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平川亮選手、小林可夢偉選手、ル・マン24時間優勝&トヨタ5連覇後のオンライン会見

ル・マン24時間レースを優勝したTOYOTA GAZOO Racing 8号車。左から、セバスチャン・ブエミ選手、平川亮選手、ブレンドン・ハートレー選手

ル・マン24時間、トヨタ5連覇&平川亮選手は初優勝

 6月11日~12日の2日間にわたってル・マン24時間レースが開催された。結果はすでに数多く報道されているとおり、TOYOTA GAZOO Racing(トヨタ自動車)の8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮組)が優勝。平川亮選手はル・マン24時間レースを初優勝した。

 2021年にル・マン24時間レースを優勝した小林可夢偉選手は、2022年は7号車(小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス組)のドライバーとTOYOTA GAZOO Racing WECチームのチーム代表を兼任。7号車は8号車とトップを争っていたが、15時間過ぎにトラブルが発生。ピットインすることになり、8号車に1周遅れとなった。その後、同一周回まで8号車を追い詰めるが、ノントラブルの8号車を追い詰めることはできず7号車としては2位になった。可夢偉選手はドライバーとしては2位、チーム代表としてはTOYOTA GAZOO Racingの1-2フィニッシュを成し遂げた。

 トヨタ自動車としては、ル・マン24時間5連覇を達成。過去の連覇記録は、ポルシェが7連覇、フェラーリが6連覇、アウディが5連覇のため、これでアウディに並び、100周年となる2023年はフェラーリの記録に挑むこととなる。

24 Heures du Mans 2022 - FULL RACE HIGHLIGHTS | FIA WEC

 6月16日、平川亮選手、小林可夢偉選手の両名がル・マン優勝後のオンライン会見を行なった。

ル・マンを初優勝した平川選手、表彰台からの景色は「自分が地上で見た写真の中で一番お客さんが入っていた」

8号車のゴールを見守る平川選手

 ル・マン24時間を3度目の挑戦(前の2度は、GAZOO Racingと異なるチームで参戦)で初優勝した平川選手は、「ボクとしては初めてGRのドライバーとしてル・マンに臨んだのですが、最終的には優勝できてもちろんうれしかったです。ここに来るまでがかなり自分としてはいろいろあり、挫折とかも何回も経験した結果で、何か簡単に勝ったような感じはしたのですけど、今までのことを振り返るとどちらかというか、何というか……。ほっとしたというか。自分を追い込んでここまでやってきたので、少し自分をほめてあげたいなというのを今思っています。何よりここに、ここのシートに乗せていただいた関係者、モリゾウさん並びに多くの関係者に感謝しています」と語る。

 とくに8号車の優勝した要因としては、3人のドライバーの速さ、GR010ハイブリッドというトヨタが作り上げたハイブリッド車の速さもあるが、24時間トラブルが出なかったということが挙げられる。平川選手もそこに触れ、「僕らの8号車のクルマはまったく壊れなかった。メカニック並びにエンジニアのみなさま、たくさんの方に本当に感謝してます」とお礼を述べた。その上で、「ル・マンをボクとしては初めて制覇したのですが、今後まだまだチャンスがあると思いますし、連覇へ向けてがんばっていきたいと思います」と会見冒頭のあいさつを結んだ。

 ル・マン24時間レース前のオンライン会見では、レース後どのような風景が見たいですかという質問に対して「表彰台からの景色、そこを狙って24時間走ります」と語っていた平川選手だが、実際に表彰台からの景色、しかも一番高い位置からの景色を見ることができた。

 その点について聞いてみると、「そうですね、もちろん景色は覚えているのですが疲労度は100%を超えていて、もうなにか、疲れました。ここ数年コロナでお客さんが入れなくて、(今年は)これまで以上にお客さんが入ったと聞いていて、自分が地上で見た写真の中で一番お客さんが入っていて、これだけの人に注目されて、しかも自分はル・マンで勝ったんだなという、なにか達成感がすごいです。達成感を一番感じたのかなっていう……」と答えてくれた。

