試乗インプレッション
ダイハツの新型「タント」2つのパワートレーンに試乗。すべてを刷新した成果とは?
新プラットフォームで使い勝手のよいパッケージと走りも進化
2019年8月16日 12:00
発売以来約1か月で、月販目標の約3倍となるおよそ3万7000台を受注! ――そんな絶好調の立ち上がりが報告されているのが、去る7月9日に発表・発売が行なわれた新型「タント」だ。
2003年末に誕生の初代から数えて4代目となる最新のモデルは、ボディはもちろんその骨格やパワートレーン、シャシーやシートなどまでもを一新させた、正真正銘の“オールニュー”であることが大きな特徴。一方、今回もしっかり踏襲されたのは、圧倒的に広いキャビン空間や徹底的に吟味をされた使い勝手など、何を差し置いても「タントならでは」と表現のできる実用性の高さということになる。
昨今の軽自動車の多くがそうであるように、フロントマスクを代表としたエクステリアのデザインに、ベーシックな標準仕様といわゆる“カスタム系”と呼ばれるより自己主張が強いものとの2タイプが用意されるのは、新型タントの場合でも同様の展開。
ただしこのモデルの場合、例え後者でも意外にも“派手さ控え目”にまとめられているのは、1つの注目点。
実際、「打倒タント!」の思いを込めて世に送り出された、ライバルであるスズキの「スペーシア」などと見比べてみればその差は歴然。まるで「能面を貼り付けた」かのような、無理矢理に押し出し感を強調したド派手な顔付きには、さすがにもはや食傷気味という人も多いのではないだろうか。
広いスペースを活用するならではの装備
そんな新型タントでの装備面の大きな売り物は、従来型でも採用されていたボディの左側Bピラーレス構造に、新たに一部上級グレードに用意されたドライバーズシートの超ロングスライド構造を組み合わせる“ミラクルウォークスルーパッケージ”なるものだ。
安全性確保のため、シフトがPレンジにあって、かつダッシュボードの右端もしくはシート背面にレイアウトされたスイッチによってロックを解除した際のみ操作が可能になるというシートのスライド量たるや、実に540mmという常識外れの長さ。
これによって、着座状態のまま左側後席に座る人の至近距離へとアクセスしたり、左側スライドドアからのウォークスルーによる乗降が可能なるといった点は、なるほど使い方次第では「このモデルだからこそ得られる、他に類のないアドバンテージ」ということになりそうだ。
一方で見方を変えれば、そんな用途で使う機会などないというのであれば、せっかくの凝った構造もまさに“宝の持ち腐れ”。そもそも、実はこうした機能を実現するために価格面や重量面にも少なからぬ影響が及んでいる、という点にまで思いを馳せれば、「他の車種を考えた方がいい」という行動にも移されかねないのは、このモデルならではのウイークポイントと捉えることもできるかもしれない。
前出のウォークスルー時の中腰姿勢や、子供の着替えなどにも配慮をした結果の、ボディ全幅を30cmほども上まわる極端な背の高さは、ひとたびシートへと腰を降ろした際には信じられないほどに広大な頭上空間を生みだす結果に。それゆえ、慣れないと戸惑うことになったのは高い位置にあるルームミラーで、これは調整する際にはアクセス性がよくないし、使用時には“見上げ角”がかなり大きくなってしまうことが避けられない。
こちらも驚くほどに大きなニースペースが確保されたリアのシートは、スロープ対応モデルを除く全仕様で、左右分割のリクライニングと格納機構付き。さらに、上級グレードでは240mmのスライド機構も加わるが、これは「ここまでやるのならばリアゲート側からも操作ができれば、ラゲッジスペースとの空間の融通がより簡単になるのに」と感じられることにもなった。
自然吸気エンジンモデルの走りは?
