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【CEATEC JAPAN 2013】インテル、「Tizen IVI 3.0」ベースの車載情報システムの事例をデモ
トヨタ、ゼンリンデータコム、富士ソフトなどがTizen IVIを利用したデモを公開
(2013/10/1 14:45)
半導体メーカーのインテルは、国内最大のデジタル家電の展示会である「CEATEC JAPAN 2013」(会期:10月1日~5日)に出展し、同社が展開している車載情報システム関連のソリューションや、同社がコンシューマ向けに展開する変形機構を備える新しいデジタル機器”2-in-1デバイス”などを展示した。
車載情報システム関連のソリューションでは、同社が業界各社と協力して開発を進めている「Tizen(タイゼン)」をベースにした各種のデモが行われた。AndroidやiOSなどに次いでスマートフォン向けOSの“第3の選択肢”として注目を集め始めているTizenだが、車載情報システム向けのTizen IVIの開発にインテルは力を入れており、今回のCEATECのデモでもTizen IVIを利用した事例などを紹介して注目を集めた。
自動車メーカーが注目するHTML5に最適なプラットフォームとしてのTizen
自動車向けの車載情報システム(IVI=In-Vehicle Infotainment)は、現在自動車の新しい差別化のポイントとして、自動車メーカーが重点的に強化を図っている分野の1つだ。従来、そして現在販売されている自動車に搭載されているカーナビゲーションが、主に地図を利用してナビゲーションする機能が中心のシステムになっているのに対して、IVIの時代にはインターネットにアクセスする機能が追加され、スマートフォンやタブレットで実現しているような機能が自動車のセンターコンソールの機能として統合されることになる。
そうした時代に重要になってくるのは、IVIのシステムとしてどのようなOS(Operating System、基本ソフトウェア)を利用するかだ。OSというのは、PCやスマートフォンなどに標準で搭載されているもっとも基本的なソフトウェアのことで、アプリケーションプログラムと呼ばれる応用ソフトに対して、ハードウェアを利用するための基本的な機能を提供するソフトウェアのことを意味している。PC用で言えばWindowsやMac OS、スマートフォン用で言えばiOSやAndroidなどがこれに相当する。
現在のスマートフォン向けOSのシェアで言えば、アップルのiOS、GoogleのAndroidが2強なのだが、現在この2強に次ぐ第3の選択肢として新しいOSが注目を集めている。その1つがTizenで、オープンソース(インターネット上に企業や開発者などが集ってみんなで開発し、利用料などを取らずに誰もが利用できるようになっているソフトウェアの開発方法)で開発されているOSとなっている。Tizenの最大の特徴は、OS独自のネイティブアプリケーション(iOSならiTunes Store、AndroidならGoogle Playマーケットで配布、販売されているようなアプリケーション)だけでなく、HTML5というW3Cが策定するリッチなアプリケーションに最適化されていることだ。
HTMLはWebブラウザでWebページなどを記述するために策定された標準規格で、現在のインターネットが大発展する礎になっている規格だ。その最新版がHTML5で、来年には最終仕様が策定される見通しになっている。従来のHTMLの規格では、現在のスマートフォンなどで利用されるようなグラフィックスを多用するリッチなユーザーインターフェイスを実現するのが難しかったのだが、HTML5ではそれが実現可能になるため、大きな注目を集めている。特に自動車業界ではHTML5が次世代の標準と目されており、どの自動車メーカーもHTML5への投資を行っているという状況だ。TizenはそうしたHTML5への最適化が他のOSに比べて進んでおり、注目を集めている。
Tizenはオープンソースで開発が進められており、業界標準団体のTizen Associationという団体によりプロモーションが行われている。このTizen AssociationにはインテルやSamsung Electronicsなどの企業や、NTTドコモや米Sprintなどの通信キャリアなどが加盟しており、現在そうした企業によりTizen搭載スマートフォンの開発が行われている。Tizenは、デバイスの特徴に合わせてプロファイルが用意されており、そうしたスマートフォン向けには“モバイルプロファイル”と呼ばれるプロファイルが活用される。
それと同時にIVI向けのプロファイルも用意されており、そのリーダーシップをとって開発しているのがインテルなのだ。インテルとしては、HTML5に最適化されたTizen IVIの開発をリードしていくことで、同社が自動車メーカーに提供している半導体“Atomプロセッサ”などの販売促進につなげていきたい狙いがある(ただし、Tizen IVI自体はオープンソースで開発されているため、他社の半導体でも動作する)。
