ニュース

モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジ、豊田章男社長からクルマ作りに加えて会社作りを託された佐藤恒治新社長

4月1日からトヨタ自動車 社長に就任する佐藤恒治執行役員

トヨタ自動車は、豊田章男社長から佐藤恒治新社長へ

 1月26日16時、トヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズニュース」で緊急生放送が始まった。緊急生放送と名打たれたその番組では、富川悠太氏が司会のもと豊田章男代表取締役社長が出演し、内山田竹志会長が4月1日に退任すること、豊田章男社長自身も社長を退任して会長に就くこと、Lexus International CompanyおよびGAZOO Racing Companyのプレジデントを務める佐藤恒治執行役員が次期社長に就任することが発表された。

 質疑応答も含めて1時間におよんだ緊急生放送では、内山田会長の退任の申し出が今回の人事のきっかけであったことや、2022年12月のタイのレースで佐藤新社長に内示を行なったことなど、さまざまなことが語られた。その中でもとくに印象的だったのが、「佐藤新社長を軸とする新チームのミッションは、トヨタをモビリティカンパニーにフルモデルチェンジすることです。佐藤も私と同じ『クルマ屋』だと思います。彼は、私が社長を引き受けたときと同じ年齢になりました。彼には若さがあります。そして、仲間がいます。私には、できないことでも、新チームなら、できると思います。次世代がつくる未来。私は、それにかけてみたい」と語ったこと。

【トヨタイムズニュース緊急生放送!】

 クルマ作りなら豊田社長自身でもできるが、モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジという新たな会社作りは若い人に任せたい、「体力」と「気力」と「情熱」を持っている若い人に任せたいという気持ちがあふれていた。

 記者自身、豊田章男氏が社長になるターニングポイントとなった2008年12月22日の決算記者会見から豊田章男社長時代のトヨタを見てきたが、トヨタ新会長自身が「13年間の社長在任期間ですね、1年たりとも平穏無事な時がない」「毎日危機対応に追われた」と語るように、さまざまな危機を乗り越えてきた。

 トヨタ初の営業赤字を立て直すことから始まり、2010年のリコール問題
への対応、トヨタ「グローバルビジョン」の策定、「もっといいクルマづくり」に向けての新しいクルマづくりの方針「TNGA(Toyota New Global Architecture)」の発表と、TNGAへ対応した組織作り、クルマ作りを行なってきた。外部環境の激変へも対応しつつ、トヨタのクルマ作りは確実に変わり、企業として大きな成長も遂げている。

 社長交代はタイの25時間レース中に佐藤新社長に伝えたとのことだが、今から思えばタイのレース前に行なわれたタイトヨタ60周年の豊田章男社長によるプレゼンテーションは、自分自身のこれまでの振り返りを多分に含んでいたものかもしれない。

モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジ

豊田章男氏とPresident, Lexus International Chief Branding Officer 佐藤恒治氏

 豊田章男社長は「もっといいクルマづくり」を軸にトヨタを立て直したが、その豊田社長からモビリティカンパニーへのフルモデルチェンジという大きなバトンを引き継ぐのが佐藤新社長になる。

 佐藤新社長は緊急生放送のクロージングのあいさつで、「豊田社長からもありましたとおり、新チームのミッションはモビリティカンパニーへの変革です。その根底にあるのは『すべての人に、移動の自由を』という願いです。これからのクルマは、モビリティとして、インフラをはじめとする社会システムの一部になっていきます。こうした変化の中で「これからもクルマが存在してほしい」。世の中のみなさまからそう言っていただけるようクルマを進化させ続けていくこと。それが、私たちの仕事です。『もっといいクルマづくり』『町いちばんのクルマ屋』。この13年間で浸透したトヨタが大切にすべき価値観があるからこそ、新チームがやるべきは、実践の量とスピードを上げていくことです。電動化を加速することや、地域のニーズに寄り添って多様な価値観にお応えするクルマづくりなど、具体的な行動で、商品で、示し続けたいと思います。『クルマ屋にしかつくれないモビリティの未来』に一歩でも近づけるよう、ガムシャラに取り組んでまいります」と宣言、新たな取り組みの方針を語った。

 佐藤新社長は、これまでも本誌上に「LC500」「LC500h」のチーフエンジニア時代から登場しているが、より強烈な印象を残しているのが、Lexus International CompanyおよびGAZOO Racing Companyのプレジデントを兼任し、2021年に始まった水素カローラによる参戦を率いるようになってからだろう。

 2021年4月22日午前、豊田章男社長は自工会の豊田章男会長として「私たちのゴールはカーボンニュートラルであり、その道は1つではない」としてカーボンニュートラルへの多様な道筋を社会に問いかけ、午後にトヨタ自動車として緊急会見。自工会の会見ではeフューエルなどが語られていたため、eフューエル対応に関する会見と予想していたのだが、水素燃焼自動車による24時間レース参戦を語り始めたときにはとてつもない衝撃を受けた。

 正直、水素燃焼による自動車は多くの自動車メーカーがチャレンジをしてきたものの、どこも実用化まで持って行くことなく実験レベルで終わってしまっている。いくら水素による燃料電池車を実用レベルまで持っていけたトヨタでも、無謀な挑戦に見えた。

 その挑戦を豊田社長から託されたのが佐藤恒治GAZOO Racing Company President。4月22日午後のトヨタ自動車の会見では、その水素燃焼エンジンによるレース挑戦のミッションが2020年末に始まったことを明かし、わずか数か月で富士24時間レースに参戦することになったことを「マスタードライバーのモリゾウさんに乗ってみてもらったところ、モリゾウさんのセンサーがピピッときて24時間耐久レースに出ることになった」とニコニコ語っていたのが印象的だった。

 通常なら、どの自動車メーカーも成功していないと言ってよい水素燃焼エンジン車への挑戦が上司からいきなり振ってきたら、とまどいもするだろうし、佐藤氏はクルマ開発のプロだけにネガティブな点も挙げていくのが普通かもしれない。しかしながら、佐藤氏は豊田社長の思いを受け止め水素燃焼自動車によるレース挑戦に邁進。1か月後にはトラブルはありつつも24時間レースを走りきっていた。

 正直、これにはものすごく驚いた。この困難なプロジェクトを引っ張っていくリーダーシップと、水素燃焼カローラ開発チームの明るさ(というか、困難すぎてハイになっているように見えた)はとても印象的だった。

 また、佐藤氏のポジティブな対応力を見たのが2022年7月のスーパー耐久第3戦SUGOでのこと。この日、豊田社長は水素燃焼自動車によるニュルブルクリンク24時間レースへの参戦を発言。その場に記者も佐藤プレジデントもいたが、記者は内心「正直、現状の水素燃焼自動車の燃費では厳しいのでは??」と思ったのだが、佐藤プレジデントはその後の囲み取材でニコニコ笑いながら「モリゾウさんから燃費改善の課題をいただいたものだと思っている」と発言。記者よりも深く問題を把握しているにもかかわらず、不可能とも思える課題を前向きに解決していく姿勢に感動したのを強く覚えている。

 今回、佐藤氏は新社長として「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジ」というクルマ作りを超える大きな課題を託された。100年に一度といわれる自動車業界の変革を乗り越えていくのは大変なことに違いない。しかしながら、佐藤新社長のポジティブで明るい姿勢は、おそらく新たに決まるであろうLexus International CompanyやGAZOO Racing Companyのプレジデント、そしてクルマ作りにはまだまだ協力していくという豊田新会長とともにチーム戦で挑んでいく上での大きな力になるだろう。