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エヴァンゲリオンレーシングリポート SUPER GT第5戦「第42回インターナショナル・ポッカサッポロ1000km」

2013年8月18日決勝開催

 8月18日、2013 AUTOBACS SUPER GT第5戦「第42回インターナショナル・ポッカサッポロ1000km」の決勝レースが鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で行われた。レース結果などはすでに別記事で紹介しているが、本記事ではSUPER GTのGT300クラスに参戦し、Car Watchの読者に人気の高いエヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細をお届けしたい。

 エヴァンゲリオンレーシングはシリーズ前半を終えてノーポイント。すでにチャンピオン争いからは脱落し、残る各レースで最善を尽くすのみとなった。期待されたマクラーレンMP4-12Cだったが、残念ながら結果を残すことができない状況だ。

 ここで少し視点を変えて、ヨーロッパで行われているFIAーGT選手権の結果を見てみよう。4戦までの結果からトップ3とマクラーレンMP4-12Cを抜き出したのが以下の表だ。表彰台争いをしているのはアウディとメルセデスの2台が中心。マクラーレンは1回だけ4位になったが、残りのレースは下位に沈んでいる。この結果を見ると、SUPER GTでのエヴァンゲリオンレーシングの低迷もしかたないように感じられる。

4月1日(現地時間)フランス

順位ドライバーチームマシン
1F.Stippler/E.SandstromBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
2S.Ortelli/L.VanthoorBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
3M.Buhk/A.DayHTP Gravity CharouzMercedes SLS AMG GT3
11A.Zuber/M.ParisySebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C
12S.Loeb/A.ParenteSebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C
17D.Keilwitz/N.KentenichDoerr MotorsportMcLaren MP4-12C

4月21日(現地時間)ベルギー

順位ドライバーチームマシン
1P.Kox/S.RosinaLamborghini Blancpain ReiterLamborghini LP560-4
2S.Ortelli/L.VanthoorBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
3E.Sandstrom/F.StipplerBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
4A.Zuber/M.ParisySebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C
13S.Loeb/A.ParenteSebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C

7月7日(現地時間)オランダ

順位ドライバーチームマシン
1M.Buhk/A.DayHTP Gravity CharouzMercedes SLS AMG GT3
2S.Ortelli/L.VanthoorBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
3E.Sandstrom/F.StipplerBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
14S.Loeb/A.ParenteSebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C
15A.Zuber/M.ParisySebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C

8月18日(現地時間)スロバキア

順位ドライバーチームマシン
1A.Simonsen/S.AfanasievHTP Gravity CharouzMercedes SLS AMG GT3
2N.Mayr-Melnhof/R.RastTeam WRTAudi R8 LMS
3S.Ortelli/L.VanthoorBelgian Audi Club Team WRTAudi R8 LMS
7A.Zuber/M.ParisySebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C
not classifiedS.Loeb/A.ParenteSebastien Loeb RacingMcLaren MP4-12C

 第5戦の舞台は鈴鹿。シリーズ最長となる1000kmのレースだ。長丁場のレースということもあり、チームは第3ドライバーとしてカルロ・ヴァン・ダム選手を加えて戦うこととなった。カルロ・ヴァン・ダム選手はエヴァンゲリオンレーシングとして2台体制で臨んでいた2年前のシーズンに、7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONをドライブしている。昨年はGT500クラスの18号車 ウイダー HSV-010に乗り、セパンで優勝も飾っている。

8月17日(土)練習走行

 土曜日は2時間弱の練習走行とノックダウン方式の予選。3人体制で臨むため、練習走行の時間は十分ではない。まずはいつもどおり加藤選手がコースインしてタイヤ選択を始める。タイヤ選択といっても二者択一で、予選タイヤ=決勝スタートタイヤを決めることとなる。

 最初の4周のベストタイムは2分4秒782。この時点では11番手タイムだが、上位はすでに2分3秒台だ。タイヤを交換して再度アタックを行い2分4秒325まで短縮するが、他車がタイムを上げたため15番手に後退する。予選Q1を突破するには2分3秒台が必須となりそうだ。

