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未来のF1ドライバーへ、角田裕毅選手がF2 スパでレース1優勝 ランキング3位に浮上

2020年8月29日 決勝

F2第7戦 スパ・フランコルシャン レース1を優勝。ランキングも3位へと浮上した角田裕毅選手 (c)Dutch Photo Agency/Red Bull Content Pool

 F1への昇格を目指す若手ドライバーが参加しているF2第7戦 スパ・フランコルシャンが、8月28日~30日(現地時間)の3日間にわたって、F1ベルギーGPと併催されている。29日に行なわれた予選で角田裕毅選手はポールポジションを獲得。同日の決勝レースではチームのタイヤ交換のミスなどでピットストップ後に2位に下がったものの、予選2位のニキータ・マゼピン選手を何度も追い越す激しい走りを見せた。最終的には角田選手にラインを残さない走行でマゼピン選手に5秒加算ペナルティが出され、マゼピン選手を4.4秒差で逆転して優勝した。

 これで、角田選手はポールポジションの4点と優勝で得た25点を加えて111点になり、ポイントリーダーとは11点差のランキング3位に浮上した。今後の結果では、日本人初となるF2チャンピオンを十分狙える位置に浮上した。

Carlinから参戦する角田選手 (c)Dutch Photo Agency/Red Bull Content Pool

前戦まででスーパーライセンス獲得に必要なランキング4位に浮上した角田選手

 角田裕毅選手は、鈴鹿サーキットのSRS-Fでスカラシップを取得して、ジュニアカテゴリーとなる日本のFIA-F4(SUPER GTの併催レースとして開催されているジュニアフォーミュラ)にステップアップ。2018年に見事チャンピオンを獲得した。

 そしてホンダの後押しだけでなく、レッドブルの若手育成プログラム「レッドブル・ジュニア」の一員に選ばれ、2019年から始まったF3へとステップアップ。このF3では強豪チームとはいえないチームに所属し、昨年のイタリアGPで優勝。結果を出せる走りが評価され、今年F2に昇格してレースを戦っている。

 角田選手は、F2に上がってから大活躍を見せている。第2戦となるシュタイヤーマルクGP併催レースでは、第2戦目にして初めてのポールポジションを獲得。レース1(F2では土曜日にレース1=フィーチャーレース、日曜日にレース2=スプリントレースが行なわれる)でピットと無線が交信できなくなるというトラブルが発生し、惜しくも2位になるという活躍を見せた。

 第5戦となるF1 70周年記念GPのスプリントレースでは、前を走っていた2台が接触でコース外に飛び出す中を、冷静に判断してトップへ浮上し、そのまま初優勝を遂げた。第6戦スペインでもレース1、レース2ともに4位に入る着実な戦いで、第6戦スペインでの終了時点でランキング4位に浮上していた。

 F1に昇格するために必要なスーパーライセンスを取得するには、若手ドライバーは過去3年間にF1以外のカテゴリーに参戦して結果を出し、ポイントの合計で40点を超えなければならない。

 F2では上位3位まで40点が与えられるが、角田選手はすでに2018年の日本のFIA F4チャンピオンで12点、昨年のF3の9位で2点を持っており、4位の30点でもスーパーライセンスが与えられる状況だ。全12戦あるF2のシーズン折り返しを迎えた段階でシリーズ4位となっているため、スーパーライセンスの取得は十分現実的な状況になってきたと言える。

F1の世界でも「角田裕毅」に注目。アルファタウリ代表は「若手テストではうちで走ってもらう」と発言

 そうした状況もあり、急速にF1の世界では「Yuki Tsunoda」の名前は知れ渡りつつある。週末に開催されているF1ベルギーGPのチーム代表による公式記者会見で、アルファタウリ・ホンダのチーム代表であるフランツ・トスト氏に「角田選手はF2で非常に印象深い走りをしているけど、彼の姿をアルファタウリですぐ見ることができるか?」という質問が投げかけられた。

 それに対しトスト氏は「F2だけで印象的なのではなくて、すでに昨年のF3でも十分印象的な走りをしていた。すでに彼はドライビングスキルは高いし、成功するF1ドライバーになる知性も兼ね備えている。もちろん、アブダビで計画されているヤングドライバーテストで、彼は我々のために走るだろう。来年我々のために走るかどうかを決めるのはレッドブルなのでそれは私には分からないし、彼はスーパーライセンスを取得しなければならない。彼が今のままの走りを続けたのなら、ランキング3位や4位は十分に狙えるはずだ。今後も注目していきたいと思う」と述べ、アブダビのヤングドライバーテストで角田選手を起用することは確実だと述べた。

 今年のレッドブル・ジュニアに属するドライバーで、角田選手以上の結果を挙げているドライバーはいないのも事実だ。角田選手のチームメイトであるヨハン・ダルバラ選手は、ほとんどのレースで角田選手の後塵を拝しており、表彰台の獲得もなくランキングも15位と沈んでいる。

