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ダンロップ、100%石油外天然資源タイヤ・50%転がり抵抗低減タイヤなどの技術説明会
50%転がり抵抗低減タイヤは、2014年秋発売へ
(2013/12/4 16:41)
ダンロップ(住友ゴム工業)は12月3日、東京モーターショーで発表した100%石油外天然資源タイヤ「エナセーブ 100」、50%転がり抵抗低減タイヤに関する技術説明会を開催した。この技術説明会では、12月2日に発表されたばかりの“長持ちする低燃費タイヤ”「エナセーブ EC203」に投入された技術の解説も行われた。
自動車タイヤ国産化から100年の思いが反映された「エナセーブ 100」
技術説明会では、最初に住友ゴム工業 常務執行役員 中瀬古広三郎氏が登壇。ダンロップのこれまでのタイヤ開発についての概略を紹介した。
住友ゴム工業は、1913年に自動車タイヤ国産第1号を製造。「その時点での自動車保有台数は521台、それから100年業界のトップランナーとして常に先進技術を追求してきた」という。2013年9月には長期ビジョン「VISION 2020」を発表。2020年のあるべき姿を目指すために、「新市場への挑戦、あくなき技術革新、新分野の創出を掲げた」という。
その1つ、“あくなき技術革新”として素材開発技術の革新があり、1992年に立ち上げたタイヤシミュレーション開発が、今ではタイヤ開発の基幹技術として利用されており、材料シミュレーションによる新材料開発技術「4D NANO DESIGN」も確立した。
この4D NANO DESIGNは、環境にかかわる「低燃費性」、安全にかかわる「グリップ性」、省資源にかかわる「ゴム強度」の、三律背反する性能すべてを向上させるためのもので、「大変複雑なゴムの構造と機能発現を明らかにすることが必要」と語る。今後はさらに高機能材料開発を進め、天然素材の置き換えだけでなく、さらなる低燃費、さらなるグリップ、乗り心地の改善などを実現し、「高機能タイヤにさらなる付加価値を追加した商品の開発を加速し、持続可能な社会にふさわしいタイヤ作りを行っていく」と述べた。
各タイヤに投入された技術の詳細については、住友ゴム工業 材料開発部 材料企画部長 石田博一氏が説明。ダンロップは2001年に100%石油外天然資源タイヤの開発に着手。2006年には70%石油外天然資源タイヤである「エナセーブ ES801」を発売。2006年には「エナセーブ 97」で、その比率を97%に高めることに成功した。2013年の東京モーターショーで発表、そして発表翌日に発売したエナセーブ 100では、天然、改質、創生の3つの方法で、通常のタイヤでは6割ほど用いられている石油由来材料をゼロにするこに成功した。
とくに天然素材に置き換えるのが難しかったのが、「老化防止剤」「加硫促進剤」「カーボンブラック」の3つ。老化防止剤、加硫促進剤には、ベンゼン環を持つ芳香族が用いられているが、これは数億年の地熱によって水分などが抜けた石油由来資源では作りやすいものの、水や酸素を多く含むバイオマス資源では環を作るのが難しかったとのこと。そのため、バイオマス由来の芳香族化合物を製造できるプラントを導入し解決。カーボンブラックは、石炭資源からコールタールを経て蒸留した石炭油を高温で不完全燃焼させることで微粒子のカーボンを生成していたが、バイオマス資源では酸素が多く含まれるため燃えてしまうという。そのため、酸素の少ない原料の選択と燃焼条件の検討により製造を可能とした。
これらにより100%石油外天然資源タイヤ エナーセーブ 100を製造し、量産体制を築き上げた。転がり抵抗性能についても、ラベリング制度で「AA」となり、ウェットグリップは「b」を獲得。耐摩耗性能も、エナセーブ 97比で19%向上しているほか、乗り心地もよくなっているという。
燃費値10%向上を目標とする50%転がり抵抗低減タイヤ
一般に自動車の走行抵抗の約20%は転がり抵抗で消費されているといい、2014年の秋の発売を予定している50%転がり抵抗低減タイヤは、タイヤ単体で10%の燃費値改善を目指すもの。そのために投入されたのは、タイヤに使われている素材の能力を最大限に引き出すことであり、そのために4D NANO DESIGNが用いられた。
その例として紹介されたのはウェットグリップの改善について。これまでの4D NANO DESIGNでは、ポリマーと結合する変性基を最適化して低燃費性を向上させていたが、50%転がり抵抗低減タイヤでは、ポリマーの分子骨格に着目。ポリマーの分子骨格の配列をこれまでと変更することで、ウェットグリップが向上したという。
また、タイヤに使われている天然ゴムの性能を最大限に引き出すために、天然ゴム粒子を覆っていたリン脂質とタンパク質を除去したUPNR(Ultra Pure Natural Rubber)を開発。余分なものがなくなったことで、ゴムとカーボンが強く吸着し、無駄な動きを抑制でき、転がり抵抗の原因となる余分な発熱を低減している。UPNR製造量のこともあり、通常の天然ゴムも使用。この天然ゴムに関しても、カーボンカップリング剤を新たに用いることで無駄な動きを抑制。ゴムの発熱性を最大15%低減したという。
12月2日に発表されたスタンダード低燃費タイヤ EC203で採用した材料の説明も行われ、その後に今後のシミュレーション技術の方向性が語られた。4D NANO DESIGNは、分子の結合などナノレベル、ゴムの物性などミリレベルを、各スケールでシミュレーションしている。これを次世代の「ADVANCED 4D NANO DESIGN」では、連続したスケールでシミュレーションを実施。そのため、材料のX線分析を行う大型放射光施設「SPring-8」、中性子実験を行う大強度陽子加速器施設「J-PARC」、世界でもトップレベルの計算力を持つスーパーコンピュータ「京」を活用していくという。
その先にある、「NEXT 4D NANO DESIGN」では、ナノスケールからセンチメートルスケールとなるタイヤの挙動までを連続シミュレーション。路面でのミクロ接触についての解析までをも行い、材料からタイヤまでをシームレスに見ることができるようにするようだ。
タイヤのラベリング制度の導入による低燃費タイヤの開発が、これらダンロップの製品開発を後押ししているように見えるが、中瀬古氏によると「2008年に開催された洞爺湖サミットで、すべてのタイヤを低燃費化することによってCO2の排出量を3%下げようという指数目標が出た」のがきっかけだという。そのときの平均的なタイヤの転がり抵抗を半減させたのが50%転がり抵抗低減タイヤとなり、「大きな志と、自分たちの思いのもとにスタートした」プロジェクトが実を結んだものとのこと。
100%石油外天然資源タイヤも、100年目に100%石油外天然資源タイヤを発売するとの目標で作られたタイヤで、いずれも高いところに目標を見据え、それを実現した(50%転がり抵抗低減タイヤの発売はこれからだが)製品となる。これらの開発過程で得られたノウハウが同時並行的に投入されたのが、ロングライフを実現するというエナセーブ EC203となり、今後のダンロップ製品にもさまざまな技術が反映されていくのだろう。