オグたん式「F1の読み方」
【開幕直前】F1日本GPの見どころ
(2014/10/3 00:00)
小林が走る!
小林可夢偉がF1日本GPでケータハムF1チームから出走することが10月1日に発表された。まさにこれが今回の日本GPの大きな見どころだろう。小林の参戦会見はCar Watchで取材しているので、そちらのリポートをご覧いただきたい。
●2014年F1日本GPの小林可夢偉選手参戦が正式に決定
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20141001_669330.html
そもそもレギュラードライバーだった小林がレース開催週の水曜日になるまで、マシンに乗れるかどうか分からなかったのがおかしな話ではある。だが、それだけ現在のケータハムF1チームの内情、とくにチームの財政事情がわるいことがうかがえる。
小林のドライバーとしての実力は世界的に高く評価されている。しかし、その実力をもってしてもケータハムのマシンの性能は頭打ちで、下位争いから抜け出すことは難しいだろう。しかもシーズンは終盤に入り、今季のマシンはどのチームも熟成しつくした状態になっている。
それでも「見どころ」として挙げたのは、小林がマシンの限界をフルに引き出す走りをするからだ。これはイタリアGPのQ1でもはっきりしていた。華麗な走りは予選Q1終了後の国際映像でもスローでリプレイされるほどだった。また、一昨年の日本GPでは非力なザウバーでマクラーレンのジェンソン・バトン相手に大バトルを展開し、3位を獲得してみせていた。
タイムには出ないだろうが、小林の並外れた走りを生で見るチャンスだ。
若手の走り
日本GPのフリー走行1回目(10月3日)では、ケータハムF1からロベルト・メルイ、トロロッソからマックス・フェアスタペンが走る。この2人の走りも注目だ。
メルイは元ユーロF3チャンピオンで、今年はDTMとワールド・シリーズ・バイ・ルノー(フォーミュラルノー3.5)に参戦し、ワールドシリーズ・バイ・ルノーではランキング2位につけている。とても速く元気がよい。すでにイタリアGPのフリー走行でケータハムF1も経験済みだ。
フェアスタペンは、元F1ドライバーのヨス・フェアスタペンの息子でカート時代から父の薫陶を受けた。わずか17歳ながらフォーミュラで頭角を表し、今回トロロッソでF1フリー走行デビューとなる。レッドブルは多くの若手ドライバーを育成・支援しているが、マックス・フェアスタペンはそのなかでも最優秀生。その実力を見るよいチャンスとなる。2人とも鈴鹿を走るのは初めてで、多くのF1ドライバーが「世界一難しい」「世界一挑み甲斐がある」というコースにチャレンジすることをとても楽しみにしている。
もちろんチャンピオン争いは必見
もちろんルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグによるチャンピオン争いは大いなる見どころだ。
前回のシンガポールGPでランキングトップがロズベルグからハミルトンに入れ替わった。それでも差はわずか3点。日本GPを含めて残りは5戦。最終戦はダブルポイントというなか、もう取りこぼしはできない。しかも獲れるときに最大限のポイントを獲っておきたい。メルセデスの2人の戦いは、フリー走行から予選、決勝へとどんどんヒートアップしていくはず。今季の王座を獲るはずの2人の戦いは見逃せない。
復調の王者?
セバスチャン・ベッテルも前回のシンガポールGPで表彰台に立ち、今季のベストリザルトの2位となった。ベッテルにとってこの鈴鹿は得意中の得意とするコース。不運が多かったなか、シンガポールでやっと取り戻した「流れ」をさらにこの鈴鹿で確実なものにしたいところ。ベッテルの頑張りもまた見どころだ。
同じレッドブルのダニエル・リカルドもまた注目だ。今季3勝を挙げてランキング3位。メルセデス勢に唯一対抗するドライバーでもある。この急成長中のドライバーの走りもまた見どころだ。
このほか多くのドライバーが鈴鹿に全力で挑むことになる。1つは来季のF1残留に向けたアピールのため、1つは自身とチームのランキングのため、そしてもう1つは世界最高峰といわれる難コース鈴鹿をどこまで攻められるかという、ドライバーとしての本能を満たすために。
テクノロジーの戦いも
今年のF1は1.6リッターのV6ターボエンジンになり、ハイブリッドによるパワーアシストも2013年モデルよりも強化された。半面、空力性能は制限されてダウンフォースは2013年モデルよりも減り、コーナーでの安定は難しくなった。さらに、スタートからゴールまで100㎏(約133L)の燃料で走り切ることというルールのおかげで、より燃費効率がよいうえにパワフルなエンジンの技術が試される。
とくにこの鈴鹿は、低速から高速まで多様なコーナーがあり、アップダウンも長いストレートもあり、技術テストとその成果を見るには絶好のコースといえる。エンジンとハイブリッドの技術もさることながら、速さとムダのない走りを高次元で両立させるドライバーの技も見どころになる。
イベントも盛りだくさん
日本GPは毎年場内イベントが盛りだくさんだ。今年はゲストに1992年チャンピオンのナイジェル・マンセルがやってくる。マンセルはウィリアムズ・ホンダ時代のテストとデモ走行で1985年から鈴鹿を走っていた。今回の鈴鹿訪問は1994年以来で、1986年の愛車ウィリアムズFW11・ホンダで走行するのを心から楽しみにしている。また、「鈴鹿の熱心なファンと再会できるのは楽しみだ」として、サイン会などファンとの交流にも積極的になっている。
日曜日のデモ走行では、佐藤琢磨がマクラーレンMP4/4でともに走行する。マクラーレンMP4/4は1988年に16戦中15勝した名車。そのV6ターボエンジンはパワーとともに燃費にも配慮した高効率エンジンで、現代のF1や市販車のダウンサイジングターボの嚆矢ともいえる。また、このMP4/4でアイルトン・セナは初めてのワールドチャンピオンを鈴鹿で決定した。佐藤琢磨にとっては少年時代に鈴鹿で見て憧れ、人生を決定した人のマシンを操縦することになる。
このほかにも2015年のホンダのF1復帰にからめて、ホンダの歴代F1マシンの一部が展示される。
レーシングシアター前では、筆者が親子向けにレーシングカーの構造と仕組みを説明させていただく「はやさのヒミツ教室」が今年も開催される。今年は、ピレリのF1用タイヤ全種類が展示されるほか、すぐ隣には新旧のスーパーフォーミュラのマシンも展示される。このスーパーフォーミュラのマシンは、昨年のSF13はタイヤ交換体験用で、今年のSF14では実際にターボエンジンを始動するショーを1日に3回ずつ行う。F1とはちょっと異なる2.0リッター直4ターボだが、超高効率ターボエンジンという点では目指すところは同じ。異なる音を楽しむこともできるはずだ。
このほかにもさまざまな参加体験型イベントやトークショーといった、観て楽しむイベントがあり、F1日本GPは終日飽きないようにできている。日曜日のドライバーズパレードには今年も歴史的に貴重な自動車たちが走り、地元ドライバーの小林可夢偉のために1周の単独スペシャルラップも追加される予定だ。これはF1史上初の試みとなる。
観戦の合間には、さまざまなスペシャルメニューなどが用意された場内の飲食ブースも楽しみの1つになるだろう。
大きく変わった今年のF1。実際それがどんなもので、どんな音がするのか? 小林はどのような走りを見せてくれるのか。世界のトップドライバーたちの走りは?