 昨年のF3では角田選手より上位に入ったユーリ・ヴィップス選手は、今シーズンはスーパーフォーミュラにステップアップする計画になっていた。しかし、COVID-19の感染拡大により日本への入国が難しくなるという不運にも見舞われ、週末に日本で行なわれているスーパーフォーミュラ開幕戦は欠場せざるを得ない状況になっている(なおヴィップス選手は、前回のレースで負傷したドライバーの替わりとして週末のF2に代役参戦している)。

 レッドブルにとってもレッドブル・ジュニアに所属するドライバーの中で最もF1に近いドライバーが角田選手という状況なのだ。昨年ホンダF1 マネージグディレクター 山本雅史氏にインタビューした際に山本MDは、「ホンダが政治力を駆使してそうした若い日本人ドライバーを押し込むことは可能かもしれないが、それがホンダにとって、そして若いドライバーにとってもよいことではないと考えている。それで結果を出せなければ若いドライバーのキャリアを潰してしまいかねない。私としては、彼らが現在戦っているフィールドでしっかりと結果を出し、誰もが納得する形で上に上がっていってほしいと考えており、そのための協力は惜しまない」と述べていた。結果を出し、レッドブル側にも認められてF1に上がることがよいとしていた。

 角田選手への期待が高まっているのはまさにそうした状況が発生しているからだ。レッドブル側でも角田選手に期待していることは、トスト氏がテストで起用するのは当然だと発言したことからも十分うかがえる。

F1日本GP、ホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏に聞く

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1184270.html

予選でトップタイム。決勝レースでは強さを見せる

 そうした状況の中で迎えた第7戦ベルギーでは、金曜日の午前に行なわれた練習走行で2番手タイムをマークし、午後に行なわれた予選では、2回の予選アタックで2度ともトップタイムをマーク。誰よりも速い結果を見せつけた。

 何よりも大事なことは、来年F1に上がるためにはスーパーライセンスを取得しなければいけない。そして多くの人に認められるためには、F2参戦初年度でチャンピオンを獲る、もしくは少なくともそれに近い成績を収めることは必須だ。

 実際、F2(2016年以前はGP2)からF1に上がったドライバーは、そうした結果を残している。今のアルファタウリ・ホンダのエースドライバーであるピエール・ガスリー選手は2016年のGP2チャンピオン、フェラーリのシャルル・ルクレール選手は2017年のF2チャンピオン、ウイリアムズのジョージ・ラッセル選手は2018年のF2チャンピオンだし、マクラーレンのランド・ノリス選手は2018年のランキング2位、レッドブル・ホンダのアレクサンダー・アルボン選手は2018年のランキング3位だ。

 F1ドライバーになるだけでなく、F1で勝つために上位チームに入るためには、F2ランキングを上位で卒業することが必須となる。そのためには、週末にレース1(フィーチャーレース)、上位8位までのリバースグリッドで行なわれるレース2(スプリントレース)の両方で上位に入り、ポイントを着実に稼いでいくことが角田選手には求められている。

8月29日、フィーチャーレースで優勝

F2第7戦 スパ・フランコルシャン レース1表彰式 (c)Dutch Photo Agency/Red Bull Content Pool

 8月29日に行なわれたベルギーでのフィーチャーレースで、角田選手は強さを見せつけた。ポールからスタートして、序盤のレースを完全に支配した。

 予選2位からスタートしたニキータ・マゼピン選手が、スタートで順位を落としたこともあり、マゼピン選手が前を行く松下信治選手を抜くまでに3秒近い差をつけた。

 その松下選手が、チームメイトのフィリペ・ドゥルゴビッチ選手と接触してクラッシュしたことでイエローとなり、その後にセーフティーカーではなくバーチャルセーフティカー(VSC)が出たのもついていた。幸いにして松下選手には怪我などはなかったものの比較的大きなクラッシュで、セーフティカーでは2位以下との差が詰まる可能性もあっただけに、全車がスローダウンするVSCだったのは運がよかったと言える。

 調子がよいときのドライバーには運が味方するというのはレース界でよく言われることだが、今の角田選手はまさにそのような状況だ。

 9周目にマゼピン選手が義務づけされているタイヤ交換のためにピットインした1周後に角田選手もピットに入ったのだが、右リアタイヤの装着が遅れ、通常よりもピット作業に時間がかかってしまったのは逆に不運だった。このため、全車がピット作業を終えてみると、1位マゼピン選手、2位角田選手と序盤とは逆の状況になっていたのだ。

 マゼピン選手はタイヤ交換後すぐに速いタイムを出すなどタイヤを使っていたのに対して、角田選手は速くはあるものの抑えた走りでタイヤを温存していた。

 このため、残り数周で角田選手はマゼピン選手を捉え、抜き所であるケメルストレート終わりのレ・コンムで何度もオーバテイクを仕掛ける。残り2周、残り1周と角田選手はアウトから追い抜きをかけるものの、マゼピン選手は二度も角田選手をコース外に押し出すブロックでこれを退け、結局マゼピン選手、角田選手の順でレースはチェッカーを迎えた。

