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三菱自動車、第54回定時株主総会 「三菱自動車らしいバッテリEVを提案していきたい」と加藤社長

2023年6月22日 開催

三菱自動車工業の第54回定時株主総会で議長を務めた三菱自動車工業株式会社 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏

 三菱自動車工業は6月22日、第54回定時株主総会を開催。前回と同じくオンライン配信に加え、都内のホテルにも会場を設けてハイブリッド形式で実施された。

 今回の株主総会では、第1号議案の「剰余金の処分」、第2号議案「取締役13名選任」について決議。第1号議案は2020年度、2021年度と2期連続で無配となってきた配当について、2022年度は一定の配当原資を確保し、業績や財務状況などを総合的に勘案した結果、当期の期末配当として1株あたり5円の配当を実施することの是非を問う議案。第2号議案は新任1人を含めた取締役13人を選任する議案となっており、両案とも原案どおり承認可決された。

取締役に新任された大串淳子氏

 このほか、議長として登壇した三菱自動車工業 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏から、2022年度の事業報告と主な取り組み、今後の経営戦略などについて報告が行なわれた。

 2022年度の業績については、グローバル販売台数は前年同期(93万7000台)から11%減の83万4000台となったものの、売上高は前年度比21%増の2兆4581億円、営業利益は同118%増の1905億円、当期純利益は同128%増の1687億円となり、すべての利益項目で過去最高益を達成した。配当については前出の決議で承認可決されたとおり、2022年度は1株あたり5円の配当を実施。なお、配当総額は74億4714万7710円となる。

三菱自動車の2022年度業績サマリー

 2022年度の主な取り組みでは、2020年からスタートした中期経営計画「Small but Beautiful」に沿ってさまざまな取組みを実施。日本では、“三菱自動車らしい”環境×安全・安心・快適を具現化した気軽に選べる新型軽バッテリEV(電気自動車)「eKクロス EV」を発売。日常使いに十分な航続距離を確保しつつ、バッテリEVならではの滑らかで力強い加速、圧倒的な静粛性と良好な乗り心地を実現し、先進的な運転支援機能、コネクテッド技術なども採用して安全・安心で快適な走りを提供できるクルマになっているとアピールした。

 また、軽商用バッテリEVの先駆けである「ミニキャブ・ミーブ」についても、物流関連企業や自治体などを中心として需要が高まっており、一般販売を再開。発進直後からモーターの最大トルクを発生できることから、荷物を積んで重くなった状態でもストレスなくキビキビと走行できるとした。さらに1月にはSUVらしい力強いスタイリングが与えられた軽スーパーハイトワゴンとして新型「デリカミニ」を発表。ユーザーの「こういうクルマが欲しい」という要望に応えるクルマに仕上がり、5月の発売までに約1万6000台の予約受注があったと説明した。今後は発売55周年を迎える「デリカD:5」とのシリーズ訴求によってデリカブランドの浸透により、相乗効果を図っていくとした。

2022年度にはバッテリEVの「eKクロス EV」「ミニキャブ・ミーブ」を発売し、新型軽スーパーハイトワゴンの「デリカミニ」は5月の発売までに約1万6000台を受注

 海外展開では、欧州でコンパクトSUVの新型「ASX」を2022年9月に発表。ASXはルノー・日産・三菱自動車のアライアンスが生み出したCMF-Bプラットフォームを採用したモデルで、パートナーであるルノーからOEM供給を受けて3月から三菱自動車の販売ネットワークで販売している。

 三菱自動車にとって最重要市場となっているアセアンでは、2023年度に市場投入する新型車のコンセプトカーをいち早く発表しており、2022年10月にベトナムで新型コンパクトSUVのコンセプトカー「XFC コンセプト」を発表。アセアン市場向けに開発されたSUVの第1弾モデルであり、市販モデルは8月にインドネシアで発表する計画となっている。