Tizen IVIの開発は、モバイルプロファイル版のTizen Mobileの開発とは独立して続けられている。Tizenには3つのバージョンがあり、最初のバージョンとなる「Tizen IVI 1.0」、現在の最新版となる「Tizen IVI 2.0」(今年の4月に正式リリースされた)、そして現在開発が進んでいる「Tizen IVI 3.0」がある。Tizen IVI 3.0では、新しくウインドウシステムの描画がTizen Mobileなどで利用されているX WindowからWaylandという方式に変更されたほか、FastBoot(OSを短時間で起動する機能)の追加、NFC(Near Field Communication、近距離無線通信、スマートフォンなどで利用されている)サポートの追加などが新機能として用意されている。
Tizen IVI 3.0は来年のリリースに向けて開発が進んでおり、その上で動作するアプリケーションに関しても徐々に実例が増えている。今回、インテルブースではそうしたアプリケーションの紹介などが行われたのだ。
トヨタ自動車がTizen IVIのUI Managerを利用して開発したHome Screenのサンプルコードを公開
インテルブースでもっとも注目を集めている展示は、Tizen IVI 3.0に含まれるUI Managerを利用したデモだ。UI Managerは、車載情報システムを設計するエンジニアやデザイナーがHMI(Human Machine Interface、PCやスマートフォンでいうUI=User Interfaceのこと。グラフィカルな画面でユーザーが操作しやすくする操作体系)を設計する際に利用できるミドルウェアで、これを利用するとHMIの開発者はユーザーが操作しやすいようなHMIを容易に設計することができる。
今回インテルが展示したUI Managerを利用したホームスクリーン(スマートフォンの標準画面と同じモノ)のデモは、UI Managerの機能を利用してトヨタ自動車のエンジニアが作成したホームスクリーンのデモで、オープンソースで開発されているTizenの開発者コミュニティに対して無償で提供されているサンプルと言う。トヨタ自動車としては、自社製品向けのサンプルとして作成したものになるが、業界としてIVIを開発するのに役立てて欲しいということで、コミュニティに対して公開していると言う。オープンソースの仕組みではこうして公開されたソフトウェアは、ある条件の下(具体的にはソースコードというプログラムの設計図を公開すること)で活用することが認められており、自社製品に組み込んで利用することも十分可能だ。
ゼンリンデータコムがTizen IVI向けの日本市場向けナビゲーションソフトウェアをデモ
地図データやソフトウェアの開発・販売で知られるゼンリンの子会社ゼンリンデータコムは、Tizen IVI向けの地図ソフトウェアのデモを行った。
すでに述べた通り、IVIの目的は現在の“カーナビゲーション”にインターネットアクセスする機能を追加することで、スマートフォンやタブレットのようなスマートデバイス的な機能を自動車に追加することにあるが、確実に目的地に着くようにナビゲーションする機能は依然として最重要な機能であることに違いはない。そうしたカーナビ機能も、もちろん各社が一から作ることができるが、言うまでもなく地図データを作る作業量は膨大で、現状であっても地図データは地図データを作成する企業から供給を受けているという例がほとんどだ。ゼンリンはそうした地図データを提供する企業としては大手で、現在でも多数のカーナビメーカーや自動車メーカーなどにOEM供給を行っている。
そのゼンリンの子会社でネット関連の事業を展開しているゼンリンデータコムが試作したのが、Tizen IVI向けのカーナビアプリケーションだ。ゼンリンデータコムは、スマートフォン向けに「いつもNAVI」という地図ソフトウェアを展開しているが、今回展示されたのはそれをベースにTizen IVI向けに実装されたソフトウェアになる。
ディスプレイの解像度はフルHD(1920×1080ドット)で、OpenGL ESという3D APIを利用して描画されている。現時点では開発版ということで地図データや3Dのデータなどの実装はされていなかったが、実際の製品ではそうした現在のカーナビと同じような機能をすべて実装することができると言う。ゼンリンデータコムによれば、Tizen IVIの開発を行うカーナビメーカーや自動車メーカーに対しての売り込みを強化していく計画で、そうしたOEMメーカーのニーズに合わせて開発を行うことが可能だと説明した。
Tizen IVIのアドバンテージとなるHTML5で書かれたアプリケーションのデモが多数
NTTデータMSEが展示していたのはTizen IVIを利用したHMIの例で、Miracastと呼ばれるWi-Fiを使ったスマートフォンなどの画面を出力する標準規格を利用して、スマートフォンの画面をIVIシステム上に表示しながら、同時に2つのHTML5アプリケーションを表示させ、そこにメーターと写真を表示するというデモを行った。
従来のカーナビシステムなどでは、1つのアプリケーションしか表示できないというOSがほとんどだったが、Tizen IVIのHTML5最適化の機能を利用することで、マルチウインドウでの表示が可能になっていることが特徴だ。
