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アイスガードだけじゃない!! 横浜ゴムのトラック用スタッドレスタイヤ「ZEN 903ZW」など雪上走行をデモ

米国で売れているウルトラワイドベースタイヤも

横浜ゴム 北海道タイヤテストセンターで10%の勾配を上っていくトラック

 横浜ゴムは、同社が北海道 旭川に所有する「北海道タイヤテストセンター」(以下、HTC)において、乗用車用フラグシップスタッドレスタイヤ「アイスガード 6」の試乗会を開催したが、その際にトラック・バス用のスタッドレスタイヤや同社の持つ最新トラック用タイヤの紹介も行なった。

 トラック・バス用タイヤの説明を行なったのは、同社でタイヤ開発を担当する横浜ゴム TBR製品企画室 製品企画グループリーダー 八木田雅典氏。八木田氏によると、タイヤは、乗用車やSUV用の「消費財タイヤ」と、トラックやバスなどの「生産財タイヤ」に大きく分けられており、同社でも要素技術は同じだが、ニーズに応じて異なった開発を行なっているとのこと。

横浜ゴム株式会社 TBR製品企画室 製品企画グループリーダー 八木田雅典氏

 生産財タイヤは、主に企業の購入となることからサマータイヤやオールシーズンタイヤでは経済性(価格や耐摩耗性能)がまずは求められる。スタッドレスタイヤでもそれは同じだが、性能の比重が大きくなることもあるという。これは、自分のタイヤ選択に置き換えてもすぐに思い当たることで、雪道ではグリップが低下することから。事故が起きる可能性や動けなく可能性をなるべく抑えたいもの。そのために、数万円の価格差であればより性能のよいスタッドレスタイヤを履いておきたいと考える人も多いだろう。企業においても、人や荷物を約束どおり運べなくなるリスク(による損害賠償)を考えたら、性能重視は当然のこととも言える。

 ただ、スタッドレスタイヤに求められる性能は、乗用車とトラック・バス用タイヤではそれほど変わらないという。横浜ゴム調べによると、氷上ブレーキ、雪上ブレーキが要望されているのは同様だが、氷雪上発進・加速といった要望がとくに強いという。これは、ブレーキは車間や速度でコントロールすることができるが、発進や加速はタイヤの性能に頼るしかないためとのこと。

タイヤの種類
生産財タイヤの特徴
重視されるもの
代表的な使われ方

 また、トラック・バスが乗用車と異なるのは、重さが非常に重いこと。そのためタイヤにかかる荷重は、乗用車が1本あたり約400kgに対して、大型トラックでは約2500kgになる。実に、コンパクトカー2台分の重さが1つのタイヤにかかっていることになる。そのため、空気圧は乗用車が最大240kPaに対して、大型トラックは最大900kPa。タイヤの接地圧も高いが、それに耐えるため空気圧や空気容積も高く大きくなり、結果構造も圧倒的に強いものが求められる。

 このような大きな違いがあるとともに、注目したいのがタイヤの接地圧が乗用車よりも圧倒的に高いこと。これは氷雪上性能に有利に働き、タイヤの性能をしっかり発揮させやすくなる。まあ、総重量の大きさは不利に働くので、なかなか比較はできないところであるのだが、空荷のトラックのブレーキ能力は意外とよいということなので、車間は意識してしっかり開けておこう。

乗用車用タイヤとトラック・バス用タイヤの違い
日本のトラック車両について
ドライバーがスタッドレスタイヤに求める性能

スタッドレスタイヤの要素技術は同じ

スタッドレス、オールシーズンタイヤラインアップ
設計要素比較
トラック・バス用スタッドレスタイヤ「ZEN 903ZW」
「ZEN 903ZW」のトレッドパターン

 横浜ゴムはこのトラック・バス用スタッドレスタイヤ市場に「ZEN 903ZW」を投入している。ここで使われているスタッドレステクノロジは、タイヤパターンによる雪の圧縮抵抗、雪中せん断力、サイプによるエッジ効果や排水効果に加え、コンパウンドによる粘着摩擦力(凝着摩擦力)になる。