 3月には新型ピックアップトラック「トライトン」のコンセプトカーとなる「XRT コンセプト」をバンコク国際モーターショーで発表。トライトンはこれまでに約150か国で販売された三菱自動車の世界戦略車であり、約9年ぶりの全面改良になるという。新型トライトンは7月からタイ市場に投入され、アセアン各国、オセアニア市場などに順次発売を拡大する計画となっている。こういった新型車の市場投入を軸としてさらなる成長を遂げ、事業基盤をより強固なものにすることを目指していく。

ルノーからOEM供給される「ASX」、「XFC コンセプト」をベースとした新型コンパクトSUV、「XRT コンセプト」をベースとした新型「トライトン」といった新型車の市場投入でさらなる成長を目指す

 業績内容ではコスト低減努力や各国での“販売の質改善”活動の推進など、全社一丸となってあらゆる課題に取り組み、この結果に為替の追い風が加わったことで、「Small but Beautiful」の最終年度を過去最高の業績で終えることができたと強調。また、三菱自動車では2021年度から「手取り改善活動」と称した収益改善活動を推進。工場出荷を基点として、ディストリビューター、ディーラーからユーザーに納車するまでの各プロセスで取引条件を精査、改善して、1台あたりの売上単価を最大化する活動となっており、これらの活動をつうじて「Small but Beautiful」の目標をオーバー達成したことで会社としての地力も養われ、「新たなステージに入る準備ができた」との見方を示した。

 こうした状況を背景として、3月に2023年度~2025年度を計画期間とする新しい中期経営計画「Challenge 2025」を発表。自動車業界は地球温暖化対策としての電動化、AIやIoTといったテクノロジーの発展を受け、これまで人や物を運ぶ手段だった自動車の概念が大きく変わる100年に1度の大変革の時代を迎えていると語り、三菱自動車では次の3年間が同社グループにとって「新しい時代に変わっていくための転換点になっていく」と考え、新しい中期経営計画の策定では15年後の世界観を描きつつ、そこからバックキャストする形で計画年度に進めるべき計画を策定している。

 これまで行なってきた構造改革で手にした筋肉質で機動的になった経営体質をさらに強固なものにして、安定的な収益基盤の確立を目指していくほか、これまで以上に研究開発費や設備投資を安定的に投じて、将来のさらなる成長と次の時代に対するチャレンジにつなげる経営計画にしていると加藤氏は説明している。

 なお、「Challenge 2025」の詳しい内容については関連記事「三菱自動車、新中期経営計画『Challenge 2025』説明会 電動化時代に向けた研究開発費と設備投資を大幅に増額」を参照していただきたい。

2023年度~2025年度は「新しい時代に変わっていくための転換点になっていく」と加藤氏

事前質問で寄せられた「バッテリーEV戦略」「株主還元」について

 質疑応答では会場に集まった株主とのやり取りに先立ち、事前質問で寄せられた「バッテリーEV戦略」「株主還元」について議長の加藤氏が回答した。

「バッテリーEV戦略」について加藤氏は、世界的に広がるカーボンニュートラルに向けた動きの中で、将来的にはバッテリに蓄えた電気だけで走るバッテリEVが電動車の主流になっていくと三菱自動車では見ているが、しかしながら一気にバッテリEVの世界に進むわけではなく、移行は市場によってバラツキが出るとも予測しているという。欧米などの先進諸国では環境意識の高まりとそれに呼応した規制の厳格化によってバッテリEVが普及していくものの、充電インフラや購入補助金の不足で普及に障害のある地域があると指摘。こういった地域では航続距離の不安が少ないPHEV(プラグインハイブリッドカー)がCO2削減の有効な手段になっていくとした。