 車高を調整してコースに戻るも2分5秒台しか出せず、時間をかけて足まわりの調整を開始。キャンバー調整を終えたところで高橋選手に交代してコースイン。高橋選手のベストタイムは2分9秒332。最後にカルロ選手に交代し、ニュータイヤを装着して2分5秒982を記録した。3選手とも何かハッキリとしないパワー感のなさなど、漠然とマシンの遅さを指摘。トンネルの出口が見つからないまま午後の予選を迎えることとなった。

練習走行に臨むエヴァRT初号機アップルMP4-12C

8月17日(土)予選Q1

 予選Q1で13位以内に入ると予選Q2に進むことができる。Q1の担当は加藤選手。加藤選手が13位以内に入れば、Q2はカルロ選手がステアリングを握る予定だ。

 加藤選手は最初のアタックで2分4秒626を出して14番手。再度アタックを試みるが、2分4秒976と自己ベストが更新できない。この時点で順位は20番手に後退。さらにタイムアタックを続けることもできたが、予選Q2進出の2分3秒台までタイムを縮めることは不可能と判断。決勝スタートで使用することになるこのタイヤを温存するためピットに戻ってきた。

予選Q1を走る加藤選手

 加藤選手をもってしてもクラス中盤にも食い込めず20番グリッド。今シーズンはテストをふくめて序盤はマシントラブルが多発したが、アップデートパーツの導入が功を奏し、第3戦セパンからはトラブルもなりを潜めるようになった。これでいよいよ反撃に打って出られると思っていたが、第4戦SUGOから今回の鈴鹿まで、目立つトラブルは出ないがマシンが思うように走ってくれず、特に1発の速さがまったくない。

 低迷の原因としては、ヨーロッパと異なる日本の高温多湿な気候と、日本で使用する通常の市販ハイオクガソリンに合わせ込まれていないMP4-12Cのエンジンマップ(燃料、空気、点火時期など様々な組合せのプログラムデータ)が考えられる。また、10日ほど前に行われた富士スピードウェイのテストで方向性の見えてきた新タイヤがまだ用意できなかったことも低迷の要因となっている。

ピットウォーク、グリッドウォーク

 セパン、SUGOと2人体制だったレースクイーンが、第2戦の富士以来3カ月半ぶりに5人体制となった。エヴァンゲリオンレーシング レースクイーンの人気はいつもどおり。多くのファンがピットウォーク、グリッドウォークに集まった。

5人が勢揃い。ピットウォークには多くのファンが集まり盛んにシャッターを切っていた
キッズウォークには3人のドライバーも登場した

8月18日(日)決勝

 1000km、約6時間の長丁場となるこのレースでは、ドライバー交代を伴う4回のピットインを義務付けている。4ピット5スティントに区切られ、これによって燃料消費量が多いFIA GTマシンでも、給油時間は長くなるが常に満タン給油を行えば走りきることができる

 マシンの状況は厳しいが、トラブル、ミス、アクシデントというモータースポーツにおける「負の3大要素」を排除し、着実に走り切ればこの1000kmの先にいい結果が待っているだろう。

 12時30分にフォーメーションラップが開始され、1周後に決勝レースがスタートした。スタート担当の高橋選手は1コーナーで87号車 ラ・セーヌ ランボルギーニ GT3、88号車 マネパ ランボルギーニ GT3の2台のランボルギーニに抜かれ、パワー勝負となる裏ストレートでは5号車 マッハGoGoGo車検 GT-Rにもアッサリとパスされて、オープニングラップで最下位の23位となった。

88号車と5号車を後方に従えてフォーメーションラップを走る高橋選手
1周目に3台に抜かれ、5号車に次ぐ23位と最下位まで後退した
5号車にも引き離され、最後尾で1人旅となってしまう

 今回は高橋選手がスタートを担当し、カルロ選手、加藤選手が2スティントずつを担当する。高橋選手は最初の30周をトラブル、ミス、アクシデントなく走り、2人のドライバーに繋ぐことが重要となる。

