ニュース

F1 2024シーズン開幕直前、HRC渡辺社長「レッドブル、ホンダの双方にとって記念すべき年」

2024年2月27日 発表

左から株式会社ホンダ・レーシング エグゼクティブチーフエンジニアF1プロジェクトLPL(総責任者) 角田哲史氏、同代表取締役社長の渡辺康治氏、同常務取締役 四輪レース開発部長 武石伊久雄氏

 ホンダ・レーシングは2月27日、今週末から開幕するF1 2024年シーズンに向け、栃木県さくら市にある四輪レースの開発拠点「HRC Sakura」において「F1 2024シーズン開幕前取材会」を開催した。

 説明会には、同社代表取締役社長の渡辺康治氏、同常務取締役 四輪レース開発部長 武石伊久雄氏、同エグゼクティブチーフエンジニアF1プロジェクトLPL(総責任者) 角田哲史氏らが参加して、F1 2024年シーズンに向けた意気込みを語られるとともに、HRCの取り組みについて説明を行なった。

 渡辺社長は、「2023年シーズンは、ホンダ・レッドブル・パワートレインズのパワーユニットを搭載したオラクル・レッドブル・レーシングのRB19が22戦中、21勝し、F1の歴史に新たな大記録を樹立しました。これは1988年にアイルトン・セナとアラン・プロストが駆るマクラーレン・ホンダのMP4/4が打ち立てた、16戦中15勝という記録を、35年ぶりに自ら塗り替える快挙となりました」と2023年シーズンをふり返った。

 そして2024年シーズンについて渡辺社長は、「ホンダが1964年に初めてF1に参戦してから60年目の節目の年となります。1963年に初の市販車を発売したばかりのホンダは、初のF1マシンRA271を製作し、世界一を目指して挑戦を始めました。また、現在のパートナーであるレッドブルが今年チーム創立20周年の記念の年です」と、ホンダとレッドブルにとって記念になる年と位置付けた。

 HRCの2024シーズンは、引き続きレッドブル・パワートレインズのテクニカルパートナーとして、2つのチームにパワーユニット「Honda RBPTH002」の供給を行なう。1つ目はオラクル・レッドブル・レーシングで、ドライバーはマックス・フェルスタッペン選手とセルジオ・ペレス選手。2チーム目はチーム名を新たにしたビザ・キャッシュアップRB F1チームで、ドライバーは角田裕毅選手とダニエル・リカルド選手。

 渡辺社長は「ドライバー、マシンも高い競争力があるのは確かですが、今年はレース数が2戦増えて年間24戦のタフなシーズンとなりますし、当然フェラーリ、メルセデスなど、ライバル勢も信頼性、そしてパフォーマンスともに上げてくると思いますので、決して楽な戦いはできないと見ています。HRCとしても、2022年からのPU開発凍結以降、継続的に耐久性と信頼性を上げる取り組みを行なっていて、ポテンシャルを最大限に発揮して、サーキットでのパフォーマンスにつなげています」と、現在の取り組みについて説明した。

 そして渡辺社長は、「今シーズンはレッドブル、そしてホンダの双方にとって、記念すべき年ですので、ドライバーズタイトルの4連覇、コンストラクタータイトルの3連覇を達成して、新たな歴史を刻めるように、チーム一丸となって全力を尽くしてまいります」との意気込みを述べるとともに、「参戦4年目となります、日本人ドライバーである角田裕毅選手には、これまでの自己最高の4位を超えて、ぜひ表彰台を目指し、がんばってほしいと思います」とエールを贈った。

2026年のF1再参戦に向けた取り組みも

 渡辺社長は2024年シーズンへの取り組みに続けて、2026年のF1再参戦に向けた取り組みについても言及。

 渡辺社長は、「2026年からアストンマーティンレーシングとタッグを組み、パワーユニットサプライヤーとして再参戦することを昨年の5月に発表させていただきました。新しいレギュレーションでは、小型、軽量、高出力のモーターや、大電力を扱える高性能バッテリ。そして、エネルギーマネージメントの技術が勝利への鍵となるため、現在HRCでは、新たなパワーユニットの開発を急ピッチで進めています。アストンマーティンレーシングとも大変に良好な関係を構築し、技術面、そしてマーケティング面での連携を開始しています。ぜひ、2026年からの活動についても、ご期待をいただければと思います」と説明した。

 そして、F1再参戦に向けては、欧州における前線基地が必要であると、その設立の準備も進めていることが明かされ、具体的な内容については、決定次第発表が予定されている。

