試乗レポート

387PSへとパワーアップ、トヨタ「GRスープラ」2020年モデル

エンジンパワーアップを果たした直列6気筒 3.0リッター直噴ターボのRZ

 まだ需要に供給が追い付いていない状態の「GRスープラ」だが、3.0リッターエンジン搭載車がパワーアップされた。変更が大きかったのは直列6気筒 3.0リッター直噴ターボの「RZ」で、ほかの直列4気筒 2.0リッター直噴ターボを積む「SZ-R」「SZ」では「ペダル踏み間違い急発進抑制機能」が追加され、サポカー補助金の対象車になったことがトピックだろう。

 スープラの開発責任者である多田氏は、「スポーツカーは常に話題を作って進化していかなければならない」と言っていたが、「86」のときも常にステップアップしながらマーケットに話題を提供し続けていた。スープラも今後話題を提供していくことになるのだろうか。

確実な進化を遂げていたGRスープラの2020年モデル

387PSへとパワーアップした、3.0リッター 直列6気筒モデル

GRスープラの開発者であるトヨタ自動車の多田哲哉氏。86の開発者でもあり、トヨタのスポーツカー作りを手がける

 注目の3.0リッター6気筒のエンジンは型式がB58B30M1からB58B30O1に変更になっている。ブロックなどに変更はないが従来シリンダーヘッド内蔵型だったエキゾーストマニフォールドを独立型に変更し、ピストン形状も変わり圧縮比も11.0から10.2に下げている。過給エンジンにとっては大きな違いになる。

 これにより出力は従来の250kW(340PS)/5000rpmから285kW(387PS)/5800rpmへ向上している。最大トルクの絶対値は500Nm(51.0kgfm)と変わらないものの、その発生エンジン回転数は1600-4500rpmから1800-5000rpmになりパワーバンドが上に広がっている。

 エンジンの出力特性を見ると、新型ではパワーカーブの延長線上で山が大きくなっている。同じようにトルクカーブは最大トルクを出すポイントは200rpmほど高くなるものの、収束点は500rpmほど伸びているので、トルクバンドは広がりフレキシブルなエンジン特性を想像させる。

 ボディ側では、この出力アップに対応するためにフロントサスペンションタワーとラジエータサポートを結ぶブレースが追加され、ボディ補強が行なわれた。

パワーアップした6気筒エンジンと、フロントストラットタワーに増設されたブレース(シルバーの部品)。RZのWLTCモード燃費は12.0km/L(SZ-Rは12.7km/L、SZは13.1km/L)

 もちろんこれによって前後バランスを取る必要があり、サスペンションでは前後のバンプラバーの形状変更とリアの電子制御ダンパーのバルブを変更し、伸び側の減衰力が相対的に上がっている。

 さらにアクティブデフも反応を鈍くして、ロック率も下げるセッティングとなり、高速域での穏やかな反応となっている。電動パワーステアリングやVSCなども、この1年間で得たフィードバックが入って進化した。

 では早速試乗してみよう。久しぶりのスープラである。ハイパワーのFRスポーツカーはちょっと緊張する。

低速から粘り強く、スルスル走るGRスープラ

ホライズンブルーのボディカラーとなる特別仕様車のRZ“Horizon blue edition”。すでに予約受注で完売している

 試乗車のA91は100台だけ限定販売されたホライゾンブルーで、夏にふさわしいカラーだ。残念ながらすでに予約受注で完売してしまった。

 ルーフが低いスープラの乗降性は決して褒められたものではないが、大振りだがしっかりシートに身体をホールドする感覚が心地よい。まさにスポーツカーの空間だ。シートや内装にもブルーのステッチが入るのも限定車ならではだ。小物入れは限られているので、比較的容量の大きなトランクに搭載して、最小限必要なモノだけを車内に持ち込む。

 走り始めると、「アレ、こんな優しかったっけ?」と拍子抜けするほど滑らかに走り出す。アクセルの微妙なコントロールからブレーキに至るまでドライバーの意思に忠実に反応して、スペックから想像するより過敏ではない。約380PSの出力は相当に元気がよく、従来エンジンよりも高回転型になっているはずだが、低速から粘り強くスルスル走り始める。1800rpmから500Nmのトルクを出しているのだから、市街地も運転しやすいのは当たり前か。郊外路でもトルコンの8速ATはリズミカルに変速していく。あえてマニュアルシフトにするまでもなく、Dレンジでも十分にスープラのパフォーマンスの一端を味わえる。

RZのボディサイズは4380×1865×1290mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2470mm。車両重量は1530kgとなっている
内装にはブルーのステッチが入る

 郊外路からコースは急勾配の山岳路に入る。かなりツイスティだ。ステアリングはEPSの制御に手が入れられているようで、さらに滑らかで段付き感がない。特にハンドルを戻すときの操舵感にも滑らかさがあり、ドライビングの質の向上を感じた。

 山道はどんどん深まり、コーナーも小さくなってくる。ステアリングを左右に切りながらクリアしていくが、ステアリングギヤレシオが小さく、ロック・トゥ・ロックは2回転に過ぎない。ツイスティなコースでもハンドルを忙しく回すことなく、スマートなハンドル操作でこと足りる。

 もちろんエンジンもフラットなトルクカーブで、どこから踏んでもビッグトルクの恩恵にあずかれてグイグイ加速していくので、アクセルとハンドルをマッチングさせてフットワークよく走り抜ける。何気ないコーナーも十分に楽しい。

 アクティブデフは、タイトコーナーで後輪内側が少し浮き気味になった場面ではLSDの効果をしっかり出しているが、最初の効き始めが緩やかな感じになり、LSD効果をドライバーが意識しないうち完結してしまうような感じである。

 シートは後輪の直前にあり、ドライバーはお尻でリアの動きを早く感じ取ることができる。長いノーズの中にフロントミッドシップに納められ、粛々と回る直列6気筒エンジンは、アクセルペダルに反応して後輪がグイとクルマを前に押し出すのがよく分かる。大トルクにもかかわらず、リアの挙動は予想したよりも安定しており、高いグリップ力に任せていればよい。この点、A90よりも乗りやすく感じられた。

 そして意外なことに乗り心地がいい。A90で荒れた田舎道を走ったときも突き上げ感が少なく、スポーツカーとしてはとても快適だった。A91ではサスペンションの設定はサーキット走行に適合するように設定されたと聞いていたので、ゴツゴツした突き上げを想像していたが、むしろシャキとした上下動は気持ちがよく、大きな段差を乗り越えるときこそドンというようなショックがあるものの、それ以外は快適なドライビングを楽しめた。

 スポーツモードではまた違ったGRスープラの顔を見せる。少し湿ったようなしっとりとした6気筒サウンドは低音が響き、いつでも最適なトルクを供給できるようにスタンバイモードに入る。サスペンションやステアリングなども味わいが異なり、締まり感と重さが加わる。3.0リッターターボエンジンの力を無闇に公道で開放する勇気はないが、パドルシフトを併用しての下り坂では使い勝手がよいだろう。

 実はこの余力を楽しめるのは日本と北米だけで、同じ仕様でも欧州向けでは厳しい燃費規制で仕様変更を出力に向けられず、A90とほぼ同じスペックになってしまうと言われる。

 パワーに余力があることでサーキットだけでなく、粘るような走りも実現しており、ドライバーにとっては余裕を手に入れられる。行き届いたディーラー体制と素晴らしいパワー、日本のスポーツカーユーザーは幸せだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学