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マツダのチャレンジプログラム3期生が高性能シミュレータに挑戦 リアル耐久レース参戦に向けたトレーニング方法とは?

倶楽部MAZDA SPIRIT RACINGのチャレンジプログラム「バーチャルからリアルへの道」3期生5人がSPKのシミュレータラボで高性能シミュレータに挑戦した

 マツダの“モータースポーツをより身近に、仲間とつながり、共にスピードスポーツを楽しむコミュニティ”として活動している「倶楽部MAZDA SPIRIT RACING」の、ユーザーの挑戦をサポートする「チャレンジプログラム」が2025年で3年目を迎えた。

 去る2024年10月6日~11月24日に開催されたオンラインeモータースポーツ大会「MAZDA SPIRIT RACING GT CUP 2024」で好成績を収めた中から27人が選ばれ、2025年3月に1泊2日で筑波サーキットでコース1000およびコース2000にて、実車のロードスターを使いサーキット走行をリアルで体験。走行後にはグループ面談を行ない、意気込みや情熱などが確認され、最終的に3期生は、市原拓真さん、佐藤真太朗さん、大原悠暉さん、瀬川彰斗さん、中村匠都さん、能條裕貴さんの計6人にしぼられた。

ついに約9000人の参加者の中から3期生となる6人が決定し、次のプログラムがスタートした。※能條さんは仕事の都合で欠席
中村匠都さん
市原拓真さん
佐藤真太朗さん
大原悠暉さん
瀬川彰斗さん

 また5月末には、SPKが開設しているドライビングシミュレータ機材の研究施設「シミュレーターラボ」にて、高性能シミュレータを使用した練習会を実施。仕事の都合で欠席となった能條さん以外の5人が参加した。シミュレーターラボには、SPKがeモータースポーツ事業の一環として取り扱う、ポーランドのモーションシステムズ(MotionSystems)製キュービックシステム(QUBIC SYSTEM)の電動アクチュエータを搭載したレーシングシミュレータ4基が設置されていて、実戦に向けたトレーニングメニューが用意された。

 今回の講師は筑波サーキットに引き続き、チャレンジプログラムのチーフインストラクターを務めるTCRジャパン代表の加藤彰彬氏と、バーチャルからリアルへの道の1期生である三宅陽大インストラクターの2名。まずはライセンス不要の耐久レース「マツダファンエンデュランス(通称:マツ耐)」参戦に向けて、レギュレーションの確認からスタート。

チャレンジプログラムのチーフインストラクターを務める加藤彰彬氏は、チューニングショップTCR(Teruaki Clubman Race)ジャパンの代表で、自身も数々のリアルレースに参加しながら、ユーザーのサポートも実施。また、iRacingでは世界チャンピオンを獲得している
バーチャルからリアルへの道の1期生である三宅陽大インストラクター。JEGT認定ドライバーで、TC CORSE Esports MAZDAやSPK e-SPORT Racing with TC CORSEから参戦実績を持つ。またリアルでも、ロードスター・ パーティレースIIIジャパンツアーシリーズ2025の第2戦で2位に入るなどバーチャルでの実力を見事にリアルでも発揮している1人
シミュレータに関する説明は、2019年にモナコ公国で開催された「FIA グランツーリスモチャンピオンシップ ワールドファイナル in モナコ」への参戦や、2023年のジャパンモビリティショーで開催された「e-Motorsports大会 真剣勝負 メーカー対抗戦」にてDAIHATSU D-SPORT Racing Teamの1人として参加して優勝するなど、eモータースポーツで数々の好成績を残し、現在はSPK CUSPA営業本部に努め、シミュレータラボを担当している菅原達也氏が説明してくれた

 前回の筑波サーキット走行では、マーシャルから出される基本的な旗の説明は受けたものの、当然マツ耐だけに設定されている規則があり、まずはそれをしっかりと頭に叩き込む必要がある。特にマツ耐は耐久レースのため、バーチャルでは発生しない「ガス欠症状(タンク内のガソリンがほとんどなくなった状態で、コーナリング中にガソリンが横Gで偏ってしまい、燃料ポンプがガソリンを吸えなくなる状態)」が出る。NDロードスターはかなり最後の方までしっかりガソリンを吸えるため、「ガス欠症状」が出ると、その後はあまり長くは走れない。

