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自動車事故対策機構、「ASV+++賞」「ファイブスター賞」を同時表彰した2018年度「自動車アセスメント」結果発表会
2019年5月31日 15:12
- 2019年5月30日 開催
国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)は5月30日、2018年度(平成30年度)の自動車アセスメントの結果を公表。東京都千代田区の東京国際フォーラムで、予防安全性能評価の最高評価であるASV+++(エーエスブイ トリプルプラス)を獲得車に与えられる「ASV+++賞」、衝突安全性能評価の最高評価である5☆(ファイブスター)を獲得車に与えられる「ファイブスター賞」、それぞれの試験でとくに優れた評価を得た車両に贈られる「大賞」の各賞について表彰を行なう結果発表会を開催した。
1995年度から実施されている自動車アセスメントでは、一般ユーザーが自分で確認することが難しいクルマの衝突安全性能や予防安全性能について、一定条件下でテストを実施。テストで明らかにした評価を公表することで、ユーザーが安全なクルマを選びやすい環境を醸成。合わせて自動車メーカーにより安全性の高いクルマの開発を促すことを目的に行なわれている。
平成で最後となった今回の自動車アセスメントでは、評価手法や項目などについて大きく刷新。衝突安全性能は年度ごとに評価項目が追加されたことなどにより、前回まで208点満点となっていたが、項目ごとの配点が整理されて今回は100点満点でテストを実施。得点に応じて53.5点未満が☆、53.5点以上が☆☆、63.0点以上が☆☆☆、72.5点以上が☆☆☆☆、82.0点以上が☆☆☆☆☆の評価となる。
予防安全性能では、性能評価の項目として「高機能前照灯」「ペダル踏み間違い時加速抑制装置性能」「被害軽減ブレーキ(対歩行者:夜間)」の3種類を新規設定。これにより、前回まで79点満点が126点満点に変更され、12点超46点以下がASV+、46点超86点以下がASV++、86点超がASV+++の評価となる。
このほかの変更点として、テストを行なわない書面による機能評価ながら、エアバッグが展開するような大きな交通事故が発生したとき、クルマが事故発生の位置情報などを自動的に通報する「事故自動通報システム機能評価」が新たにスタートしている。
126.0点満点のアルファード/ヴェルファイアが「予防安全性能評価大賞」
2018年度の予防安全性能評価でASV+++賞を獲得したのは以下のモデル。
トヨタ自動車 「アルファード/ヴェルファイア(126.0点)」「クラウン(124.5点)」「カローラ スポーツ(122.4点)」
日産自動車 「ノート(122.3点)」「デイズ ルークス/デイズ ルークス ハイウェイスター(93.2点)」
本田技研工業 「インサイト(122.3点)」「N-VAN(120.6点)」「CR-V(119.0点)」
マツダ 「CX-5(115.4点)」「CX-8(115.0点)」「アテンザ(113.3点)」「CX-3(99.8点)」
スバル 「フォレスター(122.3点)」「インプレッサ/XV(118.8点)」
三菱自動車工業 「デリカD:2/デリカD:2 カスタム(111.1点)」「eKスペース/eKスペース カスタム(93.2点)」
スズキ 「ソリオ/ソリオ バンディット(111.1点)」
なお、アルファード/ヴェルファイアは126.0点満点という結果を受け、「予防安全性能評価大賞」が贈られている。
「現地現物」の思想で夜間事故の対応技術を開発
ASV+++賞の表彰に続いて、予防安全性能評価大賞を獲得したアルファード/ヴェルファイアの開発者であるトヨタ自動車 CV Company CV製品企画 ZH2 チーフエンジニア 吉岡憲一氏による技術プレゼンテーションが行なわれた。
吉岡氏はトヨタが目指している「事故ゼロ社会」に向けた取り組みの中で、「走行時 予防安全の進化」「駐車場での安全の取り組み」を中心に解説を実施。走行時の予防安全では、2015年4月に商品化した「Toyota Safety Sense」は追突事故や路外逸脱、歩行者事故などの事故を抑制する機能となっており、現在ではトヨタとレクサスのほぼ全車で採用済みとなっている。
このToyota Safety Senseは、2018年1月にマイナーチェンジしたアルファード/ヴェルファイア搭載品から新機能を搭載しており、「レーントレーシングアシスト」をはじめとした高度運転支援技術をパッケージ機能として搭載していることに加え、「プリクラッシュセーフティ」の衝突回避性能を向上。歩行者事故の約7割を占めるという夜間の歩行者、昼間事故で多い自転車などを検知可能としている。
改良に向けてToyota Safety Senseの開発チームは「現地現物」の思想に基づき、実際の事故現場に足を運んで夜間の歩行者事故がどのような状況下で発生しているかを調査。これにより、夜間歩行者の検出には「月明かり程度のわずかな光でも歩行者を認識できる検出能力」が必要だと求められる性能を要件化。ハードウェアとしての高感度なカメラ素子と高速処理プロセッサーを新開発し、ロービームが当たった下半身だけでも歩行者がいることを推定できるソフトウェア技術などを開発したという。
自転車の対応では、事故予防のためにはカメラで補足した自転車が「並走中」か「横断中」かを判別できることが重要と位置付け、自転車の「パターン認識ロジック」を開発。さらに自転車を連続的に追跡する「動き検出ロジック」によって移動速度を把握して、移動先の推定によって高い精度で自動ブレーキを作動可能としている。
