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ホンダ、SUPER GTで2連覇を目指す エンジンの吸排気系を軽量化した2021年型NSX-GT

1号車 STANLEY NSX-GT(山本尚貴/武藤英紀、BS)

 4月10日~11日、岡山国際サーキットにおいて、日本で最も人気があるモータースポーツ「SUPER GT」の開幕戦が行なわれる。2021年シーズンの話題の一つは、昨年の最終戦でSUPER GT史上最も劇的な大逆転劇で昨シーズンを征したホンダのNSX-GTだ。2019年まではミッドシップだったエンジンをフロントに移動し、FRに駆動方式を変えた初年度で8戦中5回のポールポジション、4回の優勝、そしてチャンピオン獲得と結果だけを見れば上々の年だったといっていいだろう。

 2021年のホンダは、同社のSUPER GT活動としては前身の全日本GT選手権時代も含めて1度も実現したことがない2年連続チャンピオンという新しい目標に向かって挑戦する年となる。

 2021年シーズンのホンダのSUPER GT活動について、活動を統括する本田技術研究所HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏、シャシー開発をリードする同 SUPER GT 車両開発担当 徃西友宏氏のオンライン会見をお届けする。

エンジンの吸排気や配管を見直してフロントを軽量化。公式テストで効果を確認

──2人から今シーズンを迎えるにあたってコメントを。

佐伯氏:コロナ禍はまだ続いているが、そんな中で関係各所の努力で開幕戦にこぎ着けることができた、関係各所の努力に感謝したい。また、モータースポーツを応援していただいているみなさまに感謝しながら、我々のレースで多くの方々に勇気や元気を与えることができるようにがんばりたい。

 昨年は最終戦の最後の最後に劇的な形でチャンピオンを獲得することができた。ディフェンディングチャンピオンとしてカーナンバー1を着けて新しいシーズンに臨むことができるのは気持ちがいいというのは正直なところだ。

 しかし、昨年を振り返ると一番速い車両はGR Supraだったというのは否定できない。我々は昨年からFRシャシーに変更し、チャレンジャーとして臨んだのに、8戦中5回のポールポジション、4回の優勝とその結果だけを見ると圧倒的とみえるかもしれないが、実際にはレースごとに搭載されていくサクセスバラスト(筆者注:昨年まではハンデウェイトと呼ばれていたポイントに比例して詰まれるウェイトのこと、今シーズンからはサクセスバラストという名称で呼ばれることになる)を元にデータを補正していくと、全レースで負けていたというのが実態だった。

 岡山国際、スポーツランドSUGO、オートポリスなど、昨年はレースが開催されていなかったサーキットに対応できるように、シーズンオフの公式テストではさまざまなテストをして引き出しを増やすような取り組みをしてきた。連覇に向けてがんばっていきたい。

徃西氏:車体領域の方は、共通部品が多いし、今シーズンのレギュレーションで開発が凍結されている部分も多く、ハードウェアを進化することはあまりできない。そこで、昨年のクルマを使いこなせるようにとテスト走行の中でセットアップの合わせ込みを進めてきた。また、一部のチームのタイヤ銘柄が変わって、ダンロップさんが2台に増えた、ブリヂストンさんの3台と合わせて相乗効果を上げていけるように冬のテストでサポートしてきたのもトピックだ。昨年はレースができなかった岡山が開幕レースとなるので、テストの成果が生かせるようにしていきたい。

──冬の公式テストを振り返っての評価は?