 20周を過ぎたころから、早めのピット作戦を採るチームやトラブルでピットインするマシンも出はじめ、見かけ上の順位が上がっていく。18位までポジションを上げた高橋選手だったが、ピットインを間近にひかえた28周目のS字コーナーでコースオフ。10秒ほどのロスでコースに復帰するが20位に後退。ラップタイムも落ちて燃料の残量アラームも点灯したことから、予定より1周早い29周目にピットイン。タイヤを4本交換して約50秒の給油を行い、カルロ選手に交代して21位でコースに復帰した。

S字コーナーでコースオフ。すぐにコースに復帰する高橋選手

 トップグループからはすでに1周遅れとなったが、カルロ選手は2分7~8秒台のタイムで周回して徐々に順位を上げていく。マシンに慣れてきたカルロ選手は周回を重ねる毎にベストタイムを更新。39周目には18位、52周目には17位、59周目には16位までポジションを上げた。

交代したカルロ選手は徐々に順位を上げた

 実際のラップタイムを比較してみよう。40周目の順位で1位、6位、11位、16位のマシンと18位のカルロ選手のラップタイムを、前後1周を含む39~41周目の3周の平均ラップタイムで比べると、圧勝した1位の61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTは2分5秒台と別格だが、6位の52号車 OKINAWA-IMP SLS、11位の16号車 無限 CR-Z GTは2分7秒台とカルロ選手と大差はない。さらに16位の21号車 ZENT Audi R8 LMS ultraよりは2秒ほど速いタイムでラップしている。

1位6位11位16位18位
61号車52号車16号車21号車2号車
39周目2:05.6662:06.3082:06.0932:10.1532:08.198
40周目2:06.3752:08.2602:07.2062:09.4112:07.733
41周目2:04.7722:07.1752:09.2722:10.0952:07.679
平均2:05.6042:07.2482:07.5242:09.8862:07.870

 レースも1/3を消化した59周目の西ストレートで、86号車 クリスタルクロコ ランボルギーニ GT3がこの日2度目のタイヤバースト。フェンダーの破片をまき散らしてマシンが炎上。130Rのイン側にマシンを止めた。

 2回目のピットインを準備していたチームは、セーフティカーが入ると判断。まだ予定より2周ほど早いが、SCサインが出てピットクローズになる前にカルロ選手に緊急ピットインを指示。タイミングがよければ、これで前車とのギャップを詰めることができるはずだ。

 同様のチーム戦略で続々とマシンがピットに入ってきたことで通常の位置に停車させることができず、いわゆる“斜め止め”でピット作業を開始。タイヤはリアのみ2本の交換で加藤選手に交代。マシンをメカニック5人で押し戻してコースに送り出す。このままセーフティカーの後方の隊列につき、レースの再スタートを待った。

 西ストレートは飛び散った破片の清掃、オイル処理が行われている。ピットインのタイミングが遅れてピットロード出口の赤信号で止められたマシンもあるなか、加藤選手はセーフティカーランで6周をこなし、隊列が整った段階で順位は13位に上がっていた。

 66周を終えた時点でレース再開。すべてが上手く進み、ポイント圏内も見えてきたと思われた。2分7秒台から6秒台へと順調にペースを上げた加藤選手だったが、71周目の西ストレートに入ったところで「タイヤがおかしい!」と無線が飛ぶ。

 右フロントタイヤのエアが抜けたことによるスローパンクチャーだ。幸いタイヤバーストは避けられてピットまで戻り、フロントタイヤ2本を交換。目視で周囲にダメージがなさそうだと確認してすぐコースに復帰するが、このトラブルで18位に後退してしまった。

周回は異なるが33号車をロックオン
33号車を抜き、少しでも上位を目指す加藤選手

 この遅れを取り戻すべく、再びラップタイムを2分6~7秒台に上げて追い上げを開始した加藤選手だったが、ピットにはオフィシャルからペナルティが告げられていた。先のセーフティカー導入時のピットインが、SCサインが出たあとに行われたと判断され、規則違反による90秒のペナルティストップが課せられたのである。

