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ラリージャパン開幕直前イベント開催、WRCドライバー勝田貴元選手「すべてを出し切ってラリージャパンで初優勝を獲りにいく」

ラリージャパンでの優勝を目指すWRCドライバーの勝田貴元選手

シティサーキット東京ベイでWRCドライバーによるEVカートレース

 WRC(世界ラリー選手権)の最終戦となる「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」が、11月16日~19日に愛知県や岐阜県で開催される。

 それに先立つ11月11日、シティサーキット東京ベイで「ENJOY! Rally Fan Meeting in TOKYO/ODAIBA」と題するラリージャパン開幕直前イベントが開催された。

シティサーキット東京ベイで激走する勝田貴元選手やWRCドライバー

 このイベントには、ラリージャパンに参加する勝田貴元選手を代表とした各マニュファクチャラーのドライバーや、2003年のWRCチャンピオンを獲得したペター・ソルベルグ氏が参加しており、トークショーが行なわれたほか、シティサーキット東京ベイのEVカートを利用した模擬レースも行なわれた。

 イベントに先立つインタビュー取材において勝田貴元選手は、「すべてを出し切ってラリージャパンで初優勝を獲りにいく」と述べ、自身初となるWRC総合優勝を実現したいと述べた。

サプライズゲストとしてソルベルグ親子が登場

WRCドライバーによるトークショーの様子

 EVカート大会の前に、会場に設置された特別ステージで、WRCドライバーによるトークショーが行なわれた。トークショーでは、WRCドライバーが登場する前に、2003年のWRCドライバー王者であるペター・ソルベルグ氏と、その息子で同じくラリードライバーのオリバー・ソルベルグ選手がサプライズゲストとして登場した。日本のWRCファンにはおなじみの存在ということもあり大歓声で迎えられた。

ペター・ソルベルグ氏

 ペター・ソルベルグ氏は「2000年代にラリージャパンが行なわれたときに優勝したことは今でもいい思い出だし、自分の中では特別な存在だ。日本のファンは暖かく素晴らしいし、こうして帰って来ることができてうれしい」とあいさつ。

オリバー・ソルベルグ選手

 息子のオリバー・ソルベルグ選手は「2000年のラリージャパンでは、まだまだ小さい子供でスバルのクルマの間をおもちゃの自動車に乗っていた記憶しかない。むしろ今でもファンのみなさんにその時代の写真を見せてもらってびっくりするほどだ。今年もイベントには出走しないが、レッキなどには参加するつもりで、将来のRally 1クラスへの復帰を目指して活動していく」と語った。

 司会がジャパンモビリティショーで、トヨタの豊田章男会長がスバルにWRC復帰をお願いしていたという件に触れると、親子そろって「大歓迎」と述べ、スバルのWRC復帰に期待感を表明していた。

 WRCドライバーは、TGR WRTの勝田貴元選手とエルフィン・エバンス選手、HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM(以下、ヒョンデWRT)のティエリー・ヌービル選手とそのコドライバーのマーティン・ヴィーデガ選手、M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAM(以下、フォードWRT)のエイドリアン・フルモー選手。いずれもラリージャパンではラリー1クラスへの参戦を予定している。

エルフィン・エバンス選手
ティエリー・ヌービル選手
マーティン・ヴィーデガ選手
エイドリアン・フルモー選手

 勝田選手は「今年も母国大会であるラリージャパンに戻って来ることができてうれしい。昨年以上の結果を求めて全力でがんばりたい。ぜひみなさんには現地にお越しいただけるとうれしい。昨年は3位で、これまでのキャリアで最高順位は2位だったので、それ以上の順位(優勝)を目指してがんばる」と述べ、詰めかけたファンに初優勝を誓っていた。

 また、ヒョンデWRTのヌービル選手は「トヨタの地元でみなさんはトヨタの勝利を期待していると思うが、それを裏切るような結果を出したい(笑)」と述べ、会場を盛り上げた。

