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橋本洋平の「ロータス カップ ジャパン」参戦記 ぶっつけ本番で走ったエキシージ、フルウェットの菅生ラウンドやいかに?

2023年は「ロータス・エキシージ・スポーツ350」で参戦

エキシージで「ロータス カップ ジャパン」に参戦

 およそ1年ぶりにスプリントレースに出場させていただくことになった。舞台となるのは2022年も参戦しCar Watchでも紹介したことがあるナンバー付きJAF公認レース「ロータス カップ ジャパン」のスポーツランド菅生ラウンド。1DAYでありながら予選、決勝、そしてもう1回決勝があるという強行軍である。

 今回乗ったのはロータス カップ ジャパンのクラス1となる「ロータス・エキシージ・スポーツ350」。トヨタ製のV型6気筒3.5リッタースーパーチャージャーエンジンを搭載する車両だ。ちなみに2022年に乗った車両はクラス2の「エリーゼ・スポーツ220」で、こちらはレンタル車両でライセンスとドライバー装備品を持っていれば誰でも借りることが可能(お問い合わせはLCIまで)。同じくトヨタ製のエンジンだが直列4気筒。グレード名の後に付く数字がそれすなわち最高出力なのだが、つまりは2022年に乗ったエリーゼよりエキシージは段違いに速く、リア側が200kg近く重い。とはいえ車重は1100kg台後半に収まっている。基本的に同一のシャシーであるにも関わらずこれだけ違うのだから、ハッキリ言って別のクルマと言っていいのかもしれない。

 だからこそキッチリと練習したいところだったのだが、今回は主催者からのゲストドライバー扱いということで、順位がつかない賞典外扱い。だからぶっちゃけ何位でもいい。けれどもこのカーナンバー2番の主催者所有のゲストカーは、これまで自動車雑誌「Tipo(ティーポ)」の佐藤考洋編集長やプロドライバーの吉本大樹選手がドライブし、トップチェッカーを受けてきた個体なのだから、なんとしても同じくトップを取りたいのが人情ってもの。

「ロータス カップ ジャパン」に参戦したのは10月15日の第3・4戦のスポーツランド菅生ラウンド。2022年はエリーゼで出場したが、今回はハイパワーのエキシージで走った

 だがそうは問屋が卸さない。参戦中のドライバーは血気盛んな若手売り出し中から、ロータス一筋で経験を積んできたベテランまで勢揃い。2022年、クラス2に参戦した時もかなり難儀したものだ。しかも、本番2日前の金曜日から練習に励んでいたドライバーがいたというから恐れ入る。こりゃ厄介な展開だ。きっとそんなことになるだろうと予想し、コチラはティーポの佐藤編集長から車載動画を拝借し予習を敢行。

 さらにレースを難しくしたのがレース当日の天候だ。スポーツランド菅生に訪れればコースはフルウェット! 動画での予習は全く意味がなくなったわけだ。それはライバルも同様だったようで、ドライでの走り込みは無駄になったと何人かが嘆いていた。そんな皆目見当が付かない状況だったため、かつて86/BRZレースでお世話になった東北のスペシャリストである佐々木雅弘選手や高橋しげる選手にメールで質問攻撃。どこを通るべきか、タイヤのエアはどうすべきかを通信講座してもらうことに。

「タイヤの内圧はガッツリ上げて」「ブレーキングポイントはいつもより遅らせてコースの外側を通るイメージかな」なんてアドバイスをもらい、あー、確かにそうだったな、なんて昔の記憶を手繰り寄せることができてきた。まあ、いつものブレーキングポイントと言われても、知らないんですけどね(汗)。加えて「スプリングレートはこれくらいで、バンプラバーはこう当てるようにセットして」という高尚なアドバイスも頂戴したが、「1DAYレースでぶっつけ本番なのにそこまでできるわけがないでしょ!(笑)」と返し通信講座はお開きとなった。

賞典外扱いとはいうものの、これまで乗ってきたドライバーがトップチェッカーを受けてきた車両で走るのでプレッシャーがかかる

 ちょうどその時、他のレースに出場していたまたもや東北のスペシャリストである川崎俊英選手がピットの前を通りかかり、「エアはたぶんフロント4kPa、リア3.5kPaくらいじゃないかな」なんてありがたきお言葉を残して去っていった。何のデータもないため、メカニックさんに「じゃ、それでお願いします」と告げたのはここだけの話。さて、この他力本願ぶりが一体どう出るのか? ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました!

エリーゼよりもはるかに高いスピードレンジ

 アルミ製バスタブモノコックのハイトがかなりあるサイドシルとサイドバーを乗り越えてコクピットに収まれば、2022年にエリーゼでなじんだ空間が広がっている。操作系に関しては問題がなさそうだ。だが、エンジンをスタートさせるとV6 3.5リッター+スーパーチャージャーが背後から轟音でプレッシャーを与えてくるから気持ちが引き締まる、というか緊張しまくりで20分間の予選を迎えた。

 ピットレーンに並び始める予選開始2分前。まずはクラス1でポイントランキングトップの大田優希選手の後につけることに成功した。真後ろについて走りをコピーしようという他力本願の真骨頂! だが、その作戦はもろくも崩れ去ることに。走り始めてみるとコース上はフルウェットであり、ところどころに川が流れるほどだから、目の前にクルマがいるとウォータースクリーンで前が見えないのだ。