試乗を行なったのは「X」と「カスタム RS」の2WD仕様。いずれのモデルもUV&IRカットガラスやチルトステアリングなどから成る“コンフォータブルパック”と、駐車支援システムや6.2インチ・ディスプレイオーディオなどから成る“スマートパノラマパーキングパック”をオプション採用。さらに、カスタム RSは“スマートクルーズパック”も採用されるモデルだった。
ただし、全車速追従機能付きACCやレーンキープ・コントロールなどから成るそんな“スマートクルーズパック”は、ターボ付きエンジン搭載モデルでのみ選択可能というのはちょっと残念。せっかく新型タントの売り物の1つであるにもかかわらず、バリエーションの過半のグレードでは、それを選ぶことはできないのだ。
「10年先までを見据えて開発した」と開発陣が豪語する、“DNGA”を称するボディの新骨格は、アンダーボディのメンバーを直線的に配したことなどによる強靭さと高い安全性はもとより、「トータルで80kgのマイナス」を謳う軽量ぶりも大きな特徴。さらに、エンジンの性能アップと共にトランスミッションの伝達向上も図られ、動力性能も従来型より確実に向上と謳われる。
それでも、「やっぱりちょっと物足りないナ」と思えたのが、自然吸気エンジンを搭載したXの加速の印象だった。
軽くなったとはいえ、全高が1.7mを超える“大柄ボディ”によって900kgに達する重量は、660ccという排気量の心臓にはやはりどうしても荷が重い印象は否めない。
“ちょっと急ぎ”のシーンでは、エンジン回転数は5000rpm程度までを常用することに。こうなると、エンジン音はそれなりに賑やかになるし、そもそも余裕が小さいので、ベルトに加えギヤ駆動も併用する世界初というデュアルモードCVTも、その恩恵を明確に実感するまでには至らなかったのだ。
日差しが強く暑かった試乗日には、アイドリングストップが行なわれるたびに、空調吹き出し温度が明確に上昇することにも戸惑った。こうして、兎にも角にも「やはりエンジンの余裕が足りない」感は拭えなかったのである。
フラット感が高い乗り味
そんな動力性能の余裕の無さに対する不満は、予想通りにカスタム RSへと乗り換えるとスッキリ霧散することとなった。
こちらはさらに重く、車両重量は920kgとコンパクトカー並。が、ターボ化による最高出力の12PS上乗せはもとより、最大トルク値が100Nmと、自然吸気エンジンより40Nmも上まわることが大きく効いている。当然、常用する回転域も自然吸気エンジンより大幅に低くなり、その分静粛性にも有利な理屈。実際、そんなこのモデルでの静粛性は、「これでロードノイズがもう少し抑えられれば、クルマ全体の上質感がずっと高まりそうなのに」と思えるものだった。
先のXグレードも含め、新型タントの走りで感心させられたのは、全般にフラット感の高いフットワークのテイストだ。これだけ背が高く、ボディサイドも垂直に近いのだから、そうしたディメンション的にも外乱には弱くて仕方がないと思えるものの、そんな好印象な乗り味が高速道路に入るとより顕著に感じられたのは、新型タントの美点として特筆をしてもよいポイントだ。
一方、ワインディング路をあえて速めのペースで走行すると、ボディの無駄な動きが抑えられていることに感心させられる一方で、昨今の軽自動車の中にあってもアンダーステアが強めであることに気がついた。もっとも、これは「なかば予想された結果」でもあったもの。この種のモデルにとって、最も恐れられる挙動は急ハンドル時の転倒。新型タントの強めのアンダーステアは、前輪のグリップ力を逃がすことによって、こうした危機的状況を回避しようという意図的な設定であるに違いないからだ。
いずれにしても新型タントの仕上がりは、なるほど「すべてを刷新」という成果がしっかり感じ取れるものだった。こうなると、同様にDNGAを採用しながら、「より低く、より軽く」と、運動性能面にはより有利な基本ディメンションを備えるこの先登場のモデルにも、大いに期待が持てることになりそうだ。