ニュース

SUPER GTは今週末の富士から後半戦へ、シーズン前半4戦2勝のホンダ NSX-GT開発者 佐伯LPLに聞く

ホンダ NSX-GTの開発をリードする株式会社 ホンダ技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏

 年間8戦で争われるSUPER GTは今週末、10月3日~4日に開催される「2020 AUTOBACS SUPER GT Round5 たかのこのホテル FUJI GT 300km RACE」(以下、第5戦富士)より後半戦に突入する。後半戦からは観戦可能なチケットも発売されており、富士スピードウェイでもいくつかのイベントを用意している。

 前半戦となる第4戦もてぎ、第2戦富士で優勝を飾ったのが17号車 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット組、BS)だ。シーズン開幕当初は、開幕戦で表彰台を独占したGRスープラの好調が目立っていたが、4戦を終えてポイントリーダーに立っているのは4戦中2勝を挙げた17号車 KEIHIN NSX-GTで、予選でも鈴鹿サーキットでの第3戦で64号車 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹組、DL)がポールポジションを獲得したほか、必ず1台はNSX-GTがフロントローに並んでいるなど速さを見せている。

 4戦を終えてみると、開幕戦を除けばNSX-GTの速さ・強さが目立っていた。

 そうしたホンダ NSX-GTの開発をリードする本田技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏の、第4戦もてぎでのレースで予選、決勝コメントを紹介していきたい。2020年シーズンのSUPER GTをリードするNSX-GTの開発者は、どのようなことを考えながらレーズにのぞんでいたのか、今後のSUPER GT観戦の参考にしていただきたい。

第4戦もてぎの予選で全5台がQ2に進めたのは大きな前進、タイヤメーカーの開発が進んだのも主要因

 第4戦もてぎのNSX-GTは予選で17号車 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット組、BS)が2位でフロントローに並び、他にも8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺組、BS)が3位、64号車 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹組、DL)が5位、100号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐組、BS)が6位、16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(武藤英紀/笹原右京組、YH)が7位と、5台全車がQ2へ進出するという上々の結果になった。

──佐伯氏より冒頭のコメントを。

佐伯氏:こういった不安定な天候で、特にタイヤメーカー間で、その天候がよい方向に行ったりわるい方向に行ったりと、結構左右されたが、NSXとしては5台揃ってQ2に残れたことっていうことを考えると、事前に抱いていたツインリンクもてぎとの相性への不安は、そんなにわるくないなという感想をもった。

 他メーカーとの競争という点ではGRスープラの多くがポイントを取ってウェイトハンデを背負ってきているのも影響しており、今日の天候もコロコロ変わっていたので、今日1日の結果ではなかなか判別しにくい。

 しかし、開幕から4戦連続でフロントローを取れているということは、一発タイムでは結構速いということが見えて来ていると言える。今後チャンピオンシップということを考えていくなら、明日のレースでは全車が予選ポジション以上をキープしてNSX勢全体でポイントを持って帰ることが大事だ。

──例年もてぎ戦はノーハンデでやるレースだが、今回はウェイトがある状態でのレースになっている。ウェイトを載せたときのNSXの挙動は?

佐伯氏:クラス1という共通規定の中でと見て行くとウェイトハンデはほぼ同じだと考えている。昨年までのNSX-GTはミッドシップということでその分のハンデも背負った状態で戦っていたのでそこでの差というのは常に残った状態で戦っていたと感じている。

──今回ホンダ勢の全車がQ2に進んだ要因は何か?

佐伯氏:間違いなく言えるのは対スープラという観点で見るとNSX-GTの方が軽いという側面はある。それとこの前の鈴鹿ぐらいからタイヤメーカー間の競争が激しくなっており、ダンロップさんが結構強くなってきた。ここに来て横浜ゴムさんも、それに対抗できるような良いタイヤを準備してこられて、ダンロップ、横浜装着車も含めて上位に入れるようになった。

 それに加えてブリヂストン装着車では対スープラと考えるとやや軽い。ツインリンクもてぎはブレーキングの多いサーキットなので重さはかなり効いてくる。実際100号車が1燃リスダウン(重量が50kgを超えると、3段階で燃料リストリクターに置き換えるのがルール)になっており、ストレートではホンダ勢の中でも飛び抜けて遅かった。それでもQ1が突破できたのは車体側のセットアップがかなり進んできたということだ。また、前半のエンジンはドライバビリティに力を入れてきたので、パーシャルでもって踏み込むようなツインリンクもてぎに合っていたのだと言える。

──ホンダ勢は全車1機目のエンジン(今シーズンのSUPER GTのGT500ではシーズン中2機までのエンジンが利用できる)で戦っていると思うが

佐伯氏:コロナ禍という状況の中で、部材の調達にも障害が生じたりしているという物理的な問題もあるが、今シーズンのチャンピオンを狙う上でどこでそれをするのが最適なのかというのをまだ検討している段階で、最終決定は下されていない。今後それをよく検討し、どこかのタイミングで交換していこうと考えている。

──後半戦に向けて新しいフレッシュなエンジンは切り札になると考えているか?