 ここで他力本願だった心を改め、クリアラップを取るために前をガッツリ開けてタイムアタックを開始した。すると、エキシージは早くも牙を剥いてくるから恐ろしい。ブレーキングで少しでも横Gが残っていればリアはペロンとめくれ上がるようにリバース。アクセルを少しでもラフに入れれば、これまたリバースするのだ。可能な限り直線でブレーキングを終わらせ、コーナリング中はアクセルもブレーキも踏まない状態を作った上でしっかりとステア。ハンドルが直進に戻り切るあたりでアクセルを丁寧に入れていくことを心がける。基本に忠実にというヤツだろうか。

 するとエキシージはそれに応えるかのように素直に暴れず、しかも強烈なトラクションを重ねて前に進んでくれるからおもしろい。クルマが暴れたのは運転手の責任だったのだろう。重いとはいえ今の時代で考えれば約1.2tの車重は十分に軽く、リニアに一体感が溢れる走りはロータスならではの世界観が広がっている。クラス2のエリーゼは1t弱だからコーナーでももっとガンガン行ける感じだったが、それよりはボトムスピードを落とすイメージで走るとちょうどいい。そのあたりが重量とパワーの違いなのだろう。対してスピードレンジははるかに高く、ストレートエンドではメーター読みで200km/hにも到達する。雨の中では痺れるってもんだ。ただ、それを乗り越えてタイヤが温まったところでタイムをまとめることができ、ポールポジションを獲得! これで第一関門はクリアだ。

 続く決勝第1レースは予選時よりもさらに雨足が強くなってきた。ただ、ポールポジションはアウト側で、その場所には水たまりはない。対して2番グリッドのイン側はやや水たまりがある状況。1コーナーはアウト側の方がグリップしそうだし、ラッキーかもしれない。

 エンジンを3000rpmキープで半クラッチを多めに使いスタートしてみる。するとホイールスピンもなくスムーズに加速。どうやら2番手以降よりうまくいったようだ。オープニングラップはまだタイヤが温まらず滑りまくっていたが、ブレーキもアクセルもあまり入れすぎないようにしていたらそこも何とかしのげた。さらにラッキーだったのは目の前の視界がクリアに保たれていたことだった。これならタイヤさえ温まってくれれば思い切って走ることができそうだ。ちなみにレースラップは予選よりも5秒以上遅かった。雨足の強さは歴然としている。

 しかし、レース後半はさらに雨足が強くなり、ホームストレートの山を越したところから下り坂になる付近でハイドロプレーニングが発生。リアが左右によろけながら走ることになり、真っ直ぐにも関わらずアクセルをコントロールすることに。パーシャルスロットルでピッチング方向に動かさないようにその地点をクリアしなければ、どこかに飛んで行ってしまいそうだ。その瞬間に頭に浮かんだのは乗っているエキシージの車両価格。確か中古で約1000万円だったような……。思わず右足がついつい緩む方向に。そんな情けない走りだったが辛くもトップチェッカーを受けることができた。が、リザルトを見てみるとファステストラップはクラス1で優勝となった大田優希選手に奪われていた。それもレース後半でそれを記録。あの危うい状況を目いっぱい走ってきたということだ。若さ溢れる走りには恐れ入る。

さらにコンディションが悪化した決勝第2レース

 決勝第2レースは雨がもっとひどくなっていた。しかも寒さが増している。タイヤが温まるのかどうか不安になるくらいだ。そんな状況だったがスタートは何とか成功。だが、今度のレースは大田選手も雨に慣れてきたらしく、常にプレッシャーをかけてくる位置にいることがサイドミラーから伺える。果たして危うい状況で後に張り付かれてミスなくゴールまで走れるだろうか? ストレートでのハイドロプレーニングはさっきよりもひどい状況になっている。これはとっても危険だ。

 そんなことを考え始めていた3周目の後半セクションで、突然セーフティカー導入の知らせが飛び込んできた。やはり危惧していたホームストレートで1台の車両がハイドロプレーニングを起こしてスピン。コンクリートウォールにヒットしてしまったのだ。そこから6周目まではセーフティカー先導で走ったが、状況が改善しないために赤旗中断。およそ20分後にまたもやセーフティカー先導でレースが再開されたが、危険だという判断が下されて本来10周のレースが8周で終了となってしまった。少し残念だが、あの危うさならば仕方がないところだろう。いずれにせよ、無事に無傷で車両を返却することができ、ホッとするばかり。一応はトップチェッカーとなったこともラッキーだ。

 こうして悪天候の中でのレースだったが、いま振り返るとやっぱりおもしろさばかりが印象に残る。ワクワクできるパワーとスリリングなスピード、そして軽快に思い通り走れることもまた魅力的に感じるばかり。エリーゼのさらなる軽さも捨てがたいが、それ以上に次元の違うタイムを味わえたことがおもしろさに繋がっている。ロータスカップは2クラス混合だが、それぞれによさがありつつ、きちんとステップアップができる環境が整えられていたことが素晴らしいと思えた。次の機会があればドライ路面でぜひともそれを味わってみたいものだ。

2023年のロータス カップ ジャパン最終戦は12月10日にモビリティリゾートもてぎで開催される予定。興味のある方はぜひ現地に足を運んでみてほしい