レビュー

【タイヤレビュー】悪路の走破性とオンロードの快適性をバランス。横浜ゴムのSUV・ピックアップトラック向けタイヤ「ジオランダー X-AT」に乗った

タイヤ両側のサイド部に異なるデザインを用いた「デュアルサイドブロックデザイン」採用

 横浜ゴムは今、ホビータイヤがすこぶる充実している。レースを見据えたハイグリップタイヤにはじまり、クラシックカー向けのアンティークパターンを奢ったもの、そして今回の本題となるオフロード向けのタイヤだ。クルマを単に移動の手段として捉えるのではなく、クルマのある生活をもっと楽しくしようと、タイヤの面から支えていこうという姿勢が強い。コアなファンともっと繋がりを深くしていきたい、そんな思いが商品群から滲み出ている。

 新たに登場したSUV・ピックアップトラック向けの「ジオランダー X-AT(エックスエーティー)」は、一見して理解できるほどオフロード感が溢れるデザインながらも、オンロードにおける快適性や環境性能まで配慮しているタイヤだ。以前、Car Watchでも紹介したことがある「ジオランダー X-MT」は、自然界の岩をイメージしたロックコンセプトトレッドを採用していたが、X-ATはそこまでのゴツさはトレッド面に存在しない。手のひらでトレッドに触れてみれば平らな面が多く、これならオンロードでも静かに転がってくれそうな期待が持てる。摩耗寿命、耐久性はX-MTよりX-ATの方が優れるそうだ。

SUV・ピックアップトラック用タイヤ「ジオランダー X-AT(エックスエーティー)」をモータージャーナリストの橋本洋平氏が試した

 だが、内部はさすがと思えるオフロードタイヤ。アグレッシブセンターブロックを構成するソリッドブロックがオフセット配置されており、強度とグリップ、そして静粛性をバランスさせているとのこと。大小2種類のブロックを交互に配置するダイナミックショルダーブロックも採用し、エッジ効果も十分に発揮するらしい。また、ブロックに刻まれる細溝はよくよく見れば隣のブロックに刻まれる細溝と連結する作りでトラクションを確保。縦方向の溝の底には凸部を設け、排土、排石、排雪性能を向上させるストーンイジェクターも装備している。

 さらに注目なのは、デュアルサイドブロックデザインを採用していることだ。これは大型ブロックタイプと、ラグタイプの異なるサイドブロックデザインを1つのタイヤに備えていることだ。大径ブロックタイプが外側になるようにしてアグレッシブさを演出するもよし、ラグタイプを外側にしてアメリカンなイメージにするもよし、というわけだ。性能面では特に変化がないことから、右と左で見た目を変化させることも可能とのこと。ユーザーの好みで見た目が選べるとは、なかなか面白いタイヤだ。

ジオランダー X-ATは9月から発売。LT265/75R16 123/120Q~35×12.50R20 LT 121Qの10サイズを展開
ジオランダー X-ATは、オフロードチューニングやドレスアップを楽しむとともに、オンロードでの快適性も求めるユーザー向けに開発したタイヤ。トレッドに施したサイプと細溝のコンビネーションが、ウェット路面や滑りやすいオフロード路面で高いトラクション性を発揮。ショルダー部の横溝とセンター側の縦溝に配した「ストーンイジェクター」が泥や石噛みによるダメージを緩和する
トレッドデザインをサイドウォール上部まで伸長させて存在感を高めるとともに、タイヤ両側のサイド部にそれぞれ異なるデザインを用いて、好きなデザインを車両外側に装着できる「デュアルサイドブロックデザイン」を採用したのが新しい

 ちなみにこのデュアルサイドブロックデザインは、見た目だけでなく機能も備わり、路面の衝撃からタイヤを保護するほか、オフロード走行時にはトラクション性能も確保してくれるというから頼もしい。岩場などではそこを引っ掛けて前に出るといった芸当も可能だろう。

 強いのは何も見た目だけの話ではない。内部は3プライ構造、ナイロンフルカバーを採用して強化。耐久性と耐パンク性能を高めた。また、マッドテレーン系のコンパウンドを採用し、耐摩耗性と耐カットチッピング性能を向上させているという。

クルマを自分の支配下に置ける感覚

 実際にそのX-ATをオフロードコースで走らせてみる。試乗当日は雨ということもあり、かなりぬかるんだ状況だったが、そんなシーンをどう走るのか?

 悪路には慣れない筆者がランクルやジープ ラングラーで走り出すと、X-ATは見事なスタートダッシュで突き進む。トラクションは十分だ。岩場であろうが、砂地であろうが、安心して走れている感覚がある。フロントタイヤは狙ったラインを見事にトレースしていく。ただし、もちろん以前乗ったX-MTのような路面の食いつきではないことも事実。ぬかるみがひどい状況になれば、さらっと滑ってしまうこともある。だが、動けなくなるようなレベルではない。あくまでもクルマを自分の支配下に置ける感覚だ。手の内に収められるなら十分といっていいだろう。

大雨が降り、ぬかるんだ中での試乗となった

 そんなバランスもあり、オンロードでは音がそれほど気になることもなく、スーッと滑らかに走ってくれる。おそらく使うシーンのほとんどは舗装路だろうから、この静粛性はありがたいところ。悪路の走破性とオンロードの快適性や耐久性のバランスのよさ、そこがX-ATのメリットといっていい。

 見た目だけで終わらず、悪路だけでも終わらない、舗装路まで含めてトータルで楽しめるオフロード向けのホビータイヤ、それがX-ATの立ち位置だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学