インプレッション

プジョー「308 GTi by PEUGEOT SPORT」

エンジンパワーを2種類設定

 プジョーはいま市場をジワジワと拡大している。日本の2015年の販売台数は5904台となり、前年比の+3.4%を記録。今年に入ってからは2015年の同時期と比べて+40.6%にもなるという。それは何も日本だけの話じゃない。本社は2015年に4年ぶりの黒字化を達成。ホームマーケットとなるヨーロッパでは6%も販売台数を伸ばしたというのだ。投入されてまだ日が浅い「208」や「308」の好調、欧州カー・オブ・ザ・イヤーの獲得、さらにはライバルの失速など、理由はさまざまだろうが、いずれにしてもプジョーはいまもの凄く元気だ。

 この流れができ上がったからこそ、魅力的な派生車種も登場するのだろう。今回新たに登場した「308 GTi by PEUGEOT SPORT」は、会社が余裕だからこそイケイケで作られた感覚に溢れている。パワーウェイトレシオは、プジョー史上最強だった「RCZ R」が持つ4.96kg/PSを上回る4.88kg/PS(GTi 270)を達成しているという。軽量で高出力を実現するエンジンに加えて、RCZのようにガラス面積を大きく持たないハッチバックを選んだこのクルマは車重1320kgを達成している。

 エンジンは1.6リッターのダウンサイジングターボを採用。パワーは2種類用意され、270PS仕様の「308 GTi 270 by PEUGEOT SPORT」(GTi 270)と250PS仕様の「308 GTi 250 by PEUGEOT SPORT」(GTi 250)が存在するが、GTi 270では前述したパワーウエイトレシオになる。これにより0-100km/h加速は6.0秒。駆動の途切れがある3ペダルでありながら6.0秒を達成したことは驚き。ライバルとなる「ゴルフ GTI」は駆動が途切れない2ペダルのDSGでさえ6.5秒を必要としているのだ。

写真は270PS仕様の「308 GTi 270 by PEUGEOT SPORT」。ボディサイズは4260×1805×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2620mmで、ベースモデルの308 Allure比で15mm低くなるスペック。車重はGTi 250と共通の1320kg。価格は436万円
GTi 270に搭載する直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンは、最高出力200kW(270PS)/6000rpm、最大トルク330Nm/1900rpmを発生。JC08モード燃費は15.9km/Lをマークする。エンジン内部ではツインスクロールターボや耐高熱スチールエキゾーストマニホールド、熱処理を施して耐久性を高めたシリンダーブロックなどとともに、新型の鍛造ピストンヘッドではF1エンジンに採用されているアルミ素材を使用するといったチューニングが施されている
フロントまわりではプジョーロゴとライオンエンブレムが付くチェッカーフラッグをモチーフにした専用フロントグリル、バンパー下部左右にクーリング用エアインテークを備えた専用バンパーを装備
GTi 270は専用19インチアロイホイールを標準装備し、タイヤはミシュラン「パイロット・スーパースポーツ」(235/35 ZR19)を組み合わせる。フロントでは4ピストンのレッドキャリパーと380mmのブレーキディスクを組み合わせてストッピングパワーを強化。さらにGTi 270ではトルセンLSDを装備する
ブラックのドアミラーを採用
リアアンダーガーニッシュとデュアルエキゾーストエンドも308 GTi by PEUGEOT SPORTならではの装備
GTiバッヂはフロントフェンダーおよびテールゲートに備わる
インテリアはブラックを基調とし、ステアリングやシート、シフトノブなどにレッドステッチを効果的にあしらったスポーティなデザイン。
フルグレインレザーを用いた小径スポーツステアリング
アルミ仕上げのシフトレバー。トランスミッションはGTi 270、GTi 250ともに6速MTのみの設定
独特のデザインを採用するメーターまわり
ペダルまわりもアルミ仕上げとなる
キッキングプレートも専用品
GTi 270ではプジョー・スポールが開発した専用バケットシートを装備。スエード調のアルカンターラとテップレザーを組み合わせたもの
250PS仕様の「308 GTi 250 by PEUGEOT SPORT」。最大トルクはGTi 270と共通で、最高出力が184kW(250PS)/6000rpmとなる。ちなみにJC08モード燃費はGTi 270よりも0.4km/L落ちて15.5km/Lとなる。価格は385万円
GTi 250が装着する18インチアロイホイール。タイヤは225/40 ZR18サイズのミシュラン「パイロット・スポーツ3」を装着
GTi 250のインテリア。GTi 270とは異なるスポーツシートを装備する。GTi 270、GTi 250ともに「スポーツモード」を備え、シフトノブ付近のボタンを押すことでアクセルレスポンスが高まるとともにパワーステアリングをよりダイレクトなフィーリングに切り替えることができる。「スポーツモード」を選択した場合は、メーター中央にパワー、ブースト、トルクの数値を表示するとともに、メーターのバックライトがレッドに切り替わる

