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未来のF1ドライバー最右翼、角田裕毅選手がF2初優勝 シルバーストーンに君が代が流れる
2020年8月10日 10:53
- 2020年8月9日 決勝
ホンダおよびレッドブルの育成ドライバーとして、F1直下のカテゴリーであるF2に今季参戦している角田裕毅選手は、8月9日(現地時間)に行なわれたF2のスプリントレース(第2レース)で、初優勝を遂げた。F2は未来のF1ドライバー予備軍が戦うレースで、欧州で行なわれるF1GPに併催されている。若手ドライバーにとっては、F1への登竜門となっている。
角田選手は土曜日に行なわれたフィーチャーレース(第1レース)で6位になり、上位8台のリバースグリッドとなるスプリントレースで3位グリッドからスタート。スタートから3位を走行しタイヤをマネジメント、終盤に上位を走っていたプレマチームの2台(ロバート・シュワルツマン選手、ミック・シューマッハ選手)が接触したところを漁夫の利を得てトップに立ち、そのまま自身初優勝を実現した。
F2 Sprint Race Highlights | 70th Anniversary Grand Prix 2020
https://www.youtube.com/watch?v=w7A6DGEy_RQ
この優勝により角田選手はシリーズランキング6位に。上位3人まではF1昇格に必要なスーパーライセンスを獲得するために必須となる40点が無条件で与えられる。日本のファンにとっても悲願となる日本人F1ドライバー復活に向けての期待が高まってきている。
F1スーパーライセスを獲得し、F1に昇格するための近道
F1ドライバーへと昇格するには、スーパーライセンスと呼ばれるF1だけの特別なライセンスを取得する必要がある。このスーパーライセンスは、以前はF1チームからの推薦、特別な事情などが考慮されるなどして発行されていたため、F1に昇格するのに疑義があるようなドライバーに対してもスーパーライセンスが出されていた。そうしたことが議論になり、現在ではF1以外のカテゴリーで結果を残したドライバーにポイントを付与、過去3年間に獲得したスーパーライセンスのポイント合計で40点を超えた場合にだけスーパーライセンスが発給される仕組みになっている。
日本のSUPER GTやスーパーフォーミュラなどもその対象になっており、昨年の日本GPでFFP1(フリー走行1)をトロロッソ・ホンダで走った山本尚貴選手は2018年にSUPER GTとスーパーフォーミュラでダブルチャンピオンを獲得したことで大量にポイントを獲得(2018年までは2つのシリーズの合算が可能、今はできない)、2017年と2019年のポイントも合算した上で40点を超えていると認められ、スーパーライセンスが発給されている。
そうしたスーパーライセンス制度だが、最も多くポイントが与えられるシリーズがF2だ。F2は以前はGP2と呼ばれていたF1直下のカテゴリーで、ダラーラ製のワンメイクシャシーに、ルノーのエンジンを組み合わせ、ピレリタイヤを使ってレースが行なわれている、一種の「ミニF1」と言えるシリーズ。
2017年のチャンピオンはシャルル・ルクレール選手で、今や押しも押されぬフェラーリのエースドライバーだ。そして2018年のチャンピオンはジョージ・ラッセル選手で、現在はウイリアムズ・メルセデスからF1に参戦している。2018年のF2は当たり年で、ほかにも2位になったランド・ノリス選手がマクラーレン・ルノーから、3位になったアレクサンダー・アルボン選手がトロロッソ・ホンダ(当時、現在はアルファタウリ・ホンダ)からF1に昇格しており、アルボン選手はそのデビューイヤーの昨年にレッドブル・ホンダに抜擢されるなど大活躍なのはご存じのとおりだ。
金曜日に予選、土曜日にタイヤ交換ありのフィーチャーレース、日曜日にリバースグリッドのスプリントレース
このように、F2で活躍することは、F1チームへの大きなアピールポイントになるだけでなく、そもそもF1チームが若手育成プログラムから傘下の若手ドライバーをF2に参戦させている。
