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トヨタ 吉田守孝副社長が決算説明会で「TNGA」「カンパニー制」導入効果を解説

開発工数と設備投資を約25%、車両原価を約10%低減

2019年8月2日 開催

トヨタ自動車株式会社 副社長の吉田守孝氏

 トヨタ自動車は8月2日、2020年3月期 第1四半期(2019年4月1日~6月30日)の決算内容を発表。同日に東京都文京区にある東京本社で決算説明会を行なって決算内容について解説したほか、トヨタ自動車 副社長 友山茂樹氏によるプレゼンテーションを実施した。

 なお、トヨタの2020年3月期 第1四半期決算については関連記事「トヨタ、2020年3月期 第1四半期決算。営業利益7419億円、当期純利益6829億円で第1四半期として過去最高を更新」を参照していただきたい。

「もっといいクルマづくりの中で磨き続ける競争力」と題した吉田副社長のプレゼンテーション

 吉田副社長はプレゼンテーションの冒頭で、「100年に1度と言われる大変革の時代に、トヨタでは今、モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジに向けてさまざまな取り組みを進めております。5月の決算報告の際、社長の豊田も申し上げたように『変化が求められる時代だからこそ、変えてはいけないことを明確にしておく』必要があります。『リアルなクルマづくり』において競争力を磨き続けることは、まさに『変えてはいけないこと』の1つだと思います」とコメント。「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジ」に向けた変革の前提として、「リアルなクルマづくり」で競争力を磨き続けていく姿勢を示し、トヨタが取り組んでいる「もっといいクルマづくり」に向けた競争力強化、今後の活動などについて説明した。

「もっといいクルマづくり」の向けた活動のポイントは、グローバルで約1000万台を販売する販売ボリューム、小型車から大型車、商用車、環境車、GRモデルなどのスポーツ車などフルラインアップメーカーであることの2点。この特長をさらに生かしていくため、クルマのポテンシャルを大きく高めつつ、1000万台規模のスケールメリットを生かして賢く共用化していく「TNGA(Toyota New Global Architecture)」、ユーザー目線でクルマづくりにこだわっていく「カンパニー制」を両輪として、「お客さま第一で、もっといいクルマづくりの競争力を磨き続けています」とのこと。

 TNGAは現行モデルとなる4代目「プリウス」から本格導入がスタート。TNGAは導入から約4年、カンパニー制は導入から約3年が経過しており、この間にプリウスなどの中型車から大型車、レクサス車まで幅広くラインアップを拡大。現時点で15モデル、トヨタの販売における約3割にあたる300万台がTNGAやカンパニー制の成果として登場しており、どのモデルもデザイン、性能、装備などの面でユーザーから高く評価されて順調に販売台数が推移しているという。

 また、日本で4月に発売した新型SUV「RAV4」について、吉田副社長は「世界で最も売れているSUV」と紹介。力強いデザインや使いやすくて広い車内、4WDによる気持ちのいい走り、手ごろ感のある価格などにポジティブな反響が多く寄せられ、販売も順調に推移していると解説。とくに「クルマ離れ」が進んでいると言われる30代以下の若者が、購入割合の45%を占めていることをうれしく思っているとした。

「TNGA(Toyota New Global Architecture)」と「カンパニー制」は「もっといいクルマづくり」の両輪
TNGAやカンパニー制の導入後に、15モデル・300万台がモデルチェンジ
新型「RAV4」購入者の45%が30代以下の若者となっている

 TNGA導入の具体的な成果としては、開発工数で「グルーピング開発」や部品共通化を推進したことで導入前のモデルから約25%低減。この低減分を「CASE」などの先進技術に対する先行開発の工数として充てている。新車導入に際する設備投資では、部品などの共用化が進んだことで、同じ設備で複数車種を効率よく生産できるようになり、1ライン平均の投資を約25%低減。車両原価でも構成部品の共用化と種類削減、生産工程の簡素化などを徹底的に推し進め、約10%の低減を実現。ただし、この10%分は環境規正対応や安全装備の拡充などで減殺されており、「お客さまが望むレベルにはまだまだ十分ではない」と吉田副社長は分析し、もっと買いやすい新車を提供できるよう、今後も「TPS(トヨタ生産方式)」と原価低減に徹底的にこだわり、従来から続けている取り組みをさらに加速させていくとしている。