どっかに飛んで行ってしまうような危うい動きは皆無

 搭載される直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンは、グレード名が示す通りフラグシップでは270PS/6000rpmを達成。最大トルクは1900rpmから330Nmを発生する。おかげで走り出しから豪快そのもの。右から左へと指針が動くタコメーターは、あっという間に左側へと振れ、次々にシフトアップする必要があるくらい。低回転からトルクフルだが、けれども伸び感も損なわれていないその仕立ては、いかにも速そうなエンジンだ。

 スポーツモードを選択すれば、車室内の疑似的なサウンドも豪快に生まれ変わり、それと同時にメーター内にはパワー、ブースト、トルクの瞬間値が表示される。確認したところ、最大で2.5barものブーストが掛かっているそうだが、トルクの出方にクセもなく調教されているような感覚だ。これぞあらゆるモータースポーツで結果を出してきたプジョー・スポールならではなのかもしれない。いつでもどこでも扱い切れるリニアさが気持ちよい。

 シャシーはベースモデルに対してマイナス15mmダウンの専用サスペンションを奢り、そこに235/35 ZR19サイズのミシュラン「パイロット・スーパースポーツ」を組み合わせている。さらにトルセンLSDを標準装備や、380φのブレーキディスク、そして対向4ピストンブレーキキャリパーなど、ホットハッチらしい仕上がりだ。ちなみにGTi 250では225/40 ZR18サイズのミシュラン「パイロット・スポーツ3」を装着。トルセンLSDの設定はなく、ブレーキはフローティングキャリパーとなっている。

 試乗コースとなったツインリンクもてぎの南コースは、サーキットというよりは広場にコースを示す白線を引いたのみというステージ。コーナーにカントはなく、クルマの性能がそのまま表れるような場所である。路面μもそれほど高くなく、クルマが跳ねるギャップがあるなど、サーキットとは言いつつもそれほど整備されてはいない。

 だが、そんなステージをGTi 270はしなやかに、そして豪快に走ってくれるから面白い。スタビリティコントロールを解除してしまえば、狙い通りにテールを巻き込ませながらタイトターンを次々にクリアして行く。コーナー脱出時にはトルセンLSDが程よい仕事をしてトラクションを稼ぎ出しているところも興味深い。本格的にサーキットを走るならもう少し効きがよくてもいいと思えたが、ハンドリングにクセなく走らせるにはこの程度が望ましいとなったのだろう。自然なステアフィールもまたGTi 270の魅力の1つだ。強烈なストッピングパワーと踏力を抜く時の追従性は、やはり対向キャリパーを備えているだけのことはある。実にマニアックだ。

 GTi 250はクセのないハンドリングをさらに引き伸ばしたようなところがあり、しなやかさも自然なハンドリングも一枚上手。サーキットでのトラクションは物足りなさ満載だが、極限で走らないユーザーにとってはコチラのほうが望ましいかもしれない。

 ただ、誤解をしないで欲しいのは、GTi 270であってもハードすぎるというわけではない。そこには“猫足”と呼ばれたプジョーらしさがきちんと備わっていたのだ。ギャップも見事にいなして走るその感覚は、例えホットハッチでもしなやかさを忘れないようにしようとしたフシが見られる。どっかに飛んで行ってしまうような危うい動きは皆無なのだ。ドライバーオリエンテッドなセッティングを施しつつも、きちんと最終的な安定は確保している仕上げ方は絶妙だと感じることができた。

 史上最強と謳いつつも、速さやヤンチャさ、そしてファンなだけで決して終わらなかったGTi 270。そのトータルバランスの高さは、いまのプジョーの勢いと見事にリンクして見える。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。

Photo:堤晋一