 三菱自動車の主力市場であるアセアンでは当面はHEV(ハイブリッド車)が電動車の主流になり、日本も欧米と比べてバッテリEVの普及は早くないと指摘。三菱自動車では早い段階から電動車の開発に着手しており、「アウトランダーPHEV」やeKクロス EVを市場投入してきた。とくにPHEVは三菱自動車の電動化でコア技術となっており、バッテリEVやHEVに転用することも容易だとアピール。世界市場で発生するさまざまなニーズに応えるべく、今後も適切なタイミングで適切な電動車の投入を続ける計画だと説明した。

 より具体的には、アセアンでは好評を得ている「エクスパンダー」のHEVモデルを追加投入し、これに続いてバッテリEVの本格普及に備えてバッテリEVモデルの準備も進めていく。欧米ではアライアンスパートナーとの協業を活用し、バッテリEVのOEMによってラインアップ拡充を図る。これらを含め、今後5年間で電動車9モデルを市場投入する予定と述べた。

 また、三菱自動車の強みを生かしたバッテリEVについては、バッテリEVならではの魅力である高い静粛性や気持ちのよい加速性能を備えつつ、三菱自動車のDNAである耐久性・信頼性、4輪制御技術などを組み合わせることで三菱自動車らしいバッテリEVを提案していきたいと語った。

 価格低減の取り組みでは、バッテリEVの価格ではバッテリや電動パワートレーンの部分でコストが大きくなっているが、とくにバッテリは技術革新のスピードも速く、商品化にあたっては性能とコストのバランスが取れた製品をいかに調達できるかがポイントになるという。今後はバッテリ、電動パワートレーンともに新世代化、構造合理化、標準品の採用推進などを行ない、さらに材料、工法などの最適化といった取り組みを行なって価格や性能面で競争力のある電動化部品の調達を目指して適切な価格での車両提供を努めていくと説明している。

「株主還元」については企業としての最重要課題と位置付け、長期・安定的な配当の維持に取り組んでいくことが重要であるとする一方で、自動車業界は100年に1度の大変革期にあり、外部環境の影響を受けやすく業績変動も大きいと説明。不透明な経営環境において将来の成長に向けた投資、自己資本の充実、株主還元のバランスを保つことが重要であるとの考えを示した。

 自動車業界における今後の事業環境変化に対応して安定した経営を続けていくためには財務体力の強化、自己資本のさらなる充実も必要になると語り、2022年度は過去最高益を実現したものの、同業他社と比較して自己資本の蓄積がまだ十分ではないことから、まずは2025年に向けて自己資本1兆円超、自己資本比率45%を確保し、同業他社並みの水準を目指していくとの方針を示した。将来のさらなる成長に向けた必要投資の実施、財務体力の強化を進めていくことが長期的な株主価値の向上につながると強調している。

「SUVをベースにした『エボリューション』を造れないか」と長岡副社長

質問で挙手した株主を指名する加藤氏

 会場の株主から寄せられた質問では、三菱自動車の発展にはモータースポーツでの活躍も大きく寄与していると考えているが、今後のモータースポーツ参戦といった全体像について考えを聞きたいと問われ、まず加藤氏が「当社は過去のダカールラリー、WRCなどに参戦したことで多くの人に当社のクルマを知っていただけたと思います。モータースポーツは重要な取り組みの1つであると考えており、昨年はAXCR(アジアクロスカントリーラリー)に参戦していますが、本年も新型トライトンでAXCRに参戦する予定となっております」と説明。

 また、担当役員として活動を統括している三菱自動車工業 代表執行役副社長 長岡宏氏も回答を行ない、「社長からも説明があったように、昨年度はAXCRに参戦して、今回はデビュー戦に近い状況でしたが、デビューウィンで勝利することができました。これからも新型トライトンを使ってしばらくAXCRに参戦していきたいと思っていますし、ここで得た知見を商品となる市販車にフィードバックしていきたいと思っています」。