また、韓国のOBIGO(オビゴ)は、Tizen IVI向けのHTML5アプリケーションの例や自動車向けのHTML5ブラウザーなどを紹介した。デモでは、自動車向けに車両データを表示させたり、エアコンの操作を行ったりというIVIならではの機能が用意されているほか、Facebookや電子メールなどにアクセスする機能などが紹介されていた。
これらの機能がすべてHTML5で記述されており、IVIのシステムほとんどがHTML5アプリケーションにより再現されていた。また、アプリストアの機能も用意されており、ユーザーが自分で好みのアプリケーションをIVIに追加したり、逆に削除したりということも可能と言う。
システナが展示したTizen IVI上で動作するHMIは、ドライバーの趣向などに合わせて表示を変化させるユニークなソフトウェアだ。
NFC(今回のデモでは同社が独自に実装したFeliCa[フェリカ]=おサイフケータイが利用されていた)を利用したソリューションで、ドライバーがIVIのNFCリーダーにスマートフォンをかざすと、ドライバーが誰かを認識してHMIをカスタマイズされた個人用のHMIに切り替える。同時に、Facebookにログインしてユーザーの好みを解析し、ユーザーの趣向にあったおススメを地図上に表示していく。
なお、NFCのサポートなどはTizen IVI 3.0で搭載される予定の機能になるので、現行のTizen IVI 2.0でもサポートできるように同社が独自にNFCやBluetooth制御などの機能拡張を追加しているとのことだった。
富士ソフトはTizen IVIの機能であるAMB(Automotive Message Broker)の機能を利用した自動車保険のソリューションを紹介した。
AMBとはCAN(Controller Area Network)などに接続して車両側のコンピューターから情報をもってくる仕組み。アプリケーションはOS側に用意されているAPIを利用するだけで簡単に車両側のデータを活用できるようになっている。それを自動車保険に応用する仕組みで、IVIから保険センターに車両の情報(急ブレーキ、急発進、急ハンドルなど)を送信し、その記録を元にその車両の割引率を設定するという。
現在の車両保険の値引率というのは、過去に起きた事故の履歴などが中心になっているが、こうした情報が生かされれば保険会社にとってはより優良なドライバーと契約できる可能性が高まるし、優良なドライバーにとってはより安価に保険契約ができるというメリットがある。デモでは、急ブレーキなどの情報がメールで送られる様子が公開された。
オンキヨーが試作した車載用フルデジタルスピーカーのデモはイーサネット経由で
音響機器ベンダのオンキヨーとインテルは、オンキヨーが試作した車載用フルデジタルスピーカーのデモを行った。現在の一般的なスピーカーの構成では、デジタル信号はカーナビやIVIの内部でアナログ信号に変換され、内蔵されているアンプを利用して増幅され、アナログケーブルを利用してスピーカーに伝送される。この仕組みだと、IVIの内部にアンプ部分に大きなスペースが必要なだけでなく、ケーブルをクルマの中を引き回さないといけないため、ケーブルだけでも量がすごいことになる。
そこで検討されているのが、スピーカーまですべてフルデジタルで信号を伝送し、最後のスピーカーの内部でデジタル信号を変換してスピーカーを鳴らすというフルデジタルスピーカーだ。これだと、ケーブルはデジタル信号1本のみでよいので、ケーブルを必要最小限に抑えることができる。かつ、ケーブルを使う場合はアナログ信号をケーブルに載せるためノイズからの影響が避けられず、音質が低下するということが起きていたのだが、このフルデジタルスピーカーであれば、スピーカー周辺だけをガードすればノイズからの影響を抑えることができる。
今回インテルがデモしたのは、Ethernet-AVBという仕様を応用したもので、PCの有線ネットワークに利用される規格(イーサネット:Ethernet)の車載版にオーディオやビデオを流す拡張を加えた仕様を利用している。これにより、イーサネットケーブル1本をスピーカーまで通すだけで済むので、クルマの中がすっきりするという利点がある。イーサネットでは必要に応じてハブという分配器を利用して分配することができるほか、オーディオ以外のデータも流すことができるので、車載のケーブル量を大幅に削減できるようになるというのもメリットだ。
なお、インテルはイーサネットコントローラのトップメーカーでもあり、PCやサーバーなどで多数のコントローラが採用されているが、すでに車載向けも用意しており、今回のデモではその車載向けのイーサネットコントローラを利用してデモを行っていた。
このほか、インテルは同社ブースにおいて、同社が先月に米サンフランシスコで開催したIDF(インテル Developer Forum)で発表した新型タブレット向けプロセッサAtom Z3000シリーズ(開発コードネーム:Bay Trail-T)を搭載したタブレットや、同社の最新PC向けプロセッサ第4世代Coreプロセッサを搭載し、変形機構を備える新しい形のノートPCとなる2-in-1デバイス、また人間の知覚を活用した知覚コンピューティングのデモなどを行って注目を集めた。