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奥川浩彦の「撮ってみましたF1日本グランプリ 2015」(前編)

 Car Watchが創刊した2008年から毎年掲載している「撮ってみましたF1日本グランプリ」も気付けば8年目となった。過去記事を読んでいる人はご存じだと思うが、この記事は筆者の私的な撮影記。さして役にも立たない個人のブログといった感じなのだが、2014年はサーキット周辺の民間駐車場の情報、2013年は観戦コストを意識して車中泊体験、2012年は渋滞を避ける抜け道情報など一応テーマらしきものを記載してきた。

 今年は例年になくネタが豊富だ。1つはモータースポーツだけでなく航空機、鉄道、野鳥など多くのフィールドカメラマンに人気のキヤノン「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」を使用して撮影したこと。もう1つはCar Watchだけでなく「デジタルカメラマガジン」からもお仕事の依頼があり現地取材&撮影、写真の提供、原稿の執筆を行ったこと。さらに、グランプリ開催直前に「初めてのF1、復活のF1」まだ間に合う2015 F1日本グランプリ観戦ガイドという記事を執筆したので、あらためて渋滞状況の検証なども行った。

 いきなり余談となるが、筆者はWECの予選を終え沼津のココチホテルでこの原稿を書いている。クルマでホテル付近に近づいたとき「昔この辺のホテルに泊まったなあ…見あたらない、勘違いか?」と古い記憶が頭をよぎった。ホテルにチェックインするとフロントの人から「7年前の今日お泊まりいただいていますね」と一言。

 筆者の遠い記憶は間違っていなかった。当時のホテル名は「ニューオータケ」(笑)。お世辞にも綺麗とは言えない老朽化したビジネスホテルだった。2008年に富士スピードウェイで開催されたF1日本グランプリで宿泊したホテルがリニューアルしていたのだ。確認すると場所も通り1本駅よりに近づいたとのこと。筆者の記憶通りの位置にホテルニューオータケはあったのだ。リニューアルされたホテルの部屋にはBluetoothスピーカーが設置され、枕元にはスマホのマルチ充電器付き。当時とは比較にならない超快適なホテルになっていた。

 懐かしくなり7年前に書いた初回となる「撮ってみましたF1日本グランプリ」をチラッと斜め読み。当時の観戦スタイルはFP1からFP3は撮影が主で予選と決勝は観戦重視。事実、2008年の決勝は大半の機材をホテルに預けカメラボディと「EF200mm F2.8L USM」だけ持ってサーキットに向かっている。実にお気楽な撮影記だった。

奥川浩彦の「撮ってみましたF1日本GP」2008年F1日本GP撮影記

http://car.watch.impress.co.jp/docs/special/20081020_37958.html

2008年のF1日本グランプリの写真。中嶋一貴選手、バトン選手、ベッテル選手。7年の時の変化が感じられる

 ところが今では2誌から仕事の依頼を請け、汗だくで移動し追われるように撮影を行う完全な仕事モード。そう、趣味で撮るF1と仕事で撮るF1は大違いなのだ。当時の編集担当が勝手に(適当に)付けたタイトルが「撮ってみましたF1日本グランプリ」なのだが、「行ってきましたF1日本グランプリ」にしていたらこんなに苦労して撮影することはなかったかもと思っている。

これ1本で全部撮れる!? 超便利「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」

 さて、話しを戻そう。過日、Car Watchの編集長から「奥川さん、F1でEF100-400mm使ってみますか?」と連絡があった。発売直後は品薄になるほど人気のレンズ。サーキットのメディアセンターでもチラホラ見かけるし評判もよい。この撮影記も8年連載しているとネタ切れ感もあり、即答で承諾した。

「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」で撮影する筆者
メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ! キヤノン EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM

http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/interview_dcm/20150121_684376.html

 9月初旬、我が家に「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」が送られてきた。月末まで約1カ月使ってよいとのこと。うーん、キヤノンさん太っ腹。9月はもてぎのWTCC、SUGOのSUPER GT、鈴鹿のF1と3週連続でサーキット撮影があり、お腹いっぱい使うことができそうだ。

