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日本ミシュランタイヤ新社長 須藤元氏に、2021年度の注力ポイントについて聞く

日本ミシュランタイヤ株式会社 代表取締役社長 須藤元氏

 4月1日付で日本ミシュランタイヤの代表取締役社長に主任した須藤元氏。須藤氏は、日本ミシュランタイヤとしては初めての日本人社長であり、中国ミシュランタイヤ 直需タイヤセールスマネージャー、日本ミシュランタイヤ 直需タイヤビジネスビジネスアナリストなど歴任し、アジアのミシュランタイヤ販売の最前線を担ってきた。

 就任時期となった2021年度は、日本のみならず世界的にコロナ禍の状況でもあり、さらにグローバルで進むカーボンニュートラルへの対応も行なっていく必要もあるなど、自動車業界激変の時期でもある。

 そのような難しい状況の中、新社長に就任した須藤氏に2021年度の日本ミシュランタイヤの方向性などをうかがった。


──社長就任から約2か月ほど経過しましたが、コロナ禍という状態で非常に舵取りが難しいと思います。現状をどう捉えていますか?

須藤社長:予期せぬことがいろいろ止まらずに起きているので大変ではあります。私自身、社長就任にあたって座右の銘である「疾風に勁草を知る」を書かせていただきました。まさしくこういうときこそ真価が問われると自分にも言い聞かせており、こういうときこそがんばれるように社員と一緒に心がけています。ピンチをチャンスにできないか、日ごろ社員とコミュニケーションしています。

──そのような厳しい状況の中で、ミシュランが日本で2021年度に注力することはなんですか?

須藤社長:大きく2つのことがあると思っています。まず私たちはどんな時代でも、変動のときでも、社会から期待されている部分については変わらず行なっていく。サステナビリティというところで社会へ貢献していく。

 特にそれはモビリティであり、タイヤを中心にデジタルソリューションやハイテクマテリアル技術を活かしながらタイヤを超えていく。ここは改めて社員ともう一度ぶれずにというところを確認しています。

 逆に、こういうときにこそ変化を加速する必要があると思っています。コロナ禍となり、社会が「サステナビリティが必要」と改めて認識するトリガーになったかと思います。

 ミシュラングループ全体の発表ともリンクしているのですが、サステナビリティをミシュラングループとして再定義しましたし、日本のミシュランとしてもほかの国の先導となるようやっていきたいと思っています。

 もう一つは、働き方を含めたいろいろな選択肢をビジネスも含めて今後増やしていきたい。たとえばデジタルを含めたツールを使ってですね。社内でも社外でも距離的なディスアドバンテージがあったところを、コロナ禍をきっかけに新しいツールを積極的に利用していきたいです。選択肢を広げてビジネスを加速させたい。その一つがデジタル化というところです。

 デジタル化のおかげで、コロナ禍という環境下でもこうして(リモートで)お話ができていると思うのですが、やはりデジタルを使ったとしてもフェイストゥフェイスにはデジタルに置き換えれないコミュニケーションもある。すべてが置き換えるわけではない。

 何がよいのかというところを見極め、選択肢を増やし、どう使い分けていくのか。コミュニケーションというところについては、これからも注力していきたいと思います。

 タイヤの性能についても、今後サステナビリティということを推進する中で、情報をお伝えする量が豊富になるほか、少し複雑になる恐れがあるので。

──本誌的には、やはりミシュランが今後どのようなタイヤをリリースしていくのか、どのような施策を行なっていくのかにも強い興味があります。その点について可能な範囲で教えてください。

須藤社長:弊社では3段階で考えています。これは「タイヤ」「タイヤ関連で」「タイヤを超越した」の3つになりますが、私たちのコアビジネスはタイヤでありますので、まずタイヤをどうしていくのか。先ほどサステナビリティでも触れましたが、現在強いメッセージを発信している、性能の持続性というところになります。

 新品時は性能よいけど、タイヤを交換する直前になると安全ではないというのは違うと。残溝が1.6mm(スリップサイン部で、トレッド高と溝が同じになる数値)になるのを待たずにどんどん交換するのは環境にもよくないということで、たとえば弊社の「プライマシー4」では使っている最中の性能変化が少ないことを訴求しています。ここについては、引き続き注力してやっていきます。

──ミシュランのタイヤといえば、高い技術力に裏打ちされたさまざまな製品群があり、モータースポーツの現場でもその高い性能は示されていると思います。ただ、一方それが大きく浸透しているかというと、一部輸入車ユーザーには理解されていますが、まだまだ広げる余地はあるのではないかと思います。そのようなミシュランの技術力を広く認知してもらうためにどのようなことを考えられていますか?

