F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

第42回:アブダビGP

 2022シーズン最終戦、アブダビGP。

 最終戦というと、ドライバーの移籍だったり引退だったりが話題になります。

 セバスチャン・ベッテル選手。4度のワールドチャンピオンを獲得。ファンに優しく、自分の意見をしっかり発信する。

 そして、引退を決めて自分から世界中のファンに別れを告げるこの1年でした。

 この写真は、予選で9番グリッドを獲得した直後の表情。会心のアタックだったんでしょうね。

 レース前にアストンマーティンのエンジニアの松崎さんにお話を聞いたら、マイケル・シューマッハさんを含めても、これまで関わってきた多くのドライバーの中でも、ベッテル選手はマシンから感じ取れるフィーリングを的確に判断して、自分のドライビングをアジャストできる最も優れたドライバーです、と言ってました。

 今回のヘルメットはチャリティーで協力者の顔写真をヘルメットに掲出するというもの。

 ベッテル選手らしい試みですよね。

 ありがとう! セブ。

 と、メッセージがあちこちにありました。

 日曜日、最後のグリッドに向かう前にみんなにあいさつ。

 グリッドにて。

 最後のレースをするために準備していると、多くの関係者が一言二言声を掛けにやってきます。ドライバー全員と食事会をするとか、ヘルメット交換など交友関係を築けていたのが彼の財産ですよね。

 そして、自ら引退と決めてレースできた数少ないドライバーとなりました。

 マシンに乗り込む前に、ずっと一緒に戦ってきたフィジオのアンティー・コンタスさんとガッチリ握手。2人の間には、いろんな思いがあるわけですからね。

 そして、マシンに乗り込みます。

 どうか無事にチェッカーを受けてくださいと願いながら。

 無事にチェッカーを受けて10位入賞、1ポイント獲得。

 素晴らしいです。

 ホームストレートに上位3台の後にやってきてドーナツターンをしてあいさつ。そういう演出も含めて、ベッテル選手に対する多くの人の気持ちが重なった最終戦になったような気がします。

 そのパルクフェルメで、チャンピオン・フェルスタッペン選手と言葉を交わします。

 先輩チャンピオンとして、これからを背負って立つフェルスタッペン選手に頑張れよ! なのかな?

 チャンピオンシップ2位争いは、ルクレール選手に軍配。素晴らしいレースができたんじゃないかと思います。

 喜んでいるシーンもあるんですけど、でも、僕にはそれほど嬉しいという感じには見えなかったですね。

 もちろん、2位になるために今回レースに臨んだとは思うんですけど、独走に見えたシーズン序盤からの勢いは維持できず。複雑な心境だったんじゃないですかね。

 ペレス選手にとってみれば、フェルスタッペン選手とのレースペースの差ができ始めたときが、3位になってしまうということが決定してしまったということでしょうか?

 ブラジルでの、ペレス選手の発言は前回も書きましたけど、思っていても公に発言するべきではなかったとたぶん本人も反省しているのではないかと思います。

 フェルスタッペン選手と同等のスピードを見せるか、自分に与えられた仕事をしっかりやるということだと思います。

 このシーンは、昨年と逆パターンでしたね。

 勝ったのはフェルスタッペン選手、15勝目!

 年間最多優勝回数を更新しました。素晴らしいレースでした。

 TVで聞こえていたかどうかは僕は分かりませんが、フェルスタッペン選手に対してグランドスタンドからはブーイングでした。

 なんでやねん! って思いました。

 たぶん、後方にいるルクレールを抑えてペレス選手に2位を取らせるべきだ……みたいな感情でしょうか?

 レース後に、フェルスタッペン選手はそんなことはアンフェアじゃないかという発言、僕も全く同意見です。今回は、ルクレール選手とフェラーリの方がペレス選手のペースより速かったということに尽きます。

 ブーイングって、何度聞いても気分わるい。

 結果に対して、気に入らないと思うのは自由だしいいんですけど、一生懸命に走ってゴールした選手に対してあまりに失礼、せめて黙ってられんのかいって思う。

 表彰式の後、長いTVインタビューが終わってから、記者会見場に移動する瞬間が、ファンにとってみれば唯一憧れの選手に接することができるチャンス。

 とっさに子供がフェルスタッペン選手と一緒に写真を撮りたいと思って前に出たら、セキュリティーにびっくりして逃げ出しちゃったんですよね。それを見ていたフェルスタッペン選手は、この後歩みを緩めて一緒に写真を撮ってました。

 そうすると、後ろから大勢に囲まれてしまったんですけどね。優しい一面が見えた瞬間でした。

 アロンソ選手は、来季はアストンマーティンへ。

 アルピーヌでの最後のレースはリタイアとなりました。信頼性に泣かされてしまいましたね。

 資金が潤沢にありそうなチームに移籍して、またその実力を発揮してほしいなあ!

