インタビュー

ホンダ 新型「ヴェゼル」のデザインについて開発責任者の岡部宏二郞氏に聞く 「突き詰めたものをシンプルにまとめる」が考え方の基本

新型「ヴェゼル」開発責任者である本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター 岡部宏二郞氏にインタビュー

 本田技研工業は2月18日、2021年4月に発表予定としている新型「ヴェゼル」を世界初公開した。この公開に先がけて報道陣向けに開催された事前説明会では3台の新型ヴェゼルが展示され、開発に携わったメンバーから新型ヴェゼルの解説が行なわれた。

 新型ヴェゼルについては「ホンダ、新型『ヴェゼル』世界初公開 クーペスタイルで4月発売」「写真で見る ホンダ『ヴェゼル』(2021年ワールドプレミアモデル)」「ホンダの新型『ヴェゼル』開発陣がデザインの狙いを解説」でも紹介しているが、本稿では開発責任者である本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンター 岡部宏二郞氏へのインタビューを紹介していく。

こちらが新型ヴェゼル。事前説明会では数値的なことを含む詳細は非公開になっており、説明会はコンセプトおよび、内外装デザインの話が中心となった

現行型のよさを保ちつつ、美しさと機能的なデザインを両立し、コンパクトサイズに凝縮

──新型ヴェゼルはどのような購買層を意識したクルマなのでしょうか。

岡部氏:現行ヴェゼルの販売状況を見ると、特定の年齢層であるとか、男女どちらかの方々に選ばれているというものではなくて、まんべんなく大勢の方に乗っていただいています。

 新型に関しても同様で、お客さまの層に対して仕切りのようなものは考えていませんが、意識していたことはあります。それは自分の中に“これがいい”ということを持っていて“自分色”を大事にしているような方、そういったお客さま方が選んでくれるクルマにしたいということでした。

本田技研工業株式会社 四輪事業本部 ものづくりセンター 岡部宏二郞氏

──新型ヴェゼルのデザインのポイントを教えてください。

岡部氏:クルマとして美しく見えるにはまずタイヤがしっかりあって、そのうえでボディが滑らかで薄いという部分がポイントだと考えています。新型ヴェゼルもそうした考えを持ってエクステエリアの骨格を作っています。

 こうした考えはクルマを美しく見せるためのものですが、私たちはアート作品を作っているのではありません。だから機能的な部分の作り込みはしっかりやっていくことが不可欠です。ヴェゼルではコンパクトサイズであることは絶対に守らなければならない部分でした。そのうえで大人4人がすごく快適に過ごせることが必要です。そこでデザインの初期段階ではそうした要件を満たしつつ、プロポーションの骨格を美しい比率にするのはどうしたらいいかということを決めていきました。

 なお、面質(造形のクオリティのような意味)は後で入れていくという感じで進めていましたが、あとから追加するにしても“足したようなカタチ”ならないことに気を使っていました。必要な機能を全部一体で入るように仕上げていこうという感じで、すごく時間を掛けて仕上げたデザインになっています。

 また、インテリアについても快適な空間であると同時に、ドアを開ける、乗り込む、各部を操作するなどの動作がスマートに行なえるできるようなモノの配置や作りになっています。

新型ヴェゼルは“美しく”かつ“機能的”なデザインを考えて開発された

──未来的なスタイリングですが、ここに「これからのHondaらしさ」のような要素も入っているのでしょうか。

岡部氏:新型ヴェゼルのデザインを進めるうえで、ホンダのアイデンティティをもう一度ちゃんとしようということも話し合いました。そもそもホンダのデザインでは“これを入れましょう”みたいなことは定義しません。しかし、いろんな機能が入っているものをなるべくシンプルにしつつ、それでいて主張するものがあるということは目指しています。これは“シンプリシティ&サムシング”というとても難しいテーマなのですが、新しいホンダ車を作っていくチームすべてがやっていくべきことになっています。だから、新型ヴェゼル、フィット、そしてHonda eなどはみな突き詰めたところをなるべくシンプルにお客さまへ提供することにこだわったデザインになっていて、それがクルマごとの個性になっています。こういう面がいまのホンダらしさではないでしょうか。

不変の“ホンダらしさ”に時代のニーズに合った新しさを加えている

──現行ヴェゼルから続くテーマなどはあるのでしょうか。

岡部氏:おかげさまで現行ヴェゼルは世界中でロングセラーとなり、多くの方にご満足いただいたクルマになることができました。私は現行ヴェゼルの開発にも関わっていたので、このことはとてもうれしく思います。そして“真面目に作ったクルマは長く愛していただけるのだな”ということを感じました。それだけに新型ヴェゼルでも現行型が持っているよさはしっかりキープしつつ、そのうえで時代のニーズをしっかり入れて正常進化させています。新型車なので多くの方に“いいね”と思っていただけたことはとても大事ですが、現行ヴェゼルのオーナーの方にもアップグレードした新型ヴェゼルを受け入れていただけることを望んでいます。

未来的なスタイリングを取り入れつつ、現行型のよさもキープしている

──余談ですが、説明会に登壇した方は皆さん、ヴェゼルが似合うという気がしました。

岡部氏:そう思っていただけことはメンバーみんな喜ぶと思います。でも、開発チームのメンバーは私が指名できるものではないのです。ただ、開発が始まる前には会社に狙いたいコンセプトを説明するときがあって、そのときのことを人選に汲み入れてくれたのでしょう。常識にこだわらない人を集めてもらった感じです。

 仕事においても意識が高く“自分はそう思わないけど上司や会社がこう言うから……”みたいなことはやらないし、そもそもういう意識は持たない人ばかりです。だから私からアレコレ言わず、メンバーそれぞれに“お客さまに選ばれるクルマのするためにはどうしたらいいか”を考えてもらう進め方が基本でした。

 それに加えて“いいクルマを作る”というだけでなく、“自分たちが作るクルマに自分たちも乗りたいと思うためにはどんなことをするべきか”ということまで常に考えてくれました。だから素敵なクルマにすることができました。そんなことから、メンバーに対してヴェゼルが似合うと感じていただけたのかもしれませんね。とにかくそれぞれが個性的なのでいろいろな意見が出てとても面白い現場でした。

──最後にCar Watchを読んでいる方にひと言お願いします。

岡部氏:新型ヴェゼルについて細かい部分がまだご説明できない時期ですが、クルマはコンパクトカーサイズになっています。今回の事前説明会ではメディアの方から大きく見えるとの声もありましたが、コンパクトという面は守っています。その中でスタイリングの伸びやかさと車内の快適な空間を作っていますので、実車が見られるようになったらそこはぜひ見ていただきたいと思います。今日この日に皆さまに新型ヴェゼルを発表することができうれしく思いますが、ここまで来たら1日でも早く、新型ヴェゼルが街中を走っているところが見たいですね。