須藤社長:まずは、ユーザーの要望に合ったタイヤを提案していかなければならないと考えています。消費者の方に一番分かりやすい性能として、静粛性があると思います。

 電動化というのは毎日聞く言葉になっています。私自身は去年の夏まで中国にいて、中国の電動化需要に対するタイヤ開発の渦中にいました。電動化が進む段階で、どういうタイヤがよりフィットするかというところ。日本ではピュアEVはそれほど多くありませんが、PHEVやHEVといった電動化は進んでいる。

 するとクルマから発生するノイズがなくなっていくことで、よりタイヤの音が目立ってくるため、静粛性への対応というところが一つあります。

 それから、電動化でクルマはCO2を排出しなくなっていきますが、電気を作る段階ではCO2排出などが起きている。それを抑制するためには燃費同様、同じサイズのバッテリでもより長く走れるという部分で、転がり抵抗を低減していく必要がある。

 また、電動化によってクルマの車重が増えていく傾向にある。そうしたときに偏摩耗などしないような剛性が必要になってくる。

 このバランスですね。これまでとは違ったバランスでの設計・開発が必要になってきます。

 これは市場の新しいニーズが出てきている部分で、そういった部分でナレッジ(知見)を増やしていきたい。そこに対して弊社がグローバルで進めている開発、フォーミュラE(FIAによる電動フォーミュラカーで行われる世界選手権))からの知見、それらを含めて、より一歩でも、より半歩でもよい提案ができればうれしいなと思います。

──日本政府も含め、全世界的にカーボンニュートラルを進めていくための施策が行なわれ、自動車業界的にもそれは同じかと思います。ミシュランとしてカーボンニュートラルへ向けての施策、そしてそのロードマップなど教えていただけますか?

須藤社長:ミシュラングループで先日発表したコミットメントとして、2050年にはカーボンニュートラル、2030年には50%減です。私たち日本も、いろいろな方面でカーボンニュートラルの先駆者になりたいと考えています。

 タイヤの性能はもちろん、転がり抵抗を削減しながらそのほかの性能においてもギブアップしないということ。

 また、弊社ではトラックなど商用車向けのフリートソリューションを提供しています。この分野においても、デジタルとのコンピネーションでリソースを効率的に使って、CO2削減をお手伝いしていきます。

 そのほか、日本においては開発は行なっているものの、タイヤは100%輸入となっています。たとえば輸送の部分においても、どのようにCO2削減ができるのか検討しているところです。

 地球や社会におって、より安全でより環境負荷が小さいタイヤを提供していきます。

 ミシュランでは、ミシュランガイドも提供しており、この部分においてガストロノミーサステナビリティ文化というのも非常に重要だと思っています。この文化が途絶えるようであれば非常に残念だと考えていますし、この分野の持続性に微力ながらも貢献したい。そこで昨年からミシュランガイドにはグリーンの「ミシュラングリーンスター」という新たな星を設けています。

 これは美食におけるサステナビリティに注力されているお店に焦点をあてさせていただいて、こういう形で貢献させていただこうと思ってます。

──ミシュランはグローバルで、人、地球、利益「三方よし」という方針を発表されました。これは日本においてどのような展開につながっていきますか?

須藤社長:人の部分においては、まずは安全であること。今後のために安全に制限をかけるとかをしないということです。タイヤはレーダーチャートで性能を示すことが多いのですが、サステナビリティのために安全面で妥協する、環境のためになにかを我慢など性能の幅を狭めることは行ないません。先ほど転がり抵抗低減という話をしましたが、ほかのことを犠牲にしないという条件を自らに課してやっています。

 コロナの経験によって、改めて人やものの移動がどう重要かということが分かってきましたが、サステナビリティのために新たな制約があってはならないと思っています。制限をなくしつつ、より一層安全にサステナブルにしていく。

 まもちろん社員には、コロナ対応を含め第1に安全優先でと改めてやっております。

 社員と共有してる信念としては「社会に必要とされていること」です。ここを実現していくことで、そこに「いいね」という社会の共感がついてきて、そこに収益というのもおのずとついてくると信じて取り組んでいます。

──その取り組みをどのように伝えていこうと考えていますか?

須藤社長:ミシュランの製品としてはみなさんおっしゃるとおり、弊社のぶれないところっていうのがあって、よくもわるくも信念を持って製品を作っている。ここに込めた思いをより多くの人に伝えていくことができればと考えています。

 私たちの伝え方というのに、ここはまだやる余地がいっぱいあるなと思っています。私たちだけが分かって伝えるだけじゃいけない。やはりちゃんと受け取っていただく、なるほどねって言っていただける伝え方が必要です。

 今後、販売店さまを通して出会ったり、弊社がデジタルで直接伝えたりなど、いかに分かりやすく訴求できるかというのは、常々課題です。デジタルによっていろいろなチャンネルが増え、チャンスも増えています。そこを工夫し学びながらがんばっていきたいなと思ってます。


 須藤社長の話を通して見えてくるのは、ミシュランがグローバルでカーボンニュートラルに取り組む姿勢と、電動化が進むアジアに向けての最適な製品の投入だ。ご存じのとおり、ミシュランのタイヤは決して安い製品ではなく、ミシュランの製品や性能を、そして企業姿勢などを評価して購入されている、ある意味指名買いに近い製品だ。

 そのため、ふらりとタイヤ屋さんに寄って購入するものではなく、ミシュランを理解して買われている。それだけに、ミシュランは性能を上げる必要があり、その性能をきちんと伝える必要がある。

 そして、ミシュランとしてすでに伸ばしている性能は、サステナビリティ。サステナビリティというと分かりにくくなってしまう部分もあるが、タイヤの摩耗時もきちんと性能を維持していくことと、燃費をよくするための技術を、従来の性能を下げずに盛り込んでいる。「プライマシー4」がその典型とも言えるタイヤなのかもしれない。

 そして、今後については電動化によって求められる静粛性の高さと、重量が増えがちな電動車に耐えうるケース剛性の高さを実現し、さらに乗り心地をよくするという、ある意味背反する性能になる。こちらはロングスパンになるかもしれないが、製品の登場を楽しみに待ちたい。