マゼピン選手に5秒ペナルティで逆転優勝、表彰台には山本MDだけでなくヘルムート・マルコ氏も駆けつける

 だがレースはそれで終わりではなかった。レーススチュワードはマゼピン選手の動きを「ほかのドライバーをコース外に追い出した走行」と認定し、マゼピン選手のレース結果に5秒のタイムペナルティを課すことを決定した。マゼピン選手へのペナルティにより、角田選手が4.4秒差で優勝するという結果になった。ピットストップで順位を落とすという不運はあったが、それを実力でひっくり返し、多くの関係者にとっても印象深い結果になったと言える。角田選手はF2のフィーチャーレース初優勝となった。

 角田選手はポールポジションの4点と、フィーチャーレース優勝の25点を加えて、29点を稼いだ。その結果、シリーズポイントは111点となり、トップを走るカラム・アイロット選手が10位1点しか取れず122点、2位のロバート・シュワルツマン選手が115点で2位となったため、3位に浮上している。

 スーパーライセンスが無条件で得られる3位に上がったことも大きな意味があるが、ランキングトップにわずか11点差の迫ったことの意味は小さくない。日曜日に行なわれるスプリントレースには8位のグリッドからスタートすることになるが、ランクトップのアイロット選手は10位からのスタートになるため、ここでポイントを稼げば、さらに差を縮めることが可能になる。チャンピオン争いも現実的になってきたと言えるのが角田選手の状況だ。

 角田選手優勝の表彰台の下には、ホンダF1 MDの山本氏だけでなく、レッドブルのアドバイザーであるヘルムート・マルコ氏も駆けつけて、角田選手のフィーチャーレース優勝を祝っていた。

 よく知られているように、マルコ氏はレッドブル傘下の2チーム(レッドブル・レーシングとアルファタウリ)のドライバーを事実上決めている立場だ。そのマルコ氏がわざわざレッドブル・ジュニアのドライバーの優勝を祝いに来るというのは、それだけレッドブルにとっても角田選手が重要な若手ドライバーになってきたということの証にほかならない。

 F2はシリーズ途中であり、大事なことはシーズンを終えたときに、ランキングで4位以上、可能であればチャンピオンを獲得するよう狙っていかなければならない。

 角田選手は、これからも今回のレースで見せたような、速さや強さを見せつつ、そして運のよさをも味方にしたレースをして、着実にポイントを獲得していく必要がある。その先にはレッドブルへの昇格だって夢ではないF1ドライバーのシートの座が待っている。F1ファンであれば、今後も角田選手のF2での走りに要注目だ。

F2第7戦 スパ・フランコルシャン レース1決勝結果
順位カーナンバードライバーチーム周回数タイム
17角田裕毅Carlin2553分42秒538
224Nikita MAZEPINHitech Grand Prix2553分46秒968
320Mick SCHUMACHERPREMA Racing2553分48秒177
411Louis DELETRAZCharouz Racing System2553分52秒919
521Robert SHWARTZMANPREMA Racing2553分56秒133
62Dan TICKTUMDAMS2553分58秒756
73Guanyu ZHOUUNI-Virtuosi2553分58秒991
822Roy NISSANYTrident2554分03秒330
925Luca GHIOTTOHitech Grand Prix2554分06秒760
104Callum ILOTTUNI-Virtuosi2554分08秒346
111Juri VIPSDAMS2554分11秒415
1212Pedro PIQUETCharouz Racing System2554分12秒314
135Marcus ARMSTRONGART Grand Prix2554分18秒952
149Jack AITKENCampos Racing2554分19秒151
1523佐藤万璃音Trident2554分21秒480
1616Artem MARKELOVBWT HWA RACELAB2554分26秒796
176Christian LUNDGAARDART Grand Prix2554分28秒589
1817Giuliano ALESIBWT HWA RACELAB2554分29秒583
198Jehan DARUVALACarlin2555分15秒332
2015Felipe DRUGOVICHMP Motorsport2555分53秒255
NC10Guilherme SAMAIACampos Racing1536分00秒675
NC14松下信治MP Motorsport36分19秒647
F2 ポイントランキング(第7戦 レース1終了時点)
ランキングドライバーポイント
1C. ILOTT122
2R. SHWARTZMAN115
3角田裕毅111
4M. SCHUMACHER94
5N. MAZEPIN93
6C. LUNDGAARD87
7G. ZHOU82
8L. DELETRAZ77
9D. TICKTUM71
10F. DRUGOVICH67
11L. GHIOTTO45
12松下信治42
13M. ARMSTRONG34
14J. AITKEN33
15J. DARUVALA18
16G. ALESI8
17R. NISSANY5
18S. GELAEL3
19P. PIQUET2
20A. MARKELOV0
21J. VIPS0
22佐藤万璃音0
23G. SAMAIA0
(c)Dutch Photo Agency/Red Bull Content Pool