 筆者の普段の撮影機材を紹介しておこう。カメラボディは「EOS 7D Mark II」と「EOS 7D」。EOS 7Dは1号機がお亡くなりになり、現在は2号機と3号機のどちらかを使用している。レンズは「EF24-105mm F4L IS USM」と「EF70-200mm F4L USM」と「EF300mm F2.8L USM」を主に使用している。

 サーキットの報道エリアから後ろの観客席を振り返るとEOS-1D Xやヨンニッパ(400mm F2.8)、ゴーヨン(500mm F4)が珍しくないので、筆者の機材はサーキット撮影用としては入門用とも言えるごく普通の機材だ。

 カメラ、レンズ以外の機材はND4のフィルターが3本のレンズ用に各1個。一脚はベルボンのE54Mを使用していたが、SUGOのセッション中に石突ゴム(先端のゴム)を紛失しカーボンパイプがむき出し状態に。その場は回りのカメラマンさんのアドバイスで紙コップとガムテープで応急処置をしたが、シルバーウィーク中で部品購入は間に合わないと判断し急遽少し長いE64Mを購入して金曜から始まるF1日本グランプリに間に合わせた。

一脚はレバー式がお気に入り。今回のF1から使用開始したE64M

 メディアはレキサーの1000倍速SDXC(UHS-II) 128GBと1066倍速CF 64GBがメイン、600倍速SDXC 128GB、600倍速CF 32GBがサブで計4枚。EOS 7D Mark IIはSDXC、EOS 7DはCFを使用している。メディアの種類をカメラごとに変えることで同時にパソコンに取り込むことができるし、勘違いも避けることができる。

上の2枚がメイン、下の2枚がサブ

 カメラマンベストは既に完売したバーナー・イメージズカメラマンベスト。フロント左右のメインポケットにEF24-105mm F4L IS USMとフィルター3枚、サイドポケットにEF70-200mm F4L USMと500mlのペットボトル。背中の大型ポケットは雲行きが怪しいときにポンチョとカメラのレインカバーを入れている。ちなみにサイドポケットにはEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを入れることができた。胸ポケットには予備バッテリーとサブのメディア。サーキットによってはFMラジオ、イヤホンなども入れて撮影に臨んでいる。

バーナー・イメージズカメラマンベスト

http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20131213_627514.html

 9月のWTCC、SUPER GT、F1の3連戦はEF70-200mm F4L USMをEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMに入れ替えて撮影した。結論から言うと画質に不満なし。焦点距離100-400mm(使用するカメラEOS 7D Mark IIなので160-640mm相当)はこのレンズ1本でほとんどの撮影が可能。まさに超便利レンズだ。実際にWTCCの最終セッションとなるレース2はこのレンズだけで撮影した。

 WTCC、SUPER GT、F1のフォトギャラリーに掲載した写真でEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMで撮った写真は、WTCCが51枚中34枚、SUPER GTが66枚中19枚、F1が66枚中26枚となった。過去の撮影においてレンズごとの枚数比率を調べたことはないが、印象としてはEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMで撮った枚数はEF70-200mm F4L USMよりはかなり多い印象。特にWTCCの半分以上という結果は筆者自身が驚くほどの多さだ。

WTCC、SUPER GT、F1のフォトギャラリーからEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを使用した写真を抜粋
「2015 FIA 世界ツーリングカー選手権シリーズ 日本ラウンド」フォトギャラリー

http://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/20150918_722018.html

2015 SUPER GT 第6戦「SUGO GT 300kmレース」フォトギャラリー

http://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/20150924_722390.html

2015 F1日本グランプリ フォトギャラリー

http://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/20151003_723987.html

 筆者自身は現在使用している3本のレンズに大きな不満はない。ただし一定の条件のとき新しいレンズが欲しいと感じている。その条件は周囲が暗くヘッドライトの強い光が逆光でレンズに入るときだ。具体的にはSUPER GTやWECなどで雨や夕刻に正面から撮影するとマシンのヘッドライトの光がレンズに入りゴーストが発生する。