今年もF1日本GPは見どころ満載だ。チャンスがあればぜひライブで見て、聞いてみてはいかがだろうか。
日本GP後の小林可夢偉
しかし本当に走れるのかどうか、また日本GP後のレースに参戦できるのか、チームの事情が怪しくなってきている。
ケータハムF1チームは10月1日に発表した日本GPのプレビューのなかで、小林可夢偉とマーカス・エリクソン(24・スウェーデン)が同GPに出走し、また、金曜日の10時から90分間行われる1回目のフリー走行のみ新人のロベルト・メルイ(23・スペイン)が小林の車両に乗ることも発表された。本来であれば、小林は年間契約のレギュラードライバーで、レース開催週の水曜日にチームが発表するまで地元で走れるかどうか分からないというのは異常なことだった。それはケータハムF1チームの内情がかなり深刻なところまできていることを示していた。
ケータハムF1チームは英国のスポーツカーメーカーであるケータハムのF1チームで、両社ともエアアジアなどを所有する世界的なビジネスマン、トニー・フェルナンデスが所有していた。しかし、高コストなうえに成績が不振だったことで、フェルナンデス代表は7月にチームを売却してしまった。この時点でスポーツカーメーカーのケータハムとは無関係になった。一方、チームを買い取った投資家グループは、チームの実質的な運営をコリン・コレス氏にゆだねた。コレス氏はHRTなど下位のF1チームで代表として活動した経験があるが、資金繰りのために持参金を優先してドライバーを起用するなど、その手法には批判的な声も多い人物だった。
前チーム代表と同様、当初、新オーナーたちは小林への期待を示していた。しかし、コレスは徐々に小林の出走の機会を減らし、小林は契約上ではレギュラードライバーながら、実態はレース開催直前になるまで出走するかどうか分からない状況が続いている。
こうなってしまったのはチームが深刻な財政難に陥っているため。新オーナーになって資金が注入されたが、それも焼け石に水だったようだ。実際、日本GP直前のシンガポールGPでもタイヤ使用料の支払いが遅れていたために、タイヤが供給されなくなる恐れもあった。これは直前に支払いがなされてなんとか出走できたが、この日本GP直前になってさらに事態は深刻になっている。
英国にあるチームの本拠地の資産が差し押さえられ、従業員は退去させられたうえ、F1マシンや開発用のシミュレーション装置など各種の機材も差し押さえられた。チームはこの報道を「根拠のない噂」と否定していたが、差し押さえの執行会社はすでに差し押さえた品目を公表し、近く競売にかけることも発表している。
こうなると、日本GPも走れるかどうかまだ分からない状況になってしまっている。走行に必要な車両、機材、人員はすでに鈴鹿サーキットに到着している。チームはメルイを金曜日に走らせることで、メルイの持ち込み金(推定5000万円程度)で当座の金は確保したようだ。が、この財務状況がもとでタイヤ、エンジンなど外部から供給されているものが引き上げられてしまったら、マシンは走れなくなってしまう。そして日本GPは走れても、翌週にソチで初開催されるロシアGP以降のレースに参戦できるかどうか、先行きは不明だ。
日本GPでの小林の出走についても、チーム側はなんとか金を絞り出そうと小林や鈴鹿サーキットに揺さぶりをかけようとしていた。だが、チームとしてはほぼ万策が尽きつつあるようだ。
小林が実際に走行できれば、戦闘力の乏しいケータハムのマシンでもその最高性能を存分に引き出して走れるうえ、華麗なマシンコントロールで世界を魅了できるのはイタリアGPの予選でもはっきりしている。日本GPは小林の地元国での開催に加えて、鈴鹿サーキットは多くのドライバーが「もっとも難しく、もっとも挑み甲斐がある」といい、ドライバーの上手さがはっきり表れるコースである。小林自身、一昨年には非力なザウバーでマクラーレンのジェンソン・バトンの猛追を押さえて、日本人として3人目となるF1最上位の3位に入賞もしている。
持ち前の不利な状況でも、最善の走りで小林は地元の観客と世界の F1ファンを魅了できるのか。それはすべてチームにかかっている。