駐車場での取り組みでは、アクセルとブレーキの踏み間違いに対応する「インテリジェントクリアランスソナー」はボディの前後に設置したソナーによって壁やガラスなどの障害物を検知。誤操作でアクセルが強く踏み込まれてもブレーキやエンジン出力抑制などによって衝突被害を軽減すると解説された。
最後に吉岡氏は、このような安全技術開発が交通事故の減少に寄与しているとする一方で、安全技術開発がまだ道半ばであると述べ、トヨタでは今後も自動運転の開発技術などを活用しつつ、クルマの安全性能をさらに高めていくと語った。
「衝突安全性能評価大賞」をクラウンとフォレスターが受賞
2018年度の衝突安全性能評価でファイブスター賞を獲得したのは以下のモデル。
トヨタ 「クラウン(96.5点)」「カローラ スポーツ(87.8点)」「カムリ(58.5点)」
ホンダ 「CR-V(85.9点)」「オデッセイ(83.9点)」
スバル 「フォレスター(96.5点)」
三菱自動車 「エクリプス クロス(89.7点)」
スズキ 「クロスビー(85.2点)」
ダイハツ工業 「アルティス(85.5点)」
なお、最高得点となる96.5点で並んだクラウンとフォレスターには「衝突安全性能評価大賞」が贈られている。
バンパー構造と「歩行者保護エアバッグ」で歩行者を保護
ファイブスター賞の表彰後には、衝突安全性能評価大賞を受賞したフォレスターとクラウンの開発者による技術プレゼンテーションを実施。
まず登壇したSUBARU 第一技術本部 車両研究実験第二部 部長 渡森孝有氏は、スバルが取り組んできた安全技術開発の歴史や開発思想などを紹介したあと、新型フォレスターの安全性能開発について解説した。
新型フォレスターでは新世代プラットフォーム「SGP(スバル・グローバル・ プラットフォーム)」、“ぶつからないクルマ!?”として培ってきた「アイサイト」を採用して安全性の底上げを行なっていることに加え、アイサイトのステレオカメラを使って遮光を行ない、ハイビームを積極的に使えるようにして夜間走行中に歩行者などを発見しやすくする「アダプティブドライビングビーム」を搭載。ペダルの踏み間違いに対応する「AT誤発進抑制制御&AT誤後進抑制制御」などにより、日常的な運転における事故リスクを回避する取り組みを進めているという。これにより、衝突安全性能評価大賞だけでなく、ASV+++賞も受賞していることを渡森氏はアピールした。
万が一の事故発生時に乗員の命を守る衝突安全性能では、乗員に伝わる衝撃をいかにミニマルに抑えるかをコンセプトに、SGPでは衝突エネルギーを効率よく吸収。衝突時の急減速によって乗員にダメージを与えないよう、新機構のプロペラシャフトを使ってスムーズな車体減速特性を実現しているという。これに「運転席ニーエアバッグ」を含む7個のエアバッグと新型シートベルト機構で乗員に伝わるエネルギーを吸収。障害発生リスクを低減している。
車外にいる人を対象とした歩行者保護性能では、とくに重篤な後遺症が残ってしまう膝十字靱帯損傷に対応し、同時にスバル車らしいSUVデザインを両立させるエネルギー吸収部材をフロントバンパー内に設置して障害発生リスクを最小限に抑制している。これに加えてSGPのキーテクノロジーとなっている「歩行者保護エアバッグ」とボンネット下の衝撃吸収スペースを組み合わせて障害発生リスクを抑えている。
最後に渡森氏は、今回のファイブスター賞、衝突安全性能評価大賞の受賞を2030年に向けた取り組みのマイルストーンに位置付け、また通過点として「ALL-AROUND SAFETY」思想に基づく開発を推進して「安心と愉しさ」の提供に取り組んでいきたいとした。
コネクティッド技術を事故後の救助に活用
クラウンの開発を担当したトヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS 製品企画 ZS 主査 皿田明弘氏は、クラウンでも吉岡氏の技術プレゼンテーションで紹介されたアルファード/ヴェルファイア同様にトヨタの統合安全コンセプトに基づいて開発されていることを説明。クラウンで行なわれた衝突安全性能と事故後の救助について「基本性能の深化」「コネクティッドのさらなる安全・安心」の2項目で解説した。
新型クラウンでは「TNGA(Toyota New Global Architecture)」プラットフォームの採用による低重心化で走行性能を高めたほか、運転席からの視界を改善。意のままになる高いコントロール性で安定した走りを実現し、ドライバーの疲労を軽減して安全性を向上している。
また、TNGAプラットフォームでは高張力鋼板の採用拡大やアルミ素材の最適配置などで軽量化を推し進め、高効率なエネルギー吸収と荷重分散によって高い衝突安全性能を実現。歩行者保護性能の面では、歩行者の頭部や脚部を保護する衝撃吸収構造をフロントまわりに設定している。これについて皿田氏は「目新しいものではありませんが、衝突安全の根幹としてこれまで着実に培ってきた技術の深掘りによって進化させています」とアピールした。
コネクティッド技術については「ヘルプネット」による救助支援ついて紹介。運転中の体調不良や事故発生時に、従来からあるオペレーターとの会話による事故対応に加え、救急自動通報システム「D-Call Net」にも対応。エアバッグなどの作動をトリガーとしてオペレーションセンターに自動通報が行なわれ、オペレーターが乗員と会話できない場合には車両から送られてきた位置情報などを使って救急車の手配などを実施。さらに衝撃度などを自動分析して乗員の重傷確率が高いと判定された場合はドクターヘリの出動要請も合わせて行なわれるシステムとなっている。
このD-Call Netについては国内の自動車メーカーと医学界が共同開発したものとなっており、今後もオールジャパンの取り組みとして進化させていきたいと皿田氏は語っている。