 ただ、ル・マン24時間レースを優勝してから数日経つが、まだ現実感は薄いという。平川選手はSUPER GTチャンピオンを獲得するなど数々のレースで勝利してきたドライバーだが、その平川選手でも観客数20万人を超えたと言われる今年のル・マンで頂点に立つことは、現実味が薄いほどの特別な勝利ということなのだろう。

 平川選手は冒頭の会見あいさつで「挫折」という言葉を使っているが、これに関しては前回のル・マン挑戦時でしっかりとした結果を残せず、その結果TOYOTA GAZOO Racingのル・マンのシートを得られなかったことだという。その後、2017年はSUPER GTチャンピオンを獲得し、2018年、2019年、2020年とランキング2位と、スーパーフォーミュラとあわせ着実な結果を出してきた。ただ、本人としては2020年の大逆転によりチャンピオンを失ったSUPER GTや、ランキング2位に終わった2020年のスーパーフォーミュラなどの挫折を乗り越えてつかんだル・マンの勝利とのこと。世界的なレースでの勝利を獲得し、20万人を超える観客の前で表彰台のてっぺんに立ったが、その実感はまだないというところだろうか。

 その平川選手は、今季3勝目、2連勝を目指して今週末のスーパーフォーミュラ第5戦SUGOに挑んでいく。

チームメイトの祝福を受ける平川選手
多くの観客の見守る中で行なわれた表彰式
GAZOO Racing Companyでマシン開発を行なう加地雅哉氏(右)と握手
ル・マンを制覇した8号車

2023年に向けては信頼性が大切と小林可夢偉選手兼チーム代表

ワンツーフィニッシュをよろこぶ小林可夢偉選手

 今回、ドライバーとチーム代表を兼任することになった小林可夢偉選手は、「みなさん、24時間応援並びに、いろいろ記事にしていただきありがとうございます」と報道陣にお礼を述べた上で、会見冒頭のあいさつを語った。「まず無事にGRとして2022年のル・マン24時間をワンツーで終わることできました。先ほど松浦さん(TGRの広報)が言われたように、7号車には若干トラブルが出てしまい、8号車への勝負権を失ってしまったものの、チームとしてワンツーで終えたことは非常によかったなと思っています。本当にいいレースを最後までしたかったなというのが本音ではありますが、これだけのハイテクな技術があるクルマとして、まだまだクルマ自体をもっと強いクルマにしていかなければいけないなということも今後の課題として理解しています。ただ、5連覇できたということは、本当にチーム並びにエンジニアが努力してくれた結果、この結果が出たと思っているので非常にチームに感謝したいと思います」(小林選手)と語り、ワンツーという結果を得ながらも、最後まで8号車と勝負できなかった悔しさがにじむ。

 ル・マン24時間という過酷なレースでドライバーとチーム代表の二役をこなした小林可夢偉選手だが、その大役については「おなかいっぱい」と表現してくれた。ドライバーとしても過酷な24時間を戦いながら、チームとしての決断を行なっていく立場にある。さらに、チーム代表のためル・マンを統括するACOの交渉や、チームをサポートしてくれる人々へのあいさつなど、さまざまなコミュニケーションが必要になる。

 多くの仕事があるため多少は何かを省けばよいのだが、可夢偉選手は性格的にそれはできず、すべての部分に携わってきたという。それを「おなかいっぱい」と表現していた。

 ただ、それから得られた結果は、自身は優勝できなかったものの、後輩である平川選手の初制覇、そしてチームとしてはワンツーで5連覇という見事な成績だ。ドライバーとチーム代表の二役に難しさはあるものの、大きな成果、記録的な成果を見せてくれた。

