トヨタ、営業利益が1500億円の赤字、純利益は500億円の黒字を確保
お客様第一、現地現物、知恵と改善。今こそこの精神に立ち返る

年末会見に出席したトヨタの首脳陣
12月22日開催

会見において、厳しい環境であると言う渡辺捷昭社長。今回の危機はこれまでの危機と質が違うと語った

 トヨタ自動車は、年末の定例会見を愛知県名古屋市内の社内で12月22日に開催し、下期業績見通しを下方修正するとともに通期業績見通しを発表した。業績見通しによると、連結決算の売上高は21兆5000億円で、営業利益は1500億円の赤字、純利益は500億円の黒字となっている(グループ連結のため、ダイハツ工業、日野自動車を含む)。

 本業の利益を表す営業利益は、上半期決算時点での見通しに対し実に7500億円減となっており、2008年10月以降急速に環境が悪化しているのが読み取れる。また、この営業利益の悪化要因を、為替変動の影響2000億円、販売面での影響5700億円などとしており、原価改善を800億円ほど行えたものの、1500億円の赤字となった。

 会見において渡辺社長は、「世界の自動車市場は激変しています。昨年と比べて世界の自動車市場は約450万台下回ると予想されています。とくに米国においては、10月、11月と前年を30%以上割れているという状態です。昨年まで9年連続で前年実績を上回ってきた私どものグローバル販売も、本年は日・米・欧を中心に減少しました」と切り出した。

 そこで発表された数字は衝撃的な数字で、上半期終了時点での見通しと比べ70万台減の754万台。昨年度の実績が891万3000台なので、137万3000台、15.4%の減少となる見通し。社内の緊急収益改善減委員会による原価低減などの実績は上がったものの、ドルやユーロとのレートが円高になり過ぎ、収益面では前述したように最終的に1500億円の営業赤字になるとした。

 ただ、資料には後半期の前提為替レートが、1ドル=93円、1ユーロ=123円。2008年12月以降の前提為替レートが、1ドル=90円、1ユーロ=120円と書いてあり、ユーロはともかくドルに関してはこの想定以下で推移することも考えられ、予断を許さない状況だと言える。

連結販売台数は754万台と70万台の減少営業利益は1500億円の赤字に。純利益としては500億円を確保
為替変動で2000億円、販売面で5700億円の影響が出ているトヨタ単体での数字

 渡辺社長はこの状況を「かつてない緊急事態」とし、11月より立ち上げた緊急収益改善委員会により1300億円の収益改善の具体策が完了し、業績予想に反映していると言う。また緊急VA(Value Analysis:価値分析)活動では1万件を超える提案があり、来年度以降具体的な効果が現れてくるとした。「トヨタの生産能力を引き上げるためのほぼすべてのプロジェクトについて、実施時期の延期や見直しを行っていく。主なプロジェクト、北米のミシシッピー工場については稼働開始時期を延期、インドのキルロスカグループとの合弁新工場については生産規模縮小を決定しました」など生産能力増強関連の投資についてはすべて本当に必要かどうか見直すとした。

700万台生産でも利益の出る体質に
 今後のトヨタの考え方としては「生産台数が700万台になったとしても利益を確保できる企業体質への転換」を図るとし、「スリムで筋肉質で柔軟な体制に改善していかなければならない。そのためには、商品企画、技術開発、生産などすべて機能の“構え”を見直し、その上で将来に向けた布石をしっかりと打っていくことが重要であると考えている」とたんたんと、そして力強く語っていた。

 商品企画に関しては、「お客様第一の考え方に基づき市場ニーズがどのように変化していくが精査し、その結果に基づいて商品のスクラップ&ビルドを進める。各地域のお客様の変化に対応した商品開発をしていく。今後は低燃費と低価格はきわめて重要な要因であり、コンパクトカーとハイブリッドカーについては、品質を維持しつつこれまでよりも速い速度で燃費とコストを改善していく」。技術開発については、「環境やエネルギーなど将来の開発の鍵となる分野にはリソースをしっかり投入していく。特にトヨタのコア技術であるハイブリッド技術に関してはダントツの位置を堅持すべく開発していく」。トヨタのもう一つのコアである生産体制については、「従来より需要に対しフレキシブルな生産体制の構築に取り組んでいるが、今後はさらにそれを進めていく。一方現在の市場環境下では生産の構えを見直すことが必要」と言い、「全世界の車両生産ラインである75ラインのうち15ラインを1直稼働(50%の稼働率削減)とし、工場内でのラインの集約化も検討していく」とした。

