インプレッション
フォルクスワーゲン「ゴルフ オールトラック」
Text by Photo:安田 剛(2015/8/14 09:00)
2014年1月、フォルクスワーゲン「ゴルフ ヴァリアント」(ステーションワゴン)が日本で発売を開始した。その約1年半後となる今年7月にデビューを果たしたのが、今回ご紹介する「ゴルフ オールトラック」だ。フォルクスワーゲンに限らず、欧州ブランドの多くはこうして派生車種を増やすことで個性を強く主張してきているが、いわゆるハイパワーエンジンの追加といったパワートレーンの拡充という枠組みを超え、ベースモデルの想定ユーザー層から大きく転換を図ったモデルを追加するのが昨今のトレンドのようだ。
ゴルフ オールトラックの車名にヴァリアントの名はつかないが、ご覧の通りベースはゴルフ ヴァリアント。ざっとアウトラインをヴァリアントのベースモデルであるTSIコンフォートラインと比較すると、全幅はそのままに全長は10mm拡大、そして全高は25mm高くなっている。細かく見ていくと、全長の拡大は専用のクローム装飾とブラック樹脂パーツによるもので、バンパーの形状そのものはベースモデルと同一。全高はタイヤの大口径化(205/55 R16→205/55 R17)とサスペンションストロークのアップによって最低地上高が25mm高くなっている。これは後述する悪路での走破性能を高めるために取られた策である。
搭載エンジンは7代目ゴルフ初となる直列4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ「1.8TSI」エンジンで、専用設定が施された6速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)が組み合わされる。ダウンサイジングターボエンジンを早期に導入してきたフォルクスワーゲンだが、このゴルフ オールトラックではその逆、いわばアップサイジングを行ってきた。単純に考えれば「なぜに!?」となるのだが、試乗してみるとなかなかどうして、これが現行ゴルフシリーズNo.1といえるほどの質の高い走りを見せてくれたのだ。
その理由はエンジン特性にあった。1.8TSIは最高出力180PS(4500-6200rpm)、最大トルク28.6kgm(1350-4500rpm)とアウトプットされる数値だけ見れば目を見張るものではない。しかし、注目すべきはその特性で、発進時にDSGの1速がミートする1300rpm付近からすでに最大トルクを発揮し、それがそのまま3000rpm以上保たれるのだ。無論、こうした特性はアクセル開度100%での値であり、切れ目のないターボの過給圧が条件となるものの、最新の過給圧コントロール技術によって中間のアクセル開度であってもその基本特性はほぼ同じだ。
一般的にディーゼルエンジンのトルク特性は低回転域からグッと立ち上がる台形型のカーブを描くと言われているが、この1.8TSIのトルク特性はディーゼル並の台形型のカーブに加えて、より高回転域までフラットなトルクを保っていることが分かる。しかも、最大トルク値と最高出力値の発生回転が4500rpmで見事にシンクロしているため、たとえば今回の試乗ステージとなった箱根路では、決して軽量ではないボディー(車両重量1540kg)を発進時から軽々と引っ張り上げるとともに、そのままアクセルを踏み込んでいけば、6000rpm以上の領域までほぼ一定の加速度を保っていける。スペックからくる先入観以上の走りを見せつけられると実に気持ちがよいものだが、ゴルフ オールトラックの走りっぷりはまさにその典型であった。
さらに6速DSGのギヤ比も絶妙だ。先のトルク特性と相まって、およそ10%以下の登り勾配路であれば、イメージするギア段よりも一段上のままで走りきることができる。となれば当然、キャビンは静かに保たれ、結果、ゴルフシリーズきってのゆとりある走りを実感することができる。これがNo.1たる所以だ。
しかし、乗り味に関してはややイメージとは違っていた。もっとも、これはSUVテイストたっぷりのデザインから筆者が想像していたものと違う、ということでNGポイントではないのだが、日本の道路環境で乗るならば正直、もう少し大らかさがあるといいと感じられることが多かった。聞けば、ベースモデルから延長されたホイールストロークは悪路での走破性能を向上させる(アプローチアングル14.5度/ディパーチャーアングル17.3度/ランプアングル9.4度を確保する)ものであり、さらにそれが舗装路での走行性能を妨げてはならないという安定性重視の観点から現状のサスセッティング(≒硬めの設定)となっているとのことだが、筆者には、たとえば路面の凹みを通過した際の突き上げがどうしても強く感じられてしまう。
もっとも、ヴァリアント(ステーションワゴン)であるわけで、この点はラゲッジルームに荷物を満載にした(最低でも100kgは許容する)状態での走行安定性を体感して語るべき領域であることも確かだ。積載時のバランスがいかに大切であるかは永らくステーションワゴンオーナーである筆者は理解している。しかしながらこのクルマのオーナーとなり、それでも乗り味が気になる場合は、17インチタイヤを16インチへとインチダウンさせ、そのぶんエアボリュームのあるタイヤを履かせてみる、という手もある。
ハンドリングはさすがの一言だ。17インチタイヤの影響もあり20km/h以下の低速域では意外なほどにしっかり感(≒重さ)を感じるステアフィールだが、速度を徐々に上げていくとそれがどんどん素直になっていく。たとえば、あるコーナーを見据えてステアリングを切り始めたとする。その際、ゴルフ オールトラックはコーナーの進入からステア操作に遅れなく鼻先が入り込み、そのままピタッとコーナーをトレースしたままクリアしていくのだ。その間、ステア修正は一切なし! これは何も目を三角にして飛ばしている時の話ではなくて、後席にも人を乗せた状態を想定して、法定速度内で丁寧に走らせた場合であっても、じつに一体感ある走りを堪能することができる。一体感といえば、シート形状も平均的な日本人の体型にしっくりとくるもので、身体を点でなく面で支えてくれるので、一度しっかりとした運転姿勢をとれば、その後にお尻を動かしながら微調整を繰り返すといったこともない。
駆動方式はフォルクスワーゲンが誇るフルタイム式4WD「4モーション」だ。残念ながら今回は舗装路のみでの試乗であったため、悪路における真価を体感することはできなかったが、そのメカニズムからしてポテンシャルの高さは相当なもの。ゴルフ オールトラックの4モーションは最新世代のシステム「ハルデックス5」カップリングを採用し、前後のトルク配分を瞬時に行うことが特徴だ。また、アクセルペダルやABSの特性を低μ路用に変更するロジックや、急な下り坂で速度を抑制する「ヒルディセントアシスト」を機能させる、オフロード専用モードをもつ「ドライビングプロファイリング」も装備する。2WD(FF)がベースであるものの、状況により後輪の駆動配分を100%(前輪は0%)にすることも可能で、なおかつ走行中にアクセルを全閉にした場合には、リアの駆動系を切り離して駆動ロスによる燃費数値悪化を抑制する機構も組み込まれている。
ゴルフが属するCセグメントは世界的に見ても競争がすさまじい。そうしたなか、347万円~という車両価格で挑んだゴルフ オールトラックは、国産車にとっても強敵だ。上級の「アップグレードパッケージ」(367万円)を選択すれば、フォルクスワーゲンが誇るADAS(Advanced Driver Assistance Systems)が手に入る。そうした意味で、アドバンスドセイフティパッケージが選べるようになったスバル(富士重工業)「レヴォーグ」とはよきライバルとなることだろう。