 筆者が使用しているキヤノンについて言及すれば、最近発売されたレンズは逆光によるフレアやゴーストを抑制するコーティングがされている。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの場合はASC(Air Sphere Coating)、EF300mm F2.8L IS II USMの場合はSWC(Subwavelength Structure Coating)。

 ヘッドライトのないF1を含め9月の3連戦はゴーストが発生する状況にはならなかった。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを返却した直後のWECは雨に加え17時までのレースとあって盛大にゴーストが発生した。その画像をいくつか見ていただこう。

 もしEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを使用していればゴーストの影響は大幅に減ったであろう。ゴーストが発生しやすい条件の撮影では新しいレンズが欲しくなる。筆者のレンズ構成では正面の撮影で多用するサンニッパが対象となるのだが、約60万円の投資となるので悩んでいた。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを買ってEF70-200mm F4L USMと天候によって使い分ける選択をすれば半額以下の投資ですむ。新しい選択が加わり筆者の悩みは続きそうだ。

 EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの開放F値がF4.5-5.6というのは気になったが、昼間の撮影では特に不満を感じることはなかった。サーキット撮影は圧倒的に昼間の撮影が多い。加えて現在のデジタル一眼レフはISO400、ISO800くらに設定してもそれほどノイズは増えない。なのでF値の暗さはサーキット撮影では致命的な欠点とは言えないと思う。

 ただし、レンズをサンニッパに代えると「明る〜い」と感じるのは事実。明るいレンズはマニュアルフォーカスでピントが合わせやすい。それはカメラ本体のAFも同じで、ピントの合う確率は明るいレンズの方が高くなる。また、夜間の空港などの撮影ではレンズの明るさは大きな差となる。やはり被写体によってレンズを選ぶ条件は異なる。それもカメラライフの楽しみだ。

 筆者に取ってEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMのデメリットは重さだ。筆者が20代の頃はサンニッパを手持ちして流し撮りをしていたが今は無理。70-200mmもF2.8ではなくF4を使用している理由は軽さだ。EF70-200mm F4L USMの重さは705g。EF70-200mm F2.8L IS II USMは1490gと倍以上の重さがある。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMも1570gとEF70-200mm F4L USMの倍以上の重さだ。

 1570gはレンズスペックからすると軽いと思うのだが、50過ぎのオッサンには手持ちで長時間流し撮りをするのは辛い。これは筆者の体力の衰えの問題で、おそらく20代、30代の方(鍛えている40代、50代の方)には気にならない重さだろう。もし一眼レフとダブルズームキットを買ってサーキット撮影と出会った人が、本格的に撮りたいと思ったときにお勧めしたいレンズの1本はこのEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMだ。

 300mm F4という選択肢もお勧めだが、観客席から撮影する場合はテレコンも欲しくなる。筆者がテレコンを使用しなくなった理由は報道エリアで撮るようになりマシンが近くなったから。観客席から撮る場合は300mmでは物足りないと思われる。その点、望遠端が400mmのEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは有利だ。

 年に1回F1だけ撮る人と全国を転戦してSUPER GTやスーパーフォーミュラも撮る人では思い入れも違うと思うし、お財布の状況によっても異なるので、自分に合ったレンズを選択し、ジワジワと泥沼に足を踏み入れていただきたい。

デジタルカメラマガジンからお仕事の依頼

 Car WatchからEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの話しが来た数週間後、カメラ雑誌のデジタルカメラマガジンからもお仕事の依頼が来た。こちらはF1日本グランプリで人気のカメラマンエリアを誌面で紹介するので、そのための写真と原稿執筆の依頼だ。

デジタルカメラマガジン11月号は10月20日発売。筆者のカメラ誌デビューだ

 依頼の連絡を受け、最初に思ったのは「私でいいの?」だった。カメラ雑誌に登場するカメラマンは超一流、そのジャンルの第一人者が多い。デジタルカメラマガジンの場合、例えば鉄道であれば中井精也氏、山崎友也氏など日本を代表するカメラマンだ。

