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パナソニック、JVCケンウッド、WiLの3社、新会社「Vieureka(ビューレカ)」発表会 「人に代わって働くエッジAIの社会実装を目指す」

2022年6月7日 開催

エッジAI プラットフォームを提供する新会社「Vieureka(ビューレカ)株式会社」の発表会を開催

 パナソニック ホールディングス、JVCケンウッド、WiL(WiL, LLC)の3社は6月7日、エッジAI プラットフォームを提供する新会社である「Vieureka(ビューレカ)株式会社」に共同出資すると発表。同日に記者発表会を開催した。新会社は2022年7月1日から営業を開始。新会社が持つ技術をJVCケンウッドが開発、販売している通信型ドライブレコーダーの新サービスの提供に活用する考えも明らかにした。

 JVCケンウッド 代表取締役 専務執行役員 モビリティ&テレマティクスサービス分野責任者 事業改革担当の野村昌雄氏は、「Vieurekaが持つエッジAIハードウェアを遠隔マネジメントする技術が、通信型ドライブレコーダー向けの新たな付加価値サービスを提供する上で重要なツールになると考えて出資をした。3社によるパートナーシップを通じて、通信型ドライブレコーダーに新機能、新サービスを追加できるようになる」などと述べた。

Vieurekaは2022年7月1日から営業を開始

 Vieurekaは、パナソニック ホールディングスの研究開発部門で蓄積してきたハードウェア、ソフトウェア、AIなどの技術を掛け合わせて創出したエッジAIプラットフォームサービスであり、AIによるデータ処理が可能な「Vieurekaカメラ」と、カメラ上で実行されるアプリケーションを遠隔地から管理できるクラウドベースの「マネジメントソフトウェア」、アプリケーションを開発するための「ソフトウェア環境」で構成。2017年から事業化しており、Vieurekaパートナープログラムにはソリューション、ハードウェア、セールスインテグレーション分野において65社のパートナー企業が参画し、エッジAIの活用提案を進めている。

 JVCケンウッドでは、今回の出資を通じてVieurekaが持つマネジメントソフトウェアの技術を活用し、通信型ドライブレコーダーの進化に取り組むことになる。通信型ドライブレコーダーは損保会社向けなどで実績を持っており、保険商品と連動したサービスにも活用されている。

株式会社JVCケンウッド 代表取締役 専務執行役員 モビリティ&テレマティクスサービス分野責任者 事業改革担当の野村昌雄氏

 JVCケンウッドの野村氏は、「JVCケンウッドは中期経営計画のVISION 2023において、通信型ドライブレコーダー端末の付加価値向上によるサービス事業創出に取り組んでいる。また、『変革と成長』をキーワードに事業を推進しており、そのミッションの1つとして通信型ドライブレコーダー端末に注力している。2022年度中には累計出荷台数が200万台に到達すると見込んでいる」と前置きし、「通信型ドライブレコーダーをサービス事業に転換することを社内で検討している。そうした中、当社が第1号ファンドとなっているWiLからVieurekaを紹介してもらった。Vieurekaが持つエッジAIのハードウェアの遠隔マネジメント技術を活用して、新型ドライブレコーダーを中心にした付加価値サービスを提供したい。通信型ドライブレコーダーはスマホのようなものであり、アプリをダウンロードすることでさまざまな機能が利用できるようになる。Vieurekaプラットフォームにより、機能の強化ができる環境の実現とともに、通信型ドライブレコーダーのマネジメントも行なえるようになる。信頼性や安定性も実現できる」などと述べた。

 さらに、「通信型ドライブレコーダー以外にも、カメラをベースにしたエッジAI機能を活用した製品の投入や、距離センサーを活用したサービス創出においてもVieurekaプラットフォームを活用でき、安心、安全を強化できる。また、ディスプレイオーディオに関しても、端末にAIを搭載し、追加の付加価値サービスを提供したい。仕組みを広げてWin-Winの関係を構築できることを期待している」と述べた。

 新会社の出資比率は、パナソニックホールディングスが32.967%、JVCケンウッドが 32.967%、WiLが31.868%、代表取締役に就く宮﨑秋弘氏が2.198%となっている。2030年度には売上高100億円を目指す。