佐伯氏:この状態でハンデウェイトがそろってくると、やはりスープラが速くなってくる可能性がある。そうなるとスープラに逃げられてしまう可能性があるので、エンジンというのは1つの武器になると考えており、その狙い所をどこにするのかというのを今まさに検討している。

──今シーズンはシーズン中のテストが出来ないが、その影響は?

佐伯氏:土曜日の公式練習などでは、各車ともに豊富なメニューがある中で、今後のことを考えたテストをして頂いたりもしている。持ち込みセットが問題なければ良いのだが、常にそうとは限らないので、限られた時間の中でチームはかなり忙しく作業している。ただ、それは3メーカーとも同じなので、みんな3メーカーともに忙しくやっていると思う。

──持ち込みセットを決めるのにシミュレーションなどはどのようなことをやっているのか?

佐伯氏:我々の方でも過去のデータの解析やサスペンションの使い方のシミュレーションなどのデータを各チームと共有している。そうしたデータと、チーム側のデータを下にチームのエンジニアが持ち込みセットを決めて持ってくる形になる。そこをベースにして、これをこっちに振ってみようとか、研究所から提案した方法を少しやってみようということを公式練習という短い時間でやっている。

──そのシミュレーションというのはドライバーさんが乗ったりするのか?

佐伯氏:さまざまだ。オフラインのシミュレーションもあれば、研究所内で研究所のメンバーが乗って確認したり、ドライバーさんに来ていただいて乗ったりと複数の種類がある。

第4戦もてぎは17号車 KEIHIN NSX-GTが優勝。ポイントリーダーに

 第4戦もてぎの決勝レースでは17号車 KEIHIN NSX-GTが優勝し、16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTが今シーズン初の表彰台3位、100号車 RAYBRIG NSX-GTが5位、64号車 Modulo NSX-GTが10位となり、17号車が今シーズン2勝目をマークしたほか、5台中4台が入賞するという結果になった。

──決勝の総括を

佐伯氏:昨日の予選では、他社はウェイトハンデの影響が大きく、Q2に進むのが難しかったこともあり、NSXは全車がQ2に残れたため決勝でのターゲットは全車が予選ポジションから大きく順位を落とすことなく確実にチェッカーまで持って行くというお話しをさせていただいた。

 特にポイントラインキングで上位に入っているクルマの上で確実にゴールするということでチームと目標を共有していた。

 今日のレースでは8号車はアクシデントもあってリタイアになってしまったが、優勝した17号車1つポジションを上げているし、16号車は4つポジションを上げて初表彰台、100号車も1つポジションを上げている。

 また、64号車はタイヤが厳しくなってしまった中でもファイナルラップにポイントリーダーだった36号車から順位を奪って10位に入り1点を勝ち取った。ホンダにとっては非常によいレースをすることができたと考えている。

 このツインリンクもてぎのレースはSCが入りやすいレースということで、我々もそうした荒れた展開に巻き込まれるのではないかということを心配していたが、みんな落ち着いてよくやってくれたと思う。今後の中盤戦もこうしたレース展開が続くと思うので、次戦も続けて頑張っていきたい。

──昨日の予選の後では、ツインリンクもてぎはハンデウェイトの感度が結構あるのではないかというお話しをされていた。FRのNSXで走ってみて去年との差はあったか?

佐伯氏:元々は感度が大きいはずだと考えていたが、他メーカーの上位の車両はかなりウェイトを積んでいるということもあり、ウェイトの差というよりは燃リス(燃料リストリクター)の差が今回大きく出たという風に考えている。本来はもっと軽いクルマが上位に来るだろうと思っていたので、そうでもなかったというのはちょっと意外だった。

 ミッドシップとFRの差というのは、今年と去年のクルマは大きく変わっているし、タイヤも大きく変わっているので直接比較するのは難しい。ただ、思ったよりはよく走ったなと感じている。

──レースを振り返ると17号車のパフォーマンスが予想以上だったが、17号車だけ何かを見つけたのだろうか?

佐伯氏:選んでいるタイヤと2人のドライバーのマッチングだと感じている。セットアップもそれにあわせて変えているとは思う。今シーズンは選んでいるタイヤとドライバーのドライビングスタイルがはまっている、そう感じている。同じブリヂストンタイヤといってもすごく種類あるので、100と8が完全に同じタイヤかというとそうではないので、そのあたりがきれいにはまっているなと感じている。