佐伯氏:先ほども説明したが、昨年はFRのシャシーを使い始めて、仕様が決まったところで開幕というタイミングでレースが延期されて7月になった。SUPER GTでは練習走行が土曜日の午前中しかないため、その後午前中に大胆なトライをするということが難しい。ある程度実績のあるセットアップでしかレースができないということが我々にとっては大きな課題だった。

 そこで、冬の公式テストでは、さらに可能性を広げるようなセットアップ、具体的にはFRをもっと上手く使っていくためにはどうしたらいいのか、それを確認するのに結構時間を費やした。その結果、我々の中ではかなり引き出しが増えたという内容のテストができたと考えている。また、タイヤメーカーさんとしてダンロップさんが2台体制になったので、それに対応したタイヤ開発を進めた。

 エンジンの方としては、車両のセットアップの幅を広げるというところの狙いの1つとしてフロントまわりの軽量化を進めた。エンジン本体の方はホモロゲーションの部分もあり大きな変更はできないが、エキマニや排気といった部分、すべての配管類を見直し、それに合わせてオイルや水の量も減らすということで改良を進めている。

 また、一部正常進化という部分では、改良部品を適用したり、昨年は表に出なかったようなトラブルを解消して信頼性の再構築と使い方の見直しという観点でテストを進め、比較的順調に進んできたと考えている。

徃西氏:岡山の公式テストでは、NSX-GTとしてはできればこのサーキットではポイントを多く獲りたいと考えてきたので、ライバルよりもパフォーマンスで上回りたいと考えていた。結果から言えばわるいということはなかったが、トヨタ勢の中で仕上がりのよいクルマとは差がない状況で接戦だと考えている。

 その一方で富士の公式テスト。昨年富士では4レースあって勝つこともできていたが、今年のクルマで公式テストを走ってみると、トヨタさんのクルマがさらに強くなっている印象だ。1周のタイムも、最高速も、ロングランペースでも速い。こちらではうちの方は昨年よりもやや厳しい戦いになっている、そういうふうに捉えている。

エンジンはパワーアップ。フロント軽量化の目的はパワーよりもシャシーへの影響

──エンジンの方は昨年よりもパワーアップしているのか?

佐伯氏:大きなステップアップかと言われればそうではないが、常に年間2基を使うというルールの中で、昨年と、まったく同じエンジンを使い続ける意味はないので、パワーの方は少し上がっている。ただ、すでに述べたように大きなステップアップではないという言い方になるが、上がる方向にあるという表現になる。

 エンジンの軽量化に関しては吸排気、冷却系、それにつながる配管などすべてを見直したので大きな軽量化が図れている。

──今年のエンジンは熱効率の観点で改善されているのか?

佐伯氏:パワーが上がるイコール熱効率が上がることなので、そのとおりで少なからず上がっている。

──エンジンの吸排気や配管などを軽量化したということだが、それも熱効率の改善に役立っているのか?

佐伯氏:むしろ逆に作用している(苦笑)。ではなぜ?ということだと思うが、それはエンジンをある程度我慢してもフロントを軽くしないということにある。

──エンジンには何か新しいタマが入っているのか?

佐伯氏:何個かそういうまださらに上げられるような手法は見つかっている。ただ、このカテゴリでは1基あたり走る距離が長いのでそれと相談ということになる。信頼性の部分とバランスを取りながら随時適用していっている。このタイミングではそう大きなタマが入っていないのはそういうことで、シーズン中に入れられるものは入れていきたい。

──コロナ禍が続いているが、そうした中で開発を続ける難しさは?

佐伯氏:普段の生活の中でも開発メンバーが対策を取りながら開発を進めている。もちろんテレワークにできる部分はテレワークにし、装置を動かしているメンバーは装置を止めないように交代で行なったり、多少の不便はあるが、今までどおりできている。

徃西氏:車体もテスト設備でやらないといけないのはテレワークではできないので、人の割り振りなどで工夫する方向でできている。また、会社もできるだけテレワークで図面を引いたりなどの環境を構築してくれているので、それを活用して開発は続けられている。

──今シーズンの目標は?

佐伯氏:やはり2連覇だ。ホンダは歴史的に2シーズン連続してチャンピオンを獲ったことがないので、今シーズンはそれを目標に取り組んでいきたい。

17号車 Astemo NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット、BS)