 依頼の詳細は、一般に販売されているカメラマンエリアチケットを使いカメラマンエリアで実際に撮影しリポートすること。超望遠レンズ体験コーナー、EOS 7D Mark II&レンズ貸し出しコーナーの体験。さらに世界で活躍するレース写真家の原富治雄氏、熱田護氏によるスペシャルセミナーの取材。加えてF1ジャーナリストの今宮純氏による講演や原氏、熱田氏のトークショーが行われるカメラマンミーティングの取材だ。確かにこの内容であれば超一流のカメラマンに依頼する仕事ではない。ザックリ言うとカメラマンエリアの体験リポート+イベント取材という依頼だ。

 デジタルカメラマガジンの編集長と初めてお会いしたのは1995年か96年。筆者はパソコン周辺機器メーカーの広報、編集長は他のパソコン誌の副編集長だった。当時からもの凄く優秀な方で筆者の中では特別な存在だった。約20年の時を経て鈴鹿サーキットで一緒に仕事をするというのは感慨深い。

 実はCar Watchの仕事も例年とは異なっている。昨年までは1人で取材しレース後にフォトギャラリーとこの撮影記を掲載していた。なので撮影後にサーキットで作業をする必要はなく、長年一緒に観戦している友人と一緒に帰るだけだった。今年はライターの笠原氏も一緒に取材することになり、毎日レース後に記事を制作することになった。今年のF1日本グランプリは突然忙しくなってしまった。

いざ鈴鹿へ

 筆者は名古屋に自宅があるが、3年前から川崎にオフィス兼住居を借りて年の大半は川崎にいる。息子を東京の会社に転職させたので9月からは息子も一緒に住んでいる。F1日本グランプリのチケットの発売は3月。取材申請はそれから数カ月後。例年どおり3月に友人と3人分のチケットを購入した。今年購入したチケットはQ2席。昨年のF1で撮影に行き「Q2席、観戦にはなかなかいいぞ」と思い購入したが、今年も自分の席で観戦する時間はなさそうだ。

 息子に「チケット余ってるけど行く?」と聞くと、F1好きの同級生を誘って一緒に行くとのこと。丁度、F1チケットの購入ガイドを執筆しているときだったので筆者がアドバイス。同級生は西エリアチケット(U23)をローソンで6000円(3日間)で購入した。筆者は高速で眠くなったときに交代する運転者を確保することができた。

 SUGOのSUPER GTから戻りフォトギャラリーの作成をしているときにデジタルカメラマガジンからEOS 7D Mark IIが送られて来た。編集部がキヤノンから借りてくれた機材で、自分のEOS 7D Mark IIと2台体制でF1を撮影できる環境を用意してくれた。

 借りたEOS 7D Mark IIを普段使用しているEOS 7D Mark IIと同じ設定をするのは思ったより大変な作業だ。両方のカメラにEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの補正データも登録。1時間以上かけて設定を完了した。これで撮影機材の準備は完了だ。

 F1用に購入した電動折りたたみ自転車をクルマに積み込み、シルバーウィーク最終日の渋滞が解消された水曜深夜に名古屋へ出発。新東名の駿河湾沼津SA(サービスエリア)〜浜松SAだけ息子に運転させ名古屋まで移動した。

 金曜は朝から雨。朝5時40分、筆者の自宅近所のホテルでライターの笠原氏、デジタルカメラマガジンの編集の方々と合流。筆者のクルマとデジタルカメラマガジン編集部が借りたレンタカーに分乗して、伊勢湾岸道 みえ川越IC(インターチェンジ)から国道23号を抜けるいつものルートで鈴鹿へ。四日市の通勤渋滞が始まる前に鈴鹿市内に入った。

 筆者と笠原氏はFIAの取材パスを受け取りに。デジタルカメラマガジンのスタッフはカメラマンエリアの取材パスなのでしばし別行動。ここでトラブル発生。関係者駐車場横の交通センターに行くと筆者の取材パスが発給されていなかった。実は数日前にFIAから「Mr. Okugawaのデータは揃っているが、初めて取材するMr. Kasaharaのデータがない」というメールが来てバタバタしていたが、木曜の午後に笠原氏の取材パスが用意できたと連絡があり一段落したはずだった。