 その点について小林可夢偉選手に達成感はありますかと質問してみたところ、「達成感は正直ないです。なぜかというと、ワンツーになれというのも僕がここまで全部やれたというわけではなく、今までこのチームを強くするためにいろいろな人たちが、このチームをまとめてここまでのベースを作ってくれた。そういうものがあるからこそ、このチームがワンツーになって、明らかに強いチームだというのが分かるようになっている」と答えてくれた。もちろん、チームとしては強さはこれまでの蓄積もあるのだが、そこには2021年に優勝した小林可夢偉選手などの努力も入っているには違いなく、大きな力になっているのは誰が見ても明らかだ。

 しかしながら、小林可夢偉選手は「達成感は正直ないです」と言う。

「個人的に(24時間レースの中で)16時間まで、ずっと10秒くらいの差を2台が行ったり来たりしていた。7号車と8号車でバトルをしていた。そんなレースをお客さんに最後まで見せられなかったというのは正直悔しいです。あのまま最後まで、最後の1時間までしっかりバトルするレースを24時間やり続けたら、もっとお客さんを楽しませることができたと思う。レースとしてもっと魅力を伝えられたのかなていう部分もある。そこまで本当に戦ったときにドライバーがアスリートとして認知されるのではないかというところもある。なんでかというと、耐久レースは人間も耐久です。実際、勝負というところでは16時間くらいで終わってしまった部分を考えると、24時間準備してきたドライバーが24時間どれだけ力を発揮できるかというところを見て、お客さんに共感を得て『すごいな』と思ってもらえるのではないか。結果的に見ればそうなんですけど、見せるという部分に関しては、そこがやりきれなかったというところが非常にボクは悔しいと思っています。それができなかったところを含めていうと、来年はそれができるようにしたいなって思っています」(小林選手)。

 小林可夢偉選手にとって、24時間レースを通じてバトルができなかったのが相当悔しかった様子。記者からしてみれば、300km/hを超える速度で数時間バトルをし続けるだけで超人であり、夜中も事故なく高速で走り続けていた。さらに7号車はトラブルが出てしまったものの、24時間レース後半には8号車を追い上げるなど驚異的な速度を見せている。個人的にすごいと感じて見ていたが、小林可夢偉選手はもっとすごいものを見せたいと思ってル・マン24時間に挑んでいた。

7号車と8号車の争い

 では、そのすごいものは2023年に100周年を迎えるル・マン24時間レースで見られるのだろうか。2023年の第91回ル・マン24時間レースには多くのメーカーが新たに参戦してくる。トヨタは6連覇をかけて挑むことになるが、その6連覇を阻止するように6連覇記録を持つフェラーリが参戦してくるのも話題だ。2023年のル・マン6連覇にとって大切になってくるものを小林可夢偉選手に聞いてみたが、間髪入れずに「信頼性」という答えが返ってきた。

「完全に信頼性ですね。ドライバーもチームのオペレーションも含めてかなりレベルが高い。今回、全チームが参加するピットストップチャレンジ(ピット作業の速さを競うコンテスト)に挑戦したが、そこでTGRの8号車がベストタイムを取った。62チームの中で、8号車のクルーが一番速かった。チームとしてものすごくレベルの高いことをやっていると思う。なので、信頼性をよくできれば何の不安もないような2023年、100周年を迎えるんじゃないのかなと感じている。本当にそこだけ、集中してやっていくことが今、ボクの中では課題なのかなと感じています」(小林選手)と、信頼性について語る。

 小林選手はル・マン24時間前のオンライン会見でも、「24時間、パフォーマンスももちろんなのですけど、パフォーマンス以上にリライアビリティ(Reliability)、信頼性の確認っていうところがすごく重要になってくるので、しっかりそこを集中して、チーム一丸となって、レースまでに準備できるようにしていきたいなと思っています」と語っており、最善を尽くしても、さらにその上を要求されるのがル・マン24時間レースになる。

 2023年は100周年を迎え、さらに厳しい戦いが予想されるル・マン24時間レース。TOYOTA GAZOO Racingは6連覇へと挑んでいくことになる。