インプレッション
BMW「MINIクーパー」「MINIクーパー S」
Text by 岡本幸一郎(2014/5/23 00:00)
変わっていないようで変わった新型MINI
2001年、BMW傘下に収まり新生「MINI」が登場したのは、とてもセンセーショナルな出来事だった。その後の躍進は周知のとおり。日本でも発売当初から長きにわたって月間の販売台数がほぼコンスタントに1000台を超え、「本国以上」と評されるほどの人気ぶりを見せた。その数はMINIファミリーの拡大とともに増加傾向で、ここ3年は月販平均で1300台以上を販売した計算になる勢いだ。
7年ぶりのモデルチェンジで3世代目を迎えたMINIのワードルプレミアの場として、2013年秋の東京モーターショーが選ばれたのは、先で述べた事情があるからにほかならず、いかにMINIブランドが日本市場を重視しているかの表れでもある。
MINIにそれほど関心のない人にとっては、従来とあまり変わっていないように見えるかもしれない新型MINIだが、逆にMINIファンにとっては「結構変わったな」と感じられることと思う。新旧2台を並べると一目瞭然だ。
あまり変わらないことも大事だし、もちろん現代的にリフレッシュすることも大事だったと思うが、その点、新型MINIは巧いバランスでデザインされていると思う。ややスラントし、シングルグリルを採用したフロントマスクや、ランプを大きくし、ハッチゲートのパーティングラインを回り込ませたリアビュー、緩やかになったウインドー角度などによるアピアランスは、MINIらしさをまったく損なうことなく、2013年にデビューしたクルマらしく全体的に新しさを感じさせるものとなっている。
ところで、全幅はついに1700mmを超えた。だからといって、今さら日本での販売に影響が出ることもないと思うが、とうとうベーシックなハッチバックのMINIも3ナンバーになったわけで、街で見かけたときにもっとも分かりやすい従来型MINIとの識別点でもある。
雰囲気を変えることなく機能を変えたインテリア
インテリアも、MINIが確立した独特の雰囲気を維持しながらも、機能面では多くの部分に変更があった。
色々とユーザーから不満の声があったという点が見直されており、エンジンスタートの方法から変わったほか、ステアリングコラムに移設されたスピードメーターとタコメーターや、サイドウインドーを上げ下げするスイッチをドア側に持ってくるといった配置換えが行われた。従来よりも新しいレイアウトの方が、直感的に確認や操作ができることは確実だ。センターのディスプレイの周囲に配されたLEDを、状況に合わせて色を変化させるなど遊び心(もちろん実利も)のある新しい試みも見られる。また、ヘッドアップディスプレイ(HUD)や安全運転を支援するいくつもの先進装備が設定された。
全体的に質感が向上している上に、パッと見では分からないが後席の居住性やラゲッジスペースの広さも向上している。MINIらしさを損なうことなく、見た目にも新しさを感じさせ、機能面でもあれこれ多くの個所がアップデートされているわけだ。
ボディーカラーやホイール、インテリアトリム類やシートの柄などが多彩に設定されているのもこれまでどおり。どれも魅力的だから選ぶのに迷ってしまいそうだ。
直列3気筒1.5リッターターボのクーパーも性能的に十分
試乗したのはクーパーとクーパーSの、いずれも6速ATだ。直列4気筒2.0リッターターボを搭載するクーパーSはかなりパワフル。やや大きめのサウンドを放ちながら、パンチの効いた刺激的な加速フィールを楽しませてくれる。「速さ」を求めるMINIファンにとっても、これなら十分に満足できるはずだ。
一方のクーパーも、こちらはこちらでなかなかのものがある。直列3気筒1.5リッター直噴ターボがどんな仕上がりかと思っていたのだが、予想をはるかに超える性能だった。動力性能は、これまでの直列4気筒1.6リッター自然吸気エンジンとは比べものにならないほど力強い。吹け上がりもスムーズで、3気筒のネガを感じさせないし、サウンドも安っぽい感じではない。
あくまで4気筒であることや、絶対的な動力性能など、エンジンにこだわるのならクーパーSを選んだほうが後悔しないだろうが、MINIのデザインが好きで、そこまでエンジンに多くを求めないのであれば、クーパーで十分に満足できるのではないかと思う。
フットワークは、これまでのMINIより上級移行して車格が上がったような印象で、走りについても「アップデート」という言葉で表現できそうだ。なお、試乗車にはいずれもオプションの「ダイナミックダンパーコントロール」と17インチのアルミホイールが装着されていたが、タイヤの銘柄が異なったことを断っておこう。
かつては跳ね気味だった足まわりは、ずいぶんしなやかになり、中立から少し切っただけでグンと横Gヨーが立ち上がった落ち着きのないステアリングも、あえてそこが少しダルにされている。この方が乗りやすいし、疲れないと思う。
とはいっても、自ら「カート感覚」と表現するMINIとしての主張もあってか、BMWの1シリーズのようなしっとりとした感じではない。ストロークを抑えた足まわりはよく引き締まっていて、俊敏な操縦性を損なわないことを最優先したのは明白で、MINIらしいスリリングな走り味は持ち合わせている。その上で、できるだけ不快に感じないようにバランスを図ったというニュアンスだ。そのあたりは、あくまでMINIとしてのキャラクターを守ることを重視したものと思われる。
ただし、まだ消化しきれていない感もなくはない。ワインディングでは、路面のアンジュレーションの影響により接地性が損なわれがちとなるし、舵角が大きめのコーナーでフロントが不意に逃げ、思ったように曲がらないときがある。これらはクーパー、クーパーSとも共通して見受けられた。
今回の組み合わせでは、クーパーSのほうが足まわりは締まっていて、アジリティ(俊敏性)も高く感じられたものの、小さなエンジンを積むクーパーのほうが鼻先はだいぶ軽く、軽快な感じがした。より刺激的なドライブフィールを求めるのであれば、やはりクーパーSを選ぶべきだろうが、とりあえずMINIの雰囲気を楽しみたいのであれば、むしろクーパーのほうが適するかもしれない。
全体としては、MINIらしさを変えることなく新しいエッセンスを加え、変えるべきところは積極的に変えるなどして、大きな進化を果たした新型MINIは、現時点での理想形を実現したMINIの姿といえそうだ。その進化の度合いは大きく、従来型のMINIを所有している人にとっても買い替える価値があるのではないかと思うほどである。