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自動車事故対策機構、最高得点をマツダ「CX-8」が獲得した2017年度の「自動車アセスメント」結果発表会

軽自動車では「N-BOX」が「N-WGN」以来4年ぶりに「ファイブスター賞」受賞

2018年5月31日 開催

9車種が「ファイブスター賞」を獲得した2017年度の「自動車アセスメント」発表会

 国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)は5月31日、平成29年度(2017年度)の自動車アセスメントの結果を公表。最高評価となる5☆(ファイブスター)を獲得した車種に与えられる「JNCAPファイブスター賞」の表彰式を東京都千代田区の東京国際フォーラムで実施した。

 1995年度から実施されてすでに20年以上の歴史がある自動車アセスメントでは、衝突試験による乗員保護性能、車両にテスト用のダミーをぶつけたときの加害性などによる歩行者保護性能、シートベルトリマインダーの作動要件の確認などを総合的に評価して、市販車の安全性を判定。試験結果を一般公開して、ユーザーがクルマを購入するときに“より安全なクルマ”を選択できるような指針となり、自動車メーカーには安全なクルマ作りの研究開発をうながすことを目的に行なわれている。

 2011年度から実施されている現行の衝突安全性能評価では、「乗員保護性能評価」と「歩行者保護性能評価」が各100点満点、「シートベルトリマインダー評価」が8点満点となっており、計208点満点となっている。

会場となった東京国際フォーラムでは「ファイブスター賞」の受賞車両が展示されたほか、実際にオフセット前面衝突試験で使われたマツダ「CX-8」も公開
64km/hの速度でテスト車を走らせ、固定したアルミハニカムバリアに向かって運転席側の一部(オーバーラップ率40%)を前面衝突させたCX-8
フロントノーズやエンジンルームは痛々しく変形しているが、Aピラーから後方は影響が見られず、衝撃を車両前方だけでしっかりと吸収していることが分かる

 また、クルマに詳しくない人でも得点の評価が分かりやすくなるよう、「市販している自動車として当然ながら獲得すべき最低限の基礎点」を110.0点に設定。この110.0点に届かない110.0点未満を☆としたほか、110.0以上130.0点未満を☆☆、130.0点以上150.0点未満を☆☆☆、150.0点以上170.0点未満を☆☆☆☆、170.0点以上を☆☆☆☆☆として、☆の数が多いほど高評価だとひと目で分かるようにしている。

 2017年度の自動車アセスメントでは、乗用車10車種、軽自動車5車種の計15車種で評価を実施。このうち、トヨタ自動車の「C-HR」「JPN TAXI」、日産自動車の「リーフ」、本田技研工業の「シビック」「ステップワゴン」「N-BOX」、マツダの「CX-5」「CX-8」、スズキ「スイフト」の9車種が☆☆☆☆☆の「ファイブスター賞」を獲得した。なお、評価した車両における最高得点はCX-8の193.9点となっている。