「これまでもパリ・ダカールラリーやWRCなどで培ってきた技術が現在のわれわれのクルマに息づいていて、耐久信頼技術、4輪制御技術などはずっとわれわれの強みになり続けている。これは過去のモータースポーツでしっかりと鍛えていただいたからだと思っております。ここしばらくはオフィシャルにモータースポーツ活動はできていませんでしたが、まずはAXCRからはじめて、しばらくはここでしっかりと戦っていきたいと思います。その後については会社の状況や世の中の状況を見ながら考えていきたいと思います」とコメントしている。

三菱自動車工業株式会社 代表執行役副社長 長岡宏氏

 車両開発で電動化の取り組みが大きく取り上げられているが、逆にICE(内燃機関)の開発は中止になっていくのか。アライアンスでのプラットフォーム共有が進んでいく一方で三菱自動車独自に開発するプラットフォームの車両はどうなっていくのか。例年話題となる「ランサー エボリューション」は業績回復でどうなるのか。といった質問に対しては、加藤氏が「プラットフォームに関連して、まだ正式に決定してはいませんが、われわれが独自に開発したプラットフォームを使うモデルを日本に投入することも将来的にはあり得るということで、さまざまな計画を進めているところです」と回答。

 詳細については担当役員の長岡氏が回答を行ない、「ICEをどうしていくかというご質問ですが、われわれは2030年に電動化比率を50%にすることを目指しています。しかし、この電動化にはバッテリEVだけではなく、PHEVや派生車となるHEVが含まれております。そして残る50%はICEになるということで、2030年においてもかなりの部分でエンジンを搭載したクルマになるので、しっかりやっていきたいと考えています。また、新型トライトンに向けて新しいディーゼルエンジンをまさにこれから出していくところです。これを当面でしっかりと育てていこうと、ガソリンエンジンについてもしっかりと、2030年を超えてクルマに搭載していくということを考えています。今後もICEについても続けていこうという計画です。このなかでわれわれのPHEV技術を生かしながら、さまざまな電動化を世の中の状況を見ながら比率を考えていくことになります」。

「プラットフォームについては、現在日産自動車と共同開発しているクルマのプラットフォームは軽自動車と新型アウトランダーで使っているものの2種類があります。それ以外はわれわれ三菱自動車が単独で開発したプラットフォームになっています。とくにご指摘のあったフレーム付きトライトンといった車両もそうですし、アセアンで好評をいただいているエクスパンダーを中心としたプラットフォームもそうです。今後はこれらのプラットフォームを使って車種を大きく展開させていく計画でさまざまな開発を行なっていますので、そこからいくつかは日本でも出せないかと検討している段階です」。

「ランサー エボリューションのXI(イレブン)になるモデルですが、私もランサー エボリューション Xに乗っておりまして、そういった(新型車を造る)夢は私個人の胸のなかにしっかりと持っております。ただ、われわれが置かれている立場、リソースであるとか電動化に向けた動きのなかで、どこに注力していくべきかと考えたときに、残念ながら“セダンタイプのランサーイレブン”をいちから起こすという環境にはないことも事実です。SUVという形になるかもしれませんし、われわれはSUVでも当時のランサーのようにワクワクと楽しめる、興奮できるクルマを目指して開発しています。そういったSUVをベースにして、『ランサー エボリューション』という名前になるかは分かりませんが、エボリューションというような名前で呼べるクルマを何か造れないかと常日ごろから考えていますので、鋭意検討していきたいと思っています」。

「セダンやクーペといったクルマに根強い需要があることも事実ですが、世界の需要はどんどんSUVに移っていることも事実で、われわれとしてはSUVが得意分野でもありますので、当面はSUVやトラックに注力させていただきたいと思っています。ただ、これも世の中の動きをよく見て引き続き考えていきたいと思っています」と回答した。

 この長岡氏のコメントを受けて、加藤氏も「われわれ幹部も夢を持って、将来さらに大きく会社が成長した際には、自分たちが『出したいな』と思っているクルマを開発できるようになればいいなと考えているということでご理解いただければと思います」と付け加えている。