スタッドレスタイヤの性能
圧縮抵抗
雪中せん断力
エッジ効果
粘着摩擦力
コンパウンド設計要素
まとめ
実車による性能評価

 HTCでは、実際にスタッドレスタイヤ「ZEN 903ZW」を前後輪に装着したトラックで10%の勾配を上るデモを実施。10%は結構きつい勾配(100パーミルと言えば分かる人も多くなるだろうか?)となるのだが、途中スリップすることもなく上っていった。

10%勾配を上るトラック
10%勾配を上るトラック
HTCに新設された10%勾配。トラックに対応
上った後のトレッド
テストコースに残されたパターン

 このスタッドレスタイヤ以外に横浜ゴムがデモを行なったのが、現在米国で売れているというオールシーズンタイプのウルトワイドベースタイヤ。トラックの後輪は大きな荷重を支えるため複輪構成や複軸構成になっているのはよく知られているが、その複輪を1つのタイヤに置き換えようというタイヤになる。

ウルトラワイドベースタイヤ
ウルトラワイドベースタイヤのトレッドパターン。ちょとサイプがあるオールシーズンタイヤ

 2本のタイヤの幅を1本のタイヤでこなしていくのだから、当然タイヤは横方向に広がるものに。具体的には、11 R22.5×2本を455/55 R22.5×1本に置き換える。これにより、タイヤ幅は2割程度小さくできるほか、重さもリムと合わせて(ホイールが1つになるので)20%程度軽量化できるという。2割程度小さく部分は、トラック側が荷室設計を変更すれば荷室容量のアップにつながり、軽量化は当然ながら燃費に効いてくる。

 いいことずくめのタイヤなのだが、当然ながら横方向に広がりつつトラックの荷重を支える必要があるため、技術的に難易度が高い。横浜ゴムはこれを、タイヤの内部構造に使われている周方向のベルトを1本の繊維で作り上げる独自技術「スパイラルループ」により克服。横幅の広くなるウルトワイドベースタイヤを製品化した。

 八木田氏によると、発売してとくに米国でメリットとして捉えられているのが、タイヤ交換の手間が圧倒的に減ることだという。複輪構成の場合、内側のタイヤを交換しようと思った場合、必然的に外側のタイヤをホイールごと取り外す必要がある。ところがウルトラワイドベース 902Lであればジャッキアップのみで交換できる。トラックは一般の乗用車と比べて長距離を走るため、タイヤ交換の回数も多い。そのタイヤ交換の手間が減ることが歓迎されているという。Youtubeには、ウルトラワイドベース 902Lのタイヤ交換を素手でやってしまう映像もあり、米国人のパワフルさには驚くばかりだ(もちろん、タイヤ交換は販売店で。バランス取りも必須です)。

スラローム走行をしたトレーラーヘッド。テストのために横浜ゴムが購入したもの

 HTCでは、前輪に雪でも走行可能な耐摩耗性&燃費性能重視タイプのオールシーズンタイヤ「ZEN 902ZE」(295/80 R22.5)、後輪にウルトラワイドベースの「903L」を装着したトレーラーヘッドでのスラローム同乗走行を実施。助手席で雪上走行を体感してみたが、ドライバーのステアリング操作にクルマが素直に反応し、応答遅れなく向きが変わっているのが印象的だった。これは前輪のZEN 902ZEがしっかりとグリップ力を発揮していることを意味している。またスラロームにもかかわらずリアが滑るような挙動も小さく、ウルトラワイドベースの903Lの雪上グリップ力もなかなかのもの。ドライバーによると、やはり接地圧の高いのがトラック用タイヤでは有利に働いているとのことだ。

 八木田氏によると、スタッドレスタイヤ、そしてオールシーズンタイプのウルトラワイドベースタイヤは、拡販を図っていきたいとのこと。ただ、ウルトラワイドベースタイヤは、米国での人気が高く需給が逼迫しているらしく、興味のある方は横浜ゴムの販売店に問い合わせてみていただきたい。