EVカートではあちこちでガチャンガチャン……

練習走行 兼 予選に向かう各ドライバーのEVカート、1号車が勝田選手、2号車がエバンス選手、3号車がヌービル選手、6号車がオリバー・ソルベルグ選手、7号車がペター・ソルベルグ氏

 トークショーの後に行なわれたEVカート大会では、WRCの現役ドライバー(勝田選手、エバンス選手、ヌービル選手、ヴィーデガ選手、フルモー選手)が参加したほか、ソルベルグ親子、さらにはオリバー・ソルベルグ選手のコドライバーであるエリオット・エドモンソン選手が飛び入りで参加して全8人による模擬レースが開催された。

 ルールは練習走行 兼 予選が10分で、決勝レースのグリッドが決定し、レースは10周で行なわれた。

ヌービル選手、エバンス選手とガッチャンの構図、2人とも本番は来週ですよ(苦笑)
予選後のドライバーたち談笑の図

 練習走行が始まる前には司会からドライバーたちに対して「本番は来週なので、くれぐれも激しい走行は控えるように」というお達しが出されたが、練習走行 兼 予選が始まるとすぐに、ドライバーたちは前のマシンに“ガチャン、ガチャン”と当てながら激走。

 3番目からスタートしたヒョンデWRTのヌービル選手は、すぐに前のTGR WRTのエバンス選手をオーバーテイクすると、そのまま、勝田選手もオーバーテイクし、列の最後尾を走っていたペター・ソルベルグ氏にも追い付き、クルマを当てながら追い越していって、いきなり速さを見せながらも楽しんでいる様子だった。

グリッドは、ポールがオリバー・ソルベルグ選手、2位ヌービル選手、3位勝田選手

 予選でポールを獲得したのは、オリバー・ソルベルグ選手。2位に勝田選手、3位にヌービル選手となり、父親のペター・ソルベルグ氏は8位と予選最下位となった。

スタート
3位のヌービル選手はわざとゆっくりスタート

 決勝レースでは、3位からスタートしたヌービル選手が、わざとグリッドにスタックして、5位以下の選手をじゃまする作戦(?)で会場を盛り上げた。その間に1位からスタートしたオリバー・ソルベルグ選手、2位の勝田選手がスルスルと前にでて1-2フォーメーションを形成した。

ヌービル選手、1度は順位を落としたものの、最終的にはトップに返り咲いた
会場となったのは「シティサーキット東京ベイ」

 しかし、そこからがヌービル劇場の幕開けだった。ヌービル選手は瞬く間に1位と2位に追い付くとスルスルとオーバーテイクしてあっという間にトップに立った。ヌービル選手の独走かと思われた中盤には、突然スローダウンして、2位以下を前にいかせて、今度は勝田選手がトップに。しかし、最後には再びヌービル選手が逆転してトップに立ち、そのままチェッカー。

 完全にレースをコントロールしていて、WRCのチャンピオンを毎年争う実力をターマックでも見せつけた。2位にはオリバー・ソルベルグ選手、3位には勝田選手が入った。なお、オリバー・ソルベルグ選手の父親であるペター・ソルベルグ選手は、8位と惜しくもブービー賞を逃している。

優勝はヒョンデのティエリー・ヌービル選手
2位はオリバー・ソルベルグ選手
3位は勝田貴元選手
トップ3の選手には豊田市産の愛宕梨と五平もちがプレゼントされた

 レース後には表彰式が行なわれ、トップ3の選手には、豊田市産の愛宕梨と五平もちがプレゼントされた。愛宕梨は非常に大きな梨だと50万円相当の価値があると主催者から説明があり会場内を驚かせた。

 観覧していたファンからは「こんな面白いレースはめったに見られるものじゃない」という声が聞こえるほど会場は盛り上がった。WRCドライバーに大歓声を贈っていたのが印象的だった。