 角田選手のレースは、11位となってノーポイント。今年は、厳しい1年でしたね。

 でも、レース前に少し話をしたときに言ってましたけど、自分なりにいろんな面で成長ができたので、来季を楽しみにしています、ということでした。

 大好きなガスリー選手とのチームメイトとしての関係は終わってしまいますけど、来季はデフリース選手といいマシンを作っていって成績をしっかり残してほしいです。

 ガスリー選手のアルファタウリの最終レースは、トラブルに見舞われました。FP2、右フロントのパーツ破損によって修復に大きく時間を取られてしまうことになる。

 レース前、ガレージ入口までチームメンバーでお出迎え。

 弟さんもお出迎え。暖かい雰囲気でした。

 スタート前に、マシンの前にしゃがんで、いつもの儀式。路面を3度触ってから、立ち上がりました。

 14位完走。

 来季は、アロンソ選手と交代してアルピーヌへ。フランスチームで2人のフランス人ドライバーという組み合わせ。活躍を期待しています。

 小松さん。アブダビの初日にホスピタリティーに伺いました。

 ニヤニヤしながら、「ブラジルは最高でしたよ! 知ってます? ポールですよ! ポール! で、どこにいたんですか?」

 申し訳ない……。今までで一番嬉しい瞬間だったというブラジルの予選のポールの瞬間に立ち会えなかったことは、そう言われるまでもなく僕の長いF1生活の中でもそりゃあ後悔は残っていますよ……カメラマンはその場にいなければ、全くなんの意味もないですからね。

 嬉しそうにブラジルの予選の顛末を説明してくれている小松さんの笑顔は、これまであまり見たことのないくらいのいい笑顔が続いてました。

 改めまして、おめでとうございます!

 そして、レース後のバタバタの時間に今年を振り返って少し話を聞いてきました。

 今年の序盤は、好調な出だしでいけるぞってみんな思っていたんだけど、中盤から失速してしまいました、点数をつけるとすると何点?

「難しいけれど、40~60点くらいかな、及第点には届いてないですよね。とにかく、取りこぼしが多すぎましたね。マイアミ、バルセロナ、カナダ。いろいろあったけど、予選、ストラテジーのミス、もちろんシンガポールやブラジルのような雨の予選はうまくいったりとかしていることもあるんだけど、それがいつも同じようにいかないこともあったりしたので、そのが課題ですよね」と小松さん。

 来季に向けて、ドライバーが変更になりますがいい方向に向かいたいですよね。

「チームとしてマシンの速さのポテンシャルを示してくれる指標になるようなドライバーがいてほしいんですよね。ロマン・グロージャン選手はそういう意味では一発の速さは素晴らしいものがあって、金曜日の早い段階で持ってきたマシンで、このタイヤでの限界を示してくれるんです。それを見たケビンが、土曜日にそこまでいけるならいってみようというような流れだったんです。それがケビンとミックの場合は、アップ&ダウンが激しすぎて指標になりづらいところがあって、そういう意味でヒュルケンベルグ選手にはそのあたりを期待しています。とにかくハースが次のステップに行くために必要なことなので期待しています。あと、チームの組織作りも改善しなければいけないところも多いですが、徐々によくなってきていますから期待していてください!」とのことでした。

 ヤン・マグヌッセンさん、お父さん。

 FP3の直前にコクピットドリル。

 ミック・シューマッハ選手。今季限りでF1レギュラーシートがなくなります。

 レース前に、チームスタッフ全員にミック選手に対してシュタイナーさんから労いの言葉がありました。

 ミック選手からもみんなにあいさつ。その言葉に対して、拍手が終わりません。

 2年間一緒に戦ってきましたからね。今後のミック選手の動向にも注目しましょう。

 なんと、吉田メカニックのファンの皆さまがアブダビまで来てました! F1メカにもなると、モテるんだね! 素晴らしい!

 F2の岩佐選手は予選でポールポジション獲得。レース1でまさかの13位ノーポイント。

 そして日曜日のレース2では、してやったりの優勝!

 いやはや、勝つってのはいいね!

 嬉しそうですよ!

 今回、モノコックをチームにあったものに変更してきました。その効果と今シーズンの積み重ねたいろいろなものがうまく合わさって、ポールポジションと優勝という結果が得られたんでしょう。

「もう、しんどかったっす!」

 ギリギリでもなんでも、勝てばいいんですよ!

 よく頑張ったねって背中を押したら、スーツの背中は汗だくでした! おめでとう! 来年はぶっちぎりでチャンピオンを取ろう!

 左はチャンピオン、ドルゴビッチ選手。来季はアストンマーティンのサードドライバー。

 右はリアム・ローソン選手、日本のスーパーフォーミュラに出るとか?

 FP1では、フェルスタッペン選手のマシンに乗ったローソン選手。スーパーフォーミュラでチャンピオン争いに絡めるのか注目ですね。

 恒例の最終戦記念撮影。今回の日本からの報道陣は3名という寂しい感じ。

 そして、ホンダの皆さま。角田選手やホンダの皆さまの存在が、僕にとっては大きな撮影のモチベーションになっています。来季も、チャンピオンを目指して頑張っている姿を撮影したり、お話を聞かせてくださいね!

 このコラムを読んでいただいた皆さま、1年お付き合いありがとうございました!

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。