 ところがフタを開けると筆者のパスがない。鈴鹿サーキットのスタッフが緊急対応するもパスの発給には数時間が必要。自分で買ったQ2席のチケットは息子に渡したし、取材パスがないのでパドックに入れない。このままでは関係者駐車場でFP1を過ごすことになる。

 すぐにデジタルカメラマガジンのスタッフに電話してグランドスタンド裏の関係者がパドックに入る道路脇まで来てもらい、カメラマンエリアの取材パスを受け取った。これで観戦エリアに入ることはできる。撮影機材をクルマに戻し、EOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMにレインカバーを付け一脚を装着、ポンチョを着て長靴に履き替え逆バンクオアシスに向かうことにした。

 ここで買ったばかりの電動折りたたみ自転車の登場かと思ったが、雨も降っているし時間もあるので徒歩を選択。GPスクエアを抜けトンネルをくぐって逆バンクにたどり着きデジタルカメラマガジンのスタッフと合流した。

 逆バンク裏のオアシスにキヤノン一眼レフ貸出受付がありEOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMをセットで1セッション貸し出しを行っていた。事前にWebから申し込んでおけば実売で40万円前後のセットを1セッションずっと借りられるという豪華な企画だ。そのセッション中はスプーン、ヘアピン、S字、逆バンクなど好きなところで撮ることができる。用意された台数はなんと20台。本当にキヤノンさん太っ腹だ。

ズラーっと並ぶEOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMのセット

 筆者は事前に同じ組み合わせで借りているのでテントをチラ見してE2席の上段の超望遠レンズ実写体験コーナーへ。ここではキヤノンの「EF400mm F2.8L IS II USM」「EF500mm F4L IS II USM」「EF600mm F4L IS II USM」「EF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×」の4本レンズにEOS 7D Mark IIを装着、さらにマンフロットまたはジッツオの一脚をセットで試写体験することが可能だ。

超望遠レンズ実写体験コーナー。4本のレンズで外車が買える超高級レンズ
マンフロットとジッツオの一脚

 4本のレンズはいずれも筆者が一生買うことがない100万円級の超高価、超望遠レンズだ。これをセッション中に15分間試写することができる。セッション開始まで1時間ほど。一時的に雨も止んでいたのでデジタルカメラマガジンのスタッフが「奥川さんが構えている写真を撮っておきましょう」ということで巨大レンズを構えて記念撮影……じゃなく素材写真撮影。このまま雨が降らなければよいなあと思っていた。

雨が止んだので超望遠レンズを構え、撮るフリをする筆者

雨のフリー走行1回目(FP1)

 残念ながらセッション開始の頃にはしっかり雨は降りだした。土曜、日曜の天気予報は晴れ。27回目の鈴鹿サーキットで開催されるF1グランプリなのでチームはデータも持っている。雨量によっては金曜はほとんどマシンが走行しない可能性がある。

 4本の超望遠レンズの貸し出し機とは別に予備の機材が用意されていたので、筆者はその予備の機材をお借りして超望遠レンズの体験をすることにした。筆者が借りたレンズはEF200-400mm F4L IS USM エクステンダー 1.4×。1時間前とは打って変わって筆者はポンチョ姿、レンズもレインカバーの覆われ、撮影する様子は記事用の素材写真としては見栄えがよくない。

ポンチョに長靴の筆者。カメラもレインカバーで覆われた
超望遠レンズ実写体験コーナーは逆バンクを走るマシンが撮影できる

 10時、1時間半のFP1のセッション開始だ。もしかすると1ラップしてピットに戻ったらセッション終了まで走らないかもしれない。この1周で使える写真を撮らなければいけない緊張感のある撮影となった。まずは少し保険を掛けてシャッター速度1/160秒と高めに設定して撮影開始。借り物の機材とあってしばらくは上手く振れず苦戦するが徐々に慣れてきた。