参加したドライバーによる記念撮影

勝田貴元選手、「すべてを出し切って初優勝を獲りにいく」

──それでは勝田選手から今シーズンの振り返りを。

勝田貴元選手:今シーズンは半分のラリーでワークスノミネートになった。前半戦はミスもあって思うようなシーズンをおくれなかったが、それは昨年に比べるとリスクを取って高いレベルを目指すこととのトレードオフで、ある程度は予想していた。しかし、その中でもパワーステージで着実にポイントと獲るなど、チームのためにもなることをやってきて、ラリーフィンランドでは欧州で初めての表彰台を獲得して、とりあえずの結果は出せた。それまでは厳しい展開が続いていたが、チームやコドライバー、関係者のサポートのおかげで1つの形になった。

 ラリージャパンは、地元開催のラリーになるので、すごくいいプレッシャーを感じている。それをモチベーションに変えて、これまで得てきた経験などを出し切って戦えるので、楽しみにしている。もちろん簡単なラリーではないし、すべての選手権が確定しているのでどのドライバーもポイントを気にせずプッシュしてくる純粋に誰が速いかを決めるラリーになる。

インタビューに応える勝田貴元選手

 簡単ではないが、過去最高位が2位なので、母国開催の今回は初優勝を目指すことが、自分にとっても、日本のモータースポーツにとっても大事なことだと考えている。すべてを出し切って初優勝を獲りにいきたい。

──忙しさとかファンの交流などで、去年とは違うか?

勝田貴元選手:昨年は13年ぶりの開催で、多くのメディアの方に注目していただいた。もちろんメディアの露出もそうだが、地元での首座がより多くなったと感じている。

──日本のラリーとヨーロッパでのラリーの違いはあるか?

勝田貴元選手:日本のステージは、欧州とはキャラクターも特性も違う。例えば金曜日では1本目のステージは、森の中でコケも生えているようなコースを1速、2速で走るコースが続く。そこでリズムを作れると2日目、3日目と順調にいけるが、そこを読み違えると大きな差が出てしまう。

 土曜日には額田というステージがあるが、そこは林道だけど、ターマックも見えないようなセクション。そこでどれくらいのリスクを負うかで、差が出てくる。リスクを取ると大きな差をつけられるが、ヘタをすれば何かを壊して5分ロスするとかがある。そこをどうやってリスクを取りつつ、実際にロスしないように走るかがポイントになっていく。

 金曜日、昨年はステージキャンセルなどもあったが、全部のステージを走ればそこで差がでる。スタート順も後ろになっていくので、額田でどうステージを追っていくかが重要なポイントになっていく。

──このように東京でイベントがあるなど仕事が多いが、母国戦では体調をどう整えている?

勝田貴元選手:忙しくないといえばウソになるが、そうしたイベントや取材対応も重要なこと。自分が活躍して結果を出すのは当たり前のことで、自分としてはラリー文化をもっと盛り上げたいと思っており、そこに責任感を持って取り組んでいる。

 そうした中でイベントに参加し、メディア対応することは重要なことだと考えている。

 もちろんそれも集中するための時間を確保した上でのことは言うまでもなく、今年もこうしていろいろなイベントに参加させてもらい、昨年以上に注目していただいていると感じている。その上で自分が結果を出せば、さらに変わっていく可能性もあり、いい忙しさだと思っている。

──市販車のGRヤリスと、ラリー1の「GR YARIS Rally1 HYBRID」はどう違うのか?

勝田貴元選手:GR YARIS Rally1 HYBRIDのベースになっているのはGRヤリスで、テールランプは一緒なのだが、それ以外の部分はリアウィングが違っているし、外見も大きく違う。また、中身も別物でエンジンも違う。WRC2クラスではGRヤリスの車両骨格をそのままつかっている専用車両だが、ラリー1の車両は完全に別車両になる。

 従来のWR(ワールドラリー)カーの時代は一般車両の骨格をつかっていたのだが、ラリー1では安全性のためにそうなっている。しかし、GRヤリスにはそうしたラリーカーで培った技術やノウハウが惜しみなく投入されているので、公道でも(サーキットのような)スピードを出せるところでも、これまでとは違ったクルマだと感じてもらえると思う。

