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佐藤琢磨選手、2023年参戦体制発表 最強チップ・ガナッシ・レーシングからインディ500を含むオーバルレースに参戦

2023年1月17日 発表

今シーズンはチップ・ガナッシ・レーシングの11号車でオーバルレースに参戦することを明らかにした佐藤琢磨選手

 インディカー・シリーズに参戦する佐藤琢磨選手は、1月17日に記者会見を実施。2023年シーズンは、過去15シーズンで9回のシリーズタイトルを獲得しているトップ・チームの「チップ・ガナッシ・レーシング」に加入し、インディ500を含むオーバルコースでの5レースに参戦する契約を結んだことを明らかにした。

 2010年よりインディカー・シリーズに参戦している佐藤琢磨選手は、2013年のロングビーチで日本人ドライバーとして初めてインディカー・シリーズ優勝を遂げると、シリーズで最高峰のレースであり、世界三大レースの1つである「インディアナポリス500マイルレース(以下インディ500)」で2017年、2020年に2度優勝するなど、記録を破り続けてきた。

 2023年シーズンは5月28日に行なわれる予定のインディ500の決勝レースで、佐藤琢磨選手は日本人ドライバーとして前人未到の3勝目を目指すことになる。

最強チーム チップ・ガナッシ・レーシングで2020年以来のインディ500 3勝目を目指す

 2022年の佐藤琢磨選手は、2018年から5シーズンにわたって在籍したレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングを離れ、新たなチームとなるデイル・コイン・レーシングへと移籍してフルシーズンを戦ったが、優勝はなくシリーズランキングも19位にとどまり、やや悔しさが残るシーズンとなってしまった。

 その要因の1つとしては、ホンダエンジン搭載のチームの中でもデイル・コイン・レーシングは最も小さいといっても過言ではないチームで、シーズンのクライマックスであるインディ500では、練習走行などで見せ場は作ったものの、レースでは25位と不完全燃焼で終わってしまった。

 佐藤琢磨選手によれば、今シーズンの体制に関してデイル・コイン・レーシングとも話を続けてきたものの、最終的にまとまらず、新しい可能性を模索した結果、今回のチップ・ガナッシ・レーシングとのオーバルコースを走る契約が成立したとのことだった。カーナンバーは11号車で、オーバルコースは佐藤琢磨選手が、ロード、ストリートコースに関してはマーカス・アームストロング選手がドライブするという体制になる。

 今シーズンのインディカー・シリーズのオーバルコースのレースは、下記の5レースが予定されており、このレースを佐藤琢磨選手がドライブすることになる。このため、今シーズンはシリーズチャンピオンを狙う戦いでなく、シリーズのクライマックスで最重要レースであるインディ500での3回目の優勝を狙うことになる。

4月2日:テキサス・モーター・スピードウェイ
5月28日:インディ500
7月22日:アイオワ・スピードウェイ レース1
7月23日:アイオワ・スピードウェイ レース2
8月27日:ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ

多くのスポンサーやファンの後押しがあって最強チームからインディ500に参戦できる

佐藤琢磨選手

 佐藤琢磨選手によるコメントを以下に紹介する。


 昨年はデイル・コイン・レーシングという、チームとしては小さなチームで精いっぱい頑張って最高の結果を目指してやってきて、インディ500では思い切り攻めることができた。シーズン中フラストレーションがたまることも多かったが、多くのサポートをしていただき走ってきた。しかし、自分たちが思い描いていたリザルトを得ることができず、今シーズンに向けてチームも頑張ったがフル参戦が難しいということになった。そこで、2023年に向けて参戦方法やレースにどのように携わっていくのかを考えてきて、葛藤の中で生み出したのが勝ちにこだわるという今回の体制だ。シリーズチャンピオンを追い求めて、選手権での優勝争いはできなかったが、インディ500で勝つことも重要だと考えた。

 そうした中でいろいろなチームからオファーをもらった。デイルとの話し合いを続けながらさまざまな話をしたが、大きな好機が訪れた。そこで、チームを移籍して、インディカーに新たな形で参戦することを決めた。チップ・ガナッシ・レーシングの11号車を、自分はオーバルレースを担当しマーカス・アームストロング選手がロードコースと市街地コースを担当するという形で参戦することを決めた。