 また、市場環境が激しく変化していることについて、今後はさらに変化のスピードや多様化が進んでいくとの認識を述べ、1例としてセダンからSUVへのシフトを取り上げ、これはグローバルで見られる傾向であり、とくに北米では想定していた以上に移行が加速。すでに一部競合メーカーがセダン市場から撤退していることを挙げ、大きな変革が起きていることを紹介。また、最大の成長市場である中国では、安く使い勝手のいい大型マルチメディア端末を備える現地メーカーの車両が躍進するなど、地域ごとにニーズが多様化。これまで以上にスピード感を持って取り組んでいく必要があると解説した。

 これに加え、トヨタでは環境規制の強化に対応するため、「電動車」の投入を加速させると発表しているが、同時にさらなる原価低減とCASEへの対応も見据え、リソーセスのシフトを加速させていくという。

 クルマづくりはますます厳しい環境となっており、中長期的な視点での取り組みも「もっといいクルマづくり」で重要であると説明。トヨタグループが持つ得意、不得意を見極め、必要に応じて他社と協力する「ホーム&アウェイ」の考え方やアライアンスの構築などをさらに強化。安全や環境といった取り組みでは「普及してはじめて社会に貢献できる」との思想から、自社開発にも力を入れつつ、他社との協調も積極的に進めて「仲間づくり」にも引き続き取り組んでいくとしている。安全については「ペダル踏み間違い」の対応を喫緊の課題として取り上げ、さまざまな啓発活動に取り組むほか、国や地方自治体などと連携して自動車業界が一体となった活動を行なっているという。

 最後に今後の商品計画について吉田副社長は説明。2021年までの今後2年間に、コンパクトカーや商用車、SUVなど18車種を新たに市場投入。トヨタの車種構成の約6割にあたる650万台分を新型車に切り替えていき、9月にはトヨタのコアモデルであり、1966年から続く歴史を持つ「カローラ」「カローラ ツーリング」をフルモデルチェンジ。12代目となる新形カローラは、グローバルモデルと上手に共通化を進めながら、日本専用モデルとしてスタイル、装備も大幅に向上させていると紹介。今後も“もっといいクルマ”を継続的に発売していくとアピールした。

TNGAによる競争力強化、商品力向上を解説しつつ、車両価格についてはまだ不十分で、さらに取り組みを進めていくとした
「ユーザーニーズの変化」「環境規制の強化」「CASEの進展」などに対応し、競争力をさらに磨き上げていく必要があるとの説明
自社での2つの取り組みに加え、重要な社会課題への取り組みでは仲間づくりも大切であるとの認識
9月にフルモデルチェンジする「カローラ」「カローラ スポーツ」など、2021年末までに18車種を市場投入
クルマづくりを通じた競争力強化は変えてはいけない重要なこだわり

“来年出るコンパクトカー”も期待に対応できる価格で出したいと吉田副社長

質疑応答では吉田副社長と決算内容を説明したトヨタ自動車株式会社 執行役員 経理本部本部長 近健太氏が回答

 決算説明会の後半では質疑応答を実施。社会問題化している「ペダル踏み間違い」に対し、トヨタでも2018年12月から後付け装着可能な対策製品の販売を開始しているが、近いタイミングでグループ会社であるダイハツ工業でも同様の製品をリリースしており、こういった面こそ「ホーム&アウェイ」の考え方で競合メーカーとも協力していくべきなのではないかとの問いかけに対し、吉田副社長は「『安全は協調領域ではないか』とのご指摘、まったくそのとおりだと思います。トヨタの安全に対する考え方は、繰り返しになりますが『交通死傷者ゼロ』を究極的に目指しておりますが、まだまだ道半ばであり、やるべきことはたくさんあります。一方で最近は、高齢者の事故。とくにペダル踏み間違いによる悲惨な事故が多数報道されており、喫緊の課題だと考えています。これについては新車での対応だけではなく、そういったシステムがついていない既存のクルマでの対応の方がむしろ大事なのではないかと思います。安全には競争領域と協調領域があり、業界全体として協調して、より広い範囲で一緒になって1件でも悲惨な事故を減らしていきたいと考えています」。