「C-HR」の開発担当者として登壇したトヨタ自動車株式会社 Toyota Compact Car Company TC 製品企画 ZK チーフエンジニアの鈴木啓友氏は「今回、C-HRでは『TNGA』、トヨタニューグローバルアーキテクチャーという新しい概念に基づき、ボディ骨格をゼロから開発し直しております。また、先進安全装備もふんだんに盛り込んで、お客さまにより安心して乗っていただけるクルマを目指して開発してまいりました」とコメント
「JPN TAXI」の開発担当者として登壇したトヨタ自動車株式会社 Toyota Compact Car Company TC 製品企画 ZP チーフエンジニアの粥川宏氏は「タクシーは、われわれの中で最も身近な公共交通だと思っております。その公共交通としての役割、それは快適に移動するだけではなく、安心・安全に移動できることも非常に大事だと考えております。われわれはこの『JPN TAXI』の開発でそれを目指してきました。結果としてこのような賞をいただけたことは、われわれ開発陣としても非常に励みになります。これからこの『JPN TAXI』で、バリアフリーな街作り、そしてビジット・ジャパン事業にしっかり貢献していきたいと思います」とコメント
「リーフ」の開発担当者として登壇した日産自動車株式会社 Nissan 第一製品開発本部 Nissan 第一製品開発部 第四プロジェクト統括グループ 車両開発主管の佐々木博樹氏は「私どもの仕事は、電気自動車により魅力を付加していくということだけではなく、電気自動車の普及で妨げになるお客さまのご心配や懸念を1つずつ払拭していくこと。これが仕事です。今回、このような賞をいただきましたことで、お客さまに電気自動車を選んでいただくハードルがまた1つ下がったと理解しております。安心して選んでいただける電気自動車をこれからも開発してまいりたいと思っております」とコメント
「シビック」の開発担当者として登壇した株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター 第11技術開発室 第7ブロック 主任研究員の清水英行氏は「ホンダの『シビック』シリーズは、全世界で販売しており、走る喜び、操る喜びをお客さまに提供することをテーマに開発してまいりました。おかげさまで全世界で大変好評となっております。開発の根底にある安全という要素についてこのような賞をいただけたことを、開発陣一堂で非常に感謝しております。今後もより安心して、安全で、その上で操る喜びをお客さまに提供する。そんな商品作りを続けていきたいと思っております」とコメント
「ステップワゴン」の開発担当者として登壇した株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター 第9技術開発室 第1ブロック 主任研究員の斎藤葉治氏は「『ステップワゴン』としては、モデルチェンジをしてから今回で2回目のファイブスター賞受賞になりました。そのモデルチェンジでは、外観デザインの一新と、ハイブリッドシステムの搭載で開発を行ないました。『ステップワゴン』を見に来ていただくお客さまの関心事では、『ファミリーカーとしての安全性』に注目していると考えております。結果として、ガソリン車に続いてハイブリッド車で2回目のファイブスター賞受賞ということは、そうしたお客さまの関心に対するお答えであり、われわれが常に追及し続けている安心・安全なクルマ作りに対する成果を高く評価していただけたと思っております」とコメント
「N-BOX」の開発担当者として登壇した株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター LPL HGJ-S 主任研究員の白土清成氏は「『N-BOX』は軽自動車でございます。日本の中にはまだまだ軽自動車でなければ移動が困難な地域やお客さまが多数いらっしゃいます。そのようなお客さまに、大きいクルマと同等の安全性能を提供するのはわれわれ自動車メーカーの責務だと感じておりまして、今回の受賞を糧に、今後とも世界一安全なコンパクトカー作りを目指していきます」とコメント
「CX-5」「CX-8」の開発担当者として登壇したマツダ株式会社 商品本部 主査の松岡英樹氏は「『CX-5』は“走る歓びの深化”を掲げ、最新の技術を盛り込んだモデルです。その中でも安心・安全は基本の性能になると思います。マツダは『サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030』を昨年発表して、人、地球、社会に優しいクルマ作りを目指しております。その中でこのような賞をいただけたことは、われわれが目指している方向が非常に正しかったと感じており、これからも安心・安全なクルマ社会に少しでも貢献できるよう、微力ではありますが引き続き努力を続けてまいりたいと思います」とコメント。また、「『CX-8』は2017年度の衝突安全性能評価で最高得点、マツダの歴代車種でも最高得点、合わせて先月発表されました予防安全性能でも満点で『ASV++』を獲得することができました。われわれが掲げて開発している車種共通の予防安全性能『マツダ・プロアクティブ・セーフティ』と、これを実現するための『SKYACTIV-BODY』や『i-ACTIVSENSE』を一貫してどのクルマにも搭載して進化させてきた成果の現われだと感じております」と語った
「スイフト」の開発担当者として登壇したスズキ株式会社 四輪商品第二部 チーフエンジニアの小堀昌雄氏は「『スイフト』はお客さまの生活に寄り添えるような、その人らしいユニークな商品を目指して開発を進めました。デザインや走行性能、環境性能、そして安全性能を進化させることに全力を注いで開発した商品です。より多くのお客さまに、楽しく、そして安心してご愛用いただけるようなクルマを目指して作ってきた『スイフト』が、このような賞をいただけたことを大変嬉しく思っております。このような機会を得られたことを糧に、これからもより楽しく、より安心して乗っていただける商品をお客さまに届けられるよう、全社一丸となって取り組んでまいりたいと思います」とコメント。なお、スズキでは過去に日産からOEM提供されて販売する「ランディ」でファイブスター賞を受賞したことはあったが、スズキで生産したモデルでファイブスター賞を手にしたのはスイフトが初になるという

バンパーやフレームの「十字断面構造」などマツダの衝突安全性能を解説

マツダの松岡氏

 ファイブスター賞の発表後に行なわれた「受賞車技術プレゼンテーション」では、今回の自動車アセスメントで最高得点となったCX-8の主査である松岡氏が登壇。

 松岡氏はマツダが進めている安全技術開発の基本理念について紹介し、人間中心の開発思想から「運転における認知、判断、操作がしやすいクルマ作りを目指している」と説明。周辺状況がよく分かって運転操作がしやすいクルマであれば、危険があることをいち早く知り、運転操作によって危険を避けることができれば自動ブレーキなどの出番もなく、ヒヤリハットが起きることなくドライバーにとって一番よいことだとした。

