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ブリヂストン、車いすやベビーカーでスムーズに乗車でき、停車時間も短縮する「新型バリアレス縁石」技術説明会

「現時点で日本で考えられる最高の縁石形状」とブリヂストン 田村部長

2019年7月10日 開催

「新型バリアレス縁石」技術説明会であいさつする株式会社ブリヂストン タイヤ開発第1本部 本部長 横田英俊氏

 ブリヂストンは7月10日、横浜国立大学、日本交通計画協会、アドヴァンスと共同で研究開発を進め、6月7日に岡山県岡山市で実用化した「新型バリアレス縁石」の技術説明会を東京都内で開催した。

 説明会では、冒頭でブリヂストン タイヤ開発第1本部 本部長の横田英俊氏があいさつを行なったあと、横浜国立大学 交通と都市研究室 教授 中村文彦氏と、日本交通計画協会 萩原岳氏の2人が、バス停にバリアレス縁石を導入する意義や海外での実例などについて解説を行なった。

横浜国立大学 交通と都市研究室 教授 中村文彦氏

 中村教授は都市交通で自家用車に対する依存度が高く、これによってさまざまな弊害が発生しているが、この解消に向けてバスが有効な面を持つ一方、バス停での乗客の乗り降りなどが問題になっていることを指摘。海外ではさまざまな工夫によってこの問題を解消している実例があり、その1つとして、バスのタイヤを歩道の縁石に当てて段差を少なくするバリアレス縁石があることに注目。自身が務める横浜国立大学の敷地内にあるバス停に欧州から取り寄せたバリアレス縁石を試験導入し、通常時は40cmほどあった段差を平均して10cm以下に減らすことに成功した。

 しかし、欧州市場に合わせて製作されたバリアレス縁石は日本国内で一般的に使われているバスのドア形状などが合わないなど課題も見えてきたことから、国産のバリアレス縁石開発を始めることになったとこれまでの経緯を明らかにした。

 このほか、中村教授はバリアレス縁石導入のメリットとして、歩道とバスの距離を近づけて段差を少なくすることで、足腰の弱った高齢者や車いす、ベビーカーの利用者、スーツケースなどを持ち込もうとする乗客などがスムーズに乗車できるようになり、乗客の利便性が高まることに加え、全体としての乗降時間が短縮され、停車時間が短くなってバスの運行効率を高めることも可能になると紹介している。

公益財団法人日本交通計画協会 萩原岳氏

 萩原氏は、公益法人として活動している日本交通計画協会でも、バスの乗降時に段差が大きいことを問題点として認識し、国内で「ノンステップバス」の普及は進んでいるが、バスがバス停に正着しなければバリアフリーを実現できないと考え、中村教授と同じように海外の実例を調べる中で、バリアレス縁石に着目。2014年9月から中村教授などと共同で「正着誘導縁石」の実証事業を始め、2016年8月から今回の4者による共同研究がスタートしたことを紹介した。

普及が進んできた「ノンステップバス」でも、車いすやベビーカーを利用する人はスロープなどが必要となり、バス停に正着しなければバリアフリー化が実現できないとの分析
フランスではバスとバス停の段差が水平方向、高さともに50mm以内を目標としており、多くの場所で実現されていると萩原氏は紹介。車いすやベビーカーがスムーズに乗降できるとした
フランスの事例
ドイツの事例
日本交通計画協会の自主研究で中村教授が会長を務めたことから、バリアレス縁石を共同開発することになった
バリアレス縁石開発プロジェクトの活動の流れ
株式会社ブリヂストン ソリューション技術企画部 部長 田村大佑氏

 新型バリアレス縁石の技術解説は、ブリヂストン ソリューション技術企画部 部長 田村大佑氏が担当。ブリヂストンでは2015年10月から中村教授と共同でバリアレス縁石についてタイヤの視点から研究を開始したが、タイヤの摩耗が激しく、タイヤを改良するだけでは限界があるとすぐに判明。また、合わせて行なったテスト担当のバスドライバーに対するヒアリングで、普通に運転してバス停で停車する場合と比べて、縁石にタイヤを当てる正着運転では「ハンドル操作」「目を配るポイント」といった点でドライバーが運転しにくいと感じているとデータ化された。