 もしガス欠症状が出たら、急いでコース上から退避しなければならない。仮にガス欠になってコース上で止まれば、ポイントがもらえないでは済まされず、他の競技車両に対して危険を与える障害となったと判断され、「即失格」となるなど厳しいルールが設けられている。

マツ耐のルールが書かれた競技規定(レギュレーション)を全員で確認
コース上で停止するのはもっとも危険とされ、第1項で禁止が明記されている

 この日の練習メニューは、参戦するマツ耐が、第3戦の茨城ラウンド(筑波サーキット:7月26日~7月27日)、第5戦の静岡ラウンド(富士スピードウェイ:10月5日)、第6戦の岡山ラウンド(岡山国際サーキット:11月22日~11月23日)と、計3戦に挑むことを前提にプログラムを構成。

 筑波サーキットは前回実際に走っているし、富士スピードウェイはグランツーリスモにも収録されているので、ここでは岡山国際サーキットの攻略法と同時に、エンジン回転数の上限を5000rpmや6000rpmにしばったり、アクセルは全開まで踏まない、下り坂ではアクセルをOFFにするなど、耐久レースならではの走り方を中心に練習が行なわれた。

過去の車載動画を見ながらアクセルワークの重要さを説明する加藤チーフインストラクター

 シミュレータを使ったトレーニングの内容は、コースのライン取りはもちろんだが、重要なのは先述した耐久レース用の走り方。ピットからは燃料の残り具合とレース展開を見ながら、「とりあえず今は5000rpmを維持」や「6500rpmまで回していいから前車を素早く抜いて」など、細かく指示が飛んでくるため、ドライバーはタコメーターを常に意識しながら、ライバルの動きやマーシャルの旗など、360度に意識を向けながらレースをしなければならない。

岡山国際サーキットの走り方のポイントを説明
平面コース図では分かり難い勾配(アップダウン)についても細かく解説。また加藤氏は「コースを歩ける場合はできるだけ歩いて、実際のカント(角度)を計測したり、路面のザラザラや石の大きさ、縁石の高さや凸凹の大きさなどもじっくり観察することが大事」という

 インストラクターの加藤氏によると、基本的に自動車はアクセル開度から燃料噴射量を割り出すため、アクセルペダルを床まで踏み込んでしまうと、燃料をどんどん消費してしまう。タイムアタックやスプリントレースなら、その走り方で正しいが、耐久レースにおいてはNG。エンジンの振動やパワーやトルクの出方を感じ取りながら、速度を落とさないようにアクセル開度の微調整を行ないながら走り続ける技が求められるという。

シミュレータラボには4種類の機材があり、それぞれ動きが異なる。チャレンジプログラム3期生の5人は、自宅では味わえない高次元のリアルな動きをシミュレータで体験していた
決められたエンジン回転数でシフトチェンジができているかをチェック
ライン取りやアクセルワークも細かくチェックしていた

レースの腕だけでなくパドックや日常の立ち振る舞いにも言及

チャレンジプログラムを統括しているマツダ株式会社 ブランド体験推進本部 ブランド体験ビジネス企画部 モータースポーツ体験グルーブ 主幹 後藤憲吾氏

 また、チャレンジプログラム参加者には、リアルモータースポーツの楽しさや仲間との活動に関して、SNSなどを使った積極的な情報発信も求められると同時に、世間から注目を浴びていることを意識して、ジェントルな立ち振る舞いも求められる。モータースポーツへの挑戦者でありながら、マツダのブランドを背負っている1人として年間を通じて活動していくことになる。

 今後は、6月末に広島のマツダ本社内にあるミュージアムを見学し、タカタサーキットで開催されるジムカーナ大会に参戦して、実車のコントロール技術を高めるトレーニングを行なったのち、7月に筑波サーキットで開催されるマツ耐に参戦する。

チャレンジプログラム参加者は、自分たちの活動を積極的に発信することで、グラスツール(草の根)モータースポーツ活動を広めることもの役割の1つ