Vieureka株式会社 代表取締役の宮﨑秋弘氏

 Vieurekaの宮﨑秋弘代表取締役は、「エッジAI市場をリードしてきたパナソニックグループ、ドライブレコーダー市場のリーディングカンパニーであるJVCケンウッド、大企業のオープンイノベーション支援で実績を持つWiLの3社の強みを兼ね備えた大企業発のスタートアップ企業として、軽くて、速い経営手法を導入し、人に代わって働くエッジAIの社会実装を目指す」と述べた。

Vieurekaが目指すもの

 Vieurekaが提供するエッジAIの強みについて、宮﨑代表取締役は「すべてのデータをクラウドに送信し、クラウドでAI処理を行なう『クラウドAI』に対して、『エッジAI』はIoT機器やセンサーなどの端末に高性能なエンジンを搭載して、端末でAI処理を行ない、必要なデータだけを抽出し、少ないデータをクラウドに送信できるのが特徴。エッジで処理するためリアルタイムで判断したり、その場で指示やアラートを出したりもできる。また、個人情報をエッジ端末の外に出さないような処理が可能になり、プライバシー保護が担保できることや、必要なデータだけを送信するため、通信コストを1万分の1にまで削減できるといったメリットもある。エッジAIを活用することで、交通、店舗、工場、病院などといった現場の人による作業を置き換えできるようになる」とする。

クラウドAIとエッジAIについて
エッジAIの特長

 菓子メーカーでは、小売店舗の菓子売り場にVieurekaを導入し、売り場を訪れる人数や性別推定、年齢推定、滞留時間の測定などを行ない、販売機会を定量化して売り場を改善。菓子売り場の売上げを前年同期比で約10%増加させることができたという。また、トーア紡マテリアルでは、不織布の製造工程において、表面汚れや異色繊維の自動検知にVieurekaを採用。現場作業員の不良品検知作業を省力化できたという。さらに介護施設を展開するHITOWAケアサービスでは、入居者のプライバシーに配慮した遠隔見守りサービスにVieurekaを活用しており、すでに約1500床を対象に導入し、介護スタッフによる夜間巡視業務を77%削減できたという。

導入事例について

 宮崎代表取締役は、「Vieurekaプラットフォームは、開発、導入、運用のハードルを下げることができる仕組みが特徴である。エッジAIの多くがPoCに留まっているのに対して、Vieurekaは社会実装を行ない、成果をあげている点が大きく異なる。特にスマホのアプリのように、遠隔からアップデートでき、エッジAIを管理できることがVieurekaの社会実装を進展させる要素になっている」としながら、「BtoBのビジネスモデルに加えて、BtoBtoCに向けた事業展開も検討していく。ドライブレコーダーを保険会社を通じてドライバーに提供し、シートベルトを着用していることを認識して、それを保険料に反映するといった使い方もできる。また、将来的にはカメラ以外のセンサーを活用したエッジAIの取り組みも想定している。カメラを使わずに通信インフラの基地局にエッジAI機能を実装するといった用途も検討している」などと述べた。

パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCTO コーポレートイノベーション・ベンチャー戦略担当の小川立夫氏

 一方、パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCTO コーポレートイノベーション・ベンチャー戦略担当の小川立夫氏は、「2012年からエッジAIの可能性に着目し、10年間に渡ってトライアルをしてきたが、パナソニックグループの中に抱えてリニアな成長を目指すよりは、出資会社を募り、勝負をして、T2D3という高い成長につなげる挑戦をしてみたいと考えた」と今回の新会社設立の背景を説明する。

WiL, LLC ジェネラルパートナー兼共同創業者の松本真尚氏

 また、WiL, LLC ジェネラルパートナー兼共同創業者の松本真尚氏は、「パナソニックグループとJVCケンウッドのリソースを活用した大企業発のベンチャー企業を生む仕組みを構築でき、大企業のクローズイノベーションをオープンイノベーションとして展開できる。世界に通用するサービスを提供したい」と述べた。