 嬉しい誤算はマシンの走行が続いたこと。FP1のリザルトを見るとリカルド、ヒュルケンベルグなど1ラップでセッションを終えたドライバーもいたが、ライコネンの15周を筆頭にロズベルグ、ベッテル、マッサ、ボッタスなど上位チームのマシンも10周以上走行。晴れればFP1は20〜30周は周回するので半分程度だが、コースにマシンを送り出してくれたチームとドライバーに感謝、感謝のFP1となった。注目のマクラーレン・ホンダはアロンソ5周、バトン6周。チャンピオン最有力のハミルトンも6周だった。

 少し撮影したところで液晶モニターで写真を確認。ヘルメットの文字が確認できる程度の絵は撮れていたのでシャッター速度を1/125秒に変更し撮影を続行した。しばらく撮影を続けたが、走行台数も減り誌面で使えそうな写真も撮れたと判断し超望遠レンズ試写コーナーの撮影は終了。逆バンク裏のオアシスに移動した。

最初はシャッター速度1/160秒で撮影開始。焦点距離は442mm
フォトギャラリーに掲載した写真。シャッター速度1/125秒、焦点距離は400mm

 オアシスのテント下でノンビリしようかと思ったらまたマシンが走り出した。筆者1人で逆バンクに移動して撮影再開。機材はEOS 7D Mark IIとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM。普段だとEF300mm F2.8L USMとEF70-200mm F4L USMの2台構成だが、雨の日に1本で全部撮れるEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMはありがたい。

逆バンクで撮影再開。FP1はこの後写真右奥のS字まで移動して撮影

 最初は逆バンクに進入するマシンを右下にフレーミング高速シャッターで写し止める。水煙が左上まで舞い上がる絵を期待しが水煙は少なめでイマイチ。作戦変更で逆バンクに切り込むマシンをシャッター速度1/80秒で流し撮り。これは縁石の流れ感、水煙とまずまずだ。

焦点距離400mm、シャッター速度1/500秒で撮るが水煙が少なすぎでボツ
逆バンクに切り込むマシンを焦点距離400mm、シャッター速度1/80秒で流し撮り。これはまずまず。フォトギャラリーに掲載した

 筆者は水煙や路面の反射が演出してくれる雨のレースが好きだ。スローシャッターも切りやすいし、透明のバイザーでドライバーの顔が写ることもある。フォトギャラリーでは使用しなかったが逆バンクで撮った写真の中にはドライバーの顔が写っているものもあった。

焦点距離400mm、シャッター速度1/80秒で流し撮り
ヘルメット付近を切り出したもの。雨の日はドライバーの顔が写りやすい

 次はシャッター速度を1/60秒に落とし横から流し撮り。焦点距離は164mmと短め。逆バンクなら200mm以下のレンズでも充分撮影は可能と言うことだ。

焦点距離は164mm、シャッター速度1/60秒で撮影。フォトギャラリーに掲載した写真

 FP1は残り10分弱。D席内をS字へ移動。S字2つ目の左ターンを見おろすスタンド中段の通路付近に行くと大勢のカメラマンが撮影していた。この場所は昔から筆者のお気に入り撮影ポイントだ。背景がシンプルでシャッター速度1/125秒〜1/160秒でもスピード感が出る。当然歩留まりがよくなる。コーナーイン側からの撮影でレコードラインの回転中心に近い位置から撮るのでマシンの先端から後端までブレが少なく芯の大きな絵を撮ることができる。鈴鹿サーキットで最も流し撮りが簡単なのがこの場所だと思っている。

焦点距離135mm、シャッター速度1/125秒で撮影。フォトギャラリーに掲載した写真

 FP1のセッションはここで終了。セッション中にサーキットのスタッフから着信があり取材パスが用意できたとのこと。デジタルカメラマガジンのスタッフがいる逆バンクオアシスに寄ってから交通センターに向かった。途中GPスクエアのステージにはベルガー氏。「私は家にいるのが好きで招待を受けても滅多に行かないが、日本のファンは暖かいので鈴鹿まで来ました」と言っていた。