 衝突安全性能についての具体的な技術では、前面衝突で初代CX-5から導入している「車体構造技術」「乗員保護技術」「頭部保護」の3点について松岡氏は解説。「車体構造技術」となるマツダの「SKYACTIV-BODY」では、衝突のエネルギーを車両前面にある「アッパー」「メイン」「ロア」の3つの骨格(ロードパス)で分散しながら効率的に吸収。また、バンパーやフレームには従来型の骨格である長方形の断面構造から「十字断面構造」に変更。エネルギー吸収効率を高めているという。さらにボディ全体で高張力鋼板の採用を拡大して、とくにAピラーを強化していると紹介した。

「乗員保護技術」では、CX-8はフロント、サイド、サイドカーテンの計6カ所でエアバッグを装着。シートベルトの効果を最大限発揮できるようシートベルトプリテンショナーとロードリミッター機構を搭載しており、リアシートの座面には衝突時に腰が滑り込み現象を起こさないよう「滑り込み防止パッド」を設定して、乗員の体を適切に拘束できる構造にしているという。

 歩行者保護となる「頭部保護」では、CX-8では衝突を検知したときにボンネットの付け根側を持ち上げて硬いエンジンとのクリアランスを稼ぎ、被害者をハンモックのように受け止める「アクティブボンネット」を搭載。さらにフロントウィンドウではガラスの下側支持部が衝突時に上下に潰れる「S字カウル構造」を使って頭部が受ける衝撃を緩和。歩行者に対しては脚部保護についても取り組んでおり、事故が起きたときに膝を中心にしてくの字に曲がることで被害が大きくなることに着目。この現象を防止するため、すねが当たるバンパー下側部分に「ロアスティフナー」を設定して、足全体で均等に押すような形にして足にかかるダメージを軽減しているという。

マツダではベース技術となるHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)を追究。ドライバーが自身の操作で危険を回避できることが一番いいと松岡氏は語る
「SKYACTIV-BODY」では効率的な衝突エネルギー吸収でキャビンを保護する
エアバッグ、シートベルト、シートなどの構造によって乗員を保護
「アクティブボンネット」「S字カウル構造」「ロアスティフナー」などを使って歩行者に対するダメージを軽減
国土交通省 自動車局 技術政策課 課長 江坂行弘氏

 このほか、表彰式の冒頭では国土交通省 自動車局 技術政策課 課長 江坂行弘氏が挨拶を実施。江坂氏は交通事故死者数が近年は減少傾向となっており、2017年の統計では死者数が3694人で、警察庁が保有する昭和23年以降の統計で最少になったことを紹介。しかし、依然として厳しい状況であり、政府では平成32年(2020年)までに死者数を2500人以下にする目標を立てて取り組んでいることを説明した。

 自動車アセスメントの公表はこの交通事故死者数を減らしていくための活動で、1995年度のスタート以来、事故実態や技術開発の進展などに合わせて内容を充実させていたとコメント。

 また、高齢ドライバーによる事故発生を減少させる取り組みとして、2017年3月に行なわれた関係副大臣会議の席で、「自動ブレーキの新車乗用車装着率を2020年までに9割以上とする」との目標を新たに設定。国交省では3月から乗用車の自動ブレーキについて一定の性能を有していることを国として確認し、公表する認定制度を創設したことなどをアピールした。

独立行政法人自動車事故対策機構 理事長 濱隆司氏

 江坂氏に続いて挨拶を行なった自動車事故対策機構 理事長の濱隆司氏は、「NASVAではより多くの皆さんにこのアセスメントの結果を見ていただき、より安全なクルマを選んでいただきたいと考えております。今回、ファイブスター賞を獲られたクルマの中で、4年ぶりに軽自動車が受賞しております。近年は各自動車メーカーさまの取り組みにより、賞を獲得するクルマが確実に増えております。また、予防安全につきましても、被害軽減ブレーキなどの安全技術は急速に普及しております。今後につきましても、各自動車メーカーさまの引き続いてのご努力により、安全性能でさらに高い評価を受けるクルマが開発されることを期待しております」とコメント。

 続けて濱氏は「一方で、事故というものはあくまでも運転するドライバーが防ぐということが基本であると考えております。将来的に本格的な自動運転の時代が来れば別の次元になるのでしょうが、今回、評価を行ないました予防安全装置につきましては、あくまでも事故を回避する、被害を軽減できるといった可能性があるもので、この装置に頼れば安全運転ができるというものではありません。NASVAは自動車事故対策の専門機関といたしまして、安心・安全なクルマ社会の実現を目指し、あらゆる視点から事業を進めてまいります」と語り、安全運転はあくまでドライバーが主体となることを強調した。

表彰式の会場では、試験で使われている人体ダミー、NASVAでアセスメントを行なっているチャイルドシート、解説パネルなども展示された