新型バリアレス縁石を共同開発した4者。それぞれで役割分担を受け持ち、“One Team”で開発を進めたという
バスのドライバーは、日ごろタイヤを縁石に当ててしまわないよう心がけて運転しているため、縁石に当てる心理的な負荷も大きかったとのこと

 この対策としてブリヂストンと中村教授により共同開発されたのが、2017年6月に発表された「次世代正着縁石」。ドライバーのハンドル操作をアシストするため歩道側に傾斜した路肩スロープを備え、縁石に接近しても車体が傷付かないよう2段構造の回避形状を採用。タイヤ側面がゆるやかに縁石に当たるよう縁石底をラウンド形状として、ドライバーが使いやすく、乗員に振動を感じさせず、タイヤが受ける負荷も低い縁石を実現。バスと縁石の段差は水平方向で49mm、上下方向で33mmまで接近させることに成功している。

2017年6月に発表された「次世代正着縁石」の開発ポイント。回避形状の開発では、バスは乗客数などで車高が大きく変化することも加味しているという

 一方、日本交通計画協会とアドヴァンスでも同じころに正着縁石の共同開発を行なっており、こちらではブリヂストンと中村教授の共同開発品と似た車両接触回避形状や縁石底傾斜形状を備えることに加え、路面に凹凸の段差を設定して、タイヤから伝わる振動でドライバーに縁石が近づいていることを知らせる「警告用突起形状」を採用。こちらは2017年3月から新潟県新潟市の秋葉区役所バス停に設置されて運用がスタートしているという。

 今回、4者による共同開発で生み出された新型バリアレス縁石は、2つの正着縁石開発で培った技術を融合。小型~大型バスに対応し、幅広い車種で利用できる最適設計を施した車両接触回避形状、形状を最適化した縁石底ラウンド形状、設置するバス停の状況などに応じて路肩スロープもオプション設定できる警告用突起形状の3種類を基本コンセプトに設定。

 田村部長は新型バリアレス縁石を「現時点で日本で考えられる最高の縁石形状」と自己評価しつつ、導入を希望する道路管理者などのニーズを優先して、導入に当たっては相談のうえで細かなチューニングに対応すると説明した。

次世代正着縁石をバスドライバーに体感してもらったところ、路肩スロープがあることでハンドル操作や目を配るポイントなどの負担が大きく低減。縁石底の曲率は、乗客が縁石に接触したことが気にならないポイントを選んで設定している
日本交通計画協会とアドヴァンスが開発していた正着縁石。タイヤから伝わる振動で縁石に接近したことを知らせる「警告用突起形状」を備える
新型バリアレス縁石は車両接触回避形状、縁石底ラウンド形状、警告用突起形状の3つを基本コンセプトに設定
バス停のバリアフリー化に貢献するバス停バリアレス縁石(1分10秒)

 また、田村部長は今回の新型バリアレス縁石開発について、ブリヂストンが推進しているCSR活動「Our Way to Serve」の考え方の基づく活動の一環として、バスの正着技術を開発し、進化させることで、安心・安全な移動、安全・安心な暮らしを支えていくことを目指していると説明した。

ブリヂストンのCSR活動「Our Way to Serve」では、「最高の品質で社会に貢献」を使命として位置付け、独自の技術力とソリューション開発で社会課題の開発に取り組む。バスにおける正着技術の開発もこの活動の一環となる
質疑応答も行なわれた

 説明会終盤に行なわれた質疑応答では、タイヤが縁石に接触することを前提とした新型バリアレス縁石の導入にあたり、タイヤの面で何かしらの対策を用意しているのかといった質問に対し、田村部長は「どうしてもタイヤのサイドウォールが削れることはあるので、摩耗しにくいゴムシートを簡易的に貼り替えるコンセプトのタイヤを鋭意開発中で、これがご提案できるようになれば、安全性を担保して使い続けられるタイヤになります」と回答。

 また、田村部長が「現時点で最高」とする新型バリアレス縁石は今後も開発を進めていくのかという質問には、「最高と表現したことは、今までわれわれが進めてきた研究の中で最高という考えです。ただ、お客さまに使っていただいて、そこでどう評価されるかは分からないところです。今回、岡山市さんに導入していただいて、そこで使っていくなかで新たな課題が出てくるようであれば、そこをまた改善して、それが本当の最高のものになると思います。私の言い方に語弊があったかもしれませんが、今の状態でわれわれとしては最高と考えていますが、引き続き改善させていただきたいと思います」と田村部長は答えている。