ステージにはベルガー氏が登場していた
GPスクエアでひときわ目立ったのはマルボロのブース。室内にフェラーリマシンを展示

雨は写真を演出してくれる フリー走行2回目(FP2)

 ようやく取材パスを受け取りパドックへはメディアシャトルに乗って移動。チェックゲートを2つとおってメディアセンターにたどり着いた。午後のセッションは報道エリアで撮影。雨らしい絵が撮れるストレートエンドから撮影を開始することにした。機材はEF300mm F2.8L USMとEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを2台のEOS 7D Mark IIに装着。EF24-105mm F4L IS USMはカメラマンベストのポケットだ。

 筆者はマシン後方の景色が排気熱で揺らぐ絵が好きだ。まずはピットからコースへ入るマシンを撮影。シャッターボタンを押せば写る簡単な撮影だが、シャッター速度を上げすぎるとレインタイヤのブロックパターンがハッキリ見えすぎるので1/250秒で撮影。

シャッター速度1/250秒で撮影。マシン後方の背景が揺らいでいる

 雨は止むことがなく期待どおりストレートを抜けるマシンは盛大に水煙を巻き上げてくれた。フォトギャラリーに掲載したライコネンの写真を選んだ理由はノーズの色だ。連写した3枚の元画像を見てみよう。通常は曇り空がノーズに反射して赤く写らないが、真ん中の1枚はスタートシグナルのゲートをくぐった瞬間で光が遮られノーズが赤くなった。

期待どおり盛大に水煙を巻き上げてくれた
真ん中の写真、スタートシグナルのゲートをくぐる瞬間、ノーズが赤くなった

 続いてシャッター速度1/160秒に落としてやや1コーナーよりを撮影。スピード感と水煙のバランスを変えて撮ってみた。余談だがライターの笠原氏がPCの壁紙を昨年のF1日本グランプリフォトギャラリーの1枚目に掲載したハミルトンの写真に変更していた。ノートPCの液晶ディスプレイの解像度は1366×768か1920×1080が主流だ。この解像度を満たすF1の画像はなかなかないので知人やサーキットで会った人から「フォトギャラリーの写真、壁紙で使っています」と言われることがある。今年のフォトギャラリーの1枚目はこの写真。アイコンを並べる左側が白いので壁紙に最適かなあと勝手に思っている。筆者のフォトギャラリーの1枚目は優勝したマシンと決めている。なので昨年も今年もハミルトンが1枚目となった。

シャッター速度1/160秒。壁紙にいいかも

 セッション後半はシケインに移動。まず最初はシャッター速度1/160秒でシケイン2つ目の左ターンを撮影。水しぶきが印象的だった2枚を選択した。

シャッター速度1/160秒で撮影。フォトギャラリーに掲載した写真

 撮影ポジションを数メートル130R側に移動。シケインの短いストレート部分をシャッター速度1/320秒で撮影。シャッター速度を1/500秒以上に上げるとレインタイヤのブロックパターンがハッキリ見えてしまう。この位置なら透明バイザーなので顔が見える。フォーミュラーマシンの場合、ステアリングを切り込むと顔が隠れることがある。もう1枚は切り込んだ後の写真でマシン全体のバランスはわるくないが顔が隠れたのでボツ写真とした。

シャッター速度1/320秒で撮影。アロンソの顔が見える
リサイズだけした写真。顔が隠れた写真はイマイチ

 次は撮影ポジションを最終コーナー側に移し、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを付けたカメラに変更。シケインを抜け最終コーナーへ駆け下るマシンの流し撮りだ。PIRELLの看板のロゴがギリギリ読めるようにシャッター速度は1/80秒に設定して撮影した。

焦点距離117mm、シャッター速度1/80秒。フォトギャラリーに掲載した写真

 FP2の最後はレンズをEF24-105mm F4L IS USM交換。焦点距離は73mmとしマシンを右下のフレーミング。Q2スタンドを背景に入れてシャッター速度1/30秒で撮影。今回のF1で撮った写真で筆者のお気に入りはこの写真とピットレーンのロズベルグの2枚だ。