 ラリーでのリエゾンのときにも、最近はトヨタ車に乗っていただいているファンの方が増えていると感じている。そうしたときにGRヤリスに乗っているファンの方もいらっしゃって、やはり見かけたときには(TGR WRTのドライバーとして)うれしい。

──今年のラリージャパンでは、豊田スタジアムでのスーパーSSが追加されて、ラリーカーがデュアルで走行する。それを含めて、注目したいところを教えてほしい。

勝田貴元選手:豊田スタジアムでは、2台のラリーカーが同時に走る。ラリーというと観戦にいっても一瞬しか見えないとか、初めての方には戸惑うことも少なくないと思う。しかし、スーパーSSは初めてラリーをご覧になる方でも楽しめると思う。自分が子供のころ、自分の父親がでていたラリーを見にくと、スタジアムが一番面白かった。

 2台が同時に走るので、ドライバーの違いも見てすぐに分かる。子供の自分ででもすごく楽しめたので、そのステージだけ見たいという感覚があった。まずはそこで楽しんで、ラリーになれてきたら次は林道にいく、そうやって可能性を広げていくことも可能だ。ぜひともまずは豊田スタジアムでのスーパーSSにはお越しいただきたい。

──ドライバーにとってのデュアルSSの面白さは?

勝田貴元選手:ラリーポルトガル、アクロポリス ラリー ギリシャなどでは同じやり方でやっている。ただ、今回の日本と違うのはそのどちらもグラベルのステージ。これまでターマックのラリーでデュアルでのスーパーSSは1度もないと思う(少なくとも近年では)。その意味で自分を含めて全ドライバーが初めての経験だと思うので、そこでどうなるかは注目だ。チームもエンジンのマップやハイブリッドシステムの活用が話題になるぐらい、みんな初めての体験になる。林道ではコンマ数秒の差だが、このスーパーSSでは数秒の差がつくこともあるので、非常に重要なステージだ。

──ラリージャパンのフォトポイントといえば、鳥居と勝田選手の“活躍”で知られるようになった土手(昨年のラリージャパンの3日目のSS9で勝田選手は土手に乗り上げてあわやというシーンがあった)がある。今年もそこはフォトポイントか?

勝田貴元選手:鳥居がある三河湖のステージは、フォトグラファーのみなさんにとっても、ドライバーにとってもいかにも日本というシーン。土手に関しては、別に狙った訳ではないので、スポットにしてもらったのはうれしいけれど、競技にすれば単なるタイムロス(苦笑)。いい意味でのスポットになるようにロスのないスポットにしたい。

──ワークスノミネートで何か変わったか? 前半戦立て直しはどうやった?

勝田貴元選手:ワークスノミネートされたラリーは5戦あった。それ以外のラリーでもあったけれど、自分の置かれている状況を冷静に見られるようになった。ワークノミネートによりチームにポイントを持ち帰るという責任ができた。例えばポルトガルではチームメイトがクラッシュして離脱して残り2台になったので、確実にチームにポイントを持ち帰らないといけない。そこでしっかり走ってチームにポイントを持ち帰ることできた。自分の結果を追い求めることも大事だが、自分を抑制してバランスを保つそうした経験が次につながった。

 ラリー・スウェーデンではミスを犯して厳しい状況に置かれたが、ポルトガルでもメカニカルトラブルで結果を出せなかった。ケニアではきっちり表彰台を獲らないといけないと思ったが、結果は4位。このままでは来年はないなと自分で自分を追い詰めていた。

 だが、後で分かったのが、チームはその時点では全然そんなことを考えていなかった。チームは長い経験があるメンバーがそろっていて、例えばカッレ(カッレ・ロバンペラ選手、今年のWRCチャンピオン)にはテストで同乗させてもらったりして、自分が間違っていないと分かった。それがきっかけになってフィンランドで立て直せて3位を獲得できた。チームやカッレには感謝の気持ちしかない。