。チームはそのレポートをマルコさんに送っていて、僕がほとんどのドライバーを打ちのめしたことを目にしたそうです。それで「このドライバーはどうなのか」ということをホンダさんに問い合わせたらしく、翌年レッドブル・ジュニアのプログラムに加えてくれたのです。そこからホンダさんと、レッドブルが50:50でサポートしてくれるようになりました。

 どういうサポートがあるのかというと、レッドブル・ジュニア・ドライバーだといいチームに入りやすいということがあると思います。サポートの内容に関しては他のドライバーとあまり変わらないと思いますが、結果を出せないと翌年はプログラムから除外されたりします。その代わり、レッドブル・ジュニアは他のF1チームのジュニアとは異なり金銭的なサポートもあります。それに対してフェラーリやルノーは金銭的なサポートはなくて、参戦費用は自腹で相応な結果が出ればF1に乗せてもらえる。除外はされにくいけど、サポートは冷たいと聞いているので、自分はレッドブル・ジュニアでよかったと思いました。

――角田選手の参戦でF1を見始める人が増えると思う。どんなところに注目してほしいか?

角田選手:自分の強みは攻める姿勢だと思っているので、見ていて迫力があるドライビングには自信があります。F1にしかない速さだったり、今まで見たことのないコーナーの速さだったりを見てほ欲しいです。また、今は状況が厳しいですが、来年の10月には鈴鹿で日本GPが予定されているので、ぜひ足を運んでいただきたいです。そこでぜひご覧いただきたいのはレースでのオーバーテイクだし、他のドライバーよりも奥に突っ込めるブレーキングです。いずれも自信があるので。

――来年のチームメイトになるピエール・ガスリー選手は手強いと思うが、ガスリー選手を見ていて、ここは負けないということがあれば教えてほしい。

角田選手:僕もそこが気になっているところですが、まだ1回も彼と一緒に走ったことないのです。アブダビGPではチームに帯同していて、(ガスリー選手は)どこがクビアト選手に勝っているとかは見てみましたが、自分と比較しては未知で、レースでの彼の強さはまだ分からないです。自分としては、シーズンが始まって中盤まではガスリー選手のことは気にせず、自分の走りに磨きをかけていきたいです。ガスリー選手もスーパーフォーミュラを走っていて、最終戦が天候で中止になってチャンピオンは逃してしまったけど、1年目で言葉の壁も大きい中、もう少しでチャンピオンというところまでいった素晴らしいドライバーだと思います。彼から学べることも沢山あると思うので、そこから学んでいい感じに改善して、彼を負かすシーズンができたらと思っています。

――オフの過ごし方は?

角田選手:最近日本に帰ってきて、日本食を楽しみにしていたのでいっぱい食べています(笑)。アブダビテストで最新のF1に乗ったときに首への疲労が大きく、Gで負荷がかかると感じていて、今のままではレースに臨める最大のパフォーマンスを発揮できるフィジカルではないので、できるだけトレーニングしています。

 トレーニング以外はオンラインゲームが好きなので、レース関係の友達や学校の友達とやっています。今年の前半はイギリスでロックダウンという状況でしたが、ゲームが好きということもあって友達と一緒に話しながらやれていて、楽しみながらロックダウンの間を過ごすことができました。外に行くことも好きなので、コロナ禍の状況が収束すればウェイクボード、ゴルフをやりたいです。

――F2、FIAのルーキーオブザイヤーを獲得しました。その感想を。

角田選手:F2のルーキーオブザイヤーは、アンソニー・ユベール・アワード(2019年のF2レース中の事故で亡くなったアンソニー・ユベール選手にちなんだ賞典)で、新人賞のことはあまり考えいなかったので、嬉しかったです。昨年、ユベール選手が亡くなったレースは自分も見ていましたが、一度は一緒に走りたいと思っていたので、その選手が亡くなってしまったことは本当に衝撃でした。その彼から賞を受け取ることになったのは本当に名誉なことです。

 また、FIAのルーキーオブザイヤーも取れるとは思っていなかったので、それをいただけるというのは驚きでした。F1のルーキードライバーも含む中で、ルーキーとしてトップになるのは簡単なことではありません。欧州2年目であまり時間のない中でこうした賞をいただいたことは嬉しい気持ちでいっぱいです。