 こうしたHRCの取り組みについて渡辺社長は、「まずは今シーズン、ちょうど1週間前に、開幕専用のパワーユニットを、ここHRC Sakuraから送り出したところなので、開幕戦はもちろん、4月に開催される鈴鹿での日本グランプリでは、4台が最高の成績が収められるよう、HRCとして全力を尽くしてまいります。ぜひ、応援をよろしくお願いします」とまとめた。

F1エンジンを製作するHRC Sakuraの施設を公開

 この説明会では、HRC Sakuraで製作されるF1エンジンの組み立てラインを見学することができた。バランス取りしたピストンに技術者がピストンリングをはめるようすや、高速回転に対応するためにバルブスプリングでなくエアバルブが採用されているエンジンヘッドの構造など、普段目にすることができない光景を見学することができた。

 HRC Sakuraで組み上がったF1エンジンは、最終的にシャシーダイナモを使って性能をチェック。バランス取りなどが施された精密な部品を使って組み上げられたエンジンにおいても、シャシーダイナモにかけると1基、1基、特性が異なることが分かるという。一番特性のよいエンジンはやはり優勝に近いチームに、といった戦略も取られるという。

 先日開催されたバーレーンのテストにおいて、2023年シーズンの勝者、オラクル・レッドブル・レーシングの2024シーズン用マシン「RB20」は、2023シーズンを完全制圧した「RB19」からアグレッシブに進化した姿で登場。

 レッドブルの新マシンについて、F1プロジェクトLPL(総責任者)の角田氏は「先週の実車テストで皆さんも見ていただいたと思いますけれど、レッドブルは昨年あれだけ圧倒したクルマがあるのに、今年、大幅にコンセプトを変えて、より攻めたデザインをしてきています。けれども、まさにこれがF1だと思ったし、レッドブル・レーシングは本当にチャンピオンになるのにふさわしいチームなんだなと、私はあらためて感じた次第です」との感想を述べた。

 また、テスト結果については、「それぞれのチームがどういう条件で走っているかというのは表に出さないと思いますから、結果をダイレクトに受け止めているわけではないですけども、HRCとしては一連のテストがひと通り終わって、一応準備万端で今シーズンも始められるかなという状況にいます」と話した。

電気エネルギーの比率が大幅に高められるパワーユニット

 一方、説明会に出席した四輪レース開発部長の武石氏は、F1を含めたHRCの4輪レースを統括し、F1の技術と量産モデルの技術、その技術の橋渡しをする役割も担う。

 渡辺社長から、2026年に向けて新たなパワーユニットを開発していることが明らかにされたが、2026年以降に使用されるF1のパワーユニットは、100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務付けられるとともに、最高出力の50%をエンジン、50%を電動モーターでまかなう仕様となる。

 これにより、現在と比べて出力に占める電気エネルギーの比率が大幅に高められることになり、電気エネルギーのマネージメントなど電動系の技術開発が重要となってくる。量産モデルの開発を手掛けてきた武石氏からは、パワートレーンの電動化によってホンダの技術を活用していける範囲が増えていくのではないかと感じているという。

 武石氏は「F1の部品は試作メーカーさんとのお付き合いが多いですけれども、量産の時の人脈でみると要素技術みたいなところは大きい会社さんの方が、いろんなことをやっているということが多いので、そういったところで協力していたいただくとか、コネクションに期待できる部分はあると思います」との感触を語った。

 また、F1の技術と量産モデルの技術の関係性について、武石氏からはバッテリの技術開発を例にして、レース世界では出力だけを極めるといった技術開発も可能であるが、量産技術では出力密度というよりも高エネルギー密度にするとか、作りやすいとか、コストをより下げるとか、特殊な技術が必要になってくる部分もあるという、そういった関係性にあることが説明された。

 武石氏は、「全体的にバランスの取れる技術はどうすればいいのか、そのためにはどういった要素技術がいるのかみたいなところは、結局考え方は似てる部分はあるんじゃないかなと。あとは経済原理みたいなとこは必ず働いてくるので、いろんな部署ともやっていかなければいけないっていうものももちろん出てきますし、より幅広い部分で人とのつながりみたいなところが重要になってくる気がします」との考えを話した。

左から株式会社ホンダ・レーシング 常務取締役 四輪レース開発部長 武石伊久雄氏、同代表取締役社長の渡辺康治氏、同エグゼクティブチーフエンジニアF1プロジェクトLPL(総責任者) 角田哲史氏