焦点距離73mm、シャッター速度1/30秒。筆者のお気に入りの1枚

 このセッションもリザルトを見ると周回数は通常の半分程度。雨は降り続いたので走ってくれただけよかったと思う。雨のお陰で撮れた絵もあるので枚数は少なめだが満足できる1日だった。

 例年だとメディアセンターのロッカーに荷物をしまって友人と名古屋へ戻るだけだが今年は違う。当日の記事を笠原氏が書き、筆者はそれに合わせて写真を選び、レタッチまでしなければならない。撮った写真をPCにコピー。撮影場所ごとにフォルダー分けしたところでデジタルカメラマガジンのスタッフから呼び出しの電話。「16時半から原富治雄氏のスペシャルセミナーが始まるから逆バンクオアシスに来てください」とのこと。

 国内レースと違いF1開催時はメディアセンターから逆バンクオアシスは遠い。国内レースのときはピットウォークの入場口となるトンネル部のスロープを抜けて逆バンクオアシスに行くことができる。F1開催時はセンターハウス横のチェックゲートをとおってパドックトンネルを抜けGPスクエアから逆バンクオアシスへ向かわなければらならい。

国内レースは青のルート。F1開催時は赤のルート。メディアセンターから逆バンクオアシスは遠い(Googleマップ)

レース写真家 原富治雄氏、熱田護氏のスペシャルセミナー

 急ぎ足で逆バンクオアシスにたどり着くと原氏のセミナーが始まっていた。レース写真家の原富治雄氏と熱田護氏のスペシャルセミナーは金曜、土曜のセッション後に行われた。両日ともブース内は満席。原氏はフィルムからデジタルへ切り替えた頃の話しやレタッチなど様々な話しを。熱田氏は作品ごとの機材や撮り方などを細かく解説。質問コーナーでは低い位置から狙いたいという参加者の質問に、原氏は逆バンクのホールとスプーン進入の正面と撮影ポイントを明確に回答。加えてプロになって報道エリアで撮るという究極の答えを示した。熱田氏は細かな撮影テクを紹介。予定時間を大幅にオーバーし終わったときには周囲は真っ暗になっていた。

金曜は原氏、土曜は熱田氏のセミナー。2日とも大盛況となった

 金曜はスペシャルセミナーの後にカメラマンミーティングも開催された。場所はサーキットホテル側のレストラン「S-PLAZA」。有料のイベントで豪華な食事付きだ。ゲストはF1ジャーナリストの今宮純氏。原氏と今宮氏のトークショー、原氏と熱田氏のトークショーで会場は盛り上がった。

カメラマンミーティングの会場はS-PLAZA。豪華カメラが豪華三脚とともに展示されていた。右端のオレンジのメタボ体型が筆者
ビュッフェ形式の豪華な食事付き
今宮氏と原氏のトークショー
熱田氏と原氏のトークショー

 筆者はカメラマンミーティングの途中で会場を抜け出し暗闇につつまれた遊園地を抜けメディアセンターへ。笠原氏が書き上げた原稿に合わせ写真をセレクトしレタッチ。ようやくこの日の仕事が完了した。

すでに遊園地は真っ暗。閉園の頃にメディアセンターへ戻った

 一段落したので喫煙所に行くと今宮氏とバッタリ。トークショーを終えて戻ってきたようだ。筆者が「明日から晴れるのに雨の中で予想外に走りましたよね」と聞くと「やっぱりドライバーの鈴鹿のお客さんに対するリスペクトじゃないですか」と一言。「いいですね。そのコメント使わせてもらいます」と言って筆者は喫煙所を後にした。

 20時過ぎに撤収。この時間になると渋滞の心配はなし。23号を抜けみえ川越ICから伊勢湾岸道に乗り21時半に名古屋市内に到着。かつてない疲労困憊のF1日本グランプリ初日となった。

 前編はここまで。次回後編は土曜FP3から日曜の決勝まで。1セッションでヘアピン、逆バンク、S字まで移動した奇跡の撮影などを紹介しよう。

(奥川浩彦)