 集約化を進めていくと、従業員に生産以外の余裕が出てくるが、それに対しては教育に当てると言い、「フレシキブルな生産体制の確立には従業員の技能と機能が大切。この期間を将来への布石として有効に活用したい」と先を見据えた対応を行っていくようだ。設備投資については、「年間の減価償却費である1兆円を切るレベルに抑えていき、生産技術の革新を図るスピードをアップすることで対応する」「設備を、シンプル、スリム、コンパクト、そして低コストにするための開発を強化していく」と語った。

 また、来年に1月には4直(2日間)の一斉工場稼働停止を予定し、2月以降も随時検討していくとした上で、「一斉稼働停止は年次有給休暇の付与だけではなく、会社休業日を設けることも考えている」と言い、固定費につては10%削減、変動費については、原油価格や円高を考えるとまだまだ低減することが可能であるとのこと。いすゞ自動車とのディーゼル開発、富士重工業との新型車開発についても凍結を含めた見直しを行うと言う。

 これらの方策により、世界生産700万台体制で利益の出る体質にすると語った。なお、今期に付いては役員の賞与を見送るとした。

魅力ある新製品の投入で市場開拓を
 渡辺社長は、来年はプリウスをはじめ、日本で9モデル、米国で6モデル、欧州で8モデルの新車を投入することを明かし、魅力的な新商品の投入が必要だと言った。会見の最後に「私どもは創業以来、お客様第一、現地現物、知恵と改善といったテーマを大切にし実行してきました。環境の厳しい今こそこの精神に立ち返るときであると考えています。まさしく、原点回帰であります。70年を超える歴史の中で、私どもは世界で6800万台におよぶトヨタ車、レクサス車のお客様、さらにはトヨタホームをはじめさまざまなトヨタ商品をご愛顧いただいたお客様との絆を深めてまいりました。構造改革を進め、新しい発想で魅力ある商品を生み出すことができれば、現在のお客様のご期待に応えるとともに、新しいお客様との絆をより強くすることができると確信しています。社内では全員がしっかりと前を向いて、知恵をしっかりと出して、汗をかいて創造しようと言い続けています。今回の危機はこれまでの危機とは質が違うと思っています。しかし、私どもはお客様の声に真摯に耳を傾け販売店や仕入れ先の皆さんと知恵を出し合い、力を合わせていけば必ず乗り越えることができると信じています。そして同時に、さらに強靱で柔軟な新しいトヨタを作ることができるとも考えています」と今後に対する思いを語った。

F1などモータースポーツは続ける、しかしコストダウンが必要
 その後、質疑応答が行われ、今後のマーケット動向に対する見通し、モータースポーツ活動、雇用の問題になどに関しての質問が飛んだ。今後のマーケット動向については渡辺社長から概略が語られ、その後豊田章男副社長から詳しい見通しが語られた。

 豊田副社長は、「米国の車の保有台数が2億5000万台。しかし、年で1000万台の市場になろうとしている。これは、25年に1度車を買い換えるという数字で、今の状況がいかに異常な状況か分かる」と言い、米国の信用危機により、マーケットが必要以上に縮小している状況を説明した。日本においても、先頃自工会から2009年のマーケットが軽自動車を除き約301万台になるとの発表があったが、これについてもマーケットの気分が影響している部分があるとし、マーケットの盛り上げにがんばっていきたいとした。

 F1などのモータスポーツについて渡辺社長は、「若い人の支持を得ている部分もあり今後も続けていくが、コストダウンなどはしていかなければならない」とし、当面は撤退などはないものの、コストに関しては大幅な見直しをすることを示唆した。

 昨今問題なっている雇用問題に関しては、木下光男副社長から説明があり、社員に関しての雇用には手を付けない、期間工に関してもトヨタとしては規定どおりの対応はしており、たとえば寮の退去に関しても年末ということで一定の配慮はしているということが明かされた。

 下期において営業利益が見通しよりも7500億円も減るという異常な事態となったが、現在は在庫調整が進んでおり、この期を底として回復に向かっていきたいとしつつ、まだ底は見えない部分もあるとのこと。

 そのため、700万台体制というターゲットを設定し、体質強化を図るのが今後のトヨタの戦略となる。

マーケット見通しについて語る豊田章男副社

木下光男副社長は雇用や人事面について語った

 

 

URL
トヨタ自動車株式会社
http://www.toyota.co.jp/
プレスリリース
http://www.toyota.co.jp/jp/news/08/Dec/nt08_1210.html

(編集部:谷川 潔)
2008年12月22日