レビュー

【タイヤレビュー】横浜ゴムの次世代スタッドレス技術? 「新マイクロ吸水バルーン」3倍増の「アイスガード 6」に氷上試乗

 その昔「乾いた氷は滑らない」というキャッチコピーでスタッドレスタイヤをアピールしていた横浜ゴム。それは、裏を返せば氷の表面に浮くミクロの水膜によってタイヤは路面に密着しにくくなり、トレッドゴムの摩擦力を十分に発揮できず、結果的に滑ってしまうことを意味している。ミクロの水膜の除去、これぞスタッドレスタイヤの重要案件というわけだ。現在販売されている「アイスガード 6」では、「プレミアム吸水ゴム」と名付けられたものを採用。これはトレッドゴムにバルーン状の穴「新マイクロ吸水バルーン」と吸水材「エボ吸水ホワイトゲル」の2つの工夫を行なうことで水を吸い上げ、路面とゴムとをより密着させようという狙いがある。

 新マイクロ吸水バルーンついては、バルーン状の空間を設けたからといって単純に水を吸い上げるわけではないらしい。これは兵庫県の播磨科学公園都市にある「SPring-8」という世界最高性能の放射光施設において解析を重ねて見えてきたことらしいが、ミクロの穴を開けただけでは水がそこに導かれず、タイヤと路面の間には水が残り続けてしまったそうだ。その対策が吸水剤の配合で、これとミクロの穴との相乗効果があって、初めて氷の上の水を吸い上げられるようになったのが現在のプレミアム吸水ゴムというわけだ。

 ならば、その新マイクロ吸水バルーンをさらに増やせばグリップするのではないか? これが現在トライを続けている次世代スタッドレスタイヤの要素だ。今回はそんな開発品を試乗させていただく。スタッドレスタイヤの新製品といえば、現行品に対して必ずといっていいほど確実な性能アップを続けているものばかり。市場全体を見ても、従来品に対して10%以上性能をアップさせなければ、新たな商品として認められないというのが一般的。だからこそ必死で解析や研究を行ない、あらゆるトライを続けているのだろう。

今は“冬の怪物、再び。”というキャッチコピーが与えられている横浜ゴムのスタッドレスタイヤ「アイスガード 6」。非対称パターンを採用するとともに、凍結路面に残るミクロの水膜を取り除くミクロンレベルの穴「新マイクロ吸水バルーン」や、「エボ吸水ホワイトゲル」などを用いた「プレミアム吸水ゴム」により氷上性能を高めている

 試乗する開発品はトレッドパターンこそアイスガード 6となんら変わらないが、新マイクロ吸水バルーンを3倍にまで増やしたスタッドレスタイヤだ。吸水バルーンをさらに増やすことでどのような世界が見えてくるのか? 横浜ゴムのテストコース内にある屋内氷盤路でまずは現行品を試してみる。走り始めればトラクション方向、つまり縦グリップはこれでも十分満足なレベルにあり、発進も停止も安心感は高い。人が歩けばすぐに転びそうな路面でありながら、きちんと氷を掴んでいる感覚がある。Uターンでも狙ったラインをトレースしている感覚がある。

現在販売されているアイスガード 6でも十分なグリップ力を感じる

 だが、開発品に乗り換えるとその感覚がさらに高まっていることが感じられる。発進では速度を乗せやすく、ブレーキングではさらに確実に止まってくれるのだ。20km/hで進入して完全停止までの距離を比較してみたが、クルマの全長3分の1くらい短く止まれたのだ。その後のUターン路ではステアリングに確実な手応えがあり、路面を捉えている感覚は高く、旋回スピードも高まっていた。氷の表面の水をうまく吸い上げられているということなのだろう。

新マイクロ吸水バルーンを3倍に増やした開発品に乗り換えるとより強いグリップ力を感じ、氷上での安定感がより高まっていた
開発品で氷上において20km/hでブレーキングを行なった際は、現行品よりもクルマの全長約3分の1ほど制動距離が短く止まることができた。また、グリップがしっかりとあるので氷上での加速もしやすい

 これなら今すぐにでも新マイクロ吸水バルーンを一気に増やしてもらいたいところだが、そう簡単にはいかないことも見えているそうだ。それは生産性の問題と、耐久性といったところがテストをしきれていないから。新マイクロ吸水バルーンはそもそも球状の殻で覆われているようなものなので、路面に接触した段階で殻が破れ、吸水するという仕組み。これにより剛性が保たれているというのが特徴。ならば十分に耐久性はありそうなものだが、素人が考えるほど甘くはないということのようだ。

 今後さらに解析や試験を繰り返し、近い将来市場に投入されるであろう開発品と出会う日が楽しみ。一体どれほどの性能アップをしてくるのか? その登場が待ち遠しい。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。