 スポンサーの皆さま、ファンの皆さまの支援があって、こうしたレースを続けられるのは感謝の気持ちしかない。また、今回のチャンスをくださった、チームオーナーのチップ・ガナッシ氏とマネージング・ディレクターのマイク・ハル氏に感謝している。この契約をまとめるにあたり多くのスポンサーに支援してもらっており、これから最大限の調整をして、インディ500に参戦したい。チップ・ガナッシ・レーシングはトップをまい進し続けているチームで、昨年のインディ500もマーカス・エリクソン選手が優勝している。そのほかにもこれまで素晴らしいライバルとしてリスペクトしているディクソン選手、一昨年のチャンピオンであるパロウ選手という体制の中で、インディ500に挑戦できることを楽しみにしている。ぜひともファンの皆さまにはこれからも応援していただきたい。

参戦するレースは限られてしまうが、最高の体制でインディ500 3勝目を目指す

──常にライバルだったチームだが、どんな気持ちか?

佐藤選手:信じられない気持ち。ずっと打倒チップ・ガナッシ・レーシング、打倒ペンスキーという気持ちでやってきたから。2017年にはアンドレッティというトップチームで走ることができたが、チップ・ガナッシ・レーシングの強さ、リソースの大きさなどが楽しみである。これまで以上に申し分のない環境が整っているので楽しみしかない。

──期待感は大きいのでは?

佐藤選手:チップ・ガナッシ・レーシングで走ることは夢のように考えている。この3年、(インディ500での)ガナッシの強さは際立っている。マシンも熟成が進んでいて、インディ500では圧倒的な強さを見せてきた。昨年はデイル・コインで極限までドラッグをけずって同じスピードまでいけたけど、決勝ではチップ・ガナッシ・レーシングが圧倒的に速かった。どんな状況でも確実な性能差を見せてきていて、これは倒すのが大変だと感じていた。そのチームと契約して、25年を超えるキャリアで、本当の意味でのトップチームは初めての領域。そこで自分が走るというのは想像できないぐらい興奮している。

──チームメイトになるディクソン選手とはどんな関係になりそうか?

佐藤選手:これまではライバルチームなので、細かい内容は話していなかったけれど、意外と空力パーツの有無などに関しては話をしたりしていた。過去には自分ともいろいろなドラマもあったけれど、お互いにリスペクトをもって接しているので、チップ・ガナッシ・レーシングのマシンがどんなマシンなのか楽しみだ。ディクソン選手も2020年にやられた記憶があると思うので、お互いにさらに前進すべくサポートできたらいいと思っている。

──チップ・ガナッシ・レーシングのクルマならポールポジションも狙えるのでは?

佐藤選手:レイホール時代にフロントローまではいったことがあった。そのときには予選までに大きく環境が変わったのだが、入念に準備したことがフロントロー獲得につながった。今年はポールポジションが狙っていけるマシンに乗るし、強力なエンジニアリング体制があると思うのでそれを生かしたい。

──デイル・コインはチーム体制が厳しかった面もあったが、もう1年やりたいという気持ちがあったのでは?

佐藤選手:正直な気持ちで言えば、寂しいという気持ちもある。AJフォイトの時代も複数年所属してチームを前進させることを目的にしてきた。500の勝者として再びレイホールに戻ったときも、まったく走らないクルマから2019年3位、2020年優勝とチームも自分も大きく前進することができたし、自分も楽しんできた。デイル・コイン・レーシングでも同じ気持ちで取り組んできたが、チームのタイトルスポンサーもなく厳しい状況で、それを続けることができないと分かったときには寂しいと感じた。デイル・コイン・レーシングの今後にはエールを送りつつ、チップ・ガナッシ・レーシングで前進していきたい。

──市街地レースやロードコースのレースから離れるにあたって複雑だったのでは?

佐藤選手:初めは自分の中で消化するのも時間がかかった。F1時代はもちろん、インディに参戦しても13年間チャンピオンを狙って戦ってきた。選手権フル参戦ではなくスポット参戦というのを(自分の中で)消化するのはなかなかできなかったが、自分にとって一番大事なことは何かを考えたらそれはインディ500優勝だろうと。オーバルに集中するということだけど、チップ・ガナッシ・レーシングというトップチームとやれるのは大きなステップになる。

──これまでも2012年や2020年など、チップ・ガナッシ・レーシングとはいいレースをしてきたが?

