インプレッション

メルセデス・ベンツ「E 400 4MATIC ステーションワゴン エクスクルーシブ」(2016年フルモデルチェンジ)

ベースモデルのトップグレードに試乗

 メルセデス・ベンツの中核モデルであるEクラス。その新型ステーションワゴンに初めて試乗した。新型Eクラスのセダンは2016年7月27日に発表されたが、それに遅れること4カ月目にあたる11月29日に日本へと導入されたのが、今回試乗した新型Eクラス ステーションワゴンだ。

 試乗したのは、AMGを名乗らない事実上のトップグレードである「E 400 4MATIC ステーションワゴン エクスクルーシブ」(1050万円)。ご覧のとおり、ボンネットの先端にメルセデス・ベンツのCIを形取ったスリーポインテッドスターを配し、上品な佇まいの3本グリルと組み合わせた。

 2007年に日本へと導入された先代Cクラスの前後から、メルセデス・ベンツはグリル内にスリーポインテッドスターを配したグリルを世界市場での統一アイコンとしてきた。これは一重にユーザー層の若返りを図ったもので、大きなスリーポインテッドスターと開口面積の大きなグリルは躍動感を感じさせるため一定の効果があったといえよう。しかし、かつての重厚なイメージを踏襲したいメルセデス・ベンツファンも多く、現にSクラス(セダン)のスリーポインテッドスターはボンネットフードに配置されたままだ。

 このグリルはデザインだけでなく、メルセデス・ベンツが得意とするADASにも好影響をもたらした。グリル内のミリ波レーダー(25/77GHzマルチモード対応型)のカバーをスリーポインテッドスター部分に合わせることで、デザイン性と機能性を両立させることに成功。以降、他のメルセデス・ベンツも同様の手法を採ることでデザインの共通化が促進された。なお、3本グリルのE 400ではグリルに透明のアクリル樹脂カバーを装着し、ミリ波レーダーの汚れを防止している。

 外観は総じて非常に伸びやかで上品だ。個人的な見解ながらEクラスのエクステリアデザインは、このステーションワゴンや先ごろデビューしたクーペやカブリオレ(ソフトトップを閉じた状態)のように、なだらかな弧を描くルーフデザインとの相性が抜群によいように感じる。とは言え、近年の相似形デザインには疑問を感じることも。たとえばCクラスとEクラスを20m程度離れた距離から比較すると、瞬時にどちらなのか判断に迷うことがあり、ステーションワゴン同士だとさらにその傾向が強まる。

 もっとも、サイズはかなり違う(全長は200mm程度、ホイールベースは100mm、それぞれEクラスが長い)わけだし、ヘッドライトまわりのデザインにしても比べればかなり違うのだが、これが見分けるとなると難しい。こうした相似形デザインは今に始まったことではなく、各ブランドで行なわれており、50年以上前から続く手法。上位モデルへの移行をスムースにいざないたいデザイナーの想いは伝わるものの、ここまで似てくるとどうなのか……。これが正直なところだ。

今回試乗したのは2016年11月に発売された「E 400 4MATIC ステーションワゴン エクスクルーシブ」(ダイヤモンドホワイト)。エクステリアはクーペのように流れるプロポーションと力強いリアエンドによって構成され、Cd値0.28という空力性能を実現する。ボディサイズは4940×1850×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2940mm。価格は1050万円
Eクラス ステーションワゴンのうち、Sクラスにもっとも近い存在であることからE 400 4MATIC ステーションワゴン エクスクルーシブのみボンネット上にスリーポインテッドスターマスコットを配する。足下は18インチアルミホイールにピレリ「Cinturato P7」(245/45 R18)の組み合わせ

 インテリアはEクラスのセダンに準じた。大型クルーザーのキャビンをイメージしたという現行Sクラスの面影を強く残しながら、ダッシュボードやセンターコンソール上部の造形を変更し、Sクラスから50~65mm狭くなった車幅(ボディ全幅)に合わせた調整がなされた。また、見た目は伸びやかだが、適正なドライビングポジションをとったまま腕を伸ばせば各部のスイッチ類へとスッと手が届くため、日常の使いやすさは損なわれていない。車内安全にひときわのこだわりをもつメルセデス・ベンツらしい部分だ。

 センターコンソール下部にあるコマンドコントローラーは、HMIの観点から昨今のメルセデス・ベンツでは重要な要素だ。2013年に国内に導入された現行Sクラスからコマンドコントローラーは第3世代となり、コントローラー上部にはタッチセンサーが採用された。右ハンドルモデルは当然ながら、左手でこのタッチセンサーを操作するわけだが、やはり“ひらがな入力”には向いていないと思う。アルファベットや数字であれば幾分ましに操作できるのだが……。

