日下部保雄の悠悠閑閑

三朝温泉、宍道湖、出雲大社を旅する

鳥取砂丘でラクダに乗ってきた

 念願の山陰旅行ができた。とりあえず空いている旅程で飛行機と宿だけとって、あとはレンタカーで移動と計画性のない旅だ。距離感も分かっていないほどの大雑把な行程だったが、三朝温泉、宍道湖、出雲大社に行けたので長年の夢が叶った。

 鳥取砂丘コナン空港から「プリウス」のレンタカーを借りて、まずは鳥取と言えばの「鳥取砂丘」に行ってみる。想像したよりもはるかに大きな砂丘地帯だった。砂漠と言えばラクダだが、探してみたらやはりいた。そこらをほんのひと回りしてみる。

 以前ドバイ、モロッコでラクダツアーに行ったことがある。何頭ものラクダがつながれて、砂漠の中をポコポコ歩いていくのである。ドバイは夜、モロッコは昼間だったが、アラブ種のラクダは背も大きいので、高い所で何時間もゆらゆらと揺られて進むツアーはなかなか楽しかった。股で鞍を挟むようにしていると疲れも少ない。で、カウボーイがガニ股なのもよく分かった。

 砂丘の後は澄んだ海で有名な浦富海岸で、遊覧船から奇観を観る。風があって小さな船はよく揺れたが、船長の名アナウンスで飽きることはない。孤島に生える千貫松も初めて知った。

浦富海岸では遊覧船から奇観を眺めた

 鳥取東部から海岸沿いを西進し、三朝温泉に行く。昔からある日本旅館の「木屋旅館」に宿をとっていた。ここは江戸時代から続く代々の庄屋さんが、明治元年から始めた旅館。宮沢賢治の学友が現社長のおじいさんだったという、由緒正しい宿屋である。古い旅館だがよく手入れされており気持ちがよく、歴史の重みがある。ラジウム泉も古き時代を残しつつ良湯だった。木屋旅館は三朝温泉街にあり、街も昭和のまま。インバウンドの嵐もここまでは押し寄せていないようだ。とても居心地のいい宿だった。

1日目の宿は、三朝温泉の「木屋旅館」

 旅を共にしたレンタカーのプリウスは、すでにスタッドレスタイヤを履いていたので、後ろから入ってくるパターンノイズは大きかったが、相変わらず乗り心地も快適。基本的にハンドルのスワリもいいので、1日中ドライブしてもストレスがない。改めて日本の国民車らしいいいクルマだと思った。そして、かなり走ったのにフューエルゲージが少しも動かない。ゲージが壊れているのかと思ったが、モニターを見るとこんなものらしい。自分が借りる前からの通算で25km/L近く走っていることになる。

 翌日は有名な三徳山の投入堂を国道から観る。参拝には往復2時間、場所によっては50度もあるという傾斜を上る気にはならないので、横着にも望遠鏡で覗く。崖に張り付くように建てられた投入堂の奇観に驚き、いよいよ憧憬の宍道湖へ。

 学生のころ、富士~霧島4000kmという日本最長のラリーを作った時に心に残ったのが宍道湖だ。のどかな海のように広がる水面が心和ませた。

 富士~霧島4000kmは富士スピードウェイをスタートして西進し、山陰を通って九州に入り、耶馬渓を通過して霧島高原で往路は完結。復路は霧島をスタートして臼杵から四国に渡って本州に入り、東名高速道路で富士スピードウェイまで戻るという壮大なスケールのラリーだった。

 詳しいことは記憶の彼方だが、ラリータイヤを4本もらって、学生3人で嬉々としてラリーを作った。タイヤが減らないよう、鳴かせるような運転はタブーだったのは言うまでもない。

 本番では先行車を務めたが、地元のラリーチームと連携が取れない時もあってCPの設営がギリギリ。ラリー車に追いつかれそうになってヒヤヒヤだったのを思い出した。

 宍道湖から富士~霧島4000kmまで想いが飛んでしまった。宍道湖は雲間から顔を出した夕陽が穏やかで、あの時と同じように心に染みる光景だった。もっとボーっとしていたかったが、誰かに叱られそうなので観光らしいこともしてみる。

懐かしい思い出のある宍道湖。今回の旅でも素晴らしい光景を見ることができた

 宿から30分ほど歩いて松江城まで行ってみた。凛としたお城は北前船の日本海航路がもたらした繁栄を象徴しているようだった。交易や海の幸にも恵まれた松江は豊かな町だった。

国宝の松江城は、凛とした姿で迎えてくれた

 宍道湖の宿は「てんてん手毬」という可愛らしい名前の旅館だが、夕食は付かない。好みの居酒屋などで適当に摂るのだが、最近こういう形態の旅館も増えているという。これはこれで地元のものが食べられて嬉しい。お勧めのお酒も飲めるし……。ちょっと奮発してその名も「徳さん」という寿司屋を満喫した。

 3日目はよく晴れて、気候も1か月ほど戻ったように穏やかだ。右手に一畑電鉄北松江線(というらしい)、左手に宍道湖を眺めながらのんびりと走る。休日のせいかほとんど人が乗っていない2両編成の電車は、クルマより少し速い程度で、眺めていても心和む。プリウスの燃費もどんどん伸びていく。相変わらずフューエルゲージは動かない。

縁結びのお願い……ではないけれど、出雲大社にも参拝した

 出雲大社は想像とは異なっていたが、伊勢神宮とはまた違った雰囲気が小春日和の日本海を思わせて心地よい。縁結びの神様とあって、真剣に参拝する若い女性も多い。出雲大社の参拝は2礼4拍手1礼というのも初めて知った。

 大きなしめ縄も驚きだったが、隣接された古代出雲歴史博物館の規模の大きさも驚いた。

巨大なしめ縄

 ゆっくり見ると2時間はタップリとかかる。それほど時間もなかったので駆け足で回ったのが心残りだが、銅鐸や銅矛など多様な出土品に圧倒された。神話の世界だけでなく、古代からの歴史の一面を覗くことができたのも楽しかった。

 今回の旅行のハイライトは、念願だった三朝温泉、宍道湖、そして出雲大社に行くことだったので満足、満足。

 その名も出雲縁結び空港でプリウスを返した時は、やっと1目盛り減っただけだった。走行距離は250kmほどで燃費は28km/Lを超えていた。それほど燃費を意識していたわけではないので(オーナーなら当たり前なのだろうが)、今さらながらプリウスの実力に感心した。きっと真面目に燃費運転したら、相当に伸びるだろう。

旅の相棒に選んだレンタカーのトヨタ自動車「プリウス」は、約250kmを走って燃費は28km/Lだった

 現行型プリウスになってから、できるだけレンタカーはプリウスを借りるようにしているが、今回もゆとりの旅ができ正解だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。