例えば、フェラーリはFDA(フェラーリ・ドライバー・アカデミー)と呼ばれるプログラムを行なっており、7度のF1世界チャンピオンに輝くミハエル・シューマッハ氏の長男であるミック・シューマッハ選手、そして昨年のF3(F2のさらに下のカテゴリー、やはりF1と併催されている)のチャンピオンであるロバート・シュワルツマン選手、さらにはジャン・アレジ氏と女優の後藤久美子さんの長男となるジュリアーノ・アレジ選手などがF2に参戦している。ほかにもルノーF1の育成ドライバーである中国籍のゾゥ・カンユー選手など、F1チームにとって「未来の金の卵」が多数参戦している選手権なのだ。
F2はF1と併催されて行なわれており、F1のフリー走行が行なわれる金曜日にフリー走行と予選が行なわれ、F1の予選が行なわれる土曜日にレース1(フィーチャーレースと呼ばれる)が行なわれ、F1の決勝が行なわれる日曜日にレース2(スプリントレース)と、決勝レースが2回行なわれる仕組みになっている。金曜日の予選では土曜日のレース(フィーチャーレース)のグリッドが決定し、フィーチャーレースはタイヤ交換1回が義務化になるやや長めのレースとなる。10位までポイントが与えられるが、このレース1の8位までの順位がリバースグリッドになり、レース2(スプリントレース)のグリッドが決定される。レース2ではタイヤ交換の義務はなく、基本的にはほぼ全員がピットストップをせずにレースをすることになる。このレース2では8位までにポイントが与えられる仕組みになる。
つまり、F2でシリーズ上位に入るためには、レース1で8位までのできるだけ上位に入賞し、レース2でも上位になることで多くのポイントを得ることができる。つまりレース1でほかの選手と当たってリタイヤしたりすることが最悪で、週末を通して安定的にレースを走る、そうしたことが求められる。現在のF1ドライバーにはそうした要素が求められているので、F1の「予備校」としても、F2を走る意味は大いにあると言える(そして上位ランカーにはスーパーライセンスという実益もある)。
なお、このF2はスポーツ専門の動画配信サービス「DAZN」で配信されており、フリー走行/予選(英語音声のみ)、レース1/レース2(日本語解説付き)がレースごとにライブ配信されており、一定期間見逃し配信も行なわれている。F1中継を見るために契約しているユーザーであれば、F1の予選の後にフィーチャーレースが、F1の決勝レースの前にスプリントレースが生中継配信されるので、チェックしてみるといいだろう。
ホンダ/レッドブルの育成ドライバーとなる角田裕樹選手が今シーズンF2に参戦
このF2に今シーズンから参戦しているのが、ホンダの育成ドライバーで、ホンダのF1でのパートナーでもあるレッドブルの育成ドライバー(レッドブル・ジュニア)でもある角田裕毅選手だ。今年20歳になる角田選手は2016年にホンダの育成プログラムの最初の一歩となるSRS-Fアドバンスでスカラシップを獲得し、2018年にはSUPER GTと併催されているFIA F4選手権で見事チャンピオンを獲得するなど実績を積み、2019年にはF2の1つの下のカテゴリーとなるF3に参戦を開始した。
鈴鹿サーキット、SRS-Fアドバンス修了式を開催
F1昇格を目指す18歳、角田裕毅選手がアブダビのGP3テストで鮮烈デビュー
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1156483.html
2019年はF3に参戦し、イタリアGPの決勝日に行なわれたレース2で優勝を飾り、ランキング9位になった。数字だけを見ると、1勝でランキング9位は大したことがないように見えるかもしれないが、角田選手が昨年F3で所属していたチームは、F2にも参戦しているプレマ、ハイテック、ART、カーリンといったチームに比較すると、チームの総合力は低く、チームランキングでは7位とあまりふるわないチーム。角田選手以外のチームメイトは1勝もできていない。その中で、1勝でシリーズランキング9位という結果は高く評価されてもよい結果だ(というよりもチームのポイントはすべて角田選手が獲得していた)。特に欧州のモータースポーツ界では、実際のランキングはもちろんだが、チームメイトに勝つということが重要視されており、昨年の角田選手はそれを成し遂げたと言っていいだろう。