 一転、新たなHMIとしてEクラスのセダンからステアリングの3時と9時の位置に「タッチコントロールボタン」が設けられた。右(3時の位置)のボタンはメータークラスター内部のディスプレイを、左(9時の位置)のボタンはセンタークラスター上部のディスプレイをそれぞれ操作できるように分類されている。コマンドコントローラーのタッチパネルと同じく静電タッチ方式なのだが、上下左右方向へと動かす範囲が狭いことから、運転中であってもステアリングから手を放さず操作できるため使いやすく、安全上からも好ましい。

 また、左右のディスプレイを左右のボタンで操作するという直感的なレイアウトにも好感が持てた。ちなみに左ハンドルの場合は、右ボタンがセンタークラスターのディスプレイの操作を、そして左ボタンがメータークラスターのディスプレイの操作をそれぞれ受け持つ。

ベージュ基調の明るいインテリアを採用。ステーションワゴンではパッセンジャーエリアとラゲッジルームがつながっている構造のため、走行時の騒音や振動が課題となる。今回のEクラス ステーションワゴンではボディ底面を補強することでボディ剛性を高め、さらにボディ各部に遮音材を多く備えるなど静粛性を高める対策が行なわれている

走行性能は想像以上に好印象

 さて、肝心の走行性能なのだが、これが想像以上によかった。いわゆる“速い・遅い”の次元とはちょっと違う、ドライバーの感覚にフィットするドライブフィールを持っている。エンジンはV型3.5リッター直噴ツインターボとお膳立てはすばらしく、事実、最高出力333PS/5250-6000rpm、最大トルク48.9kgm/1200-4000rpmとスペックも優秀なのだが、すばらしいのはこうしたカタログ値だけではなくて、それこそ100mも走らせれば誰もが実感できるミッチリと詰まった出力特性にある。

 これまで筆者のなかで3.0リッタークラスのターボエンジンといえば、BMWの直列6気筒が走り&フィーリングともにイチバンと認識していたが、それを上まわる走りをE 400では体感することができた。細かく見ていけば、盛り上がりに欠けるエンジン音だったり、トップエンドまでフラットな出力特性ということで速さを体感しづらかったりするものの、車両重量1950kgという重量級ボディながら、どんな回転域からでも右足のアクセルペダル操作に追従させることができる点はなんとも気持ちがいい。マルチチャンバー方式のエアサスペンション「AIR BODY CONTROL」を4輪に採用(標準装備)していることも、こうした大らかな乗り味を促進する要因だ。

 搭載するエンジンの形式はM276型。ベースは先代のSクラス/Eクラス/Cクラスなどに搭載されていたノンターボ版のM276型であり、燃焼技術で成層燃焼と均質燃焼、さらにその混合である均質成層燃焼の3モードを走行状態に応じてシームレスに切り替えることを特徴とする。E 400ではさらにツインターボチャージャーを組み合わせた。これによりV型6気筒エンジンによる成層燃焼リーンバーンターボが成立したわけだ。

 ちなみに、直列4気筒2.0リッター直噴ターボであるM274型が、成層燃焼リーンバーンとターボを組み合わせた燃焼技術を世界で初めて搭載した経緯があり、先代のEクラスから現行Eクラス(E 200 4MATIC ステーションワゴン アバンギャルドを除く)、そして現行Cクラス(C 200 4MATIC ステーションワゴン アバンギャルドを除く)に至るまで搭載が続いている。

パワートレーンはV型6気筒DOHC 3.5リッター直噴ツインターボエンジンに9速ATの組み合わせで、最高出力245kW(333PS)/5250-6000rpm、最大トルク480Nm(48.9kgm)/1200-4000rpmを発生。JC08モード燃費は11.1km/L

 成層燃焼リーンバーン×ターボのメリットはハイパワーと低燃費を両立できる点にあるが、一定の燃焼モードでは排出ガス中のNOxが急激に増えてしまうというジレンマがあった。それをM274型やM276型では高度な制御技術によるEGR(排出ガス再循環装置)の最適化によって排気温度を効果的に下げつつ、きめ細やかな燃焼制御や過給圧コントロールを行なうことでこれを克服し、実用化にこぎ着けている。

 E 400は4MATICである点も魅力だ。後輪寄りのトルク配分を基本としたフルタイム方式で、必要に応じて前輪への駆動力配分を増やすことができる電子制御タイプを採用する。

 今回は市街地を10分程度試乗するにとどまったため、E 400の魅力を一部しかお届けできなかった。機会があれば、優れた運転支援技術である「ドライブパイロット」や、「ディスタンスパイロット・ディストロニック &ステアリングパイロット」に始まるADASの数々を堪能してみたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学