 同様のペナルティが8台のマシンに課せられ、ペナルティストップエリアが1カ所であるため、長時間にわたって順次ペナルティを消化していく異例の光景となった。

 加藤選手は75周目を終えたところでピットロードを通過し、ペナルティストップエリアに。ペナルティを消化してコースに戻ると、すでにトップグループからは4周遅れの19位。上位との勝負権は消えたが、まだポイント圏内が届かない位置ではない。その後は2分6~7秒台のタイムを順調に刻み、トップの61号車は2分5~6秒台と別格だが、上位グループを上まわるタイムで周回を重ねた。

 続いての表はペナルティ消化後のラップタイムの比較。78周目の順位で1位、6位、11位、16位のマシンと19位の加藤選手のラップタイムを、前後1周を含む77~79周目の3周の平均ラップタイムを比べると、やはり1位の61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTの2分4秒台は別格だが、6位の16号車 無限 CR-Z GT、11位の0号車 ENDLESS TAISAN PORSCHE、16位の9号車 NAC攻殻機動隊ARISE DR ポルシェのタイムを上まわる2分6秒台で加藤選手はラップしている。

1位6位11位16位19位
61号車16号車0号車9号車2号車
77周目2:05.5292:06.8502:10.3032:12.1272:06.793
78周目2:04.3012:07.4062:08.7582:11.3012:06.483
79周目2:04.1962:08.6392:08.6592:10.0532:07.285
平均2:04.6752:07.6322:09.2402:11.1602:06.854

 加藤選手は17位までポジションを上げ、96周を終えてピットイン。レースは残り1/3だ。タイヤ4本を交換し、ドライバーはカルロ選手に交代してコースに戻る。攻めるカルロ選手はすぐに2分8秒台から7秒台にペースを上げるが、101周目にシフトチェンジができなくなるトラブルが発生。この日2度目の緊急ピットインとなった。

 シフト操作をするためのエアプレッシャーの警告灯が点灯。これは今までにないトラブルで、エアの蓄圧タンクからエアコンプレッサー、各部の配管などを点検するが、なかなか原因を特定できない。1時間を超える作業により、エア漏れ部位をコントロールのモジュレーターが原因と特定。スペアと交換し、カルロ選手が再び乗り込んで車両チェックのためコースに出た。

 この1時間のピットストップで、レースという意味においては完全に息の根を止められてしまった。この後の残り20周弱は次のレースに向けた準備という意味も込めて、予定にはなかった高橋選手の走行に当てることにした。カルロ選手が5周の走行でチェックを終えてピットインし、高橋選手にドライバー交代。給油、タイヤ交換もなくコースに復帰していった。

 終盤の白熱したトップ争いや上位グループが後方から迫り、安全にパスさせる必要が発生しておのずとタイムも落ちてくる。高橋選手は2分9~11秒台のタイムで、通常の練習時より多い16周をこなして2号車 エヴァRT初号機アップルMP4-12Cをチェッカーまで導いた。

1時間を超えるピット作業を終えてコースに復帰。夕闇せまるなかゴールを目指す

 トータル123周、トップから38周遅れの19位でゴール。レース後の車検で2位の4号車 GSR 初音ミク BMWが失格になったので、正式結果は18位となる。目論んでいた作戦やレース展開の予想とは逆に、ミス(セーフティカーペナルティ)、アクシデント(スローパンクチャー)、トラブル(シフト不良)と「負の3大要素」が重なるレースとなってしまった。開幕戦のリタイヤ、そこから18位、15位、16位、そして今回18位と、下位が定位置になりつつある。

 安定して走行できたときのレースラップはわるくない。徐々にデータ収集も進んできた。次戦以降に向けた明るい材料としては、今回は間に合わなかったが、8月初旬の富士テストで方向性の定まったニュータイヤが次戦から用意できそうなことと、外気温はこの鈴鹿がピークでこれから下がっていくことである。

 次戦の第6戦は今週末の9月7、8日に富士スピードウェイで開催される。マシン、タイヤ、気候のすべてが好転することを願いたい。

(奥川浩彦)