F3での結果が評価され、ホンダとレッドブルの支援を受けて、今シーズンはF2へと昇格した。チームは2001年に佐藤琢磨選手がイギリスF3で総合タイトルを、そしてマカオGPで優勝したカーリンだ。カーリンは、F2以外にも、インディカーやF3などにも参戦している強豪チーム。昨年は松下信治選手が所属してオーストリアとイタリアのレース1で優勝するなど結果も残している。
角田選手はこれまでの4戦でも、第2戦となるシュタイヤーマルクGP(F1第2戦と併催)でのレース1でポールポジションを獲得。レース1のほとんどを支配したものの、無線トラブルでピットに入る最適なタイミングを逃し、チームがタイヤ交換でミスをして、初優勝を惜しくも逃して2位表彰台を獲得する活躍を見せた。
先週のイギリスGP併催イベントの第4戦レース1でも終盤に逆転して3位表彰台を獲得するなど、デビューイヤーながら大活躍をみせていた。
特に高く評価されているのはタイヤマネジメントで、序盤には前に引き離されないようにセーブしてタイヤを温存し、終盤にそれを使って前を抜くというレースを見せていた。第2戦でポールを獲得するなどして速さはすでに何度も見せていたので、あとは結果だけという状況で第5戦となる今回の週末を迎えていた。
70周年GPのスプリントレースで、ミック・シューマッハ選手などに競り勝ち初優勝、ランキング6位に
そうして迎えた第5戦のレース1で予選は10番手と常に予選で上位に入る角田選手にしては不本意なグリッド。しかし、そこから追い上げて最終的には6位入賞を果たした。これでレース2は3番グリッドからスタートすることになり優勝を狙えるポジションと言える。角田選手の上位につけるのは2人のFDAドライバー、ロバート・シュワルツマン選手とミック・シューマッハ選手というプレマチームの2台だ。
スタートで角田選手は2台のプレマ勢について行き、3位をキープした。2台のプレマ勢が激しくやり合っている中で、角田選手はやや間を開けてタイヤを温存する作戦に出る。これにより、終盤プレマの2台のタイヤが厳しくなったところで、逆転する作戦を考えているように見える。
その作戦が見事に実ったのが終盤だ。トップを行くシュワルツマン選手は明らかにタイヤが厳しくなっており、徐々に2位を行くシューマッハ選手や角田選手が見る見る追いついて行く。残り3周となったところで、しびれを切らしたシューマッハ選手がDRSを利用してシュワルツマン選手をオーバーテイクし、トップに浮上したかに見えたのだが、コーナーに切り込んでいくシューマッハ選手の左リアタイヤとシュワルツマン選手の右フロントウイングが接触。これで2台ともランオフエリアを走ることになり、その間隙を縫って角田選手がトップに浮上したのだ。
2台のプレマ勢だが、シューマッハ選手は2位で走り続けることができたものの、シュワルツマン選手はフロントウィングを破損しており、残り2周半で徐々に順位を下げて最終的には13位まで下がってゴールとなった(両者の接触はレーシングインシデントと判定されどちらにもペナルティなどはでなかった)。
残り2周半をトップのまま駆け抜けた角田選手は、F2初優勝を「ややラッキーだった」自身が評価する優勝となった。ただ、プレマの2台のすぐ後ろにつけ、前半にマネジメントしたタイヤを武器にしてプレッシャーをかけ続けたからこそアクシデントが起きたとも言える。その意味では角田選手の作戦勝ちというのが正しい評価だろう。
これで角田選手は62ポイントになり、シューマッハ選手を抜いてランキング6位に浮上している。今シーズンのF2はこれで5戦が終わり、残り5戦と折り返しを迎えている。角田選手がスーパーライセンスを獲得するには、シリーズで4位(4位だと30点がもらえ、2018年の日本のFIA F4チャンピオンで獲得した12点と昨年のF3でのランキング9位で2点と併せて過去3年間で40点を超える)に入ることが必要になる。4位のニキータ・マゼピン選手が71点、3位のシュワルツマン選手が85点だということを考えると、充分に射程距離内と言える。
今回の週末では、レース1で6位、レース2で優勝とF2デビュー以来初めてレース1、レース2でポイントを獲得できたのだが、今後はそれをすべてのレースで行なっていくことがシリーズで上位に来る鍵となるだろう。その先にはアルファタウリ・ホンダからのF1デビューということも充分に見えてくる。2014年の小林可夢偉選手以来となるF1フル参戦の日本人ドライバー復活に、日本のファンとしては期待したいところだ。