佐藤選手:マイク・ハル(チップ・ガナッシ・レーシングのマネージング・ディレクター)と話している中で、いつもインディ500のレースでは、いつもどこからか佐藤琢磨がやってくると思っていたと冗談半分、本気半分で言われた(笑)。であれば、どこかライバルチームへいくのではなく自分たちのチームに来てほしいと思っていたと言われた。

──担当エンジニアは?

佐藤選手:すでに決まっている。昨年ジミー・ジョンソン選手の車両を担当していたエンジニアが11号車を担当する。

──ロード・ストリートでの役割は?

佐藤選手:まだ決まっていない。それはこれからチームと話し合うことになる。

──テストの予定は?

佐藤選手:まだ決まっていない。シーズン前のテストは限られており、それをどう使うかはチームと話さないといけないし、ロード・ストリートを走るマーカスはルーキーでルーキーテストでもそれなりのマイレージを稼ぐと思うが、自分がどう絡んでいくのかはまだ話をしていない。

──レースカーのお披露目はいつになるか?

佐藤選手:日付などに関してはまだ決まっておらず、チームから追って発表があると思う。

──5月のインディ500、年間5レースは新しいチャレンジだと思うが?

佐藤選手:やり方は変わらない、時間をかけて体調管理も含めてしっかりと準備をしていきたい。他のレースに帯同する可能性も含めて、時間は有効に使いたい。次世代につながっていく育成もこれまで以上に時間をかけてしっかりと見ていきたい。

──トップチームでやるのは初めてという話があったが、2004年のBAR・ホンダとアンドレッティ時代は違うか?

佐藤選手:BAR・ホンダも結果的にはトップチームになったが、あのときは過渡期だった。2004年はフェラーリの性能が圧倒的で、マクラーレンやルノーなどがつまずいていたシーズンだった。その中で2位という結果を出したが、後にチームがブラウンになり、メルセデスF1になって、トップチームになった時代とは違う。

 アンドレッティもトップチームの1つであることは間違いないが、インディカーのトップ2はペンスキーとチップ・ガナッシ・レーシングというのが現実で、絶対的な強さという意味でのチームに所属するのは初めて。また次のレベルに行くことができると思っている。

──最大のライバルは、ディクソン選手ではないか? ディクソン選手にとっては佐藤選手のようなベテランがチームに加わるのはうれしいのでは?

佐藤選手:アンドレッティ時代には5人のチームメイトがいて、その全員分のデータにアクセスできる体制になっていた。チップ・ガナッシ・レーシングでどんな体制かはまだ分からないのでこれから学んでいく。もちろんディクソン選手もライバルの1人ではあるけども、同じプロとしてお互いに引き出しを増やすという意味で楽しみだ。チームが高いレベルにあるのは昨年のインディ500のレースを見れば明らかだ。

──発表がここまで遅れたのはなぜか? ロード・ストリートが諦められなかったからということが大きく影響しているのか?

佐藤選手:それも理由の1つではあるが、それよりも全体のパッケージで何が可能なのかということを模索してきたことが大きい。自分の気持ちだけで決められることじゃないし、チーム側の体制を含めて調整が大変だったからだ。かなり時間をかけて作っていかなければこの体制は作れなかった。

──佐藤選手にはたくさんのスポンサーがついており、若手にすればどうすればそういう体制を作れるのか知りたいところだと思うが、何か若手にアドバイスはあるか?

佐藤選手:自分はとても幸せなドライバーで、たくさんのスポンサーさまにご支援いただいている。それは、そういう思いを背負っているということでもある。夢を共有してもらって、共感してもらっている。レーシングドライバーは、速くてレース作りがうまい、それは当たり前。それに加えて、突破力や求心力が必要だ。レースチーム、エンジニア、マーケティングがあって、PRがあって、全員が同じ目標を共有して進んでいくというのもレーシングドライバーの1つの力。自分が続けられる限り、スタイルを変えないで頑張っていきたい。若いドライバーも、アドバイスできることがあれば惜しみなくしたいので遠慮なく連絡してきてほしい。

──最後に一言。

佐藤選手:今シーズンは参戦するレース数は限られてしまうが、チームと一丸になってインディ500で3勝目を目指していきたい。