「長野県の蓼科に、49年前にトヨタ自動車とトヨタの販売会社で交通安全を祈願する『聖光寺』を建てまして、先月も交通事故で亡くなった人の供養と交通安全祈願を行ないました。今年は初めて、スズキさん、スバルさん、マツダさんといったトヨタ以外の会社のトップの方々、さまざまな部品メーカーの皆さん、そして損保会社のトップなどが一堂に会しまして、交通安全についてみんなで考える機会を開催しました。悲惨な交通事故を少しでも早く減らしていきたいということで思いは一致しました。ご指摘のあった協調領域の最初というのが、後付けでのペダル踏み間違い抑制システムになるのではないかと、当日のディスカッションでも取り上げられました。われわれはこの会議を『蓼科会議』と呼び始めていて、来年以降も蓼科会議が開催され、より広く安全の議論が行なわれて安全なクルマ社会に1日も早く近づけるよう期待しております」と回答した。

「原価低減は製造業にとってエンドレスの仕事」と吉田副社長

 TNGAでの原価低減の取り組みについて、吉田副社長はプレゼンテーションでも「効果は確実に挙がっている」としたが、以前に豊田章男社長は「まだまだ大きく、重く、高い」と表現しており、担当副社長としてどのようにTNGAの進捗を評価しているかと問われると、吉田副社長は「今日のプレゼンテーションでご紹介した資料のように、開発工数と設備投資、車両原価といった点で言うと、工数と投資がそれぞれ約25%に対し、原価は約10%の低減。10%原価を低減しているのですが、最近はどのメーカーでも同様ですが、以前はオプションだった安全装備が標準装着されるようになり、いろいろな装備が標準装備化されてクルマの販売価格はなかなか下がらないという状況です。ですので、原価低減というものはベターベターベターと、製造業にとって常にやり続けるエンドレスの仕事だと思います。ですので、先ほどもお話ししたように、まだ道半ばであり、これからもさらに続けていく必要があります」。

「ただし、今年4月に出しましたRAV4は、TNGAの初期に出したプリウスなどと比べて3年近く経っていますので、成果がしっかりと現われています。商品力はしっかりと上がりながら、スターティングプライスは260万円からとお手ごろな価格ということで、予算にそれほど余裕のない若い人が45%も買っていただいているということです。やはりトヨタのクルマというのは、お客さまが求めるクルマを良品廉価で出すということが、一番大事なのかなと思います。9月に出るカローラ、来年出るコンパクトカーなどはより価格的に厳しいクルマですので、お客さまの期待に対応できるような価格で出したいと思っておりますので、ぜひご期待ください」と回答。2021年末までにデビューする18車種で、9月のカローラに続き、2020年にコンパクトカーをリリースすることを紹介した。

トヨタ自動車 東京本社の1階ロビーには、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会をサポートするために開発された短距離・低速型EV(電気自動車)「APM」などを展示
ヒューマノイドロボット「T-HR3」
6人乗りのEVとなるAPM(Accessible People Mover)
フィールド競技サポートロボット「FSR」
生活支援ロボットの「HSR(Human Support Robot)」と「DSR(Delivery Support Robot)」
オリンピックスタジアムの車いす席を利用する観客に対応するHSR
上下に稼動するアームでドリンクなどを手渡すことも可能
電源スイッチは2代目プリウスで採用されていたものを流用している
HSR(左)とパートナーとして働き、ユーザーが購入したドリンクなどを運搬するDSR(右)
展示されていたのは、DSRをイメージした模型
SUPER GTのGT500クラスに参戦している36号車「LEXUS TEAM au TOM'S」
聖火リレーに使われるオリンピックトーチも展示されていた